社説

文字サイズ変更

社説:調査捕鯨の中断 根本見直しの契機に

 日本が南極海で行ってきた調査捕鯨を今期は中途で打ち切ることが決まった。鹿野道彦農相はその理由として、反捕鯨団体シー・シェパード(SS)による妨害や追尾で、乗組員や調査船の安全確保が難しくなっていることをあげた。

 シー・シェパードの「抗議活動」は危険極まりないものだ。調査捕鯨船団(4隻)は昨年末に日本を出港したが、年初にはシー・シェパードに捕捉され妨害行為が始まった。スクリューに絡ませるため進路にロープを投げ入れたり、ビンを投げつけるなど妨害行為は9回に及んだという。言語道断というほかない荒っぽさだ。捕獲頭数は予定をはるかに下回る水準で終わった。

 乗組員の安全が危うくなっているとすれば、中断もひとつの判断であろう。問題は次期以降の調査捕鯨をどうするかである。

 水産資源の有効活用は当然でありクジラも例外ではないだろう。クジラの生息数や分布がどうなっているか、科学的調査を行うことを非難されるいわれはない。

 ただ、現実問題として食料としてのクジラに対する国内需要は急減している。戦後間もなくの食料不足時代にはクジラは貴重なたんぱく源であり、学校給食などにも使われた。団塊世代以上には郷愁を感じさせるクジラ肉だが、近ごろはめったに食卓にものぼらなくなった。このため、クジラ肉の在庫は近年にない水準に積み上がっている。

 今回の調査捕鯨の打ち切りは、直接的にはSSの危険な活動が理由になっているが、中断やむなしとした背景には日本人の食生活の変化があると見ることができる。

 多くの日本人が「外圧」によって調査捕鯨をやめることを不愉快に思い調査捕鯨の継続を支持している。しかし、現実にはクジラ肉を食べなくなっており、調査継続の意義を掘り崩している。SSよりも日本人の食の変化の方が調査捕鯨にとって難問なのである。

 調査捕鯨は今期で6年間にわたる「第2期南極海鯨類捕獲調査」が終了し、第3期の計画の検討が行われる。大きな節目だ。この際は調査捕鯨を凍結することもふくめ、一度根本から見直してみてはどうか。国際捕鯨委員会(IWC)では調査捕鯨の大幅縮小、沿岸捕鯨の拡大などが提案されている。

 そして、中長期的には日本の水産物資源の保護の水準を国際的に見劣りしないものに高める必要がある。クジラ問題だけでなく、マグロ問題でも日本に対する風当たりは強まっている。海外からの一方的な言いがかりを許さないように、まず自分の庭先をきれいにしよう。

毎日新聞 2011年2月19日 2時30分

 

PR情報

スポンサーサイト検索

社説 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド