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[ライフ]ニュース トピック:ボーダー その線を越える時
【ボーダー その線を越える時】第2部 性(1)(下)履歴書の性別欄が怖い
本田技術研究所(埼玉県和光市)の秋本紗戸子(さとこ)(57)は平成15年11月、女性への性別変更に向けて会社で改名手続きを行った。名前が入った社内のメールアドレスも変更され、秋本は案内メールを同僚たちに送った。すぐに63人から返信がきた。
「紗戸子さん、おめでとう」
秋本はこれらの返信メールを印字して会社の机の引き出しで大切に保管する。
「私にとって宝物です」
性同一性障害を周囲に告白するかどうか悩む当事者は多い。必ずしも秋本のように理解が得られるとはかぎらないからだ。
■ □
「仮にここで認められたとしても、これから先、変な先生を受け入れるところはないよ」
15年、東日本の山あいにある村の夏祭り。地元小学校に勤務していた男性教諭(40)は肩の下まで髪を伸ばしていた。長髪を見とがめた教育委員会の教育長は教諭が性同一性障害と知り、不快感をあらわにした。「なぜ、採用試験の時に長い髪で受けなかったんだ。今になって伸ばすなんてズルい」
職員数が10人に満たない小さな学校では同僚から病気への理解を得ていた。教諭はいったん髪を切ったが、性別変更への望みは強くなっていった。
17年秋、「女性になりたい」と教委の幹部に相談すると、返答は「精神疾患として休職扱いにする。3年ぐらい休んで戸籍の性別も変えてほしい」。休職して見知らぬ土地に移り住んだ。スカートをはいて引っ越しのあいさつに回り、新しい人生が始まった。
性別適合(性転換)手術と性別変更を終え、20年春に都会の養護学校に復職。一部の同僚には過去を打ち明け、受け入れられた。
教諭は「学校は保護者と子供ありきだから、どこも私を引き受けたくなかっただろう。教委や学校がリスク覚悟で動いてくれたから、今も子供と向き合える」と感謝している。
当事者らで作る一般社団法人「gid.jp」(東京)代表の山本蘭(53)はいう。「研究員、IT技術者など技術を生かせる仕事や公務員は受け入れられやすい。一方で就職できなかったり、職場で仕事を与えられなかったりする人も多い」
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