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2011年2月19日(土)付

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小沢氏系造反―異様な行動に理はない

政権党に属しながら、国民生活を人質に取って「倒閣」に乗り出す。政党人として到底許されない行動である。小沢一郎元代表を支持する民主党の衆院議員16人が、国会内の民主党会派[記事全文]

武富士判決―時代に遅れぬ課税制度を

釈然としない結論ではある。だが冷静に考えれば筋は通っている。そして制度の不備を運用で取り繕うことの限界と危うさを改めて認識させる。そんな判決が言い渡された。消費者金融・[記事全文]

小沢氏系造反―異様な行動に理はない

 政権党に属しながら、国民生活を人質に取って「倒閣」に乗り出す。政党人として到底許されない行動である。

 小沢一郎元代表を支持する民主党の衆院議員16人が、国会内の民主党会派からの離脱を表明した。16人は予算案や関連法案に反対する可能性も「あり得る」と明言している。

 16人は「造反」の大義名分として、菅政権が国民との約束であるマニフェスト(政権公約)を「捨てた」と断じるが、見当違いもはなはだしい。

 ばらまき型のマニフェストが財源不足で破綻(はたん)していることは誰の目にも明らかだ。必要なら見直すのは、政権与党のむしろ責務だろう。確たる恒久財源の当てもなく、「マニフェスト実現」のスローガンばかりを繰り返す方がよほど無責任である。

 小沢氏の党員資格停止処分を提案した執行部への反発もあるに違いない。しかし、政党として何らかのけじめを求めるのは当然である。小沢氏を支持する議員が、なりふり構わず抵抗する姿は異様というほかない。

 マニフェストを修正するか否かも、政治とカネの問題への対応も、菅直人首相と小沢氏が争った昨年秋の党代表選の大きな争点だった。

 接戦とはいえ勝ったのは首相であり、代表選の公約を軸に政権運営を進めるのは当然だろう。小沢氏を支持した議員も、首相の代表任期中は基本的に支えていく。それが政党人として守るべき最低限の規律ではないか。

 あくまで首相を認めないというなら、会派だけから離れるという中途半端な行動ではなく、きっぱり離党すればいい。その覚悟もないのだろうか。

 この造反が罪深いのは、菅首相に打撃を与えるからではない。有権者が「そんなことをしている場合か」とあきれかえり、政権交代への幻滅や政党政治そのものへの冷笑という病をさらに重くしかねないからである。

 今後、同調者が広がる可能性も指摘されているが、民主党議員としても、政党政治家としても、自殺行為に等しいということを自覚してもらいたい。

 進退さえ取りざたされるほど、首相の政権運営が行き詰まっていることは間違いない。しかし、ここでまたぶれることは最悪の選択でしかない。

 小沢氏の処分を早く決め、マニフェストの見直しや社会保障と税の一体改革も決然として進めなければならない。もはや「党分裂」を恐れて迷い、ためらっている段階ではない。

 社民党の協力を得て、予算関連法案を衆院の再可決で成立させる道は事実上閉ざされた。極めて困難な道のりではあるが、野党第1党である自民党、そして公明党との政策協議に本気で向き合うしかない。そのためにマニフェストの見直しを一部先行させ、大胆な予算修正もためらうべきではない。

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武富士判決―時代に遅れぬ課税制度を

 釈然としない結論ではある。だが冷静に考えれば筋は通っている。そして制度の不備を運用で取り繕うことの限界と危うさを改めて認識させる。そんな判決が言い渡された。

 消費者金融・武富士の元役員に対する課税処分の当否が争われた訴訟で、最高裁はこれを取り消した。元役員は創業者の長男で、両親から海外資産を贈与された。国税当局は1330億円を課したが、最高裁は元役員の当時の「住所」は香港にあり、日本の相続税法は適用されないと判断した。元役員には利子相当分を含めて国庫から2千億円が還付されることになる。

 武富士は経営が行き詰まり、更生手続き中だ。過去の取引で利息を払いすぎた人は、本来その分の返還を求めることができるが、同社にはそれだけの資産がない。手元に戻るのはごく一部にとどまるとみられる。

 そんな時の巨額還付である。感情としては受け入れ難いが、ここは判決が説くところをしっかり理解したい。

 贈与が行われた1999年当時、法律は納税義務があるのは国内に「住所を有するもの」と定め、住所は客観的事実に基づき判断するとされていた。元役員はこの時期の3分の2は香港にいて仕事もしていた。最高裁はこうした事情をもとに結論を導き出した。

 国を運営するのに必要なお金は、結局は国民が負担する。そこには当然ルールがあり、気ままな取り立ては許されない。近代民主主義が、国王らの身勝手な課税に対する抗議から誕生したのは歴史の教えるところだ。

 今回、国税当局は長年積み重ねてきた「住所」の解釈を事実上変更して処分に踏み切った。元役員側に税逃れの意図があった疑いは拭えない。一方でこのような海外移住は節税策として資産家の間でしばしば行われていた。行政が従来の運用基準を超えて、結果として特定の人物を狙い撃ちするような措置をとったとすれば、やはりそれは当を得たものとはいえまい。

 法律は00年に改められ、いま元役員と同じ行動をとると課税対象になる。税の専門家の間には遅きに失した改正だったとの指摘もある。

 国や地域間の制度の違いを利用した租税回避はますます巧妙化し、国際社会で深刻な問題になっている。当局はその知恵比べに負けないようにするよりない。事態を見通し、法令を整え、国の枠を超えて協調して当たる。法を制定する国会の責任も大きい。

 抜け穴が大きければ税収が落ちる。そして何より、社会の一員として応分の負担をしようという多くの国民の意欲と正義感を損ない、国の基盤を揺るがす。裁判から学ぶべき点は、まずそこにある。あわせて、資産に恵まれた人にも、税の意義を踏まえた誇りある振る舞いを望みたい。

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