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明日へのカルテ:第4部 続・看護師不足の現場から/上 地域医療、消える病棟

 ◇自治体病院、2割が閉鎖・病床減

 西日が差し込む無人の病棟は、時間が止まっているようだった。フレームだけのベッドが並ぶ病室、パソコンなどが撤去され、備品の入った段ボール箱が積まれたナースステーション……。「つい1カ月前は看護師さんたちが忙しく動き回っていたんですけどねえ」。女性職員は寂しそうにつぶやいた。

 栃木県那須烏山市にある那須南病院(150床)。同市と北隣の那珂川町が運営する公立病院だが、今月から高齢者らが長期入院する療養病棟(50床)を休止した。今年度は約100人の看護師のうち離職者が15人に達する見込みとなり、補充が間に合わないためだ。入院患者33人は他の病院や福祉施設、自宅などに移らざるを得なかった。

 15人の離職理由は▽夫の転勤3人▽家族の介護2人▽結婚・子育て2人--など。同病院は2市町で唯一、入院や手術が必要な救急患者に対応する2次救急医療を担っており、関口忠司院長は「毎年5~7人が辞め、新人らの採用で何とか補ってきたが、それ以上は難しい。救急機能維持のためにも療養病棟の休止は仕方なかった」とため息をつく。

 この地域では介護施設も不足し、患者の中には約30キロ離れた宇都宮市へ転院した人もいる。寝たきりの妻を那須烏山市内の短期入所型介護施設(入所期間の上限が30日)に移した同市内の男性(64)は「1カ月ごとに入退所を繰り返さなければならないから大変。献身的にお世話してくれる那須南病院の方が安心だし、早く再開してほしい」と話す。

 近年、看護師不足により病棟休止(閉鎖)や病床削減を余儀なくされた病院が地方を中心に続出している。全日本自治団体労働組合(自治労)が昨年12月~今年1月、全国736の自治体病院を調査したところ、回答した250病院のうち33病院が病棟を閉鎖していた。日本自治体労働組合総連合(自治労連)の自治体病院アンケート(08年)でも、回答した161病院のうち約8%が病棟を閉鎖し、約12%が病床を削減していた。

 地方に比べ看護師が集まりやすい大都市でも、看護師不足から病棟を閉鎖した病院がある。先進的な取り組みで知られる亀田総合病院(千葉県鴨川市、925床)も数十床が使えず、患者の受け入れ制限が続いている。

 那須南病院は看護師増加に向け、夜勤手当や同病院への就職を条件とした奨学金などを増額したが、効果は不透明だ。関口院長は「病院や自治体の対策だけでは限界がある。国レベルで看護師の養成数や離職防止策を考えないと、地域医療は持たない」と訴えている。【福永方人】

    ◇

 深刻化する看護師不足は、看護師に過酷な勤務を強いるだけでなく、必要な医療体制が維持できなくなる病院が出るなど、患者にも重大な影響を及ぼし始めている。「明日へのカルテ第4部」は、看護師不足問題をさらに掘り下げる。

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 ご意見をお寄せください。メール(t.shakaibu@mainichi.co.jp)、ファクス(03・3212・0635)、〒100-8051 毎日新聞社会部「明日へのカルテ」係。

毎日新聞 2011年2月17日 東京朝刊

 

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