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明日へのカルテ:第4部 続・看護師不足の現場から/下 短時間正職員で離職減

 ◇夜勤の負担軽減策課題

 薄いブルーのユニホームを着た看護師たちがせわしなく動き回る。福井県済生会病院(福井市)内科病棟のスタッフセンター。午後4時過ぎ、入職9年目の小垣(こがき)千夏さん(30)は同僚に引き継ぎをして職場を後にした。「これから院内保育所に長女を迎えに行きます」。妊娠7カ月の大きなおなかをさすりながら、笑顔で話した。

 同病院は、育児などを理由に離職する看護師を減らすため、06年11月から短時間正職員制度を導入した。制度利用者の勤務は通常より2時間短い1日6時間で、勤務時間は午前6時~午後10時の間で自由に選べる。給与は基本給の75%。定期昇給やボーナスもある。

 小垣さんは1年間の育児休暇が明けた09年8月から制度を利用している。「育休中にやっぱり仕事を続けたいと思ったが、子育てをしながら夜勤はできない。正職員のまま制限勤務ができるのはありがたい」

 同病院はフルタイムで働く看護師にも多様なシフトを設けている。8時間ごとの日勤、準夜勤、深夜勤に加え、労働時間が4~8時間の13パターンを用意。各病棟の看護師長が職員の希望を毎週募り、各人の労働時間が週40時間になるよう調整する。パート職員を1日1時間からでも働けるようにして増員したことで、きめ細かなシフト設定が可能になったという。

 こうした取り組みの結果、04年度に13・0%だった看護師の離職率は09年度には6・2%と半減した。前看護部長の大久保清子副院長は「有能で意欲もある看護師が辞めてしまうのは病院にとっても損失。人材育成を重視する院長の理解もあり、細々とでも働き続けられる体制を整備できた」と胸を張る。

 短時間正職員制度を導入する病院は増えている。日本看護協会の調査では、09年10月時点で全国の病院の約25%が導入、約22%は導入を検討していた。導入の効果(複数回答)として約52%が「仕事と生活の両立に対する不安が軽減」を挙げ、約34%は離職者が減少し、12%は入職希望者が増加したという。

 看護師不足対策の一環として、その他の医療職に業務を振り分けて看護師の負担軽減を図る病院もある。横浜市立市民病院は今年度から、当直に生命維持管理装置の管理が専門の臨床工学技士が1人入り、人工呼吸器や血液透析装置の設定・調整や異常発生時の対応などを24時間体制で受け持っている。

 夜勤帯の装置の管理は従来、看護師の仕事だったが、扱いに不慣れな看護師もいる。同病院臨床工学部担当係長の相嶋一登(あいしまかずと)さん(37)は「看護師は生命維持管理装置の操作は専門外で、入職前にも習わない。事故のリスクを減らすとともに看護師に少しでも楽になってもらいたいと、当直を始めた」と話す。

 ただ、こうした取り組みはまだ一部の病院にとどまっている。日本看護協会の小川忍常任理事は「夜勤帯は看護師と当直の医師しかいない病院が多く、チーム医療ができていない。看護補助者を夜間に配置した病院は収入が増えるよう診療報酬を改定するなど、国は看護師の負担軽減策を講じてほしい」と訴える。【福永方人】

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毎日新聞 2011年2月19日 東京朝刊

 

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