金正哲氏がソウル公演に? クラプトンが懸念(下)
シンガポール公演では警護員・取材陣がもめて会場のムード台無しに
キム社長が18日に本紙記者に伝えた通話内容からは、クラプトンは正哲氏が公演に現れたことを、あまり喜んでいないことが容易にうかがえる。業界関係者たちは、この日のマネージャーの電話も、クラプトンが掛けさせたものとみている。実際、シンガポール公演では、正哲氏が会場入りするときから取材陣と警護要員の間で押し問答があり、コンサート中も、日本の取材陣などが正哲氏と周辺の人物を撮影していた。当然、会場の雰囲気は散漫になった。このため「政治的な騒動に巻き込まれることを極度に嫌い、常に完璧なコンサートを追求するクラプトンとしては、観客に申し訳ないという気持ちが強かったのだろう」とみられている。父(金総書記)は核兵器で国際社会に迷惑を掛ける一方、息子は「ギターの帝王」のコンサートでムードをぶち壊し、別の形で人々に迷惑を掛けている。
クラプトン側と古くから親交のあるキム社長によると、クラプトンは正哲氏が自身のファンという事実を知っているという。「クラプトンは、2006年のドイツ・ツアーの際、4回の公演すべてに来場した正哲氏の姿を、会場で確認した」とのことだ。
正哲氏の「エリック・クラプトン好き」はどの程度なのか。キム社長によると、北朝鮮は06年「正哲氏の希望によって推進されている」という非公式の説明と共に、クラプトンの平壌公演を韓国側に提案してきた。あるテレビ局とキム社長側がクラプトン側と話し合い、07年初めには、クラプトンを含むすべてのミュージシャンとスタッフが、北朝鮮当局から身辺の安全保障に関する覚書を受け取るところまで話が進んだ。コンサート会場も平壌市内の綾羅島メーデースタジアムに決まった。北朝鮮の代表的な公演「アリラン」が行われる15万人収容のスタジアムだ。ところが、直前になってクラプトンが翻意したという。自身が「暴力で抑えつける統治体制でコンサートを行う初の有名ミュージシャン」として記録に残ることに、重圧を感じたのではないかとみられる。すると北朝鮮は、韓国側窓口に「別の海外ミュージシャンでもいいから、呼んでくれ」と伝えてきたという。この話に、有名ロックバンドのローリング・ストーンズやニューエイジ・ミュージシャンのヤニーが、平壌でのコンサートに肯定的な反応を示したといわれる。だが、北朝鮮は「ローリング・ストーンズは退廃的すぎるし、ヤニーは落ち目ではないか」と難色を示し、いずれのコンサートも実現しなかった。
正哲氏がクラプトンのコンサートを鑑賞したというニュースが伝わったことで、クラプトンのソウル公演に関する韓国国内の関心も高まっている。正哲氏に関するニュースが報じられた直後から、プロダクション側にはチケット購入に関する問い合わせの電話が数十件も寄せられたという。
チェ・スンヒョン記者