«Dr.BABO のレシピ (1品)
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レシピID :1365273

マイ・ハードボイルドエッグスtake#2

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私立探偵モーガン・ゴッゴルが織成す哀しき男の夕食挽歌。~「俺はかたゆで卵が大嫌いだ。いつだって思い出させる」

材料 ( 1人分 )

2個
50ccぐらい

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ゆでたまごを作る際に時計が必要になりますが、たまたま時計を持っていないと作れません。

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そこで今回は時計がなくてもゆでたまごを作れるとても便利なレシピを考えました。

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沸騰までの時間や茹で時間を計算した上で各工程の文を決めていますので音読しながら作ると時計がいりません。

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それでは、【ゆでたまごのレシピ】をどうぞお楽しみください。

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フロリダでのくだらない仕事を終えサウスブロンクスのフラットへ戻るとポストは1週間分のタイムズであふれかえっていた。

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(いったいよくこんなに書くことがあるもんだな)憂鬱なニュースをダストボックスに投げ捨てた俺は冷蔵庫をあけ卵を2つ取った。

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「2個でじゅうぶんですよ」薄汚いダウンタウンにあるスシバーのマスターが言った言葉を思い出す。

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(そういえば4つも注文したあの男、どうしたろう)日本じゃいつだってスシは2個なのさ。それが流儀ってやつだ。

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うまくやるにはある程度の時間が必要なときもある。料理だってそのルールから外れることはない。

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「常温に戻しなさい。急いでゆでたら割れるわよ」ママのいうことはいつだって正しかった。今も、そしてあの時だって。いつも。

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おっと、ピートの催促(ディナーアラート)だ。長引いた仕事のせいでキャットフードケースには匂いだって残ってやしない。

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ツナ味のそれをガリガリ胃袋に押し込むピートを見ているといつだって俺がしなきゃいけないことが見えてくる。

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(こいつすら守ってやれなかったら…)スージーとの苦い別れの記憶がふと頭をよぎる。

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「今だったら守れるかな…」そんな言葉が空気になりかけたとき、ピートは「ナァ」と鳴いてそれを会話にしてくれた。

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水はきっかり2オンス。卵が多かろうが少なかろうが常に2オンスだ。多すぎる水は時間ばかり浪費する。

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1人やるのも一個中隊やるのもレモンかアップル(註:いずれも手榴弾の別称)1つあれば充分。それと道理は同じこと。

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重い蓋。これだけは用意して欲しい。沸騰による内圧を完全に抑え込めるのは「重い蓋」しかない。

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軽い蓋じゃ中から熱いガスが漏れちまう。あの記憶がちょっとしたことで蘇るのと同じさ。俺にもそいつが必要なのかもしれない。

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卵を抱えたそれをガステーブルにおいた刹那、青白い焔がぐるりと円を描いた。慣れたやつなら俺の動きに気付けただろう。

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トレンチコートから抜かれた俺の右手は一挙動でダイアルを廻しきり、インジケータはちょうど「強火」をさした。

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(コンマ5秒か。西海岸ならこっちがジョン・ドゥーだ)体内時計が、鈍った生存本能に警鐘をならす。

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秒針が一度も長針を追い越さないうちに、銀色のそいつはカタカタ語りかけてくる。「沸騰なのよ」と。

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ダイム1枚だって無駄にガス会社を儲けさせてやる義理はない。銀色嬢が鳴いたら、そこでガステーブル爵の仕事は終了だ。「消火」

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ここからが勝負だ。欲に打ち勝ったもののみが得る。イエスはいつだってママの受け売り。真理はひとつで、茹で時間は15分。

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15分か…。生まれてから一度も俺と会うことのなかった親父はその(たった)15分でトンキン湾を未来永劫の住処にした。

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救援部隊は20人の命を守るために四半時間(クォーター・アワー)を待てなかった。あと15分で救助者に1足せたってのに。

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俺だってそうさ…。あの別れの日を思い出すといつも俺の胃液はアーリータイムズのように喉を焼く。昔から。

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あの頃の俺たちは今日を生きるためになんでもやった。やばい仕事ほど実入りはよかった。

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(これ以上は待てない。あいつは先に出たんだ)6時間も研究所の前で待ちぼうけをくった俺はそう言い聞かせダッジに火を入れた。

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翌日のニュースは研究所が一晩燃え続けたことを知らせていた。俺にだけは「さぁ!口座を確認しろ」とも伝えていた。

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そしてそのニュースは犠牲者の中に身元不明の女性が1名いることも伝えた。あのチェックの厳しい研究所で!身元不明だって!?

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スシの国では4は死を意味するらしい。クォーターが死をわける、か…。ハードボイルドエッグは嫌いだ。いつも思い出させる…。

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気が付くと左手内側にまいたオイスターパーペチュアルが食べ時を刻んでいた。

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「内側に時計なんて冗談だろ?女じゃあるまいし!」仕事の取り方とコルトの扱い方、そして時計の巻き方をあいつは教えてくれた。

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「コルトを構えながらでも手首を反さずに時間を確認できるわ。一番大事なのは命。2番目は時間。両方取りたいなら内巻きよ。」

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それからは内巻きだ。笑った奴はみんな小さな銃弾を胸で受け止め、そして大袈裟に後ろへと吹っ飛んでいった。悲鳴もあげずに。

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(さぁ仕上げだ)白く堅い殻を熱さに細心の注意を払いながらむいてゆく。抑えていた欲がむくむくと頭をもたげてくる。

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急ぐのはまだ早い。飲み物の準備だ。喉に詰らせれば…内巻きを笑った奴らとウンザリな同窓会。

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ハードボイルドにはバーボンだろ。チェイサー?いらないね。そのかわりオレンジジュースを頼む。有名すぎるあいつの言葉だ。

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半分をほおばり、残り半分で黄身を確認。きっかり固茹でだ。「上出来!(Well-done!)」ピートは「ナァ」と返事した。

コツ・ポイント

できるだけ感情を込めて音読すると正しく時間が測れて、とてもおいしいゆで卵ができると思います。是非作ってみてください。本当に時計がいらないことがわかります。

みんなのつくりましたフォトレポート「つくれぽ」

 

コメント

このレシピの生い立ち

公開日:11/02/19
マザコンだがタフガイ。そんな私立探偵モーガン・ゴッゴルの得意料理を紹介しよう。業界を震撼させつつも一瞬で絶版になったハードボイルドレシピ。修正加筆を加え満を持しての改訂第二版だ。

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