菅再改造内閣:政策重視の布陣も実現の前途は多難

2011年1月14日 22時8分 更新:1月15日 0時43分

再改造内閣が発足し記念撮影に臨む菅直人首相(手前中央)ら。手前右端は与謝野馨経済財政担当相=首相官邸で2011年1月14日午後7時46分、西本勝撮影
再改造内閣が発足し記念撮影に臨む菅直人首相(手前中央)ら。手前右端は与謝野馨経済財政担当相=首相官邸で2011年1月14日午後7時46分、西本勝撮影

 菅直人首相は再改造内閣で、税財政に精通する与謝野馨経済財政担当相に「社会保障と税」を兼務させたほか、貿易自由化を目指す「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」への参加に積極的な海江田万里氏を経済産業相に起用し、最重視する政策に腰を据えて取り組む姿勢を示した。しかし、社会保障制度改革やTPP参加を巡っては野党の協力を得るめどが立っていないうえ、政府・与党内にも意見の隔たりがある。外交面でも、手腕未知数の枝野幸男官房長官が官邸外交の軸となるだけに、政府内からも懸念する声が漏れてくる。

 ◇与謝野氏起用に野党警戒感…消費税

 政府は野党の協力も得て、6月をめどに税と社会保障の一体改革案をまとめる方針だ。毎年1兆円以上増え続ける社会保障費をまかなうための消費税増税論議は政権の喫緊のテーマ。野党にも人脈を持つ与謝野氏には、中心的役割を担うことに期待がかかる。菅首相は14日、民主党の消費税論議を先導してきた藤井裕久元財務相を官房副長官に起用したが、藤井氏は「(消費税改革は)与謝野さんとの関係も重要。一人でできる仕事ではない」と与謝野氏との連携に期待を寄せた。

 野党を協議に引き込む手段として、政府は自公政権時代の「社会保障国民会議」の最終報告(08年11月)を踏襲する方針だ。医療・介護の人材確保策などに25年度時点では消費税率換算で4%弱の増税を要するとの試算が柱で、当時の経済財政担当相だった与謝野氏が主導した。政府は6月に打ち出す「一体改革案」で「必要な増税幅」を示すための有力な材料と踏んでいる。

 とはいえ、野党側には「簡単に協議に乗ればこっちが批判される」(自民党幹部)との警戒感がある。自民党内には、野党から入閣した与謝野氏をやっかむ声も強い。

 与野党協議の最大の障壁となるのが年金だ。民主党は09年衆院選マニフェスト(政権公約)に「全額消費税による最低保障年金創設」を軸とする年金改革案を盛り込んだが、野党は強く反発している。与謝野氏は14日、「社会保険方式という国民が慣れ親しんできた枠内で改革することが合理的だ」と、野党側に秋波を送った。

 「5年、10年先の(人口構成の)変化を考えると、そのままでいいのか」。菅首相も14日の記者会見で民主党の年金改革案にこだわらない考えを示した。与野党協議の中で軸足を現行制度の修正へと移していくことも視野に入れている。

 それでも、民主党内にはマニフェスト撤回への異論も強い。同党が年金改革案をあいまいにしたままでは野党が協議を拒みかねず、年金改革に必要な財源を示すことで消費税増税への道筋をつけるという政府の思惑が頓挫する可能性もある。【鈴木直、久田宏】

 ◇積極派登用も対立残る…TPP

 「国を開くことは歴史の必然。TPP協議に必要な取り組みを加速し、アジアの成長を(日本に)取り込む」。海江田経産相は14日の会見で強調した。米国など9カ国が交渉中のTPPは「関税原則撤廃」という高いレベルの貿易自由化を目指しており、日本経済の停滞打開のため、産業界では参加への期待感が強い。首相も「平成の開国」を掲げ、今回の改造で経産相をTPPに慎重だった大畠章宏氏から海江田氏に代え、政権としての強いメッセージを発した形だ。

 だが、民主党内では小沢一郎元代表や鳩山由紀夫前首相に近い議員を中心に、農業への打撃を懸念して、TPP参加に反対する国会議員も多く、12日の両院議員総会や全国幹事長会議でも「首相のTPP参加検討表明は唐突だ」との批判が相次いだ。また、TPPに慎重な鹿野道彦農相は留任。農水省は「重鎮の鹿野氏が残ってくれた意義は大きい」(幹部)と引き続き「防波堤」役を期待する。

 TPP参加を判断する時期について、首相は「(政府が農業再生の基本方針をまとめる)6月ごろがめど」と表明している。交渉中の9カ国は、11月にハワイで開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)での妥結を目指し、ルール作りを急ピッチで進めている。日本は決断が遅れるほど、条件は不利になる。

 しかし、内閣支持率の低迷が続けば、4月の統一地方選での民主党の苦戦は必至。統一地方選の結果次第では、党内から執行部の責任を問う声が噴出するのは確実。「TPP参加方針を6月中に決められないどころか、参加機運が一気にしぼんでしまう」(政府関係者)懸念もある。【行友弥、田中成之、立山清也】

 ◇官邸から外務・防衛両相主導へ…外交・防衛

 外交・安保面では、ともに日米同盟重視派の前原誠司外相、北沢俊美防衛相が留任。春には菅首相の訪米が予定され、首相が「日本外交の基軸」と位置づける日米同盟の深化を引き続き推進する。ただ、官邸外交を仕切った仙谷由人前官房長官に比べ、外交・安保は不得手とされる枝野官房長官の関与は薄まるとみられ、外務、防衛両相が主導する態勢になりそうだ。

 前原氏は14日夜の会見で、経済外交の推進と日米同盟深化を2本柱にした外交の継続を強調。今月下旬に沖縄を訪問し、米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)を名護市辺野古に移設する日米合意への理解を求める考えを示した。だが展望は見えない。日米両政府は首相訪米の際、同盟深化に関する共同声明の発表などを目指しているが、台頭する中国や北朝鮮情勢など安保環境の変化に合わせた共通戦略目標の更新を優先させ、普天間問題の進展は棚上げする方針だ。

 官房長官の交代で、前原、北沢両氏の影響力が強まるとみられるが、それだけに、以前から指摘されている両者の意思疎通不足を克服する必要がある。

 昨年9月の中国漁船衝突事件で悪化した日中関係の修復も最重要課題だ。ただ、枝野氏は民主党の日本・台湾友好議員連盟に所属する「親台派」。超党派の「チベット問題を考える議員連盟」で代表を務めたこともあり、漁船衝突事件の際、中国を「あしき隣人」と批判した。枝野氏は14日夜の会見で「お互いにとって良き隣人になれるよう努力していきたい」と述べたが、「対中強硬派」の前原氏も残留し、中国世論が硬化する可能性がある。

 北朝鮮砲撃事件、ウラン濃縮問題など対北朝鮮外交も正念場だ。日本は米韓と連携し、北朝鮮に挑発行為の停止や核放棄を迫る一方、日朝協議の再開に向け、前原氏が積極的な発言を繰り返す。韓国などから前原氏の前のめり姿勢への懸念も出ているが、北朝鮮側は歓迎し、民主党政権として初の日朝協議につながるか注目される。

 昨年11月にロシアのメドベージェフ大統領が北方領土訪問を強行して冷却化した日露関係の改善も急務だ。【犬飼直幸、西田進一郎】

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