タイガー現象:「補助金では買えない」施設、喜びの声

2011年1月14日 11時43分 更新:1月14日 12時11分

「星美ホーム」(東京都北区)に届けられた手紙と人気漫画のキャラクターグッズなど
「星美ホーム」(東京都北区)に届けられた手紙と人気漫画のキャラクターグッズなど

 社会現象と化した、漫画「タイガーマスク」の主人公・伊達直人などを名乗る善意の贈り物は、主に全国の児童養護施設に届けられた。漫画が書かれた高度経済成長期には孤児院と呼ばれていたが、今は虐待などさまざまな事情を抱える子供たちが親元を離れて暮らしている。多くは社会福祉法人などが設立した民間施設で、厳しい経済情勢の中、国や自治体の補助を受けながら何とか運営を続けている。その一つを訪ねた。【神足俊輔】

 東京都北区の「星美ホーム」。11日午後5時半ごろ、裏門の前に茶色の紙袋が置かれていたのを、併設された幼稚園に通う園児の母親が見つけた。中には人気漫画「ワンピース」のキャラクターをあしらった帽子や人形、筆箱、ハンカチ、布製の手提げ袋。さらに挿絵入りの本「星の王子さま」と、恐竜の絵本、「おしゃれボックス」と書かれたプラスチック製の透明な箱が入っていた。

 贈り主は伊達直人ならぬ伊達政宗。戦国武将を名乗った手紙には「ランドセルじゃなくてごめんなさい。箱の中にはみんなの宝物をいれてください」「日本の将来を担う子供たちへ たくさん勉強してりっぱな大人になってください。おもちゃはみんなでわけてね」と書かれてあった。

 星美ホームは昭和初期の1929年にイタリアから来日した女性宣教師らが始めた社会事業に由来し、前身の「星美学園」が40年に設立された。戦時中は静岡や山梨などに法人ごと疎開。戦後に東京へ戻り、以来60年以上、首都・東京で親と暮らせない子供たちの世話を続けてきた。

 現在の定員は146人。今は幼児26人、小学生61人、中高生54人の男女計141人が共同生活する。都内でも最大規模の施設だ。

 入所した理由は「母親の病気」が最も多く、半数近く。虐待が理由の子供も約3割いる。両親とも亡くなっているのは2人。幼児期から高校卒業まで施設内で過ごすケースもあれば、すぐに家庭に戻る子供もいるという。

 施設では夕方になると学校から帰ってきた子供たちが部屋で勉強したり、廊下で遊んだり、思い思いの時間を過ごす。校庭では小学生が職員と野球の練習を始め、笑い声が響いた。ただし、副園長の山本英人さん(58)によると、いまだに一部の人から差別や偏見を持って見られがちだという。山本さんは「児童養護施設がどういう施設か知らない人が多いと思う。『孤児院』のイメージが強いかもしれないが、ここに入る事情はさまざまです」と理解を求めた。

 児童養護施設は児童福祉法に基づき、親の死亡や病気、家庭の経済的な事情などで親と暮らすことが困難な子供が入所する。厚生労働省によると09年10月時点で全国に563カ所あり、2万9753人が生活する。子供の年齢や人数に応じて国や自治体から受ける補助金で運営され、子供には数千円のお小遣いも渡されるが、施設が購入するものは行政側の厳しいチェックが入る。そのため、おもちゃなどを子供に買い与えるのは困難という。

 山本さんは「何でも買ってあげるわけにはいかない。(贈り物は)施設のお金では買えないものばかり。絶対みんなが欲しがります。どうやってみんなに渡そうかな」と顔をほころばせた。

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