JR福知山線脱線:遺族ら前社長に厳しい視線 初公判

2010年12月21日 12時12分 更新:12月21日 12時30分

JR西日本前社長の山崎正夫被告の初公判に参加するため神戸地裁に入る(左から)遺族の大森重美さん、奥村恒夫さん、藤崎光子さん=神戸市中央区で2010年12月21日午前9時21分、馬場理沙撮影
JR西日本前社長の山崎正夫被告の初公判に参加するため神戸地裁に入る(左から)遺族の大森重美さん、奥村恒夫さん、藤崎光子さん=神戸市中央区で2010年12月21日午前9時21分、馬場理沙撮影

 「どのように謝罪させていただけばいいのか、そのすべさえ分からず、ただ深くおわびするしかない。承知していることを包み隠さず話したい」。死者107人の大惨事となったJR福知山線脱線事故(05年4月)で、業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本前社長、山崎正夫被告(67)に対する21日の初公判。被告は遺族らに深々と頭を下げたが、刑事責任については、「潔白を明らかにしたい」と否定した。有罪立証の難しさを承知のうえで安全面の最高責任者の刑事責任追及に踏み切った検察との全面対決が始まった。【牧野宏美、衛藤達生、大沢瑞季、重石岳史】

 被害者参加制度を利用し法廷に入った遺族や負傷者らは、起訴内容を否認した山崎被告に厳しい視線を向けた。検察側が死亡者の名前を読み上げると、そっと手を合わせる女性もいた。

 長女の早織さん(当時23歳)を亡くした大森重美さん(62)=神戸市北区=はこの日、仏壇に「裁判の行方を見守って」と手を合わせ、自宅を出た。開廷前には、「無罪になれば、司法の限界だと思う。企業の社会的責任をどう裁くのか、見ていきたい」と語った。

 大森さんは大学で土木工学を学んだ後、ゼネコンに勤め、工事現場の安全管理を長く担った。事故後、山崎被告ら幹部を数回自宅に呼び、安全対策について意見を交わした。技術畑を歩んだ山崎被告について、「他の幹部は頭を下げるだけなのに、山崎氏は説明に説得力があった」と、一時は評価していた。

 しかし、旧航空・鉄道事故調査委員会の報告書を読んだり、地検で捜査資料を閲覧するにつれ、「山崎氏が現場のカーブの危険性を知らなかったことはあり得ない」と確信したという。自動列車停止装置(ATS)設置の必要性を山崎被告が認識していたかについて、検察がどう立証するかに注目している。

 事故で重傷を負った会社員の坂井信行さん(45)=兵庫県西宮市=は「JR西日本が安全をリードする鉄道会社になるのを見届けることが生き残った者の義務」と思い、参加を決めた。一方、「被告が自分の不利になる証言をするはずがない」とし、個人の刑事責任を問うだけで必ずしも真相究明につながるとは考えていない。ただ、「事故を教訓として生かすために、思いを率直に語ってほしい」と願っている。

 ◇予見可能性の有無、争点に

 山崎被告の公判で最大の争点となるのが、現場カーブでの事故を事前に予測できたかどうかという予見可能性の有無だ。過去の鉄道事故では、原因に直接関与していない経営陣の予見可能性は立証困難とされ、訴追が見送られてきた。検察が越えるべきハードルは極めて高いといえる。

 検察は、山崎被告が鉄道本部長として事故を予見できたのにATSを設置しなかったという過失の立証を目指す。当時、カーブにATSを設置する法的義務はなく、各社の判断に委ねられていた。実際、未設置の急カーブは全国に多数あり、現場が急カーブに付け替えられてからも、60万本以上の列車が無事に通過していた。事故調によると、事故の主因は、運転士が制限速度を大幅に上回る時速約115キロでカーブに進入したことだった。

 これらは被告・弁護側に有利な事情といえるが、それでも疑問点は残る。例えば、現場カーブでの転覆限界速度(1両目に定員150人乗車で104キロ)についての山崎被告を含む経営陣の認識だ。カーブ手前の直線での制限速度は当時、120キロだった。運転士が意識を失ってそのままカーブに進入するなどの事態は想定していなかったのか。ATSの設置時期を決める際、安全面はどのように評価されたのか。

 「安全のプロ」を自任していた山崎被告だからこそ法廷で明らかにできることがある。【重石岳史】

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