第12話 放浪のひと7

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「いらっしゃいませ、デニーズへようこそ!」

いつも思うがなんか、ディズニーランドみたいなテンションだよな。

「2人で。禁煙席でお願いします」
「2名様ですね。当店は全席禁煙となっております。ご案内いたします」

彼女と俺は4人掛けの席に着き、向かい合う形で座る。
「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」



「わたし、デニーズって初めてかも」
「へ?奢ってくれるって言ったのに、デニーズは初めてなのか?なんだ、そりゃ」

「うん。へん?」
「変だろ。そりゃ」
「そう…」

彼女はそう、へんなのね…と言いながらニマニマしている。
相変わらず俺の理解を超えているが、上機嫌そうなことだけはわかったので、ほうっておこう。


「えーハンバーグの種類多いのね」
「アサシンくんは何にするの?」
「んーそうだなあ」
パラパラとページをめくる。

「こういうカロリー表示ってあるけれど、これって費用対効果から考えると値段が安くて高いカロリーのメニューを選んだほうがいいに決まってるわよね」
「そう…かなあ」

「だけれど、多くの人はきっとカロリーがなるべく低いものを選んでると思うの。これって本末転倒よね」
「…それも一理あるかなあ」

「っパフェがあるわ!マンゴーパフェとか、いちごパフェがあるわ!」
「最後に食べましょう。忘れないでね」
「はいはい」

こうして二人ともメニューを決め、料理が揃うまでしばし待つ。





ヴー、ヴー
ヴー、ヴー

「ん?」
俺の携帯が鳴っている。

開いて番号を見てみると “折り返し着信 090-1128-8901”



これ、昨日の夜に掛けた…
…くまポンのQUOカードに書いてあった番号じゃないか

ヴー、ヴー

どういうことだ。
てっきり、この番号は彼女のものかと思っていたのだが…
彼女は“目の前”にいる。
もちろん、手に携帯なんて持っていない。

“電話、鳴ってるよ?”と目で話しかけてきている。


俺は事態が飲み込めず、少しのあいだ固まっていた。
しかしすぐに思考をもどし…


”見送る”ことにした。

ヴー、ヴー ……


携帯が鳴り止む。


「うん、いや、なんでもないよ」
「? そうなの…」
携帯を閉じ、ポケットにしまう。

へんなアサシンくん、と首をかしげながらも彼女はすぐに別の話題をはじめる。

「ねえ、この間の焼肉ね…ロケッツニュースがきてたじゃない」
「あれ、まだ記事になってないのよ。昨日の今日だから当たり前かもしれないけれど」
「あのてのサイトは、速報性がとりえなのにね〜」

「そうだな…」
俺は彼女の話に相づちを打ちながらも、思考は先ほどの着信のことでいっぱいだった。

「笑い男のマーク入れるのにそんなに時間かかってるのかしら!ふふっ!」
「……」

「……」
「…アサシンくん。つっこみは無しなの?」
「んっ? なに?」

「だ・か・ら。笑い男はロケッツニュースじゃないだろ〜って突っ込みよ。期待してたんだけど」
「あ、ああ」
「まず笑い男がなにかわからん…」

「それもそうね」
「笑い男っていうのはね、まあるい人の顔をしたマークで…もともとは甲殻機動隊の劇場版でスタンド…」

彼女に貰ったQUOカードに書いてあった電話番号。

「…ね、話は知ってるんだけれど私はまだ本編を見たことがな…」

それを書いたのが彼女でないとしたら、一体。

「…から、今度借りてきて観ようと思ってるの。そういえば、アサシンくんのうちのテレビって…」
「……」

彼女でなく、考えられることといえば。彼女の周りの人だったり、彼女にカードをあげた人? そう、たとえば……







「アサシンくん!!!」
「ははいっ!?」
突然、怒鳴るような声。

「……」
「な、なんだよ藪から棒に」

「ヤブから棒でもヘビでもないわよ」
「さっきから呼んでるのに」
「ああ、…すまんかった」

「アサシンくんはさっきの電話から、心ここにあらずって感じね」
「いや別にそういうわけじゃ」

「…さっきの電話、なんだったの?」


「…もしかして、彼女さんとか?」
「なにそれ。ちがうよ」

「そう…」
「なら、いいんだけど」

そう言い、横を向きながら髪をかきあげる彼女。





「…わかった。後で話すよ」
「俺も考えすぎでバカになってたみたいだ」


「…? へんなアサ」
「お待たせいたしました。お子様ランチセットプディングスペシャルセットのお客様」


「きたきた。メシだなメシ」
「…もうっ」


「っていうかお前お子様ランチでよかったの?」
「……ほうっておいてちょうだい」



俺はみそカツ定食を、彼女はお子様ランチセットを食べている。
”これじゃないとパフェの余力が…”とかすかに聞こえた気がした。
それ、プリン付いてるじゃん。








「ぷう。食べたわ!」
「これがタダだなんて、ほんとわたしっていい仕事してるわね…えへへ」

ナプキンで口をぬぐいながら彼女は満足げに感想を漏らす。
って感想か?いまの
いや、こういうことはつっこんで聞いても面倒になるだけか。聞き流そう…


「よく食うな。デニーズのパフェってあんな大きいんだな」
「育ち盛りですから」

彼女はお子様ランチだったとはいえ、それに加えてパフェも完食。
俺は口直しとしてひとくちだけ貰ったのだが。それも彼女のすすめでだ。


「ん? なんか言ったか?」
「…いいえ」


「行くか」
伝票を手に取り席を立ち上がる。

「あっ!」
「わたしが払うからね。…って、言ったの覚えてる?」

「アサシンくんってもしかして三歩あるいたら忘れちゃうひと?」
「いや覚えてるよ!俺はトリアタマじゃねえ!」

「じゃあ3つ覚えたら忘れちゃうひと?」
「スタンド攻撃もされてないって!」

俺はさり気なく会計を済ませてスマートにやり過ごせたらと思っただけなのだが、そうはいかなかったようだ。

「…本当におまえが払ってくれるのか?俺も普通に出せるぞ」
「もう、任せなさいって言ってるのに」

そう言いながら彼女は俺から伝票を奪い取り、先にレジまで歩き出す。




「ありがとうございます。お会計は一緒でよろしいですか?」
「はい」
「はい、それではお会計が2,501円でございます」


「全部これで」
「…あ、1円は出します」


そう言いながら彼女はポーチから何かを取り出した。トランプカードのような…
いや、カードゲームのデッキか?そんなアイテムに見える。


彼女の一挙一動を注意深く見つめる。
デッキケースから取り出したものは……深い紫色の……
QUOカード?



……








あれ全部、QUOカード !!?




つづく

第5話 放浪のひと7 おわり