余録

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余録:若田さんISS船長に

 SF「スター・トレック」の宇宙船エンタープライズのカーク船長が、船を乗っ取ったコンピューターと対決する。自分はエンタープライズそのものだというコンピューターに船長は言い返す。「君はエンタープライズではない。機械だ」▲エンタープライズとは--船長は続けた。「未知のものを求めて宇宙を探検する夢の象徴だよ。未知のものの理解に高揚する人間の精神なんだ!」。「スター・トレック」の小説版「宇宙大作戦 ロムランの罠」(M・S・マードック著/ハヤカワ文庫)の一場面だ▲カーク船長ばかりではない。宇宙船の船長といえば卓越した統率力でクルーを率い、宇宙の冒険に挑む映画や小説のヒーローだ。そういわれればSFやアニメのファンならずとも、頭に浮かぶ名船長の一人や二人はいよう▲そんな子供時代からの夢やあこがれが突然現実のニュースとなったような驚きと喜びが交錯したきのうの朝だった。日本人宇宙飛行士の若田光一さんが国際宇宙ステーション(ISS)でコマンダー(船長)として指揮をとることになったという。むろん日本人初だ▲各国飛行士を率いる的確な判断力や技術力、チームワークの要となる人望が求められる船長だ。米露以外の船長はベルギー人、カナダ人に次いで3人目、軍人出身者以外では2人目となる若田さんだが、その力量や人柄へのあつい信頼なしにはありえぬ抜てきである▲「和の心を大切にする」と語った若田さんには、宇宙へと挑む人類の「夢の象徴」ISSでの船長任務にむけた長い訓練が待つ。ここはぜひとも「高揚する精神」も日本人みんなで分かち合いたい。

毎日新聞 2011年2月18日 0時23分

 

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