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社説:若田さん船長に 国の宇宙政策も着実に

 この20年で地球周回軌道を飛行した日本人宇宙飛行士は全部で8人。みな重要な役割を果たしたが、搭乗チームのリーダー役を担ったことはなかった。

 若田光一さんが国際宇宙ステーション(ISS)でコマンダー(船長)を務めることが決まったことに、「ようやくここまできたか」と感慨を抱いた人も多いだろう。

 チームをまとめるだけでなく、ISSの安全確保や搭乗員の健康管理も任される。責任は重いが、能力と指導力を見込まれたのはうれしい。日本人が宇宙という特別な国際協力の場でリーダーシップを発揮することは日本の存在感を高めることにもつながる。経験も、「和の心」も生かし、無事任務を遂行してほしい。

 予定から大幅に遅れたがISSは今年完成する。当初の運用期間は16年までだったが、20年まで延長される予定だ。これまで、若田さんと野口聡一さんが長期滞在を経験しており、今年は古川聡さんが、来年には星出彰彦さんが長期滞在することも決まっている。

 有人宇宙開発の中でも、地球周回軌道における人材育成という「ソフト面」では、かなり経験を積んだと言っていいだろう。一方で、「ハード面」である有人宇宙輸送技術を日本独自に確立するかの決定はなされていない。

 ただ、現実には、ISSに物資を運ぶ無人補給機「こうのとり」(HTV)は有人飛行も念頭に置いている。現在は地球からの一方通行だが、ISSから地上に物資を持ち帰る「回収型HTV」の開発計画も進められている。これに生命維持機能を追加できれば、有人飛行に結びつくからだ。

 とはいえ、宇宙開発全体に対する国の戦略が決まらない限り、そのままなし崩しに有人飛行に移行することはありえない。

 政府は宇宙基本法に基づき09年に宇宙基本計画を作成している。計画には多くの分野が網羅的に書き込まれており、すべてを実行に移すことは難しい。にもかかわらず、何を優先課題にし、どれほど投資するのかといった国の基本戦略がいまだに見えない。「宇宙庁」構想の先行きも不透明だ。

 昨年の小惑星探査機「はやぶさ」の帰還や、今回の若田さんのケースのように、宇宙開発には明るい話題がある。それをどう生かすにしても、ISS以降を見越した長期的な戦略と、それを実行に移すための体制作りが欠かせない。

 ISSへの日本の拠出は年間400億円。漫然と予算を費やしているわけにはいかない。宇宙での華やかな活動とは別に、地に足のついた政策作りを着実に進めたい。

毎日新聞 2011年2月18日 2時31分

 

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