きょうの社説 2011年2月18日

◎知事の退職手当 引き下げ判断は妥当だが
 谷本正憲知事が自らの退職手当について、支給割合を現行の65%から50%へと引き 下げる方針を示した。選挙公約による不支給や減額を除けば、全国最低の支給率だという。有識者による検討懇話会はことし1月、全国知事の支給平均などを参考に「60%への引き下げが適当」との意見書をまとめたが、それを上回るカット幅になる。

 1期4年ごとに退職手当が支給される現行の仕組みでは、当選するたびに何度も手当て を受け取ることになり、厳しい視線が注がれやすい。県民の理解を得る努力は一層大事になり、全国最多の5選知事である谷本氏が第三者機関から意見を聞き、支給率をさらに引き下げるのは妥当な判断だろう。

 知事をはじめ、首長の退職手当をカットする動きは全国に広がっている。選挙公約で不 支給を掲げるのは個人の政治信条であり、それらは区別して考える必要があるとしても、大幅カットが珍しくない近年の状況は、もはや暫定的な措置とは言いにくい面がある。

 全体の流れをみれば、財政難への配慮、あるいは行財政改革へ向けた決意表明といった 意味を超え、退職手当制度の仕組み自体が見直しを迫られているのではなかろうか。

 谷本知事の退職手当の場合、他の多くの知事と同じように、月給に在職月数と支給率を かけて算定される。50%の支給率では、現行の4056万円から3120万円になり、税引き後の手取額はさらに下がる。

 首長の退職手当については、従来の優遇税制を見直し、課税を強化する方針が決まり、 政府の税制改正関連法案に盛り込まれた。法案が成立すれば、谷本知事の手取額はさらに下がり、1919万6千円になるという。支給率は全国最低とはいえ、この額をめぐっても受け止め方が一様でないところに評価の難しさがある。

 マニフェスト(選挙公約)で首長退職手当の廃止・縮小を掲げる政党もあり、議論は国 政の場でもたびたび起きている。地域の個別事情はあるにせよ、全国知事会や市長会などの首長団体も、基本的な考え方については整理する時期にきているように思える。

◎小沢系会派離脱 現実味帯びる「3月危機」
 離党せずに会派を離脱する。誰の知恵かは知らないが、菅政権の急所を突く奇策である 。党会派からの離脱によって、小沢一郎元代表に近い衆院議員16人は、民主党の党議拘束に縛られず、フリーハンドを得る形をつくった。衆院での予算関連法案再可決に造反する姿勢を見せ、菅直人首相を揺さぶる狙いだろう。

 新会派の結成には、民主党会派代表である岡田克也幹事長の承認が必要となり、岡田幹 事長はこれを認めないという。だが、「菅降ろし」の具体的な動きが表面化し、予算関連法案を人質に取った意味は重い。菅首相側が小沢氏に対する「党員資格停止」の処分を強行すれば、衆院での予算関連法案再可決が果たせなくなる。さりとて処分を見送れば、野党や国民から批判が集中し、菅政権はそれこそ崖っぷちに追い詰められる。菅政権の「3月危機」がいよいよ現実味を帯びてきた。

 民主党が頼りにしていた社民党は、米軍普天間飛行場移設をめぐる鳩山由紀夫前首相の 「方便」発言で態度を硬化させ、関連法案のうち赤字国債の発行を認める特例公債法案について反対する方針を固めた。社民党に袖にされたうえに、国民新党の亀井静香代表からは「総括して、殺していくんだね。今の民主党を見てるとね、連合赤軍を思い出すね」と、強烈な嫌みを浴びせかけられた。まさに四面楚歌、内憂外患である。

 党派離脱を表明した16人は、いずれも当選回数が1、2回の比例代表選出で、地盤と なる小選挙区を持たない。議員個人としての影響力は無いに等しく、失うものが少ない。離党ではなく、会派離脱というハードルの低い手法を選んだことが、16人というまとまった数につながった。

 造反組の背後に、小沢氏とその側近がいるのは明らかだ。ただ、本気で倒閣に動くかど うかはまだ分からない。予算成立の成否がかかる時期に、党内対立を激化させるのは、菅首相はもとより、小沢氏側にとっても本意ではなかろう。それでも、勝者なき争いがこじれ、亀裂が深まって自壊につながる可能性は大いにありうる。