「Devil Fish」(悪魔の魚)とはずいぶんな名前ですが
西欧社会ではこう呼ばれるタコ。
我々にはごく身近なこの生き物についてどれだけ知っていますか?
タコを知ろう!
・タコは何の仲間?
・タコの種類
・タコに足は無い?
・何年いきる?
・ライフスタイル
・タコの吸盤とイカの吸盤の違い
・タコの墨とイカの墨の違い
・タコの毒について
・オスかメスか
・交接腕ってなんだ?
・海藤花ってなんだ?
・タコは色がわかるか
・タコの七変化
・タコを食べる国
・タコの語源
タコを飼ってみよう!
小型タコの飼育について(筆者の独断と偏見に満ちています・・・ご意見乞う)
・飼育容器
・エサ
・同居できる生物
・メンテナンス
- ・タコは何の仲間?
- 動物学上からいえば、軟体動物門 頭足綱 二鰓類の中の八腕形類になります。
二鰓類の仲間にはイカ類がいて、もう少し広い頭足綱の仲間にはアンモナイトやオウムガイがいます。
もっと広く軟体動物門でいえば巻き貝や二枚貝などの貝類と同類ということになります。
その証拠になかには貝殻の名残のある種類もいるようです。
- ・タコの種類
- 日本近海で知られているタコは10科20属55種(これは全世界の1/5)。このうち、タコらしい
タコ、すなわちマダコ科のみについていえば、9属40種がいるそうです。
マダコ科の中の代表的なものを挙げると
・マダコ
最も普通に食用とされる。全長60cmぐらい。学名の「オクトパス・ブルガリス」は”普通のタコ”
というような意味で世界中に広く生息するということになっていますが、これが怪しい。
実はタコの分類は非常に難しく、専門家も頭を悩めているそうです。日本で多く食べられているアフリカ
近海の「マダコ」は「マダコ」ではないかも知れません。
・ミズダコ
東北、北海道あたりからベーリング海、北米西岸沿いに棲むタコ類中の最大種。全長3m。
「パシフィック・ジャイアント・オクトパス」と呼ばれる。酢蛸にされているのがこれ。
・シマダコ
写真:「タコはどうして元気なのか」より
日本では紀伊半島以南や小笠原に分布。熱帯太平洋のサンゴ礁では希ではない。全長1mぐらい。
刺激すると胴や腕にある白っぽい縞や斑点が青白く燐光を発する。
・スナダコ
写真:「タコはどうして元気なのか」より
日本では関東地方以南の浅海に棲むがインド洋から熱帯太平洋に分布。全長30cmぐらい。
胴が割合大きく、腕が短く見える。体全体が小さいイボで被われていてザラザラする。
・ワモンダコ
写真:「タコはどうして元気なのか」より
四国以南の暖海に棲み、沖縄や小笠原でとれる最も普通のタコ。熱帯太平洋全域に分布。
全長70cmぐらい(30cmという本もある)。腕が長く吸盤の数も多い。腕に白斑が並び、
傘膜の上に不明瞭な眼状紋が有るのが特徴。
・イイダコ
写真:「タコはどうして元気なのか」より
全長20cm強。体表はザラザラしていて胴には黒い筋があり、傘膜の上には金色の眼状紋がある。
卵は大きく、冬季に胴につまった米粒大の卵を米に見立て、「飯」ダコと呼ばれる。食用。
・ヒョウモンダコ

オーストラリアから熱帯西太平洋を経て日本に分布。全長10cm強。
腕が割合短く、胴の後端がちょっと尖っている。全身に黒い縞とコバルト色の輪状紋をもつ。このため
英名は「ブルーリング・オクトパス」と呼ばれる。咬毒があり、咬まれると死亡する可能性もある。
「ヒョウモンダコ」とよばれているタコは実は3種類からなり、オーストラリアを中心に棲むものの他、
そっくりさん2種が日本に分布しているらしい。
南西日本を中心にいるのはリングが明瞭で、大きい卵を産み、自分で持ち歩く習性がある。
房総半島まで分布する種はリングがへしゃげていて不明瞭で、卵は小粒で持ち歩かない。3種は混同され
ていてどれが危険なのか、どれも危険なのかはわからないので取り扱いには注意すること。
ショップで一番手に入りやすいのが本種。
- ・タコに足は無い?
- タコには足がありません。8本(正確には4対)あるのは腕です。
俗に言う「タコの頭」は胴にあたります。胴と腕の間の眼がある部分が本当の頭です。
(生物学的には眼がついているところが原則的に頭だそうです。)
人が逆立ちすると腕が一番下にきて、その付け根に頭、その上に胴体がきますよね。この並びとタコは一緒
なんです。でも分類学上は「頭足綱」ですから矛盾してますよね。
足が無いかわりではありませんが、タコには心臓が3つあります。本来の心臓と鰓心臓と呼ばれる器官で
左右の鰓の根本にそれぞれ1個もっています。これは鰓に血液を送るためで、筋肉への多量の酸素供給を
行うためです。

「構 造」
- ・何年いきる?
- 樹木の年輪や魚の鱗や耳石にある年輪のような年齢を推定する手がかりのみつかっていないタコ類では
、寿命が明確になっている種は少ない。
マダコの寿命は一年半前後とされているが、三〜四年という説もあり、イイダコ、ヒョウモンダコ、ワモンダコ
などの寿命は一年程度とされています。案外短いですね。
- ・ライフスタイル
- 夜行性で夜な夜な巣穴を出てエサを襲うハンターで、甲殻類の他貝類も食べる。いらなくなった殻は
巣穴の外に投げ捨てる癖があるので、巣穴の存在がバレてしまう。
タコの活動を24時間観察した研究者がいたそうで、それによれば一日のうちでエサ探しに出るのはほん
の20〜30パーセントの間で、残りの時間は眠っているか、ハウスキーピングに費やしていたそうです。
柔らかい体をもつタコは本能的に身を隠す習性があり、何もない水槽に飼われたり、強い縄張り意識が
あるので気の合わないタコと一緒にされると精神錯乱の結果、自分の腕を食べてしまったりするそうです。
- ・タコの吸盤とイカの吸盤の違い
- タコの吸盤は肉質の円柱状で中に空洞があって、ここの圧力を減らすことで吸着する原理は、ゴムや
ビニールの吸盤と同じ。タコの吸盤の吸着面は、常に新鮮に保つため薄皮状に脱皮します。これは水槽でも
よく見るとわかります。
一方、イカの吸盤は柄付きのカップの中にキチン質のリングがはまっていて、それでしがみつく格好になって
いてタコのそれとは構造的に違います。イカを調理するとき、吸盤からリングがとれるのをご存知の方も
多いと思います。
- ・タコの墨とイカの墨の違い
- タコやイカの墨汁の成分は、「セピオメラニン」と呼ばれるメラニンの一種で、イカの墨汁には、この
セピオメラニンがマグネシウムやカリウムがついた塩類化合物となっていて、粘りけがあり、海中で一つの
塊状となる。この塊はイカの姿に似ていることから外的に対するダミー効果があるとされています。
一方、タコの墨汁は中に天敵を麻痺させる特殊な成分が入っていて、こちらは煙幕状に広がって煙に巻く
ためのものらしいです。タコの墨は料理に使いませんね、これも違いの一つです。
ところで、ヒョウモンダコには墨袋が無い(墨を吐かない)と書いてある本がありますが、飼育中に墨を吐くのを実際に
経験しました。どういうことでしょう?
- ・タコの毒について
- マダコがエサを麻痺させるために「チラミン」という物質を使うことはよく知られていますが、
もっと強い毒をもつものがいます。
ヒョウモンダコの咬毒はとても強く、人間でも咬まれて死亡した
例がオーストラリアであります。咬まれると5分で死ぬなどとかいてある本もありますが、実際
には2時間程度で死亡したそうです。呼吸困難になるということですので咬まれたらすぐに病院に
行きましょう。
この毒はふぐ毒の「テトロドトキシン」だということがほぼ通説となっています。
生物体内で刺激が伝わってきて神経の興奮がおこると、神経細胞の軸索の外側からナトリウムイオン
が神経細胞内に流入して、内外の電位差が逆転します。このナトリウムイオンが出入りする通路を
ナトリウムチャンネルといいます。テトロドトキシンはこのナトリウムチャンネルを塞ぐことによって
神経伝達を止めてしまいます。この結果、中毒症状を起こすと考えられています。
一回の咬みつきで人間7人を死亡又は麻痺させるだけの毒がでるとのことです。充分注意。
- 症状
- 口の渇き、嘔吐、運動失調(十数分で完全に麻痺)、衰弱、呼吸困難、痙攣、意識不明、傷口からは出血
- 応急手当
- 呼吸麻痺が直接死因と考えられるので、できるだけ早く病院へ運んで、レスピレータ装着の人工呼吸を行うようにする。
有効な治療法が見つかっていないため、人工呼吸を受けたとしても死亡することもある。オーストラリアの例では人工呼吸を
受けても2時間で死亡している。
- ・オスかメスか
- タコのオス、メスの区別はどうしたらできるでしょう。外観から判断する方法が一つあります。
それは、右第三腕の先端を見ることです。オスのここは吸盤が無く、他の腕と形状が異なっています。
この腕を「交接腕」と呼びます。小型のタコの場合、確認するのは大変ですが、良く見るとわかります。
現在、うちで飼育中のヒョウモンダコは交接腕が確認できましたのでオスと判明しました。
ところで、築地場外市場のホームページをみていたら、面白いことが書いてありました。タコはオスの
ほうがおいしいので、茹でタコの右第三腕の先端を切ってオス、メスの区別ができないようにしてある
場合があるそうです。
- ・交接腕ってなんだ?
- メスに精子を送り届けるための腕のことです。普通の腕では先端まで吸盤が規則正しく並んでいるのに
対し、この交接腕は先端部がヘラ状や筒状、あるいは紐状に変形していて吸盤がない。この変形した先端部は
舌状片と呼ばれ、その基部の吸盤側には乳頭という円錐状の突起がある。さらに、交接腕の傘膜付近から先端
の円錐状の乳頭まで、腕の後縁に沿って精莢溝という溝があって、この精莢溝と舌状片を通って精子のカプセル
(精莢)がメスの体内に挿入される。
頭足類の場合、このようにオスが精子の入ったカプセルを腕を使ってメスの体内に届けるという、一般の「交尾」
とちょっと違う方法のため、区別して「交接」と呼ばれます。

「交接腕の例」
- ・海藤花ってなんだ?
- 「かいとうげ」と読みます。タコの卵のことです。
タコの卵は米粒のような長楕円形や、ナスを小さくしたような一端が尖った水滴型をしていて、その基部には
細い糸のような一本の柄がついています。母ダコは卵の糸をよりあわせるようにして、藤の花かブドウの房に似た
房を作って産み付けます。その形から海藤花と呼ばれたそうです。
- ・タコは色がわかるか
- タコの眼は無脊椎動物中、最も脊椎動物の眼に近い。虹彩も角膜もレンズもあり、像が半球型の網膜に映る
ところは脊椎動物と変わらない。
しかし、これまでの学習実験や網膜活動電位図からも色彩の区別はできないとされています。ただ、白と黒の違い
は色ではなくて明度の相違としてわかるらしい。イイダコ釣りのテンヤには白いものをつけると良いといわれていて
、ラッキョウや瀬戸物のかけら、プラスチック消しゴムなどで釣果が出ているといいます。
- ・タコの七変化
- タコは隠れようとするときや興奮したときに体色を変化させます。色だけでなく質感も変えたりします。
どうやって色をすばやく変化させることができるのでしょうか。
タコの色素胞(色素をもった細胞)は八方を細い筋肉で吊られていて、それを一瞬にして縮めたり、伸ばしたり
することによって色が変わって見えます。たとえて言えば、ビニールの風呂敷を四方から吊って、その中に水を
いれたようなものだそうです。これを下から見てみると吊り手を引っ張っているうちは風呂敷の色がはっきり
していますが、吊り手をゆるめると水の重さで風呂敷がしぼんで投影面積が小さくなってしまうのに似ている
ということです。
- ・タコを食べる国
- 日本人は世界一のタコ好きらしいのですが、外国人は一部の地域の人たちしか食べないと聞いたことが
あります。これについて調べた方がいて、それによると食べる国(地域)は
日本、韓国、ホンコン、フィリピン、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、トルコ、
チュニジア、エジプト、モーリシャス、スリランカ、メキシコ、アルゼンチン、チリなど中南米すべて、
アメリカインディアン(少なくともカナダ太平洋岸の)、ポリネシア(ハワイ、タヒチなど)、ミクロ
ネシア(グアム、ギルバートなど)、メラネシア(フィジーなど)。
結構多くの地域で食べていますね。
- ・タコの語源
- 諸説あって、江戸末期の書物には「たこは多股からきている」と記されているそうです。
また、「海蛸子」とも。ちなみに「蛸」は本来はクモのことで、海に棲むクモという意味から
「海蛸子」とされ、それが省略されて蛸一字でタコと呼ぶようになったともあるそうです。
別の文献では、タコは手の多いことからテココラ(手許多と漢字をあてた)といわれ、これが転訛したという説、
あるいは、タコはキンコやマナマコなどと同類の海鼠の類であり、手があることから手海鼠(テナマコ)とされ、
それが転訛してタコになったという説があるとのこと。
いずれにしても、8本の腕をもったことが語源に深く関わっていますね。
- ・飼育容器
- タコを単独で飼うのであれば、あまり大きな水槽は必要ありません。45cm水槽からでもOKです。
水質の安定からいって大きいほうが良いことはいうまでもありません。
だいぶ前の雑誌(たぶんアクアライフだったと思う)では45cm水槽の底面濾過でマダコを飼っている
人の紹介記事がありました。小型のタコならなおさら大丈夫でしょう。
本能的に隠れる動物なので、ライブロックなどでシェルターをつくってやりましょう。自然ぽくなくても
OKの方は蛸壺や素焼きの植木鉢も良いアイテムです。
海水は人工海水でOKです。塩分の薄い水を嫌うのでこころもち濃いめにしてやりましょう。
フタですが、よく飼育書には「絶対フタをしなさい。でないと逃げられる。」とありますが、小型のタコに
ついていえば逃げ出すことはありません。フタはなくても大丈夫です。このことからベルリン式の水槽でもOK。
照明は「控えめに」と書いてある本もありますが、シェルターなどがちゃんとあれば、ナチュラルシステム
のようなメタハラギラギラ水槽でも大丈夫です。
- ・エサ
- 過去から現在まで食べてくれたもの
・スジエビ(淡水の。金魚屋や釣具店で売ってます)
・磯のカニ(採集してストックしておけばタダ)
・マメガニ(黒鯛の落とし込み釣り用のエサとして夏場に釣具店で売っている)
・ザリガニの子(金魚屋や釣具店で売ってます)
・活アサリ(なるべくパックに入ってないもの。小さめのもの)
・活シジミ
・甘エビ刺し
・イカ刺し(夕飯の一部。あまり食べないようだ)
タコにも個性があって、エサ取りの上手なやつ(喜んで飛んでいく)、下手なやつ(手だけ伸ばしやがる)が
います。エサを捕食するところは見ていて飽きません。
他にも良いエサがあったら教えて下さい。
- ・同居できる生物
- 基本的にハンターですので混泳については多少の配慮が必要です。
食べられなかったもの
・サンゴの仲間
・イソギンチャクの仲間
・ケヤリムシの仲間
・巻き貝の仲間(シッタカやクマノコガイです)
・魚類(魚が食べられたことは一度も無い。但し、小型のタコの場合。大きい種類については不明)
・ヒトデ
・ウニ
・海藻
食べられちゃったもの
・テッポウエビ
・カニ(イソギンチャクの口盤の下を住処にしているやつは平気)
・より小さいタコ(複数飼育失敗。再度チャレンジの予定)
あくまでも私の水槽での経験ですので、食べられちゃっても苦情は受け付けません。(笑)
複数飼育について成功例がありましたら教えて下さい。
- ・メンテナンス
- メンテナンスは他の無脊椎動物の飼育に準じます。
めったにありませんが飼育中に墨を吐くことがあります。特別処置をしませんでしたが他の生物にも
影響ないようでしたので報告しておきます。
特に難しいことはありませんので、チャレンジしてみましょう!
目指せ! 水槽内繁殖!
参考文献