新会派はプロモーション戦略せよ - マスコミ報道を突破するツール
衆院の民主党会派から離脱宣言した16名の議員について、ネットでは義士だ勇士だ志士だと称賛する声が多いが、私はそのような評価や見方はしない。立つのが遅すぎる。今まで何をしていたのだ。市民がずっと小沢支持のデモに奔走し、検察とマスコミの不当と横暴を訴え、街中を叫んで行進しているのに、それを手助けもせず、顔も出そうとせず、何を怠慢していたのだ。無名の市民がネットで声を張り上げても、誰も聞かないし見向きもしない。議員様の身分だから、人が振り向いてくれ、カメラが撮って放送してくれる。税金で歳費を受け取りながら、「国民の生活が第一」の公約を守るために、これまで何をやってきたのだ。渡辺浩一郎を含めて、私はこの16名を全然知らないし、名前も顔も見たことがない。もし本当に彼らが「国民の生活が第一」の公約に命を賭け、菅執行部のマニフェスト破りの悪行を阻止しようと精勤していたのなら、その言論や行動はマスコミかネットに浮上していたはずで、Twitter等で情報が拡散されていただろう。自分から積極的に発言して、ネットやマスコミで注目を浴びていただろう。マスコミが、彼らを小沢一郎の指図で動いている操り人形だと言い、「国民の生活が第一」の大義名分は口実で、小沢一郎の政局工作だと解説しても、その歪曲報道が一般を説得してしまうのは、彼らがこれまで何も運動せず、この予算政局で急に登場してきたからである。
私は、これまでブログの記事で、何度も何度も、繰り返し繰り返し、小沢派の議員たちに政策集団を立ち上げよと呼びかけ続けてきた。小沢派vs菅執行部の対立は、単なる権力闘争ではなく、小沢一郎の「政治とカネ」をめぐる派閥抗争ではなく、政策軸の対立こそ決定的な問題であり、「国民の生活が第一」の路線を保守する勢力とそれを破棄しようとする勢力の対立なのだから、その政治的真実を自ら国民の前に彰かにして、「国民の生活が第一」の旗印の集団を結成するように訴えてきた。そして、小沢一郎支持の市民には、直接に街頭で示威行動することを提案した。しかるに、市民たちは自ら奮起して立ち上がり、10/24の東京を皮切りに全国でデモ行進を敢行し、粘り強くネットで気勢を上げ、小沢一郎を支持する国民勢力の実在を可視化し、マスコミ報道を相対化して行ったのである。エジプトの革命とは較べるべくもないが、一人一人の市民の小さな勇気と努力と情熱で、マスコミに抵抗し反撃する政治言論の陣地を積み上げて行ったのだ。そのとき、君たち小沢系議員は何をしていたのか。市民の前で説明できるのか。東京の最初の手製デモから4か月も経っている。党大会からも1か月も経っている。半年前の代表選で200票だった議員勢力は、仙谷由人の狡猾な切り崩し工作によって、4分の1の50人にまで激減しているではないか。手を出さなきゃ喧嘩は負けるに決まっている。
テレビの報道は、16名の議員の主張について、宣言文の中身に即した説明はせず、「小沢一郎の私兵」の印象が際立つ映像に切り貼りし、政策対立の意味が視聴者に見えないよう巧妙に編集して流していた。マスコミが菅政権と一体であり、権力の一部だから、そうしたプロパガンダ報道は当然と言えるし、ニュース番組で新会派をバッシングする世論工作は、彼らにとって抵抗勢力に対する迎撃と鎮圧の作戦行動である。渡辺浩一郎ら新会派は、マスコミがそのように歪曲報道し、マイナスイメージを塗り被せて来ることを最初から知っている。しかし、彼らのアクションとメッセージは、マスコミの媒体を通じてしか国民に情報として届かない。であれば、新会派の主張が正しく説得的に国民に届くように、彼らは最大眼の工夫と配慮をしなければならなかった。情報はマスコミの手でどのようにも料理される。テレビの報道内容は、テキストではなく映像と音声のストリーミングである。文字情報としてどれだけ立派な中身でも、それは電波に乗る情報にはならない。テレビ局は、国民に伝えたくない音声はカットする。全てが切り刻まれ、意図的に加工され変質され、悪性の政治情報として視聴者に伝わる材料にされるのである。だからこそ、その報道側の悪意と工作を前提にした上で、メッセージが直接に届く切り返しの作戦を準備しなくてはならない。それは、切り刻むことのできない映像情報にデバイスを配置することである。
具体的に言おう。新会派は会見の部屋の背面に、なぜ小沢一郎の「国民の生活が第一」のポスターを貼らなかったのか。通常、政治勢力にせよ何にせよ、カメラが撮影して会見する席では、バックパネルに市松模様のデザインボードを使用する。そのプロモーションスタイルがデフォルトだ。今回、それは時期尚早だろうから、せめて、「国民の生活が第一」の小沢一郎の大型ポスターを貼り、それを背景放映させれば、番組側がどれほど音声情報を切除し、新会派の説明から政策意味を除去しても、視覚情報がメッセージを補完し、この新会派と「国民の生活が第一」の概念を視聴者の中で結びつけることに成功していただろう。単なる執行部揺さぶりの陣笠の一団ではなく、「国民の生活が第一」を主軸とした政策集団であるという訴求が効果的に発信され、積極的で納得的な印象が視聴者側に生成される情報要素となっていただろう。テレビ映像が政治の主戦場である現在、メッセージはビジュアルに発信しなくてはならない。もう一つ、胸に「国民の生活が第一」の大きなバッジを着ければよかった。16人全体を映す場面は一瞬である。しかし、渡辺浩一郎やメンバーを映す場面は数秒間ある。この挙兵行動を成功させようと本気で考えたなら、「国民の生活が第一」のバッジを襟につけ、それをテレビでブランド・エクスポージャーする機会にすればよかった。視聴者は、渡辺浩一郎の顔よりも、そのバッジの図柄に注目し、頷いて興味を持っただろう。
テレビは宣伝の場である。マスコミは、小沢一郎と新会派を貶め卑しめる政治宣伝に徹するのであり、一つアクションを起こせば、それは必ず悪材料として逆利用される。それを逆手に取って切り返し、国民の支持を得ようとするなら、撮影される映像のパーツとデバイスで最大眼の努力をするしかない。逆に言えば、そうした努力の痕跡が見られないから、この新会派の行動について、国民はマスコミ報道の言うままを信じ、怪訝な目で捉えてしまうのである。渡辺浩一郎が読み上げた「政権交代に責任を持つ会」の宣言文は、テキスト情報としてはよく準備されたものであり、シンプルな檄文として説得力がある。だが、テレビではそれは伝わらないのだ。無名の16人が無表情に並んだ絵と、特に印象を感じることのない渡辺浩一郎の顔と上着が映るだけなのである。そこには視聴者が興味を惹くメッセージがない。有意味な情報発信がない。プレーンでインパクトの弱い情報だから、視聴者は注視しないし、大越健介や古舘伊知郎がネガティブに定義して毒づく音声情報の方に反応し、意識の重点を置いてしまう。マスコミの価値判断を受け入れる。マスコミの意義づけに反発しない。マスコミの定義づけを妨害するためには、言葉ではなく視覚で反論をしなくていけないのである。例えば、福田衣里子がバッジを着けて声明文を読み、眦を決して記者の質問に答えていれば、情報を受け取る側の感想と評価は全く違っていたに違いない。作戦はそのように設計する必要がある。
八木亜紀子のBS番組に出演した石井章は、「われわれは先遣隊だ」という点を示唆し、また強調していた。この「先遣隊」の言葉がマスコミに切り取られ、この動きの政局性を際立たせ、逆に政策色を薄める結果となっている。マスコミ側の質問は、「小沢一郎が指図した内部抗争」の構図に落とし込む思惑のものだから、そうした誘導に乗らず、逆に政策軸の方に論点を引っ張り、説得的なアイテムを演出しないといけないのだが、そういう目標からは遠い議論に終始していた。いかにも陣笠的なパフォーマンスで、見ていて共感を覚える点がなかった。ブログでしつこく言い続けていることだが、小沢派は「国民の生活が第一」のマニフェストを実現する政策集団として旗揚げするというのなら、財源の16.8兆円をどう工面するかを具体的に積み上げて提案しないといけない。ラフでもいいから、「無駄削減」のリストを提出しなくてはいけない。宣言文に加えてその財源リストが添付されていれば、マスコミは新会派の動きを政局行動として報じず、政策行動として正当に意義づけ、公共空間での有意味な政策論争へと発展するのである。「一般会計と特別会計を統合し」などという抽象論ではなくて、もう代表選から半年も経過しているのだから、精緻で詳細な財政分析と政策研究がされ、官僚が隠匿する裏金庫を捕捉し、私物化したへそくりを摘出してもよい時期ではないか。「国民の生活が第一」のマニフェストを実現するとは、具体的にはそういう意味であり、16.8兆円のリストと財政制度設計を仕上げて提示するということである。今回、そうした具体的な政策提示がなかった。新会派の姿勢表明はいいが、われわれ国民は姿勢を聞きたいのではないのだ。政策の中身である。
