現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2011年2月18日(金)付

印刷

このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

農業改革―まずは農地情報の整備を

新たに農業をやりたい――そんな希望をもつ人たちの前に立ちふさがる問題がある。利用できる農地がなかなか見つからないのだ。農地利用に関する情報は、ばらばらに管理されているの[記事全文]

ウズベキスタン―民主化も促す資源外交を

中央アジアのウズベキスタンからカリモフ大統領が先週来日し、菅直人首相と鉱物資源の開発で協力を進めることなどで合意した。ロシアと中国にはさまれ、南でアフガニスタンに接する[記事全文]

農業改革―まずは農地情報の整備を

 新たに農業をやりたい――そんな希望をもつ人たちの前に立ちふさがる問題がある。利用できる農地がなかなか見つからないのだ。

 農地利用に関する情報は、ばらばらに管理されているのが現状だ。固定資産税の関連情報は市町村の税務課、農業保険がらみの情報は共済組合、換地した農地については土地改良区など、関係機関がそれぞれの必要に応じて縦割りで情報を集めている。

 その中で以前から問題視されてきたのが農地基本台帳と、それを管理する農業委員会の運営である。

 基本台帳は、どこにどれだけの農地があり、所有者や耕作者は誰か、といった基本情報を記録している。だが、相続の手続きがなされず所有者不明のまま遊休地化していたり、駐車場や宅地に転用されていても、台帳の上では「農地」扱いされていたりする事例が目立っている。

 法律で義務づけられた台帳ではないため、課税台帳や住民基本台帳との照合にも個人情報保護の壁がある。

 市町村ごとにある農業委員会にも問題が多い。農地利用に関する許可権限を持ち、関係者の利害を調整しているが、委員の多くを地元の農業関係者が占め、新規参入の壁になりがちだ。農地の勝手な転用を黙認するといった運用面のゆがみが指摘されてきた。

 政府は経済成長や雇用創出を担う産業分野の一つとして農業をあげ、競争力強化に取り組む姿勢だ。一方で、既存農家の平均年齢は65歳を超え、後継者不足が懸念される。厳しい状況を打開するには、やる気があって新しい発想や市場開拓の知恵が豊かな新規参入者が欠かせない。農地の集約による経営の大規模化や効率化も必要だ。

 幸い、食の安全や働き方に対する価値観の変化で、農業に関心をもつ人も増えている。農業再生や地域活性化の観点からも、新規参入や農地集約の障壁となっている農業委員会の実態を早急に改めるべきだろう。

 政府の「食と農林漁業の再生実現会議」や行政刷新会議の分科会でも、農地情報の整備や農業委員会の見直しが課題とされている。改革の好機を逃さず、議論を急いでほしい。

 まずは農地台帳を法定化し、ほかの台帳との照合など使い勝手をよくすることだ。現状を正確に反映したデータベースもつくりたい。

 農業委員会が設置された終戦直後とは、農業をとりまく環境も大きく変わった。すでに役割を終えたとの声も、市町村関係者の間にある。委員会を廃止し、転用規制の強化など残すべき機能を自治体内に取り込むことも検討すべきではあるまいか。

 農家や農地の情報を正確に把握してこそ、育てるべきもの、守るべきものが見えてくるはずだ。

検索フォーム

ウズベキスタン―民主化も促す資源外交を

 中央アジアのウズベキスタンからカリモフ大統領が先週来日し、菅直人首相と鉱物資源の開発で協力を進めることなどで合意した。

 ロシアと中国にはさまれ、南でアフガニスタンに接する中央アジアはユーラシア大陸の要衝の地だ。石油や天然ガス、レアメタル(希少金属)など資源の宝庫でもある。イスラム系の住民が大半を占める中央アジア5カ国は、ソ連崩壊で独立した。その国づくりを一貫して支援してきた日本のさらに積極的な関与を必要とする地域だ。

 なかでもウズベキスタンは、約2800万人と中央アジア最大の人口を持つ地域の有力国だ。資源も、天然ウランの生産量で世界7位のほか、金やレアメタル類などが豊富である。

 やはり資源が豊富な中央アジアのカザフスタンで、日本は天然ウランの権益獲得などで実績をあげた。だが、世界的に資源確保競争が激化するいま、昨年秋の尖閣事件後に中国が生産のほとんどを占めるレアアース(希土類)の輸出規制を強め、日本の産業界に大きな懸念を呼んでいる。

 そうしたおり、ウズベキスタンとも今回、天然ウランやレアアースなどの探鉱と開発の両分野で協力を進める合意ができた意義は大きい。合意内容を実現するにはウズベキスタン側のビジネス環境の整備も課題となるが、ぜひとも豊かな成果につなげてほしい。

 中央アジア5カ国で、ウズベキスタンはロシアとも中国とも国境を接していない。両国の影響から一線を画す独自の外交を進めてきた。その意味で、地域の外交パートナーとしてもこの国は日本にとって重要だ。

 独自外交の典型が9・11テロ後に基地を米軍に貸与したことだ。その後、2005年にイスラム反政府勢力がらみの暴動鎮圧事件で多数の死傷者が出たことで欧米の批判を受け、米軍への基地貸与も取りやめて一時ロシアに接近した。だが、反政府派の釈放など人権状況の改善を評価した欧州連合は、09年に武器禁輸の制裁を解除した。

 ウズベキスタンも同年からアフガニスタン駐留米軍への非軍事物資の国内通過を認めるなど、孤立を脱して国際社会との協力を探る姿勢を鮮明にしている。カリモフ氏の9年ぶりの訪日もこの流れの一環といえる。

 しかし、国際社会への完全な復帰には、旧ソ連共和国時代の1989年にカリモフ氏が政権を握って以来続く反対派の締めつけやメディア支配が横行する強権的な支配を、民主的なものへと変えていくことが不可欠だ。イスラム国家の強権の危うさはエジプト、チュニジアの例からも明らかだ。

 日本は、安定した協力を続けるうえで民主化を強く後押ししたい。それは、同様の強権支配が大半を占める中央アジア全体の課題でもある。

検索フォーム

PR情報