<特集ワイド>ご存じですか? 20〜30代で受診増「大人の発達障害」
大人の発達障害が注目されている。これまでは子どもの障害とされていたが、大人になっても症状が残る人がいる。特に20〜30代で発達障害を疑って受診する人が増えているという。大人の発達障害とはどのようなものなのか。【山寺香】
◇「人と違う」自分、だから苦しい、だけど個性
◇社会的認知進み顕在化 就職機に社会性、協調性で壁 周囲の理解と自己肯定重要
「真剣な相づちの打ち方から誠実さが伝わってきた」
「自分の話だけでなく、相手の話を聞き出そうと質問したのが良かった」
「話題の切り口が豊富で面白い」
東京都板橋区で13日、大人の発達障害を抱える当事者の会「イイトコサガシ」のコミュニケーション能力向上ワークショップが開かれた。この日は15人が参加、2グループに分かれて会話をする。
2人が「スポーツ」をテーマに5分間話し、終わると他の参加者が次々に2人の会話の良かった点を指摘する。ルールは批判や批評を絶対にしないこと。しかし会話能力向上が目的なのに、なぜ問題点や課題を指摘しないのか。
会を主宰する冠地情(かんちじょう)さん(38)は「発達障害の人の多くは、学校や会社で『努力が足りない』『相手の気持ちを考えろ』などと散々叱られ、自信をなくしている。自己肯定感を取り戻すことが重要です」と話す。
熊谷みゆきさん(33)は、約20社で契約社員などとして働いたが、いずれも人間関係になじめず辞めた。幼いころから自分から人に話しかけられなかった。小学生の時に先生から「あの子に委員会があると伝えておいて」と頼まれたのに、話しかけるタイミングがつかめず伝え損ねて叱られたことを今も覚えている。
昨年9月まで1年半、テレホンオペレーターとして勤務。比較的単純な受け答えが中心の間は何とかこなしたが、用件の予測がつかない社内の電話も受けるように指示された途端、うまくいかなくなった。相手の声が言葉として聞き取れず、伝言もあいまいな説明しかできなかった。
何度注意されても改善できず、次第に朝起きるのがつらくなり、出社してもトイレに閉じこもる時間が増えた。昨年6月に発達障害と診断され、仕事を辞めた。一つよかったことは、人と違うことばかりする熊谷さんに絶縁を言い渡していた姉が、障害と分かってからは一番の理解者になってくれたことだ。
イイトコサガシに参加するうちに「上手にしゃべることはできないが、聞き上手にはなれるかもしれない」と気づいた。笑顔を心がけ、相手の言葉をオウム返しにすることで「聞いていますよ」というメッセージが伝わることを知った。「自分に合ったコミュニケーション方法を伸ばしていきたい」と話す。
冠地さんは「本人が自分の障害を理解し、さまざまなコミュニケーション方法を試せる場が必要。でも、社会の側に理解する余裕がないのは気になる」と言う。
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「大人の発達障害がわかる本」(洋泉社)を監修する吉祥寺クローバークリニック(備瀬(びせ)哲弘院長)を、発達障害で受診する人はここ2、3年で約2倍に増え、特に20〜30代が多い。備瀬院長は「啓蒙(けいもう)が進み、メディアが取り上げる機会が増えたこと」を要因に挙げる。20〜30代に多いのは、就職を機に問題が表面化することが多いからだ。
発達障害は先天的に脳の機能が偏ることが原因で、知的発達に問題のないケースも多い。学生時代は成績も悪くなく、気の合う友達と付き合うだけでも済むため障害が見過ごされやすい。しかし、就職するとより高度な社会性や協調性、コミュニケーション能力が求められ問題が顕在化する。
「周囲に叱られ続けて自分を責め、うつ病や適応障害、パーソナリティー障害などの2次障害を引き起こすことも多い。全国に70万人いるとされるひきこもりの背景にも発達障害があると言われている」と備瀬院長。「サービス業など第3次産業が増え、発達障害の人が働きにくくなっているのではないか」とも語る。
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発達障害では苦手なことがある一方、特定の能力で優れた才能を発揮する人もいる。エジソンやアインシュタインも発達障害だったという説があり、国内でも医師や大学教授、芸術家などとして活躍する人もいる。
テレビドラマや映画になった「いま、会いにゆきます」(小学館)などの著書がある作家の市川拓司さん(48)も発達障害を公表している。
市川さんは子どもの頃からじっとしていることができず、時と場面を選ばず大声を出し、相手が聞いていなくても一方的にしゃべり続けた。授業中は教室の座席の間をほふく前進して友だちの頭をたたき、高いところから飛び降りたい衝動が抑えられず3階の教室から飛び降りようとした。友人関係で困難を感じることはなかったが、教師からは「お前はクズだ」「黙れ」などとよく殴られたという。
大学卒業後に出版社に就職したが、本音と建前の違いを受け入れることができず苦労し、3カ月で退社。次に事務職として税理士事務所に14年間在籍したが、自分から電話をかけられない、記憶力が弱く同じ取引先に2回行ってしまうなどの失敗をした。40歳で作家として生きることを決めてからは、自分のペースで仕事を進めることができ、大分楽になったという。
そんな市川さんを、両親は人と違うという理由で叱ったことがなかった。小中学生の時には、よく先生から「お母さんに渡して」と封筒を持たされた。母は何も言わなかったが、大人になってから内容が苦情だったと知った。
「普通の人と同じになれると言われても今のままでいたい。発達障害の特性とされることも、私にとっては捨てがたい」と市川さんは言う。感情が増幅する特性は、ジャガイモを食べただけで気を失いそうなほどおいしく感じられる。突然昔の感情が当時のままによみがえる発作は、40代を生きると同時に17歳の夏の日を生きているような感覚に陥り、その感覚で小説を書くことも多い。
「自尊心さえあれば、人と違っていてもタフに生きられる」と市川さんは話した。
本人の自己肯定感、自尊心と周囲の理解があれば、発達障害の大人も居心地がよい。そんな社会はきっと、誰にとっても心地がよいはずだ。
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