みると自宅からの電話。
職場の午後2時。あわててとる。興奮した主人の声。
「今、洗濯機が、火を噴いた。
消火器で消そうとすると、消火器の底が抜けた!」
「え〜え〜いったい、何があったん?火事になったの?あんた、大丈夫?家はどうなったん?」
「いや、大丈夫や。消し止めた。家もどうもない」
「すぐ家に帰ろか?」
「いや、帰ってこんで、ええ。大丈夫や」
電話は切れた。
洗濯機が火を噴いて。消火器が爆発して、大丈夫って・・・
5時になるのを待ちかねて家に帰った。
全自動洗濯機の内側が黒く溶けていた。
右半身麻痺の主人が、たまたま、二階の自室から、トイレに降りてきて、そのまま台所に行きかけた瞬間、裏口のすりガラスが、ぽっと明るく輝いた。
驚いて、ドアを開けると、洗濯機から炎があがった。
あわてて、台所にある消火器を下げてきて、ピンを抜いた。
左腕しか動かないから、ピンを抜くときに、ホースをかまえられない。ホースは消火器の胴体にはめこまれたまま、真下に消火液を噴出!それを、左手で持って、洗濯機に本体ごと向けて。みごと鎮火。
主人が脳卒中で倒れてから5年目の秋だった。
急な事態にショックを受けて、彼は、さて、次は何をしようかと知恵をめぐらし、火災保険をもらわなければならないと気がつく。
そこで、119番をまわし、消防自動車を呼んだと言う。
消防自動車と、パトカーがわんわんサイレンを鳴らして、我が家の正面に集合したらしい。
主人は、脳卒中で倒れて以来、はじめて、一人前の大人の男として、家長として、消防署員に、事態を説明し、対応した。
これまで、何か、新しい機能を回復すると「すごいじゃない。あなた」と、一応は褒める。でも、彼は自覚している。それが出来たからと言って正常人に戻ったわけではない。
それを、ほめられると「俺を馬鹿にするのか!」と、怒った。
けれど、今度ばかりは違った。
私は、目を丸くして焼け焦げた洗濯機を見て、心からたまげて、「火災保険をもらうための、機敏な処置」に、真剣に感心した。
発作から5年。
彼が、息を吹き返した瞬間だった。
「消防署に手続きに行かなければならないから、乗せていけ」と、命令する。
それまでは、小さくなって「リハビリに乗せていってもらうのを待っていた」のに。
一切の手続きを指示して、3万円で買った洗濯機に6万円の保険金を受け取り、新しい洗濯機を買った。
いかにも、彼らしいやり口を、発作から5年目にして、彼は取り戻した。
翌日、上機嫌で、大型電器店につれて行けと言う。
いくと、前から欲しがっていた最新式のビデオだかなんだかを買った・・・30万円と聞いて、びっくりしたが・・・彼が気力を取り戻したお祝いだと考えることにした。
その翌日、家に帰ると、今度は、大型テレビが届いていた。またまた30万円だという。
いくらなんでも、毎日30万円?
どうやって、電器店まで行ったの?さすがに声があらがる。
「駅まで歩いて、電車に乗って、バスに乗って一人で行った・・・」
発作以来5年目、ついに彼は一人で交通機関を使って移動できたのか。
もう、なんにも言えない。
「稼ぐに追いつく貧乏なし」
耐えがたい職場だったが、当分、仕事は辞められない・・・
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旦那さんは大丈夫です。長生きします。
かぐやひめさん、歳取るヒマは無さそうですね^^
傑作・栗
2009/12/21(月) 午後 6:09 [ 敬天愛人 ]
敬天さん、ありがとう!
ただね、ご主人に車いすを押してもらっている奥さんを見ると何とも言えない気持ちになります。あれだけは、もう、不可能です。車にも乗せてもらえなかったけど・・・車いすにも乗せてもらえません。
2009/12/21(月) 午後 10:19 [ かぐやひめ ]