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[25752] 犬夜叉(憑依)
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e
Date: 2011/02/07 09:05
犬夜叉の憑依物です。

チラシの裏より移動してきました。

初投稿なのでよろしくお願いします。



[25752] 第一話 「CHANGE THE WORLD」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e
Date: 2011/02/04 00:20
第一話 「CHANGE THE WORLD」







「ここか。」


一人の少年が神社の境内へ続く階段の前でつぶやいた。


彼は今年十四歳になったばかりの中学二年生。特にこれといった特技もない平凡な少年である。


正月や祭り、信心深いわけでもない彼が神社に訪れたのはある願いを掛けるためだった。


それは「彼女が欲しい」という願いだった。彼がこんな願いを抱くようになったのは単に
周りの知り合いが次々に色恋沙汰に興味を持ち始めたことが原因といえる。


思春期ということもあり今、彼のクラスはそういった話でもちきりなのだ。


彼女が欲しいが学校の女子に話しかける、遊びに誘うなどのアプローチも恥ずかしさが勝りできない。そこで彼は偶然耳にした恋愛が成就するご利益があるという神社に訪れたのだった。


(誰もいないよな。)


キョロキョロと周りを伺いながら階段を登る姿はどこからどう見ても不審者にしか見えなかった。


ドクンッ


階段を登りきり境内に入った瞬間、彼は違和感を覚えた。


(なんだ?これ?)


初めて来た場所のはずなのに何度も来ているような既視感。


辺りを見渡すと一本の大きな木が目に止まった。


それは樹齢百年を優に超えるであろう御神木だった。


(俺はこの木を知っている・・・?)


何かに引かれるように御神木に近づく。そして御神木に手が触れたその瞬間、少年の意識は途絶えた。







「ハァッ…ハァッ…!」


夜の暗闇の森をひたすらに走る少女がいた。


彼女の名前は日暮かごめ。


彼女は今年十五歳になったばかりの中学三年生。特にこれといった特技もない平凡な少女だった……今日この日までは。


「四魂の玉をよこせえええ!」


かごめを追っているのは女の上半身、ムカデの下半身を持っている百足上臈(むかでじょうろう)と呼ばれる妖怪だ。体長十メートル以上あるであろうその姿はこの世のものとは思えないおぞましさがある。


「私はそんなもの持ってないわ!」


かごめはそう言い返すも百足上臈はおかまいなしにかごめに襲いかかる。


「きゃっ!」


間一髪のところで百足上臈の攻撃を屈んで躱す。


(このままじゃ殺されちゃう……!)


逃げようと向いた先には昼間見た少年が矢によって貼り付けにされた木があった。


しかし、昼間とは違う点があった。




少年が目覚めていたのだ。







少年が目を覚ますと目の前には夜の森が広がっていた。


(何だ…?俺は確か神社に願い事をしに来ていたはず…。)


昼間からいきなり夜になっていることに驚く少年。しかし更なる驚愕に襲われる。
自分の胸に矢が刺さっているのだ。


「うわぁぁぁっ! !」


思わず悲鳴を上げる少年。自分が尋常ではない状況に置かれていることを認識した少年はなんとか矢を抜こうと試みる。そこで初めて自分の体が全く動かないことに気づいた。
混乱が続く中更なる異常が起こる。


「犬夜叉」 「桔梗」 「封印」 「破魔の矢」


頭のなかに自分の全く知らない知識、記憶が浮かんでくるのだ。


(五十年前に桔梗に封印された?なんで?四魂の玉?一体何なんだ!?)


つぎつぎに起こる異常の中で少年はついに自分の身体が「犬夜叉」になっていることに気づく。


(この封印を解くにはどうすればいい!?)


そう考えていたとき…


「きゃっ!」


少女の悲鳴が響いた。


少年と少女の目が合う。
その瞬間、少年は少女が「日暮かごめ」であることを理解した。



少年とかごめが見つめ合った僅かな隙を狙い百足上臈がかごめに襲いかかった。


ガッ


百足上臈がかごめの脇腹に噛みつく。そしてがごめの体の中から四魂の玉が飛び出す。


「かごめっ!!」


少年が叫ぶ。


「なんで…私の名前…。」


「そんなことはどうでもいい! 早く逃げろ!」


しかし百足上臈の体がかごめを犬夜叉が封印されている木にくくり付けてしまう。


「ついに手に入れたぞ…四魂の玉。」


四魂の玉を飲み込んだことで百足上臈が変化をし始める。
さらに強い力でかごめと少年は締め付けられる。


「うぅ。」


かごめの顔が苦痛に歪む。


「かごめ! 俺の胸の矢を抜け!」


「え?」


「抜いてはならん!」


村から追いかけてきた楓がそれを静止する。


「その矢は犬夜叉の封印…そやつを自由にさせてはならん!」


「このままじゃかごめが死んじまうだろうが!」


少年が言い返す。


「早く抜け! かごめ!」


次々に起こる事態にかごめも我慢の限界だった。


「みんな好き勝手言って…抜けばいいんでしょー! !」


かごめが掴んだ矢が光り砂のように消えた



この瞬間、五十年の封印は解かれた。




「ふんっ!」


少年が体に力を入れると百足上臈の締め付けが弱まった。


「凄い…。」


かごめが拘束から解放される。


しかし一番驚いているのは少年自身だった。


(なんて力だ…!)


少年は自分の身体から溢れる力に恐怖すら感じた。


「おのれええ!」


百足上臈が少年を噛み殺そうと迫る。


「うわっ!」


とっさに少年は後ろに飛び退いたが勢いがありすぎたため遙か後方の木に激突してしまった。


「なにしてるのよ!」


「くっ!」


(上手く力を加減できない。)


尚も追撃してくる百足上臈。なんとか逃げ続ける少年。


「早くやっつけてよ!」


「やかましい!黙って見てろ!」


犬夜叉の記憶の中から攻撃方法を思い出す。


手に力を込め、飛びかかる。


「散魂鉄爪!!」


ズガァァァッ


凄まじい斬撃が地面に爪痕を残すも百足上臈には命中しない。


「ちくしょう!」


「なんだ威勢だけかい。」


百足上臈は恐るるに足らないと判断し、止めを刺そうと犬夜叉に向かっていく。


ついに百足上臈に捕まってしまった。


「このまま絞め殺してやる。」


百足上臈が力を込めようとしたその瞬間、


「散魂…鉄爪!!」


百足上臈の体が粉々に砕け散った。


「あれなら避けれねぇだろ。」


肩で息をしながらも安堵する少年。


「油断するな犬夜叉。まだ終わっておらん!」


楓が少年に忠告する。


「何っ!?」


周りを見ると百足上臈の残骸が元に戻ろうと動き始めていた。


(四魂の玉をなんとかしないと何度でも再生しちまう…。)


少年はかごめに向かって叫んだ。


「かごめ!四魂の玉はどこだ!?」


「え?何?」


何のことだか分からず混乱するかごめ。


「光る肉片は見えるか?」


楓に言われ、光る肉片を探すかごめ。


「あった、あそこ!」


一つの肉片を指差す。


「そこか!」


少年がその肉片から四魂の玉を抜き出すと百足上臈の肉片は消滅していった。


(これが四魂の玉……。)


自分の手のひらにある四魂の玉を見つめる。見る者を魅了するなにかがある不思議な玉だった。


「いかん!」


このままでは犬夜叉に四魂の玉を奪われてしまうと思った楓が言霊の念珠を犬夜叉の首にかけた。


「なっ……!」


自分にかけられたものが何であるか思い出した少年は戦慄した。


「ふざけるな!これをはずせ!」


走り出し楓に詰めよる少年。襲われると勘違いした楓はさらに続ける。


「かごめ、魂鎮めの言霊を!」


「え?何?」


聞いたことのない言葉に戸惑うかごめ。


「なんでもいい、犬夜叉を鎮める言葉を!」


「じ、じゃあ…。」


かごめは「鎮める」と犬夜叉の「犬」からある1つの言葉を連想する。


「ま、待て…!」


少年はこれから自分がどうなるかを直感し止めさせようとするが、


「おすわり」


その瞬間、森はなにかが地面に落ちるような大きな音に包まれた。






これが少年とかごめの初めての出会いだった。





[25752] 第二話 「予定調和」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e
Date: 2011/02/04 00:23








「つまりお主はかごめと同じ世界から来たということか。」


「そうだ。」


楓の言葉に少年が答える。


ここは楓の家の中。百足上臈を倒した後かごめの手当てをするために移動してきた。今は手当も終わり状況を説明し合っている最中だ。


「にわかには信じ難いが先ほどの戦いとかごめとの会話から信じるしかあるまい。」


少年は先ほどかごめに現代の一般常識についていくつか質問されたがその全てに正答していた。


「分かったんなら早くこの念珠を外してくれ。」


少年は首の念珠を掴みながら楓に詰め寄る。


「済まないがその念珠は特殊でな。簡単に外すことができんのだ。」


楓が申し訳なさそうに答えた。


「くっ…」


悔しように呻く少年。


「別にいいじゃない、あたしがおすわりって言わなければいいんでしょ。」


ドガッ


かごめがそう言った瞬間、少年は床に這い蹲った。


「あ、ごめん。今の無し。」


(こいつ…。)


少年は何とかして念珠を外してやると心に誓った。






「しかし記憶喪失とは…。」


「本当に思い出せないの?」


「ああ、さっぱりだ。」


少年は自分が十四歳の中学二年生であること、神社を訪れた時に意識が途切れたことは覚えていたがそれ以外の名前や生まれなど自分に関わることを全くといっていいほど覚えていなかった。


「じゃあ記憶が戻るまでは犬夜叉って呼んでもいい?」


「好きにしてくれ。」


どうでもよさげに犬夜叉は答えた。


続けて犬夜叉は自分に知るはずのない知識や記憶が断片的にあることを二人に説明した。


「四魂の玉や桔梗ねえさまのことを知っているのはまだ分かるがなぜかごめのことまで…。」


かごめは昨日この世界に来たばかり。犬夜叉の身体がその記憶を持っているはずはない。


「お主が未来から来たことに何か関係があるのかもしれんな。」


楓の言葉を聞きながら犬夜叉は自分の記憶に不安を覚えていた。


「私のことも何か知ってるの?」


犬夜叉が未来の記憶を持っているということを知り興味が沸いたのかかごめが質問をしてきた。


「確か…桔梗の生まれ変わりだったはず…。」


犬夜叉はかごめに関する断片的な記憶を思い出しながら答えた。


「桔梗?」


それはかごめも昨日何度か耳にした名前だった。


「やはりそうか。姿形、神通力だけでなく四魂の玉を持っていた事が何よりの証。」


楓が犬夜叉の言葉にうなずきながら続けた。


「その桔梗ってどんな人だったの?」


「私の姉でな。この村で巫女をしておった。弓矢の名手でもあった。」


「巫女…弓矢…。」


現代では聞き慣れない単語にかごめは自分が戦国時代に迷い込んでしまったことを再認識した。その不安からさらに質問を続ける。


「ねぇ、私がこれからどうなるか知ってるの?」


そんなかごめの様子に気づくこともなく犬夜叉は答える。


「確か犬夜叉と旅を続けて……。」


言いながら具体的な内容が思い出せない犬夜叉は最後に覚えていることを口にした。


「最後には結婚してたはず…。」


その瞬間二人の間の空気が凍った。



「なんで私があんたと結婚しなきゃいけないのよ!」


かごめが怒涛の勢いで犬夜叉に詰め寄った。


「だから俺のことじゃねぇ!」


犬夜叉としてはただ覚えていることを口に出しただけなのに責められ困惑するしかなかった。


「だいたい私まだ十五歳なのよ!そんな早くに結婚するわけないでしょ!」


「俺だって十四歳だ!」


その後も二人の言い争いは続き


「それぐらいにせんか二人とも…。」


楓が仲裁に入ろうとしたその瞬間、何か黒いものが部屋の中に飛び込んできた。


「きゃっ!」


黒いカラスのような鳥がかごめの首にかけられていた四魂の玉を奪い去った。


「四魂の玉が…!」


かごめが叫ぶも鳥は飛び去って行ってしまった。


「あれは屍舞鳥!四魂の玉を狙っておったのか。」


「屍舞鳥?」

かごめが尋ねる。


「屍舞鳥は人間をエサにしておる。四魂の玉の力で変化すれば大変なことになってしまう!」


「ちくしょうっ!待ちやがれ!」


犬夜叉は屍舞鳥の後を追い家を飛び出した。


屍舞鳥は村の外に向かって飛び去ろうとしていた。


「逃してたまるか!」


犬夜叉は目にも止まらぬ速さで屍舞鳥に追いつき飛び上がった。


「散魂鉄爪! !」


犬夜叉の爪が屍舞鳥を引き裂こうとするも易々と避けられてしまう。


(なんで当たらねぇんだ!?)


犬夜叉はうまく体が使えないことに苛立つ。


しかし今まで普通の人間だった少年がいきなり半妖の体になり、戦闘経験もないのだから無理もないことだった。


犬夜叉が手こずっている間にも四魂のカケラを取り込んだ屍舞鳥が変化を始め巨大化していく。

そして逃げる必要が無くなったと判断したのかエサを求めて村の方へ戻って行った。


「くそっ!」


犬夜叉も急いでその後を追った。






村は変化した屍舞鳥に襲われ大混乱に陥っていた。


「犬夜叉!」


かごめの声に立ち止まる犬夜叉。見るとかごめは先ほどとは違い弓と矢を持っていた。


「その弓は?」


「楓婆ちゃんから借りてきたの。さっき私は桔梗って人の生まれ変わりだって言ってたでしょ。だったら弓矢もうまく使えるはずだって。」


自信満々に答えるかごめに何か言ってやろうと考えていたその時


「あっ子供が!」


村の子供が屍舞鳥によって連れ去られようとしていた。


「くそっ!」


犬夜叉は子供を助ける為に飛びかかった。


ガッ


子供を捕まえていたからなのか何とか屍舞鳥から子供を取り返すことができた。


しかし獲物を奪われた屍舞鳥は凄まじい速度で襲いかかってきた。


(まずいっ!)


子供を護る為に咄嗟に身を盾にする犬夜叉。その時、

「危ないっ! !」


かごめが犬夜叉達を助けようと弓を放った。


(これは…!)


犬夜叉はその光景に強い既視感を感じた。


矢は屍舞鳥の体に命中しそして同時に四魂の玉を打ち砕いた。


その瞬間、空は光に包まれいくつもの光の欠片が散っていった。


「あれ…?」


自分が起こしたであろう光景に唖然とするかごめ。


そして足元に一つの四魂のカケラが落ちてきた。それを拾い上げながら




「ごめん、壊しちゃったみたい。」



あっけらかんとした調子で呟くのだった。



[25752] 第三話 「すれ違い」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e
Date: 2011/02/04 00:28






「つまりかごめが放った破魔の矢が四魂の玉を砕いてしまったということか。」


屍舞鳥を倒した後二人は楓の家に戻り事情を説明していた。


「犬夜叉、お主の記憶の中にも同じことがあったのか?」


「あぁ。」


犬夜叉は不機嫌そうに答えた。


「なぜそのことを言わなかったのだ?」


「かごめが矢を放った時に思い出したんだよ。」


どうやら犬夜叉の記憶はその出来事に関するなにかがない限り思い出すことができないようだった。


「そうか、すまなかった。しかし厄介なことになった…。」


そう言い考え込んだ後に楓は


「犬夜叉、かごめ、お主ら二人の力で四魂のカケラを元通り集めてはくれんか?」


そう二人に提案した。





(そんな…。)


かごめは内心困っていた。いきなり戦国時代にタイムスリップし妖怪にも襲われた上さらにその妖怪たちが狙っている四魂のカケラを集めて欲しいと頼まれているのだ。


いくら自分に責任があると言ってもそこまでする必要があるだろうか。


そして何より



(早く家に帰りたい…。)


かごめは何とか現代に帰れないか考えていた。何も言えないままこちらの世界に来てしまったのだから家族も心配しているに違いない。四魂のカケラは犬夜叉と楓に集めてもらおうと思っていた時


「断る。」

そう犬夜叉が答えた。





「なぜだ?」


楓は少し驚いたように犬夜叉に尋ねる。


「忘れたのか楓ばあさん、俺は本物の「犬夜叉」じゃない。別に四魂の玉なんかいらねぇ。なんでわざわざ集めなくちゃいけないんだ。」


確かに犬夜叉の言うとおりだった。楓も犬夜叉が未来の人間であることは分かっていたがこうもあっさり断わられるとは思っておらず驚いていた。


「しかし、さっきは四魂の玉を取り戻そうとしてくれたではないか。」


「それは…。」


犬夜叉は言い淀む。
実はそのことに一番驚いているのは犬夜叉自身だった。四魂の玉が奪われたあの時、取り戻さなければならないという強迫観念のようなものが犬夜叉を襲いそれに突き動かされるように動いてしまったのだ。犬夜叉は自分の身体が他人のものだということを改めて感じ不安を感じていた。


「あの時はとっさに動いただけだ。それに俺はこの身体をうまく使えねぇ。カケラ集めなんて無理だ。」


体がうまく使えないことが犬夜叉が提案を断る最大の理由だった。
犬夜叉は四魂のカケラが災厄を生むことは記憶が戻らなくとも朧気に理解していた。

しかしこれまでの戦闘で自分は記憶の中では弱い妖怪にすら歯が立たなかった。記憶の中で犬夜叉とかごめがカケラ集めができたのは犬夜叉の強さがあったからだ。自分がかごめと旅をしてもあっという間にやられてしまうだろう。


「しかし…」


楓は犬夜叉の事情も理解していた。できることなら自分がカケラ集めを行いたいが年老い、霊力も弱っている自分では難しい。しかし村の巫女として四魂の玉を放っておく訳にはいかない。何か手はないかと考えていた。


犬夜叉はなかなか諦めようとしない楓に苛立ち


「だいたい四魂の玉が砕け散ったのは俺のせいじゃないだろ。」


ついそう言ってしまった。



「私のせいだって言うの?」


いきなり自分にすべての責任があるかのような言い方をされかごめは反論した。


「あんたを助けようとしたんじゃない。それなのに何よ。」


かごめの剣幕にひるむ犬夜叉。


「でも壊したのはお前だろ。」


苦し紛れにそう反論する犬夜叉。


二人の間に緊張が走り


「おすわりっ!」

かごめの一言でその緊張は弾けた。








次の日、犬夜叉は一人村の中を歩いていた。

昨日はかごめが怒り話し合いは中止となった。朝になり起きてみると既にかごめと楓の姿はなかった。どこかに出かけてしまったのだろう。


村では畑仕事をしている者、商売をしている者などで溢れていた。犬夜叉は自分が戦国時代に来てしまったのだと改めて実感していた。そして村人たちが自分を見るなり遠ざかって行くことに気づいた。


「半妖」


その言葉が常人より遥かに耳の良い犬夜叉には聴こえてきた。


半分が人間で半分が妖怪。人間と妖怪そのどちらにもなれない存在。
記憶にある犬夜叉の人生はこの「半妖」という言葉との戦いと言っても過言ではなかった。


(胸糞悪い…。)


少年は元は人間だが今は半妖の身体になっている。自分に向けられる悪意に憤りを感じていた。



(かごめの奴どこに行ったんだ?)


犬夜叉が村の中を歩き回っていたのはかごめを探しているからだ。昨日の言葉はさすがに言いすぎたと反省した犬夜叉は謝罪をしようと思っていた。しかし村の中はあらかた探してみたもののかごめの姿はなかった。


(どうしたもんかな…。)


そう考えていた犬夜叉はあることに気づく。


(匂いで探せばいいんじゃねぇか。)


犬夜叉は犬の妖怪と人間の間の半妖。匂いで人を探すことなど朝飯前だった。
早速かごめの匂いを追う犬夜叉。しかし、


(何か大切なものをなくした気がする…。)


地面に這いつくばりながら犬夜叉はそう思った。








かごめの匂いは村のはずれに向かっていた。


(こんなところでなにしてんだ?)


犬夜叉は疑問に思いながらも匂いの後を追っていく。


段々と匂いが近づいてきた。川の近くいるようだ。


(このあたりか。)


犬夜叉が森から川に出たところで

「え?」
「ん?」


全裸で水浴びをしているかごめと目が合った。





次のの瞬間犬夜叉は地面にめり込んだ。





「おや、犬夜叉来ていたのか。」


かごめの側にいた楓が声をかける。


「いやらしいわねっ、のぞきなんてして!」


「誰がお前の裸なんて見るかっ!」


「なんですって!」


痴話喧嘩を始める二人。


「そのぐらいにしてかごめ、まず服を着てこんか。」


かごめは楓に言葉で自分が裸のままだったことを思い出し急いで着替えに行った。




「犬夜叉、お前ももっと大人にならんか。」


「俺はまだ十四歳だ。」


ふてくされて答える犬夜叉。


「大方昨日のことを謝りに来たんだろう?いい加減素直になったらどうだ。」


あっさり楓に見透かされますます不機嫌になる犬夜叉だった。




「あんたあたしになにか恨みでもあるの?」


暫くすると着替え終わったかごめが戻ってきた。


「そんなもんあるわけ…」


言いながら振り返った犬夜叉は巫女姿のかごめに目を奪われた。











「犬夜叉、私がどう見える?人間に見えるか?」


■■が犬夜叉に話しかける。


「あー?なに言ってんだてめえ。」


「私は誰にも弱みを見せない。迷ってはいけない。妖怪につけこまれるからだ。」


「人間であって、人間であってはならないのだ…。犬夜叉、おまえと私は似ている。半妖のお前と…だから…殺せなかった…。」


「けっ、なんだそりゃーグチか?おめーらしくな…。」


「やっぱり…私らしくないか…。」


■■は儚げに笑った。





「犬夜叉お前は人間になれる。四魂の玉を使えば…。」


「明日の明け方、この場所で…私は四魂の玉を持ってくる。」


そう■■は言った。


俺は■■となら人間になっても一緒に生きていけると思った。





約束の日。


自分に向けて■■は矢を放ってきた。


「犬夜叉!!」


■■の封印の矢が胸に突き刺さる。



(なんでだ…■■…!!俺は本当にお前のことが…。)














「…叉…夜叉…犬夜叉ってば! !」


「え?」


かごめに何度も呼ばれ正気に戻る犬夜叉。


「どうしたのよ。何度も声をかけたのに全然反応しないし…。」


かごめは少し心配そうに犬夜叉を見つめる。

その姿に戸惑う犬夜叉。



「かごめの姿が桔梗ねえさまにそっくりだから驚いておるのだろう。」


犬夜叉の状態を察した楓が代わりに応えた。


「私ってそんなに桔梗に似てるの?」


「そんなこと知るかっ!」


視線をそらす犬夜叉。


そう言いながら犬夜叉はかごめから視線をそらした。これ以上巫女姿のかごめを見ていると自分が自分でなくなってしまうような不安に駆られたからだ。


「なんでそんな服を着てるんだ?」


何とか桔梗の話題から離れようと犬夜叉はかごめに尋ねた。


「だって制服は破れちゃったし、これしか代わりに着るものがなかったのよ。」


不貞腐れながらかごめは答えた。


「だったら家から着替えを持ってくればいいだろうが。」


「どうやって帰れって言うのよ!」


好き勝手を言う犬夜叉にかごめも強く言い返す。


「そんなもん井戸を通って帰るに決まってんだろうがっ!」




その言葉にかごめが固まる。


「井戸を通れば帰れるの?」


次の瞬間、かごめが犬夜叉に詰め寄ってきた。


犬夜叉からすれば当たり前のことなのでかごめも知っているものだとばかり思っていたのだ。そして犬夜叉もあることに気づく。


(俺も現代に帰れる!)


そう、犬夜叉はかごめと同様に骨食いの井戸を通ることができる。


「そうだ! 帰れるぞ、かごめ!」


急に上機嫌になった犬夜叉に驚くかごめ。それにおかまいなしに犬夜叉は続ける。


「すぐに行くから早く背中に乗れ!」


そう言いながら屈む犬夜叉に一瞬戸惑うもののおぶさるかごめ。



「しっかり捕まってろよ!」


犬夜叉はかごめを背負ったまま走り出した。


「全く騒がしいやつだ。」


一人残された楓は呟いた。





二人はすぐに骨食いの井戸にたどり着いた。


「本当に大丈夫なの?」


底が見えない井戸に不安が隠せないかごめ。


「大丈夫だ、俺を信じろ。」


自信満々に答える犬夜叉にかごめは渋々納得した。


「行くぞっ!」


二人は同時に井戸に飛び込んだ。










「…ここは?」


うす暗い井戸の底でかごめは目覚めた。


「あたし確か犬夜叉と一緒に井戸に飛び込んで…。」


かごめがなんとか状況を理解しようとした時


「井戸の中なら何度も見たじゃろう。」


「だって姉ちゃんは本当にこの中に…。」


二人の聞き覚えのある声が聞こえた。


「じいちゃんっ! 草田!」


かごめは力一杯叫んだ。



助け出されたかごめは家族に事情を説明していた。


「なんとそんなことが…。」


「じいちゃん僕が言ったとおりだっただろう。」


かごめの祖父と草田が言い合っている中


「それは本当なの?かごめ。」


かごめの母親が訪ねる。


「本当よ。犬夜叉と一緒に井戸を通って帰ってきたんだから。」


かごめは説明をしながら


「あれ…?」


犬夜叉がいないことに気づいた。









「くそっ!」


ドガッ


拳を地面に叩きつける犬夜叉。


何度試しても犬夜叉は井戸をくぐることができなかった。


しかし一緒に飛び込んだかごめはいなくなっていたことからこの井戸が現代につながっていることは間違いない。


(俺が本物の犬夜叉じゃないからなのか…。)


考えられる理由はそれしかなかった。




「ちくしょおおおおお!!!」





この世界から逃れられる唯一の方法がなくなり犬夜叉は絶望した。










(やっぱり夢だったのかなぁ。)


家に戻りお風呂に入り食事を済ませたかごめは自分のベットに横になりながら考えていた。


戦国時代へのタイムスリップ。妖怪。四魂の玉。お伽噺話のような体験だった。


しかし夢ではない確かな証拠がある。


かごめの手のひらには四魂のカケラがあった。


(やっぱり夢なんかじゃない。あたしは確かに戦国時代に行ったんだわ。)


かごめは自分が体験したことが事実だったことを確信した。


そして同時に一つのことが気にかかった。


(犬夜叉どうしたんだろう…。)


一緒に飛び込んだはずの犬夜叉はいつまでたっても現れなかった。


(どこか違うところに行っちゃったのかな、それとも通れなかったのかな…。)


考え出すとキリがなかった。


(もう一度あっちに行ってみようかな…。でももう戻れなくなっちゃうかも…。)


向こうへ行けばもう二度と帰って来れないかもしれないという恐怖がかごめを襲う。





(でも…やっぱり放っておけない!)


喧嘩ばかりしていたが自分を助けてくれた犬夜叉をかごめは放っておくことができなかった。


そうと決まればかごめの行動は早かった。

あっという間にリュックに必要なものを詰め家族の制止も振り切り井戸の前までやってきた。


(大丈夫よ…さっきは通れたんだから…。)


「えいっ!」


かごめは再び井戸へ飛び込んだ。










「あ…。」


目を開けると井戸の外には青い空が見えた。


(戻ってきた…?)


かごめは壁に絡みついている木の枝に掴まりながら井戸を登っていった。


「よいしょっと。」



何とか井戸を登りきったかごめは周りを見渡してみた。


そこに地面に座り込んでいる犬夜叉の姿があった。


「犬夜叉…?」



後ろ姿を見ただけで犬夜叉の様子がおかしいことにかごめは気づいた。


「どうしたの、犬夜叉?」





「井戸を通れなかったんだ…。」


呟くように犬夜叉が答える。


「そうだったの…。」


他にどう言えばいいのか分らないかごめ。



しばらくの沈黙の後かごめが尋ねる。



「これからどうするの、犬夜叉?」




「…ぇだろ…。」


「え?」


「お前には関係ねぇだろ! !」


犬夜叉はかごめを怒鳴り散らした。


「お前はいいよな、元の世界に帰れるんだから!」


感情を抑えきれない犬夜叉はさらに続ける。


「俺はこれからもこの世界で生きていくしかない!こんなわけもわからない身体でだ!同情なんていらねぇ!二度とその顔見せるな!」



いきなり罵声を浴びせられたかごめも怒って反論する。


「何よ! 人が心配して見にきたのに何でそんなこと言われなきゃならないのよ!」


「うるせぇ! とっとと帰れ!」



戻れなくなる危険がある中戻ってきたのに心ない言葉を浴びせられかごめも我慢の限界だった。


「言われなくても二度とこないわよ!」


振り返り井戸に向かうかごめ。


「さよなら。」



そう言い残しかごめは元の世界に帰っていった。



[25752] 第四話 「涙」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e
Date: 2011/02/04 00:34









「四魂の玉はどこだ!? 隠しだてすると容赦しねぇぞ!」


盗賊の一団が村人を恫喝する。盗賊たちは最近四魂の玉が再びこの村で現れたという噂を聞きつけやってきたのだ。


「答えねぇんなら皆殺しにするしかねぇな。」


そう言いながら村人に刀を向けようとした瞬間、盗賊の一人が何者かに殴り飛ばされた。



「何だっ!?」


いきなり仲間がやられたことで慌てる盗賊たち。



「てめぇら、さっさとこの村から出てきな。」


銀髪の赤い衣を着た少年が警告する。



「ガキが! 調子に乗ってんじゃねぇ!」


盗賊の一人が少年に向け刀を振り下ろす。しかし


ガキンッ


逆に衣に触れた刀のほうが折れてしまった。


「なっ!?」


あっけにとられる盗賊たち。その隙をついて少年が次々に盗賊たちを倒していく。


「こ、こいつ人間じゃねぇ! 半妖だ!」


盗賊たちは相手が人間ではなく半妖であることに気づく。


「こんな化物相手にしてられるか!」


盗賊たちは自分たちに勝ち目がないとみるや退散していった。





「あ、ありがとう。」


村の子供の一人が少年にお礼を言った。


しかし少年は子供に一瞥をくれただけでさっさとその場から去っていった。







「何よあの態度は。せっかくお礼を言っているのに。」


「やっぱり半妖は人間とは違うんだよ。」


様々な陰口が囁かれていた。



そしてその全てが少年には聞こえていた。






かごめが現代に帰ってから一週間が経とうとしていた。


特に行くあてもなかった犬夜叉は楓の村で用心棒まがいのことをしていた。


「四魂の玉が復活した」


そんな噂が広まるのにそう時間はかからなかった。そのため楓の村には玉を狙う妖怪や人間が襲ってくるようになった。


しかし四魂の玉は砕け散っており、この村にあった唯一のカケラもかごめが持っていってしまっている。


それに気づかないような弱い妖怪や人間たちばかりであったため戦闘経験が少ない犬夜叉でも何とか追い払うことが出来ていた。



犬夜叉はかごめがいなくなってからは森で過ごすことが多くなっていた。


村にいると村人たちが自分のことを悪く言ってくるのが嫌でも耳に入ってくる。森で過ごしている方が遥かにマシだった。




「こんなところにおったのか。探したぞ。」


「楓ばあさんか。」


木の上で寝そべっていた犬夜叉に楓が話しかける。


「また盗賊を追い払ってくれたそうだな。」


「別に。それが仕事だからな。」


そっけなく返す犬夜叉。しかし楓は犬夜叉にとって自分を半妖ということで差別しない数少ない人間だった。


「お主ちゃんと食事を摂っておるのか?家には食事が用意してあるぞ。」


「森の中で適当に食ってるから大丈夫だ。俺は半妖だからな。丈夫にできてるんだよ。」


犬夜叉は自嘲気味に言う。




「…そうか。何かあったらいつでも戻って来い。」


そう言い残し楓は歩きだす。





(まともに食事を摂っておらんな。それにあの顔…まさか寝ておらんのか?)


楓は犬夜叉の異常に気づきながらも何もできない自分が情けなかった。


「かごめなら何とかできただろうか…。」


今はいない少女のことを考える楓だった。












「め…。かごめったら!」


「えっ?何?」


考え事をしていたかごめは驚いて返事をした。


「もう、かごめ最近考え事が多いよ。」


同級生のあゆみがかごめに怒る。


「ご、ごめん。」




戦国時代から戻ってきて一週間。かごめは以前と変わらず学校へ通っていた。


「風邪で休んでからぼーっとすることが多くなったよね。」


「確かに。」


由加と絵理も続いた。


「そ、そうかな。」


「もしかして彼氏のことでも考えてたの?」


「誰があいつのことなんかっ!」


かごめは立ち上がり大声で反論した。その瞬間、クラス中の視線がかごめに集まった。かごめは慌てて席に座った。


「へぇ、かごめ彼氏ができたんだ。」


あゆみが興味津々で尋ねてくる。


「違うわよっ!年下だし…弟みたいなものよ。」


かごめはなんとか否定しようとするが友人たちは全く聞く耳を持っていなかった。


「年下かぁ。ということは二年生?」

「やるじゃん、かごめ。」


どんどん話が膨らんでいく。もはやどうしようもないと悟ったかごめは口を挟むことをあきらめた。


「でもかごめ、年下なら優しくしてあげなきゃダメだよ。男の子は子供なんだから。」


「え?そうなの?」


かごめが聞き返す。


「男の子なんてみんなそうよ。変なプライドがあったりするんだから。」

「彼氏いないのになにえらそうなこと言ってるのよ。」

「そうそう。」

「う、うるさいわねっ。」


友人たちはどんどん盛り上がっていく中かごめは一人考えこんでいた。





(犬夜叉も私と同じ現代人で年下だったんだよね。あっちにいる間は忙しくて実感が湧かなかったけど…。)





「日暮、もう身体はいいの?」

今度は同級生の男の子から声をかけられた。



「B組の北条くんだ。」

友人たちが騒ぐ。


「風邪には気をつけろよ。」


そう言い残し北条は颯爽と去っていった。





「かごめ、浮気はダメだよ。」

「だから違うって!」

絵理の言葉に慌てて反論する。


「でもかごめってモテるよね。」

「確かに。」

「去年も告白されてたもんね。」


「そ…そうだっけ?」

「覚えてすらいないとは…。」

「告白した男子たちかわいそー。」










学校が終わり帰宅しながらかごめは犬夜叉のことを考えていた。



(犬夜叉もあたしと同じでいきなり戦国時代に飛ばされてたんだ。しかも他人の身体に…。あたし犬夜叉の気持ちも考えずにひどいこと言っちゃった…。)



考えるほど罪悪感が増してくる。





パンッ


かごめは自分の顔を叩いた。




(うじうじ考えるのはあたしの性に合わない。今夜謝りに行こう。もし許してもらえなくても四魂のカケラだけでも渡してこよう。)



かごめは急いで家に向かった。











家についたかごめは御神木に目がいった。


(そういえば犬夜叉が神社の御神木の前で意識がなくなったって言ってたっけ。やっぱりあたしの家の神社だったのかな…?でも人が倒れてたら誰かが気付くよね…そうだ!ママなら何か知ってるかも。)




そう思いかごめは井戸に行く前に母親のところに向かった。



「ママ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」


「何?かごめ。」


かごめの母親は台所で夕食の準備をしていた


「一週間くらい前に御神木の前で倒れてる人って見たことある?」


「御神木の前で?…うーん、そんな男の子は見たことないわね。」


「そう…」。


「その男の子がどうかしたの?」


かごめの母親が不思議そうに聞いてくる。



「ううん。何でもない。」


そう言いながらかごめは井戸に向かった。




(やっぱり犬夜叉が元いた世界とあたしがいる世界は違うのかな?)


そう考えながらも答えは出ないかごめだった。









(すっかり暗くなっちゃった…。)


井戸から出たかごめは持ってきた懐中電灯を頼りに村に向かって歩き始めた。






村に着いたかごめは楓の家を訪れていた。



「かごめではないか。元の世界に帰ったのではなかったのか?」


「うん…ちょっと犬夜叉と話をしようと思って…。」


罰が悪そうにかごめが答える。



「そういえば犬夜叉は?家にはいないの?」


かごめの言葉に難しい顔をする楓。




「…犬夜叉はここにはおらん。恐らく森のどこかだろう。」


「え、どうして?」


犬夜叉は現代人だ。森なんかより家の中で暮らすほうがいいはずなのになぜ森にいるんだろうか。


「この村の中には犬夜叉が半妖ということで差別するものもおる。それが嫌で村から離れ森で暮らして居るようじゃ。」





「そんな…。」


かごめは犬夜叉が半妖だということは知っていたがそれがそこまで差別の対象になるとは思っていなかった。



「それに犬夜叉はどうやらまともに食事もしておらんようだ。昨日会ってきたが酷い顔をしていた。もしかすると寝ておらんのかもしれ」

「あたし探してくる!」


かごめは楓の話を最後まで聞かずに家を飛び出して行った。


「全く人の話は最後まで聞くもんじゃぞ。」


楓はため息を突きながら




「頼んだぞ、かごめ。」


そう呟いた。






「ハァ…ハァ…!」
かごめの荒い呼吸が森に響く。


しばらく森の中を探してみたが犬夜叉の姿は見つからなかった。


広い森の中しかも夜の暗闇の中では見つけることは至難の技だった。



(せめて犬夜叉がいそうなところが分かれば…。)


そうかごめが考えたとき、


(あ…!)


かごめは一つの場所を思い浮かべた。




そこに犬夜叉はいる。確信に近い想いがかごめにはあった。








(いた…!)


犬夜叉は御神木の木の上で腰掛けていた。


ここは犬夜叉が封印されていた場所。


そしてかごめと犬夜叉が初めてであった場所でもあった。







「かごめか…。」


匂いで気づいたのか犬夜叉の方から話しかけてきた。



犬夜叉が御神木から降りてくる。


そしてお互いの顔が見える位置になったときかごめは驚いた。





犬夜叉の顔は酷くやつれていた。

もう何日も食事を摂っていないのだろう。

そして目の下には大きなクマができていた。

ほとんど睡眠をとっていないことは明白だった。








「犬夜叉…。」


かごめはなんと言っていいのかわからず固まってしまう。



「なんの用だ。俺を笑いにでもきたのか。」


冷淡な言葉をかける犬夜叉。




「ち、違っ…。」

「用がないんなら俺は行くぜ。」



そう言いながら立ち去ろうとする犬夜叉。しかし犬夜叉は動けなかった。





かごめが犬夜叉の手を掴んでいたからだ。





「離せ。」

「嫌。」


犬夜叉が手を振りほどこうとするがかごめはさらに強い力で手を掴んでくる。







「離せっ!」

「離さない!」


犬夜叉の怒鳴り声にも屈せずかごめは決して手を離そうとはしなかった。











「…あたし、犬夜叉に謝りにきたの。」


かごめはうつむきになりながら続ける。








「あたしこの世界に来てから怖い思いばっかりしてきた。妖怪に襲われて、死にかけて本当に元の世界に帰りたいってそればっかり考えてた。」




犬夜叉は身じろぎひとつしなかった。








「井戸を通って元の世界に戻れて本当に嬉しかった。じいちゃんがいてママがいて草田がいる。そんな当たり前のことが本当に嬉しかった。」


犬夜叉を掴むかごめの手は震えていた。








「でも後になって気づいたの。怖かったのはあたしだけじゃなかった。」




かごめの声は震えていた。









「犬夜叉も怖かったんだよね…。いきなり知らない人の身体になっちゃったんだもん…。きっとわたしより何倍も怖かったんだよね…。」



かごめが顔を上げる。









「それなのに…ひどいこと言っちゃって…。」






犬夜叉がかごめへ振り向く。






「ごめんなさい。」







かごめの目には涙が溢れていた。





















「怖かったんだ…。」


犬夜叉が呟く。










「妖怪や人間が俺を殺そうとしてくるのが怖かったんだ…。」


犬夜叉はさらに続ける。








「村の人たちが怖かったんだ…。半妖って…化物って呼ばれるのが怖かったんだ…。」


犬夜叉の手は震えていた。










「犬夜叉の記憶が怖かったんだ! 自分が自分じゃなくなるみたいで! 明日には自分が消えてしまうんじゃないかって! そう考えると夜も眠れなかった! ! 俺はっ! 俺はっっ! ! 」


犬夜叉の今まで溜めていた不安が爆発する。














それを聞きながらかごめは犬夜叉を優しく抱きしめる。









「ごめんね…犬夜叉…。」

















「うっ…うぅ……うわあぁぁぁぁ! !」






犬夜叉はかごめの胸に抱かれながら子供のように泣き叫んだ。










これがこの世界で二人が流した初めての涙だった。






[25752] 第五話 「二人の日常」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e
Date: 2011/02/04 00:41








「ん…。」


朝日の光によってかごめは目を覚ました。





(あれ…ここどこ?)





かごめは寝ぼけながらキョロキョロと周りを見渡す。
あたりに広がる森を見てかごめは自分が戦国時代に来ていたことを思い出した。






(そうだ…あたし犬夜叉に謝ろうと思って…。)




そこまで思い出しながらかごめが下を向くとそこには















自分の膝で眠っている犬夜叉の姿があった。









「~~~っ!?!?」


かごめは声にならない声を上げた。











なんとか落ち着きを取り戻したかごめは自分の昨夜の行動を思い出す。


(何やってるのよあたし! いくら年下だからってお…男の子を抱きしめるなんて…。)



顔を真っ赤にしながらあまりの恥ずかしさに悶えるかごめ。








(あれは…そう! 気の迷いよ! きっとそう!)


そう自分に言い聞かせるしかなかった。













かごめは自分の膝で眠っている犬夜叉の顔を眺めながら考えていた。




(寝顔だけ見てれば本当に子供ね…。)




本当に寝ていなかったのだろう、昨夜犬夜叉はかごめの胸でひとしきり泣いた後すぐに疲れ果てて眠ってしまい起こすわけにも行かず膝枕をしている内にかごめも眠ってしまった。







(男の子が泣くところ初めて見た…。)



男は泣いてはいけないとまでは思っていないかごめだか何だかいけないことをしまったような気分になるかごめだった。





そしてそろそろこの状況をどうにかしようと考えた時






犬夜叉とかごめの目が合った。





バッ


二人が同時に起き上がり距離を取った。


犬夜叉は最初慌てていたが昨夜の自分の行動を思い出したのか顔を真っ赤になっていった。


二人の間に長い沈黙が流れていく。








この沈黙をなんとかしようとかごめが犬夜叉に話しかけようとした時








グゥ~~


一際大きな犬夜叉の腹の音が鳴った。














「ただいま。」


犬夜叉とかごめは楓の家に戻ってきた。


「おぉ、帰ってきたか二人とも。」


楓が二人を出迎えてくれた。


「ごめんね、楓ばあちゃん心配かけちゃって。」


かごめが罰が悪そうに言う。


「何構わんよ。朝帰りとはいつの間にかずいぶん打ち解けたようだな。」


楓が冗談交じりで答えた。

「「なっ…!!」」

二人が顔を真っ赤にする。


「何だ、冗談のつもりだったのだか本当にそんな仲だったのか?」


「誰がこいつとそんなことするかっ!」


犬夜叉が慌てて楓の言葉を否定する。


しかしかごめはその言葉が気に入らなかったのか怒った顔で犬夜叉を睨みつける。



(まずいっ!)


犬夜叉は念珠の言霊がくると思い身構える。





しかし何時までたっても言霊は聞こえてこなかった。


「今日は疲れてるみたいだから勘弁してあげる。」


そう言いながらかごめは家に入っていった。






犬夜叉はあっけにとられたように立ちすくんでいた。


「お腹空いてるんでしょ。早くご飯にしましょ。」


「あ、あぁ。」


かごめに呼ばれ犬夜叉も慌てて家に入っていく。






その様子を楓は満足そうに見つめていた。









「楓ばあちゃん、あたし四魂のカケラ集め手伝ってみようかなって思うの。」


食事が終わりくつろいでいた犬夜叉と楓に向かってかごめが話しかけた。



「よいのかかごめ?危険な旅になるかもしれんぞ。」


現代に帰れるようになったかごめが無理にこちらに関わることはないと思っていた楓は驚いたように尋ねる。


「うん、確かに怖いけど元はといえばあたしが原因だし…」


再び戦国時代に四魂の玉を持ち込み砕いてしまった責任は確かにかごめにもあった。


(それに…。)





かごめは犬夜叉を見つめる。




(もしあたしがこっちに来なくなったらまた犬夜叉がつらい目に合うかもしれない。)


昨夜の犬夜叉の姿を思い出す。



(もうあんな犬夜叉は見たくない。)


それがかごめが戦国時代に来ようとする一番の理由だった。


しかし正直にそのことを言うのが恥ずかしかったため四魂のカケラ集めをすることを了承したのだった。





「…犬夜叉も手伝ってくれる?」

かごめが恐る恐る犬夜叉に尋ねる。


四魂のカケラ集めの旅は犬夜叉の協力がどうしても必要だった。


犬夜叉はしばらく考え込んだ後






「…俺がこの身体に慣れてからならいいぜ。」


そう答えたのだった。












「本当にいいの?」


ハサミを持ったかごめが犬夜叉に尋ねる。



「あぁ、やってくれ。」


犬夜叉はそれに力強く頷く。






四魂の玉のカケラを集めることに決めた次の日、


犬夜叉はかごめに自分の髪を切ってくれるよう頼んだ。



自分は犬夜叉ではないこと、これからこの世界で生きていくという少年なりの決意の表れだった。



そのことを感じ取ったかごめはそれ以上何も言わず髪を切っていく。






長かった銀髪は切り落とされ少年は短髪になった。







それが少年が本当の意味で「犬夜叉」になった瞬間だった。












それからかごめの二つの世界を行き来する生活が始まった。


平日は学校に通い放課後になると戦国時代に行き、夕食を犬夜叉と楓と一緒に食べ、夜には現代に戻る。


休日には朝から戦国時代に行き村で過ごす。

犬夜叉と一緒に村の仕事の手伝いをしたり、楓から巫女の力や弓の使い方を学んでいた。



犬夜叉もかごめが会いに来てくれることが心の支えとなったのか以前ほど荒れた生活を送る事はなくなった。


身体に慣れるという名目で村の仕事を手伝っていくうちに村人との関係も段々と良くなっていった。


桔梗の生まれ変わりとして知られるようになったかごめが犬夜叉と一緒に過ごしていること、村にやってくる妖怪や盗賊を追い払っていることも大きく影響していた。




特に村の子供達からは村を守ってくれるヒーロー、よく遊んでくれるお兄さんということでよく懐かれていた。






「犬夜叉兄ちゃん遊びに来たよ。」


村の子供たちが楓の家を訪れて来た。


「何だまたお前たちか。」


横になっていた犬夜叉が起き上りながら答える。



「またアレやってよ!背中に乗って森の木を飛び移るやつ!」

「ずるいぞ、今度は俺だろ!」

「わたしよ!」



「分かったからさっさと森に行くぞ。」


騒ぎ出す子供たちを面倒臭そうにしながら連れて歩いていく犬夜叉だった。


犬夜叉も段々と身体の扱いにも慣れてきており村を襲ってくる妖怪にも危なげなく戦えるようになってきていた。

















「ただいま!」


学校を終えたかごめが急いだ様子で家に戻ってきた。


「おかえり、かごめ。」


かごめの母がそんなかごめの様子に微笑みながら答えた。



かごめは自分の部屋に入り着替えを済ませるとすぐに玄関に戻り。


「行ってきます!」


嵐のような慌ただしさで家を後にした。





「なんだかごめの奴、帰ったと思ったらもう出かけてしまったのか。」


かごめの祖父が呟く。


「最近の姉ちゃん何だか楽しそうだよね。」


草太がおやつを食べながらそれに応える。


「好きな子でもできたのかしら。」


笑いながらかごめの母は娘の後ろ姿を見つめていた。












いつものようにかごめが村に向かって森を歩いていると

ぷちっ


何かを踏んづけたような感触を感じた。

「え、何?」

慌てて足の裏を確認すると

一匹の大きなノミがつぶれていた。


ただのノミではなさそうだったのでとりあえずかごめは楓の家まで連れて行った。







「冥加じじぃじゃねぇか。」


冥加を見て記憶を思い出した犬夜叉は話しかける。


「お懐かしゅうごさいます、犬夜叉様。」


犬夜叉の血を吸いながら挨拶をする冥加。



「髪を切られたのですか。ますます凛々しくなられて…」






ばちっ


「俺にとっては初めましてだけどな。」

言いながら犬夜叉は冥加を叩き潰す。


「い…一体それはどういう…?」

平らになった冥加が息も切れ切れに尋ねる。









「なるほど、そういうことでしたか…。」


事情を聞いた冥加は思案するように呟く。


「何か原因になるようなことは分らない?」


原因が分かれば犬夜叉も現代に戻れるかもしれないと思いかごめが冥加に尋ねる。





「残念ながらわしもそのような話は聞いたことがありませんな…。」


「そう…。」


もしかするとと思っていたかごめはため息をつく。






「冥加じじぃ…。」


犬夜叉が真剣な声で冥加に話しかける。




「俺は本物の犬夜叉じゃねぇ…こんなことを頼める義理じゃないんだが…。」







「俺に力を貸してくれないか…。」


犬夜叉は冥加に頭を下げた。







しばらくの沈黙の後





「二つ条件があります。」


冥加が答える。




「一つはあなたのことを犬夜叉様と呼ばせて頂きたい。」


それを聞き犬夜叉の表情が明るくなる。


その言葉は犬夜叉を認め協力してくれるということと同義だったからだ。



「そしてもう一つは…」


険しい表情になる冥加に犬夜叉達は息を飲む。











「毎日犬夜叉様の血を吸わせていただきたい。」



ばちっ


「断る。」

再び潰される冥加だった。






なにはともあれ犬夜叉の理解者がまた一人増えたのだった。













何もかもが順調に進んでいく。











二人は旅を始めるのはそう遠くないと











そう信じて疑わなかった。



[25752] 第六話 「異変」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e
Date: 2011/02/05 11:54







「ただいま。」


薪を担いだ犬夜叉が楓の家に戻ってきた。



「おぉ、すまんな犬夜叉。」


家で楓が礼を言いながら出迎える。


「別にいいさ。大した仕事じゃねぇし。」


犬夜叉はそう言いながら家に薪を運んで行く。





初め犬夜叉は爪を使った戦い方を訓練するために森の木を斬っていたのだが


「それ売ればお金になるんじゃない?」


というかごめの一言から犬夜叉は森で手に入れた木を村で売るようになった。


犬夜叉にとって木を切り運ぶことはたいした労力ではないので相場よりかなり安く売ることにした。


安く木材が手に入ることは村人たちにとっても助かるため犬夜叉はそこそこ稼げるようになっていた。








仕事を終えた犬夜叉は横になり休んでいた。


しかし落ち着かないのか寝返りを繰り返しては外の様子をしきりに気にしていた。


そのことに気づいた楓は


「かごめなら昼過ぎに来ると言っておったぞ。」


そう犬夜叉に伝えた。


「何でそんな話になる!」


犬夜叉は起き上がり楓に食ってかかる。


「かごめを待っておったのではないのか?」


「そんなわけねぇだろ!」


焦って反論する犬夜叉。



「嘘はいけませんぞ犬夜叉様。」


いつの間にか犬夜叉の肩に乗っていた冥加が口を開く。


「森にいたとき何度も井戸の様子を見に…。」


ばちっ


言い終わる前に冥加は犬夜叉に叩き潰された。










「そういえばお主らがこの世界に来てからもう一月か…。」


楓が感慨深げに呟く。


最初は様々ないざこざもあったが今は二人ともすっかり村に馴染んでいた。


「そろそろ四魂のカケラ集めの旅に出てもよい頃ではないか?」


そう犬夜叉に問いかける。


犬夜叉は身体の力の加減もできるようになり、かごめも弓をそれなりに扱えるようになっていた。



「…そうだな、今日来たら話してみるか。」


そう答える犬夜叉だった。










「楓様、様子がおかしい村の者がいるのですが…。」


村人のひとりが楓を訪ねてきた。


「分かった、すぐに行く。留守を頼むぞ犬夜叉。」


そう言いながら楓は家を出て行った。


(何だかんだで楓ばあさんも忙しいよな。)


犬夜叉はそんなことを考えた後



(四魂のカケラ集めか…。)


かごめとの四魂のカケラ集めについて考えていた。








しばらく家でくつろいでいた犬夜叉は飛び起きた。


(血の匂いだ…!)


それは楓が向かった方向から匂ってきていた。


「どうされました犬夜叉様!?」


驚く冥加の言葉を無視して犬夜叉は匂いのする方向に走り出した。









「楓ばあさん! !」


駆けつけた犬夜叉は腕から血を流している楓を見つけ近づこうとする。


「気をつけろ犬夜叉!」


楓がそう言った瞬間、刃物を持った村の娘たちが犬夜叉を襲ってきた。


「くっ!」


村娘たちを傷つけるわけにはいかず何とか攻撃を躱しながら距離を取る犬夜叉。


村娘たちはまるで見えない糸に操られているようだった。


「皆見えない髪の毛によって何者かに操られておる!」


楓は傷を抑えながらそう犬夜叉に告げた。



その瞬間、犬夜叉は記憶を思い出した。









逆髪の結羅(さかがみのゆら)



女性の姿をしており見えない糸を操る鬼。本体は魂の宿った櫛(くし)でそれを壊さない限り死ぬことはない。

記憶の中では髪の毛を見ることができるかごめと犬夜叉が協力してやっとのことで倒すことができた強敵だった。









(何とか本体の櫛を壊さねぇと…。)


そう犬夜叉が考えているうちにも次々操られた娘たちが襲いかかってくる。


娘たちは楓にも容赦なく襲いかかってくる。


何とか楓を庇いながら戦う犬夜叉だったがついに娘たちを操っている糸によって犬夜叉は木にくくりつけられてしまった。






「捕まえた。」


森の中から糸を操っていた結羅が呟く。


常人なら輪切りにされてしまうほどの力で締め付けられる犬夜叉。


「くっ…そっ…!」


しかし半妖の身体と火鼠衣によって何とかそうならずに済んでいた。




「はあぁぁぁっ!」


犬夜叉は一気に体に力を入れ木を砕きながら何とか強引に脱出した。





「頑丈な奴、面白い。」


結羅は自分の特製の髪でも切り裂けない犬夜叉に興味を示す。




「遊んであげる。」


そう言いながら標的を犬夜叉のみに変更した。










突然糸が切れたように娘たちが倒れていく。


(何だ…?)


犬夜叉が突然の出来ごとに身を構える。しかし


グイッ


いつの間にか腕に巻き付いていた糸によって引っ張られてしまう。


「何っ!?」


結羅は見えない髪のみでの戦法に切り替えてきたのだ。


凄まじい力で森に向かって引きずり込まれそうになる犬夜叉。




「犬夜叉様、ここはひとまずお逃げくだされ!」

流石と言うべきなのかいつの間にか自分が安全なギリギリの場所に退避している冥加が叫ぶ。


犬夜叉もそうしたいのは山々だが腕に絡みついた髪の毛は振り払えそうにない。


「冥加、もうすぐかごめがこっちにやってくる! 事情を説明して助けてくれるように頼んできてくれ!」


かごめを危ない目には会わせたくない犬夜叉だが結羅の本体を見つける為にはどうしてもかごめの助けが必要だった。


「わ…分かりました!」


そう言いながら急いで井戸の方へ向かう冥加。



「そんなに来て欲しいならこっちから行ってやるぜ!」


これ以上逆らっても無駄だと感じた犬夜叉は自ら森の向かって走り出す。



「面白い奴、ますます気に入ったわ。」


それを見た結羅は妖艶な笑みを浮かべた。














「ちょっと遅くなっちゃったかな。」


午前中の授業が終わりすぐに家に帰るつもりが友人たちに捕まり帰るのが遅くなってしまった。


井戸に置いたはしごを登り井戸から出たかごめは森の中に伸びている一本の髪の毛に気づいた。


「なにこれ?」


かごめがそれに触れようとした時


「かごめっ!」


急いでこちらに飛び跳ねてくる冥加が声をかけた。


「冥加じいちゃんどうしたの?」


冥加が急いでかごめに事情を説明する。


「すぐに案内して、冥加じいちゃん!」


かごめは弓矢を持ち冥加を肩に乗せ走り出した。




















森の中に髪の毛でできた巨大な毛糸玉のような物体がある。


それが結羅の巣だった。



「ハァ…ハァ…。」


犬夜叉は息も絶え絶えに立っていた。


体は無数の切り傷で赤く染まっていた。





「大して強くもないのにほんとしぶといわね。」


対する結羅は全くの無傷。


巣の上から優雅に犬夜叉を見下ろしていた。





「さっさと四魂のカケラを渡した方が身のためよ。」


そう言いながら犬夜叉に絡みついた髪の毛に力に入れる。


(ちくしょう…!)




犬夜叉は自分の甘さに後悔していた。


身体にも慣れ、村を襲ってくる妖怪たちを何度も追い返していく内に自分は戦えるようになったと思っていた。


なのにいくら記憶の中で苦戦していたとはいえここまで力の差があるとは思っていなかった。






「もういいわ、とりあえずその珍しい銀髪だけで我慢してあげる。」


そう言いながら結羅は一本の刀を取り出す。


「これはあたしの愛刀、紅霞(べにがすみ)。髪を切らずに肉と骨を断つ鬼の宝刀よ。いくら頑丈なあんたでもこれに斬られればひとたまりもないわ。」


そう言いながら犬夜叉に斬りかかってくる。




(やられるっ!)


そう犬夜叉が思った時






光の矢が結羅の巣を貫いた。









破れた巣の中から人間の骸骨が無数に落ちてくる。


一瞬、犬夜叉を縛っていた髪の毛の力も抜けた。


その内に犬夜叉は髪の毛から抜け出す。







「大丈夫、犬夜叉!?」


矢を放ったかごめが慌てて犬夜叉に近づく。



「遅いぞ、かごめ。」


満身創痍の身体で悪態をつく犬夜叉。



「助けてあげたのに何よその言い草!」


そう言いながらもかごめは心配そうに犬夜叉を支える







「よくも私の巣を壊してくれたわね…。」


そう言いながらかごめに向けて髪の毛を放とうとする結羅。


「かごめっ、違和感がある髑髏を探せ! それが結羅の本体だ!」


そう言いながら犬夜叉は結羅に向かっていった。


(こいつっ! 何故そのことを!)


自分の弱点をいきなり見抜かれ結羅は表情を変える。



「散魂鉄爪!!」


結羅に髪の毛を操る隙を与えないようただひたすら攻め続ける犬夜叉。


しかしそれも長くは続かなかった。



「調子に乗るな!」


無数の髪の毛が犬夜叉を襲う。


犬夜叉は再び髪の毛に捕らわれてしまう。


「死ね!」


結羅は刀で犬夜叉の首を切り落とそうとする。




しかし結羅は唐突に動きを止める。


結羅の視線の先には一つの骸骨に弓を放とうとするかごめの姿があった。














「かごめっ、まだ見つからんのか!?」


冥加が焦りながらかごめに尋ねる。


犬夜叉が結羅を抑えてくれているがそれが長くは持たないことは二人にもわかっていた。


(どこっ…どこなのっ…!?)


早くしなければ犬夜叉が死んでしまうという恐怖がかごめを襲う。


しかしその感情をかごめは必死に抑える。


(落ち着くのよ…。ちゃんと集中しなきゃ…。)


意識を集中させるかごめ。そして




(見つけたっ!)



明らかに他の髑髏とは違う気配を感じる髑髏があった。


(あれを壊せば…!)


かごめは弓を構える。


(お願い当たって!!)


そして渾身の力で弓を放った。













かごめが放った破魔の矢が骸骨に当たろうかという瞬間、









結羅は咄嗟に犬夜叉を捕らえていた髪を放ち盾にした。




そのせいで矢の軌道がずれ外れてしまった。










(失敗した…。)


千載一遇のチャンスを逃してしまうかごめ。


何とかもう一度弓を放とうとした瞬間













目の前には宝刀を持った結羅がすぐそこまで迫っていた。




「あんた邪魔だからさっさと死んで!」


結羅が刀を突き出してくる。







かごめは目を閉じることしかできなかった。







痛みに備えるかごめ。





しかし何時までたっても痛みは襲って来なかった。








恐る恐る目を開けるかごめ。






目の前には

















胸を貫かれている犬夜叉の姿があった。










「犬…夜叉…?」



ただ呆然と犬夜叉の姿を見つめることしかできないかごめ。









刀が引き抜かれる。











倒れ込む犬夜叉。








「い…犬夜叉…嘘でしょ…。」








犬夜叉に触れるかごめ。





















犬夜叉はもう息をしていなかった。









「いやぁああああああ!!」



かごめは犬夜叉に縋りつきながら泣き叫ぶ。







「犬夜叉っ犬夜叉ぁあああ!!」




犬夜叉の体を何度も揺するかごめ。








しかし犬夜叉は起きることはなかった。








グイッ


「きゃっ!」


結羅がかごめの髪を掴んで引っ張り上げる。


かごめは激痛にうめき声を上げる。


「いつまでやってんのよ。そいつもう死んじゃってんだから何したって無駄よ。」


そう言いながらかごめを睨みつける。


「あんたたちのせいで随分髪の量が減っちゃったわ。代わりにあんたの髪の毛貰うわね。」


そう言いながら刀を構える。


「でも首から下は要らないわ。」


そう言いながら刀を振り下ろそうとした瞬間












結羅の右腕は吹き飛んだ。








「え…?」


結羅は肘から先がなくなった自分の右腕を見て呆然とする。


そして死んだはずの犬夜叉が立ち上がっていることに気づく。









犬夜叉の姿は先ほどまでとは大きく異なっていた。







目が赤く、


爪もより鋭く尖り、


頬には紫色の爪痕のような痣









それはまさしく「妖怪」の姿だった。








そして犬夜叉と目が合ったとき









結羅は生まれて初めて「恐怖」を感じた。







「ひぃっ!」




結羅は自分が操れる限界の量の髪で犬夜叉を縛る。



そしてそのまま絞め殺そうとした時










全ての髪が切り裂かれた。








「え…?」

結羅があっけにとられる。





結羅の身体は既にバラバラに引き裂かれていた。











(だ…大丈夫よ…櫛が壊されない限り私は死なない…。)


首だけになった結羅が何とかその場から逃げようとするが






犬夜叉は真っ直ぐ結羅の本体の櫛がある髑髏に飛びかかる。





犬夜叉は本能でそれを破壊した。








逆髪の結羅は完全にこの世から消滅した。


















「犬夜叉…?」


かごめが恐る恐る犬夜叉に話しかける。


先程までの出来事はとてもかごめが知る犬夜叉ができるものではなかった。


少しずつ犬夜叉に近づく。



「いかんっ、逃げろかごめっ!」


冥加がかごめに叫ぶ。


「犬夜叉様は妖怪の血が暴走しておる! かごめのことなど覚えてはおらん! 殺されてしまうぞ!」











それでもかごめは確かめずにはいられなかった。






「私のこと…分かる?」













かごめがそう言った瞬間、









犬夜叉の爪がかごめの左腕を切り裂いた。





「っ!!」


左腕から血が溢れる。







犬夜叉とかごめの目が合う。










かごめは金縛りにあったように動けなくなってしまった。






「かごめっ念珠の言霊を唱えるんじゃ! !」







しかしかごめは恐怖から声を出すことができない。













犬夜叉の爪がかごめに振り下ろされる。














かごめの頬には一筋の涙が流れた。


















犬夜叉の爪は既の所で止まっていた。





「俺は…。」





変化が解けた犬夜叉は何が起こったのか分からず立ちすくむ。





元に戻った犬夜叉を見たかごめは







「よかった…。」




そう言いながら意識を失った。








[25752] 第七話 「約束」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e
Date: 2011/02/07 13:54




「ん…。」





楓の家で横になっていたかごめがゆっくりと目を覚ます。



「目が覚めたか、かごめ。」


それに気づいた楓がかごめに話しかける。




「楓ばあちゃん?私…。」


そう言いながら段々と意識がしっかりとしていくうちに




逆髪の結羅との戦いを思い出した。



「楓ばあちゃん! 犬夜叉は!?」


かごめは慌てて楓に問いかける。




「全く、起きてすぐにそれとは…。」


楓はそんなかごめの様子に飽きれつつも安心したのだった。











「傷の方は大丈夫か、かごめ?」


楓に言われて初めてかごめは自分の左腕に包帯が巻かれていることに気がついた。


(そうか…昨日私…。)


そしてかごめは妖怪に変化した犬夜叉のことを思い出す。



その姿、戦い方はまるで…








そこまで考えたところで


「おぉ、気がついたか、かごめ。」


玄関から冥加が入ってきた。












「犬夜叉は大丈夫なの?」


かごめは犬夜叉のところからやってきた冥加に尋ねる。


犬夜叉は結羅との戦いで満身創痍だったはずだ。


それなのに動いて大丈夫なのだろうか。






「心配はいらん。妖怪化したときに傷はすべて治っておる。」


そう冥加は答えた。







「妖怪化」





それは昨日にも冥加から聞いた言葉だった。


「冥加じいちゃん、教えて。どうして犬夜叉はあんなことになっちゃったの?」


冥加は自分から話して良いものかどうか少し思案するが真剣な様子で問いただすかごめを見て話し始める。






犬夜叉はある大妖怪と人間の女性の間に生まれたこと。





その大妖怪の血は半妖の犬夜叉の身体には強すぎること。





命の危機に晒されると妖怪の血が暴走してしまうこと。






妖怪化した犬夜叉は理性を無くし戦うだけの存在になってしまうこと。











「それじゃあ…。」


犬夜叉は自分を庇って瀕死になったことで妖怪化してしまったことにかごめは気づく。

 
「今、犬夜叉はどこにいるの?」


突然大きな声をあげるかごめに二人は驚く。


「先ほどまでは川の方に…。」


「川の方ね、分かった。」


そう言いながらかごめは急いで家を出て行った。


















「くそっ…。」


犬夜叉は一人、川で自分の手を洗っていた。


(洗っても洗っても匂いが取れねぇ…。)



犬夜叉の手にはかごめの血の匂いが染み付いていた。







昨日妖怪化が解けた後急いでかごめを楓の家に運んだ後


犬夜叉は妖怪化に関する記憶を思い出していた。



記憶の中では犬夜叉は段々と理性をなくしていった。


しかし自分ははじめから全く意識がなかった。


既の所で止まることができたのも単なる偶然だった。







そして妖怪化の記憶に関連して二つのことを思い出していた。









一つは「鉄砕牙。」



犬夜叉の父の牙から打ち出された妖刀。




普段はただの錆びた刀だが妖力を込めれば巨大な牙のような刀に変化する。




犬夜叉の妖怪の血を抑える守刀でもある。



今の犬夜叉にとってすぐにでも手に入れなければならない物だ。



幸いどこに隠されているかも一緒に思い出せた。


冥加に頼めばそこに行くことも難しくないだろう。






しかしもう一つの思い出した記憶が問題だった。











「殺生丸。」



犬夜叉の異母兄で完全な妖怪。


その強さは桁外れで今この世界で敵う者はほとんどいない。


冷酷な性格で妖怪はおろか人間を手にかけることをなんとも思わない。


父の形見である鉄砕牙に執着しており本物の犬夜叉とはそれを巡り何度も戦っていた。


記憶の中では鉄砕牙を手に入れた犬夜叉によって左手を切り落とされていた。







もし自分が鉄砕牙を手に入れても殺生丸に敵うはずもない。



そして殺生丸は人間の女にも容赦はしない。


一緒にいればかごめは間違いなく殺されてしまう。



かといって鉄砕牙がなければまたいつ妖怪化してしまうか分らない。




今度変化すればきっと自分は傍にいるかごめを殺してしまう。









八方塞がりの状況に犬夜叉はどうすればいいか分からなくなっていた。



そして何より












かごめを傷つけてしまった。








そのことが犬夜叉の心を苛んでいた。









かごめと最初会ったときは喧嘩ばかりしていた。








言霊の念珠を使われる度、嫌な奴だと思っていた。







しかし酷いことを言った自分を許し、一緒に泣いてくれた。






現代での生活もあるにも関わらず自分に会いに来てくれる。







四魂のカケラ集めに誘ってくれたときは本当に嬉しかった。







かごめと一緒ならこんな世界でもこんな身体でも生きていくことができる。





そう思い始めていた。







なのに…








(それなのに俺は…かごめを傷つけちまった。)



犬夜叉は妖怪化した自分を見るかごめの姿を思い出す。



それは自分を半妖と畏怖と恐怖で見るもの者たちと同じものだった。





(もしかごめにまで嫌われちまったら…。)




そう考えると怖くて仕方がなかった。







これからどうするかもう一度考えようとした時





「犬夜叉。」




かごめの声が聞こえた。













「犬夜叉。」


かごめは川辺で一人座り込んでいる犬夜叉に話しかける。


普段なら匂いですぐに気づく犬夜叉だがよほど深く考えこんでいたのだろう。


犬夜叉は飛び起きてかごめに対面した。






「犬夜叉、体の方は大丈夫?」


かごめは犬夜叉の体を見ながら尋ねる。見たところ大きな怪我はなさそうだった。


しかし犬夜叉の様子はおかしかった。まるで自分に怯えているようだった。



「犬夜叉?」


かごめがさらに犬夜叉に近づく。



すると犬夜叉はそれに合わせて後ずさりした。




「どうしたの?」



そんなことを何度か繰り返した後









「怖くねぇのか。」


犬夜叉がかごめに問う。



「え…?」




一体何のことを言っているのかかごめには分からなかった。






「お前は俺に殺されかけたんだぞ!  俺が怖くないのか! 」


犬夜叉は苦悶の表情でかごめに叫ぶ。


かごめは犬夜叉が何に思い悩んでいたのか理解する。そして





「あれは妖怪の血が暴走しちゃったから何でしょ?だったら犬夜叉のせいじゃないわ。」


そう答えた。






その答えが意外だったのか犬夜叉は言葉を失う。







「それに私を庇ってくれたのが原因なんだから犬夜叉が悪いわけがないじゃない。」


さらにかごめは続ける。








「ごめんね、犬夜叉痛い思いさせちゃって…。」


申し訳なさそうにするかごめ。


そして











「ありがとう、犬夜叉。助けてくれて。」





微笑みながらそう言った。















犬夜叉の目から涙が溢れる。



「もう泣き虫なんだから。」


かごめは犬夜叉を優しく抱きしめた。
















少年は




かごめを守れる強さが欲しい。





そう心から願った。






















二人は骨食いの井戸の前に来ていた。



犬夜叉はかごめに一ヶ月、現代にいてもらうことを提案した。



最初は嫌がっていたかごめだったが犬夜叉の覚悟を感じ取り渋々了承した。





「本当に妖怪化を抑える方法があるの?」


「あぁ。」



犬夜叉は妖怪化を抑える方法を手に入れるためその間かごめには安全な現代へ戻ってもらおうとしていた。



もちろん鉄砕牙や殺生丸のことは伝えていない。





何かを隠していることには気づいたかごめだったがそれ以上聞くことはできなかった。






そして犬夜叉の手の中には四魂のカケラが握られていた。


記憶の中で四魂のカケラを持たないまま現代に戻ったかごめはこちらから四魂のカケラを井戸に落とさない限り自分で戦国時代に来ることはできなかった。


犬夜叉はかごめが自分を心配してこちらに来てしまう事を恐れ自分が井戸に四魂のカケラを落とさない限りかごめがこちらに来れないようにする必要があった。








「一ヶ月ね…。約束よ」


かごめが犬夜叉を見つめる。



その表情から犬夜叉を心配していることが伝わってくる。





「あぁ。」



そんなかごめを見て苦笑いしながら犬夜叉が答える。






「絶対よ。約束破ったら許さないんだから。」


強い口調でかごめが念を押す。








「分かった。約束だ。」

犬夜叉は笑いながらそう言った。









「犬夜叉……気を付けて……。」


かごめは最後までこちらを見ながら現代へ戻って行った。



















「冥加、頼みがある。」

家に戻った犬夜叉はこれからのことを冥加に話す。













少年ひとりきりの犬夜叉の因縁との戦いが始まろうとしていた。



[25752] 第八話 「予想外」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e
Date: 2011/02/08 23:11











月が明るさを放つ夜。


二つの人影が村に向かって近づいていた。



「しかし本当に犬夜叉が鉄砕牙の在りかを知っておられるので?」


そう尋ねているのは邪見。


小柄な身体で自分の背丈の倍以上ある人頭杖(にんとうじょう)という杖を持っている妖怪だ。





そして尋ねられているのが殺生丸。


犬夜叉の異母兄であり、純血の犬の大妖怪。


見た目は膝裏ほどもある長い銀髪を持つの美青年だが他人を寄せ付けない雰囲気を放っていた。









(あぁ…やっぱり答えて下さらない…。)


邪見はそう思いながら肩を落とす。


常に無口な殺生丸だが鉄砕牙や犬夜叉のこととなるとそれが一層酷くなる。


ここ数日はそれが特に酷く邪見は自分の胃に穴が空くのはそう遠くないと思うほどだ。





(父君が殺生丸様に鉄砕牙をお譲りになっていればこんなことには…。)



そう邪見は思いながら決して口には出せなかった。



(何故父君は天生牙などを殺生丸様に…。)










「天生牙。」


鉄砕牙と同様、犬夜叉と殺生丸の父の牙から打ち起こされた刀。


普通の刀と異なりこの世の生き物を殺すことはできないが、死者に対して抜くとあの世からの使いが見えそれを斬ることで死者を甦らせることができる



使いようによっては絶大な力を持つ刀だ。





しかし殺生丸が望むのはそんな力ではなかった。









曰く





鉄砕牙はその一振りで百の妖怪をなぎ倒す。




天生牙はその一振りで百の命を救う。





殺生丸がどちらを欲するかは考えるまでもなかった。












二人が村を訪れようとしているのには理由があった。



封印されていた犬夜叉が復活したという噂が流れてきたからだ。


これまで鉄砕牙を探し続けてきた殺生丸だったがまるで手がかりを掴むことができなかった。


そして血縁である犬夜叉が何か知っているのではないかと疑い村に向かっていた。










二人が村が見えるほどのところに差し掛かったとき一つの人影が立ち塞がった。



「…犬夜叉か。」


殺生丸が呟く。





髪型が異なるがその匂いは間違いなく犬夜叉の物だった。




二人の間に緊張が走る。



そして



唐突に犬夜叉が頭を下げた。













「何のつもりだ。」


表情一つ変えずに殺生丸が問う。








犬夜叉は自身の状況を説明する。



自分は本物の犬夜叉ではないこと。


妖怪化のこと。


それを抑えるために守刀である鉄砕牙が必要なこと。


鉄砕牙には結界が施されており妖怪には使えないこと。











暫く黙って聞いていた殺生丸だが


「それで終わりか?」


そう冷淡に告げた。





「そのような戯言、この殺生丸が信じるとでも思ったか。」


殺生丸の妖気が高まっていく。





「鉄砕牙の所有を認めて欲しいならこの私を倒してみせろ。」


そして戦いが始まった。











ドガッ


一瞬で懐に入られた犬夜叉が殴り飛ばされる。






「ぐっ!」


犬夜叉はそのまま数十メートル吹き飛ばされた。




(全く見えなかった…!)


ふらつきながらなんとか立ち上がる犬夜叉。




犬夜叉は桁違いの強さに恐怖すら忘れた。





自分が全く歯が立たなかった逆髪の結羅も動きが見えないなんてことはなかった。







桁が違う。





それ以外の言葉で表しようもないほどの力の差があった。










「どうした、もう終わりか。」




殺生丸がつまらなげに呟く。















犬夜叉は考えられる最悪の状況に絶望していた。







犬夜叉が殺生丸に対する唯一の策が「話し合い」だった。


鉄砕牙を先に手に入れたとしてもそれを使いこなせない以上意味がない。


妖怪化をしても殺生丸には敵わない。


唯一残された策が自分の状況を話し鉄砕牙の所有を認めてもらうことだった。


しかし自分と冥加だけでは信じてはもらえない。


そこで犬夜叉は冥加に刀々斎に協力してくれるよう伝言を頼んだ。


刀々斎は鉄砕牙と天生牙を作った刀匠だ。


彼が言うことなら殺生丸も聞く耳を持つかもしれない。


記憶の中でも鉄砕牙が犬夜叉の妖怪の血を抑えるための守刀だと知ってからは奪おうとすることはなくなった。


そして自分は本物の犬夜叉ではない。


もしかしたら見逃してもらえるかもしれない。



確率は限りなく低い賭けだがそれに賭けるしかない。


そう犬夜叉は考えていた。


しかし冥加達が戻って来る前に殺生丸達が来てしまった。









逃げてしまおう。


そう考えた犬夜叉だったがどのみち殺生丸から逃げることなどできるわけもない。



もし自分が逃げたことで楓達に何かあっては耐えられない。










犬夜叉は一人死地に向かうことを決めた。


















犬夜叉は覚悟を決め殺生丸に向かっていく。



「散魂鉄爪!」


犬夜叉は爪で斬りかかり続ける。


しかしその全てを躱されていた。










殺生丸は躱しながら考える。


幼稚すぎる。


戦い方も。

呼吸も。

間合の取り方も。


まるで赤子を相手にしているようだった。










いくら弱い半妖と言えど異常だった。













「もういい、終わりだ。」


そう言いながら殺生丸は手に力を込める。





「毒華爪!」


強力な毒の爪が犬夜叉の身体に襲いかかる。





それをまともに受けた犬夜叉は地面に倒れ動かなくなった。













「ふん、半妖ごときが殺生丸様に逆らうからじゃ。」


成り行きを見ていた邪見がそう吐き捨てる。


殺生丸が踵を返す。


そのまま立ち去ろうとしたとき










強力な妖気が二人を襲った。


「なっ…!」


邪見がそのあまりの強力さに腰を抜かす。










犬夜叉は再び妖怪化していた。










その姿を殺生丸は正面から見据える。










(この殺生丸に一瞬とはいえ恐れを感じさせるとは…)




殺生丸にとってそれは許し難い屈辱だった。









ダッ


犬夜叉が殺生丸に飛びかかる。



先ほどまでとは比べものにならないほどの威力の斬撃が繰り出される。

しかし








「この程度か。」


やはりその全てを殺生丸は躱していた。








そのことを意にも解さず犬夜叉は攻め続ける。




「毒華爪!」


殺生丸の毒爪を喰らってしまう犬夜叉。


しかし





バキッ


犬夜叉の拳が殺生丸の腕に当たる。






「殺生丸様っ!」


初めて殺生丸に攻撃が当たったことに驚く邪見。



しかし殺生丸の攻撃を受けた犬夜叉の体はボロボロだった。


にもかかわらず犬夜叉は襲い掛かっていく。










(こいつ恐怖感も…いやそれどころか…痛みすら感じていないのか。)


そんな犬夜叉の姿を見ながら殺生丸は考える。








「ふっ、憐れな…」




殺生丸が今までより強く手に力を込める。














「半妖は半妖らしく地を這え!」


それをまともに喰らった犬夜叉は倒れ起き上がることはなかった。


















(俺は…。)


瀕死の重傷を負ったことで変化が解けた犬夜叉は正気に戻った。




しかし満身創痍で動くこともできない。









殺生丸が犬夜叉に近づく。







「一族の面汚しが…。止めを刺してやる。」




そう言いながら手を振り上げる。

















(ごめん…かごめ…、約束…守れなかった…。)



犬夜叉が心の中でかごめに謝る。








手が振り下ろされようとしたその瞬間


































「ねぇ、殺生丸様。もうそっちに行ってもいい?」


いるはずのない少女の声がした。








[25752] 第九話 「真の使い手」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e
Date: 2011/02/11 21:23












「うっ…。」



ゆっくりと犬夜叉が目を覚ます。


(ここは…?)



自分の状況を確認しようと起き上がろうとするが



「っつ!」



その瞬間、体に激痛が走った。


(確か殺生丸に止めを刺されそうになって…。)



犬夜叉がそこまで思い出した所で














「あ、犬夜叉様が目を覚ましたよ。邪見様。」


自分をのぞき込んでいるりんに気づいた。














「なんでそんな奴に様付けをしておるのだ、りん!」



「だって殺生丸様の御兄弟なんでしょ。だったら様付けしなくちゃ邪見様。」



「わしが認めるのは殺生丸様だけじゃ!」



そんな言い合いをしている二人を見ながら犬夜叉は考える。







自分の身体には包帯が巻かれている。

りんが手当てをしてくれていたようだ。











「りん。」


殺生丸が邪見と共に引き連れていた少女。


詳しい経緯は分からないが殺生丸に救われたらしい。


人間嫌いのはずの殺生丸に大きな影響を与えた。


殺生丸にとって唯一無二の存在。











しかし犬夜叉の記憶の中ではりんが殺生丸と一緒にいるようになるのはもっと先のはずだった。


それがなぜここにいるのか。


犬夜叉が自分の記憶に疑問を感じていたとき、






「犬夜叉様、ご無事ですか!?」


慌てる冥加の声が聞こえた。













「随分手酷くやられてるじゃねぇか。」


よぼよぼ姿の老人が犬夜叉に話しかける。



「おめぇが犬夜叉か。」








「刀々斎。」


妖怪の刀鍛冶。


犬夜叉の父の依頼で、彼の牙から息子達への形見の刀「鉄砕牙」「天生牙」を作った。


一見とぼけた老人だが刀鍛冶としての腕の右に出るものはいない。








「せっかく来てやったってのに死なれちゃ意味ねぇぞ。」


言いながら刀々斎は殺生丸に近づく。







「久しぶりだな。殺生丸。」


あっけらかんとした調子で刀々斎は話しかける。


「刀々斎か。貴様も私に殺されに来たのか。」


そう言いながら手に力を入れる殺生丸。


「違うってーの。全く相変わらず嫌な奴じゃな…。」


そう言いながら刀々斎は続ける。





犬夜叉と殺生丸の父親は犬夜叉の妖怪化を抑えるための守刀として鉄砕牙を犬夜叉に譲ったこと。

鉄砕牙には結界が施されており妖怪には使えないこと。


それらが真実であることを伝えた。










「それで…私にその半妖が鉄砕牙を持つことを認めろとでも言うのか。」


殺生丸の目付きが鋭くなる。


「ちょっと待て! 人の話は最後まで聞かんか!」


焦りながら刀々斎はさらに続ける。


「わしがここに来たのは犬夜叉に頼まれたからだけじゃねぇ。天生牙がわしを呼んだからじゃ。」


「天生牙がだと。」


殺生丸が自分の腰にある天生牙に目をやる。




「おめぇだってとっくに気付いてたんだろ。天生牙が騒いでるってことに。」



殺生丸は刀々斎を見据える。






「天生牙がお前の心の変化を読み取った。天生牙を戦える刀に鍛え直すときが来たんじゃ。」




「鍛え直すだと」


殺生丸が刀々斎に問う。






「親父殿からの遺言でな。お前が自分に足りないものを身につけたとき天生牙を元の刀に打ち直してくれと。」






「何を言う! 殺生丸様は完璧じゃ! 足りないものなどないわ!」


邪見は刀々斎に食ってかかる。


「強いし優しいしね。」


りんもそれに続く。





「…優しさなど知らん。」

言いながら落ち込む邪見だった。





「それと殺生丸。そこの犬夜叉に戦い方を教えてやれ。」


「え?」


いきなり自分のこと言われ驚く犬夜叉。


「鉄砕牙を手に入れても使い手が弱くちゃ意味ねぇからな。」


「くっ…。」

何も言い返せない犬夜叉だった。







「なぜこの殺生丸がそんなことをしなければならん。」


刀々斎の頼みを一蹴する殺生丸。しかし


「タダでとは言わねぇ。お前に一本、刀を打ってやる。」






その言葉に表情を変える。





「なぜ今更刀を打つ気になった。」



殺生丸はこれまでにも何度も刀々斎に自分の刀を打つよう頼んできた。しかし刀々斎は決して刀を打とうとはしなかった。





「天生牙が認めた今のお前になら打ってやってもいいと思ったのさ。」








しばらく思案する殺生丸。そして



「いいだろう。ただし刀が出来るまでだ。」

そう答えた。



「もっとも、そこの犬夜叉を鉄砕牙が認めたらの話だがな。」


刀々斎が犬夜叉を見ながら言う。










「約束を違えればどうなるか分かっているな、刀々斎。」


殺生丸が刀々斎に釘を刺す。





(やっぱり打つのやめようかな…。)


本気でそう思う刀々斎だった。

















「わぁ! すごい!」


りんが感嘆の声を上げる。






話がまとまった後、犬夜叉達は黒真珠を使い犬夜叉と殺生丸の父親の墓に訪れていた。








「殺生丸様のお父様ってすごく大きいんだね。」


りんはその巨大な姿を見上げる。


「殺生丸様の父君は西国を支配していた大妖怪であったのだぞ。大きくて当たり前じゃ。」


邪見がそれに答える。


「じゃあ邪見様は小妖怪だね。」


「なんじゃと!」


騒がしい二人を置いたまま殺生丸は飛び上がって行った。






「お待ちください! 殺生丸様!」


その後に犬夜叉達も続く。











父親の体内に鉄砕牙は納められていた。

そして錆びた刀の状態で床に突き刺さっていた。







殺生丸は一人それに近づいていく。







そして鉄砕牙に触れようとした瞬間




バチッ

結界によって阻まれてしまった。








「…ふん。」


鉄砕牙に一瞥をくれた後、殺生丸はその場から立ち去っていった。












殺生丸から少し遅れて犬夜叉たちが鉄砕牙の元にやって来た。







犬夜叉が恐る恐る鉄砕牙に触れる。







しかし何も起こることなく柄を握ることができた。












(俺に抜く事ができるのか…。)


犬夜叉は不安に駆られる。







自分は本物の犬夜叉ではない。








そんな自分を鉄砕牙は認めてくれるだろうか。









それでも












「一ヶ月ね…。約束よ」


そう言っていたかごめの姿を思い出す。













「絶対よ。約束破ったら許さないんだから。」











かごめを守れる強さを手に入れる為に











犬夜叉は一気に鉄砕牙を引き抜いた。
















「なにっ!?」


刀々斎は驚きの声を上げる。


鉄砕牙は犬夜叉が引き抜いた瞬間、本来の巨大な牙に変化した。


(こうも簡単に鉄砕牙が認めるとは…。)


鉄砕牙は人間を慈しみ守る心がなければ扱えない刀。


(こいつ…案外大物になるかもな。)

そんなことを考える刀々斎だった。









犬夜叉は鉄砕牙を手に入れた。



[25752] 第十話 「守るもの」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e
Date: 2011/02/12 07:54

















「め…。かごめったら!」


「え?何?」


考え事をしていたかごめは物憂げに返事をした。






「かごめ最近なんか元気がないよ。何かあったの?」


同級生のあゆみがかごめを心配そうに見つめる。。



「大丈夫よ。なんでもないから。」


そう言いながらもやはり元気がないかごめ。



「彼氏と喧嘩でもした?」


由加が冗談交じりにかごめに尋ねる。





「ううん。そんなんじゃない。ただちょっと会えないだけで…。」

そう答えたあとまた一人考え事を始めるかごめ。







(いつもなら彼氏なんかじゃないって否定するところなのに…。)


(よっぽど思いつめてるのね…。)


(恋ね! 恋なのね!)



三人はそれぞれ勝手に想像を膨らませていった。








かごめが戦国時代に行かなくなってから二週間が経とうとしていた。



いつも通り学校に通っているかごめだったがどこか上の空でいることが多かった。









(犬夜叉、ちゃんとごはん食べてるかな…、きちんと寝れてるといいけど…。)



かごめはいつかの犬夜叉の姿を思い出す。









(犬夜叉泣き虫だからまた一人で泣いてるかも…。)



心配が絶えないかごめだった。












学校から家に帰った後かごめは井戸の前で佇んでいた。









そして井戸に入ろうと身を乗り出し














既の所で思いとどまった。






(ダメよ私、犬夜叉と約束したじゃない! 一ヶ月後だって!)



まだあれから二週間しか経っていない。まだ半分だと思うとやり切れないかごめ。







(犬夜叉だって頑張ってるんだから。私も何かしないと…。)


そう考えながらかごめは家に戻って行った。







かごめは次の日から弓道部に仮入部し弓の練習に明け暮れるようになった。




そしてその腕前のためしつこく勧誘されるようになるとは思いもしないかごめだった。



















「はぁっ!」


犬夜叉が殺生丸に飛びかかる。



何度も爪を振るうが全て紙一重で躱されていた。




バキッ


殺生丸の爪が犬夜叉を引き裂く。





「ぐっ!」

吹き飛ばされ地面に這い蹲る犬夜叉。そして


「うっ…がっ…!」


妖怪化が始まる。







「りん、早く鉄砕牙を持っていくんじゃ!」

「うん!」


邪見の言葉に従いりんは犬夜叉に近づいていく。



「はい。犬夜叉様。」




りんが犬夜叉に鉄砕牙を握らせる。







すると妖怪化は収まり、犬夜叉はそのまま気絶してしまった。











これがここ二週間の犬夜叉の生活だった。












修行を始める前に殺生丸が言ったのはたった一言









「手取り足取り教えるつもりはない。かかってこい。」

それだけだった。











それから犬夜叉の地獄のような修行が始まった。


といっても内容は単純。犬夜叉が殺生丸に挑み殺生丸がそれに反撃する。ただそれだけだった。


殺生丸も一応手加減してくれているのか毒の爪を使うことはなかった。


しかしそれでも瀕死になると妖怪化してしまう事もあり、その際は先ほどのようにりんが鉄砕牙を持ってきてくれるのだった。



そして犬夜叉は鉄砕牙を使わず爪のみで挑んでいた。


まだ鉄砕牙を使う段階ではないと考えたからだ。













「全く進歩のない奴ですな。」


邪見が悪態をつく。

邪見としては適わないと分かっている相手に挑み続ける犬夜叉が理解できなかった。








「貴様の目は節穴か、邪見。」


「は?」


そう言いながら殺生丸はその場を離れていく。










今の犬夜叉は並の妖怪では相手にならないほどの強さになりつつあった。



相手が殺生丸なので何も変わっていないと邪見は勘違いしていた。











戦い方を思い出している。


そうとしか言えないほどの成長速度だった。













「うっ…。」



犬夜叉が目を覚ます。




「あ、犬夜叉様大丈夫?」


りんが心配そうに犬夜叉をのぞき込む。





身体には手当をしてくれた跡があった。



本当にりんには頭が上がらない犬夜叉だった。




「やっぱり師匠は強いな…。」


そう呟く犬夜叉。


犬夜叉は殺生丸のことを師匠と呼ぶようになっていた。


呼び捨てになどできないし様付けをするのにも違和感があったからだ。




もっとも初めてそう呼んだときは殺生丸に睨まれてしまったが。









「ねぇ犬夜叉様。聞いてもいい?」


突然りんが犬夜叉に尋ねる。





「犬夜叉様はどうしてそんなに強くなりたいの?」




犬夜叉はそんな質問をされるとは思っておらず目を丸くする。




誤魔化そうかとも思ったが






真剣な様子で答えを待っているりんを見て正直に話すことにした。











「…守りたい人がいるんだ。」



犬夜叉は呟くように答える。





「その人は俺なんかのために泣いてくれて、一緒に居てくれた。…でも俺が弱かったからその人を傷つけてしまった。だから」






真っ直ぐりんを見据えて








「俺はその人を守れるくらい強くなりたい。」





そう答えた。










「ふん…。」


影から聞いていた邪見がその場を離れていく。



(ちょとだけ認めてやるわい…。)


邪見はそう思った。













次の日の朝。



りんが殺生丸の元を訪れていた。



犬夜叉はまだ眠っているので今は殺生丸とりんの二人きりだった。





「殺生丸様、聞いてもいい?」


りんが殺生丸に話しかける。




殺生丸はりんに目を向ける。




肯定と受け取ったりんは






「殺生丸様はどうして強くなりたいの?」


そう尋ねた。






「何?」


予想外の質問だった為か殺生丸が聞き返す。





「昨日犬夜叉様に聞いたの。犬夜叉様は守りたい人がいるんだって。だから強くなりたいんだって。」


黙って聞き続ける殺生丸。




「殺生丸様は?」







その言葉に殺生丸の脳裏にある光景が蘇る。



















雪が舞う海辺に二人の人影がある。






まだ幼さが残る殺生丸とその父親だった。








父親は満身創痍だった。








龍骨精との戦いで受けた傷だった。




そしてそんな身体のまま犬夜叉の母である十六夜を救うため最後の戦いに赴こうとしていた。








「行かれるのか…父上…。」




そんな父を見ながら殺生丸が背中越しに尋ねる。








「止めるか?殺生丸…。」



振り向くことなく父が応える。






「止めはしません。だがその前に牙を…叢雲牙と鉄砕牙をこの殺生丸に譲って頂きたい。」



そう殺生丸が頼む。









「渡さん…と言ったら…この父を殺すか?」





二人の間に緊張が走る。













「ふっ…それほどに力が欲しいか…。なぜお前は力を求める?」



父が殺生丸に問う。










「我、進むべき道は覇道。力こそその道を開く術なり。」



迷いなく殺生丸が答える。








「覇道…か…。」




しばらくの間のあと










「殺生丸よ…お前に守るものはあるか?」






そう父は問う。











「守るもの…?」



言葉の意味が分らない殺生丸は





「そのようなもの…この殺生丸に必要ない。」


そう切って捨てた。














殺生丸はりんの問いに答えることができなかった。
















「よろしくお願いします。師匠。」



そう言いながら犬夜叉が向かってくる。


















殺生丸はそんな犬夜叉を見ながら
















父の問いの意味を考えるのだった。



[25752] 第十一話 「再会」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e
Date: 2011/02/13 12:04




















森の中で凄まじい速さで動いている二つの人影があった。






犬夜叉と殺生丸だ。






「はっ!」


犬夜叉の爪が殺生丸を襲う。



しかし殺生丸はそれを既の所で躱し逆に反撃をする。



――ガッ


「くっ!」

それを何とか防ぐ犬夜叉。



しかしその衝撃で吹き飛ばされてしまう。





犬夜叉はなんとか体勢を整える。



二人の間にはかなりの距離が開いていた。







犬夜叉は自分の身体についている血を手につける。そして




「飛刃血爪!」




自らの血に妖力を込め硬化させた刃を殺生丸に飛ばす。




しかし殺生丸は指から光のムチのようなものを出しそれらを撃ち落とす。







その一瞬の隙を突いて犬夜叉が殺生丸に飛びかかる。





(捉えたっ!)


そう思った犬夜叉だったが




「遅い。」


一瞬で後ろに回り込まれてしまった。



――ゴッ



殺生丸の蹴りが犬夜叉の背中に突き刺さる。




再び吹き飛ばされる犬夜叉。







なんとか立ち上がり振り向いた所で



殺生丸の爪が喉元に突きつけられた。





二人の間に緊張が走る。そして







「参りました。」



犬夜叉の言葉でそれは消え去った。













犬夜叉が修行を始めて一ヶ月半が経とうとしていた。



初めは何もできないままやられていた犬夜叉だったがここ一週間程は何とか反撃もできるようになりつつあった。といっても一度も殺生丸に攻撃は当てられていなかったが。








「刀々斎の奴いつまでかかっておるのだ。」


邪見が悪態をつく。



天生牙の打ち直しと新しい刀の作製を行っているはずの刀々斎からはまだ何の応答もなかった。



「貴様といい刀々斎といい殺生丸様をいつまでも煩わせおって!」


そんな邪見に


「悪いな、長い間付き合わせちまって。」


犬夜叉が謝罪する。


「ふんっ!」


邪見はそう言いながらあさっての方向を向く。


嫌味を言っても一向に堪えない犬夜叉にやりずらさを感じる邪見。


「もうそんなこといったらダメだよ。邪見様。」


りんが邪見を嗜める。





修行以外はいつもこんな調子だった。










突然雷が落ちたような音が響く。



そして

「待たせたな。」


そう言いながら刀々斎が姿を現した。









「ほれ、これが戦いの天生牙だ。」


そう言いながら刀々斎が殺生丸に天生牙を手渡す。


「使ってみな。」


殺生丸は鞘から天生牙を抜く。



そして一本の木に向かって刀を振り下ろした。



その瞬間、刀の軌跡に合わせて木が消滅してしまった。




「何とっ!」


「すごい。」


邪見とりんが驚きの声を上げる。



「それが冥道残月破だ。使った相手を冥道に送り込む技。冥道に送り込まれたが最後、二度と現世には戻ってこれねぇ。」


刀々斎が説明をする。




(何と言う恐ろしい技じゃ…。鬼に金棒どころの話じゃないわい…。)


邪見はただでさえ強い殺生丸がさらに強くなることに恐怖すら感じた、。







「そしてこれが新しい刀の闘鬼刃じゃ。」


殺生丸がそれを受け取る。



「鬼の牙から作った鉄砕牙に優るとも劣らぬ名刀だ。鉄砕牙や天生牙のような特別な力はないが使い手の強さによって力が増す刀だ。」


殺生丸は暫く闘鬼刃を見つめた後






「確かに受け取った。」


そう告げた。









(もっともお前が自分の刀に目覚めるまでのつなぎにしかならないだろうがな…)


そう思いながらも口には出さない刀々斎だった。













「ではそろそろ行かれますか、殺生丸様。」



邪見が殺生丸に進言する。





しかし殺生丸は動こうとはしなかった。




「殺生丸様?」


邪見がそんな様子に気付きさらに尋ねる。








殺生丸は闘鬼刃を犬夜叉に向け







「抜け、犬夜叉。」



そう告げた。









「え?」



いきなり話しかけられ戸惑う犬夜叉。


そんな犬夜叉を意に介さず









「剣を教えてやる。私に一太刀浴びせてみせろ。」



そう言いながらこちらに向かってきた。










刀を振り下ろしてくる殺生丸。



「くっ!」


犬夜叉は咄嗟に腰にある鉄砕牙を鞘から抜き防御する。





鍔迫り合いになるがすぐに殺生丸に押し切られ吹き飛ばされる犬夜叉。





なおも追撃する殺生丸。






犬夜叉は防戦一方だった。






「全く血の気が多いやつだな。」


刀々斎が呆れながら呟く。






(まさか殺生丸様は犬夜叉で試し斬りをなさろうとしているのか。)


そんなことを考える邪見。











そのまま殺生丸の圧勝かと思われたが







段々と異変が起きてきた。









犬夜叉が段々と押し返してきたのだ。












(何だ?これは?)




その状況に一番驚いているのは犬夜叉自身だった。








体が軽い。






体が熱い。







動きが見える。








鉄砕牙がまるで手に吸い付いているかのようだった。











「これは…。」


そんな様子を見ながら冥加が呟く。




「お前も気づいたか。冥加。」


刀々斎が話しかける。






「殺生丸の奴、犬夜叉を導く戦いをしてやがる。」













二人の戦いを見ながら


「すごい…。」


りんが感嘆の声を上げる。





殺生丸が導きそれに犬夜叉が応える。










それはまさしく剣舞だった。











「頑張ってー犬夜叉様―! 殺生丸様―! 」


りんが二人を応援する。





「こら何を言っておるのだ!りん!」



邪見がりんに食ってかかる。






「邪見様も応援しなきゃ。」





「わしが応援するのは殺生丸様だけじゃ!」



そう言いながら二人の戦いを見つめる邪見。














(こいつ…。)


急激な成長に驚きを隠せない殺生丸。












殺生丸との一ヶ月半の修行による経験。








鉄砕牙を持ったことによる記憶の流入。








殺生丸による剣の導き。








そして何より













「強くなりたい。」








犬夜叉の強い想いが






犬夜叉の強さを呼び起こした。















一際大きな鍔迫り合いの後、





二人の間に距離が空いた。









「ハァッ…、ハァッ…。」


急激な成長に戸惑いが隠せない犬夜叉。



そんな犬夜叉を見ながら





「次が最後だ。」



殺生丸がそう告げる。










闘鬼刃を水平に構える殺生丸。


そして




「蒼龍波。」


犬夜叉に向けて奥義を放った。










凄まじい妖力が犬夜叉に向かってくる。


(避けられない!)




直感でそう感じる犬夜叉そして








鉄砕牙が震えているのに気づく。






(鉄砕牙!?)








そして犬夜叉は鉄砕牙の刀身に風が渦巻いていることに気づく。







全てを理解した犬夜叉は












「風の傷っ!!」


鉄砕牙を振り下ろした。






「何っ!」

刀々斎が驚きの声を上げる。








二つの巨大な妖力がぶつかりあう。








凄まじい衝撃が辺りを襲う。














しかし最初こそ拮抗していたものの段々と犬夜叉が押され始める。







「くそっ…!」






ここまでなのか。







そんな気持ちが犬夜叉を支配する。







しかし








自分を救い手当してくれたりん。










悪態を突きながらも付き合ってくれた邪見。









自分を導いてくれた殺生丸。











みんなの思いに報いるためにも














諦める訳にはいかない!













その瞬間犬夜叉は匂いを感じ取る。



それは風の傷の匂いだった。








ぶつかり合っている妖力の流れが見える。






そして









「ここだぁぁぁぁっ! ! !」


犬夜叉は鉄砕牙を振り切った。








その瞬間、殺生丸の蒼龍波が逆流を始める。













それが殺生丸に届くかというところで












二つの妖力が爆発を起こす。







吹き飛ばされる犬夜叉。










殺生丸は立たずんだままだった。











(やっぱり…無理だった…。)







ボロボロになりながらも何とか立ち上がった犬夜叉が肩を落とす。






しかし









殺生丸の左腕から一筋の血が流れる。










犬夜叉は初めて殺生丸に一太刀を浴びせた。














「「やったぁ! !」」


りんと邪見が手を合わせながら飛び上がる。




そんな邪見を睨みつける殺生丸。



「ち…違います! 殺生丸様っ!」


慌てて弁明する邪見。


「もう、邪見様ったら。」


呆れるりんだった。















(爆流波もどきってところか…。)


刀々斎が先ほどの戦いを見ながら考える。


(たった一ヶ月ほどでここまで成長するとは…)



刀々斎は自分の目に狂いはなかったことを確信した。







そして刀々斎は殺生丸に近づく。




「どうだった殺生丸。人を育てるってのも悪くねぇだろ。」



そう声をかけた。





「…ふんっ。」



そっけなく返す殺生丸だった。

























「行くぞ。」


「はっ。」


殺生丸と邪見が離れていく。


「またね、犬夜叉様。」


そういいながらりんもそれに続く。








歩きだす殺生丸に




「師匠っ!」




犬夜叉が叫ぶ。




こちらに振り返る殺生丸そして




「ありがとうございましたっ!」


犬夜叉は頭を下げた。












殺生丸達は去っていった。




















「ただいま。」


犬夜叉は一ヶ月半ぶりに楓の村に戻ってきた。


「犬夜叉、心配しておったぞ。」


楓が慌てて犬夜叉を出迎える。




「ずいぶんと時間がかかったな。」




「あぁ。約束の一ヶ月をだいぶ過ぎちまった。」




罰が悪そうに答える犬夜叉だった。






















二人は骨食いの井戸に向かっていた。


四魂のカケラを落としてかごめがこっちに来れるようにするためだ。




カケラを落とした後はかごめが来るまで待っていなければならないので食べ物等も持って行っていた。




「それじゃあ落とすぜ。」


そう言いながらカケラを落とした瞬間





「きゃあっ!」


そんな少女の声が聞こえた。









「「え?」」


突然の出来事に驚く二人。





そしてもの凄い勢いでかごめが井戸を登ってきた。






「楓ばあちゃんっ!」



楓に気づいたかごめが嬉しそうに駆け寄る。



「お主…もしやずっと井戸で待っておったのか?」




そう楓に問われ顔を真っ赤にするかごめ。




「ち…違うわよっ! たまたまよ! たまたま!」



慌てて反論するかごめだった。









そして




犬夜叉とかごめの目が合った。










しばらく沈黙が続き犬夜叉がなんとか話しかけようとしたとき

















「バカーーーーーーっ! !!」


かごめが犬夜叉にそう叫んだ。



「なっ…。」


いきなり大声でしかもそんなことを言われるとは思っていなかった犬夜叉はあっけにとられる。




「約束の期間とっくに過ぎてるじゃない! どうして連絡もくれなかったのよ!」


凄まじい剣幕で犬夜叉に詰め寄るかごめ。



「いやっ…色々あって…。」




しどろもどろになりながら犬夜叉が答える。






「でも一度くらい会いに来てくれても良かったじゃない!」






そう言いながらだんだんと落ち着きを取り戻すかごめ。そして





「心配したんだから…。」




かごめはそう呟く。











「本当に心配したんだから…。」



かごめの目に涙が溢れる。




そして













「ただいま。犬夜叉。」




そう告げた。









二人は抱き合いながら







「おかえり、かごめ。」



犬夜叉はそう答えた。






















「全く最近の若いもんは…。」

一人蚊帳の外の楓だった。




[25752] 第十二話 「出発」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e
Date: 2011/02/17 03:19











「かごめ、四魂のカケラの気配はどうだ?」


自転車の後ろに乗っている犬夜叉がかごめに尋ねる。


「こっちで合ってるはずなんだけど…まだちょっと遠いわね。」


自転車を漕ぎながらかごめが答える。


二人は再会した後、互いの準備が整ったということでかごめの連休に合わせて四魂のカケラ集めに出発した。


今は気配のある方向に向かっている最中だ。


「そろそろお昼にしようか。」


そう言いながら自転車を止めリュックを探り始めるかごめ。


「今日は何なんだ?」


犬夜叉が待ちきれないようにリュックを覗き込む。


「今日はママが作ってくれたお弁当よ。」


そう言いながら弁当を犬夜叉に手渡す。



かごめは戦国時代に来る時には現代の食べ物を犬夜叉のために持ってきてくれていた。


それは犬夜叉の大きな楽しみの一つだった。


「そういえば犬夜叉、その腰の刀は何なの?」


ものすごい勢いで弁当を食べている犬夜叉にかごめが話しかける。


かごめは再会したあと犬夜叉が妖怪化を抑えることができるようになったことは聞いていたが鉄砕牙や殺生丸のことはまだ知らなかった。


「これは犬夜叉の父親の牙から作られた妖刀で鉄砕牙って言うんだ。」


そう言いながら鞘から鉄砕牙を抜く。


見た目はただの錆びた刀だった。


「ただの錆びた刀じゃない。」


かごめが訝しみながら答える。


「見て驚くなよ。」


自信満々にそう言いながら犬夜叉が鉄砕牙に妖力を込める。


そして刀を振り下ろした。


しかし


「あれ…?」


鉄砕牙は錆びた刀のままだった。


「何も起きないじゃない。」


かごめが呆れたように言う。


「そんなはずは…。」


そう言いながら何度も試すが鉄砕牙は変化しなかった。



「いつまでもやってないで行くわよ。」


かごめがリュックを背負い自転車にまたがる。


「ま、待ってくれよ!」


慌てて後を追う犬夜叉。


鉄砕牙に遊ばれている。


そう思わずにはいられない犬夜叉だった。





移動し始めてからしばらく経ったところで


「止まれ、かごめ。」


犬夜叉が自転車から飛び降りそう告げる。


かごめはあわてて停止した。



「どうしたの、犬夜叉?」


急に自転車から降りた犬夜叉に驚きながらかごめが尋ねる。


「妖怪の匂いだ。近づいてくる。」


そう言いながら犬夜叉の表情が険しくなる。


「妖怪…。」


犬夜叉の言葉を聞いたかごめの顔も曇る。



急に空が暗くなっていき


空中に炎が現れる。



「貴様ら…四魂の玉を持っているな…。」


どこからともなく声が聞こえる。


二人に緊張が走る。

そして



「よこせ~~。」


間抜けな顔をした桜色の風船が現れた。



「「………。」」


あっけにとられる二人。



「殺すぞ~~。」


さらに迫る風船。それを

ピンッ


「あうっ!」


犬夜叉はデコピンで吹き飛ばした。


風船は煙に包まれ中から小さな子供が出てきた。


「いででで…。」


子供が額をさすりながら痛がっている。


そんな様子を見ながら犬夜叉は記憶を思い出す。



「七宝。」


子狐の妖怪で可愛らしい姿の子供


性格は少しませており、犬夜叉に余計な事を言ってはいつも殴られていた。


自分も妖怪なのに妖怪を恐れるかなりの臆病者。


狐火を出したり、様々なものに変身できる。


かごめに懐いており、犬夜叉たちに助けられてからは四魂のカケラ集めの旅についてきていた。


「何この子、可愛い!」


そう言いながらかごめは七宝の頭をなでる。


「何するんじゃっ!」


七宝はかごめの手を払いのけ走り出す。


そしてかごめのリュックを漁りだす。


「ちょっと、なにしてるの!」


「あった 四魂のカケラじゃ!」


七宝が小瓶に入った四魂のカケラを見つけ出す。


「わははは!もらったぁ、さらばじゃ!」


そう言いながら七宝は狐火にまぎれて姿を消す。



犬夜叉は少しの間の後


「何やってんだ?」


草むらに隠れていた七宝をつまみあげながらそう言った。



観念した七宝は二人にに説明していた。


自分の父親が四魂のカケラを狙われて殺されてしまったこと。


その仇を討つために四魂のカケラを手に入れようとしたこと。



「雷獣兄弟の飛天、満天か…。」


そう犬夜叉が呟く。


「飛天。」


雷獣兄弟の兄。若い人間の男の姿をしている。


足元に付いている滑車で空を飛び、「雷撃刃」と呼ばれる矛を使って攻撃する。


姿は人間に近いが妖怪も人間もためらいなく殺す凶暴な性格。



「満天。」


雷獣兄弟の弟。


飛天とは違い怪物のような顔をしている。


雲に乗って空を飛び、口から強力な雷撃波を吐く。


特に飛天は記憶の中では鉄砕牙をもった犬夜叉も苦戦した強敵だった。


「そうだったの…。」


七宝お話を聞いたかごめが神妙そうに呟く。


「手伝ってやろうか?」


犬夜叉が七宝にそう提案する。


四魂のカケラを集める上で避けては通れない敵だ。なにより犬夜叉は七宝をこのまま放っておくことができなかった。


しかし


「へっ笑わせんな。おまえなんぞが勝てる相手じゃないわい。」


七宝は犬夜叉の提案を一蹴する。


「おまえ半妖じゃろ。人間の匂いがまざっとる。下等な半妖のくせにおらたち妖怪の喧嘩にしゃしゃり出てくんじゃねぇ。」


七宝の言葉に犬夜叉の顔が固くなる。


「七宝ちゃんっ!」


かごめが本気で七宝を叱りつける。


「ふんっ!」


七宝は再び狐火を起こしかごめから四魂のカケラを奪った。


「これで雷獣どもをおびき出すんじゃっ!」


そう言いながら七宝は走り去って行った。



「どうする犬夜叉?」


かごめが犬夜叉に尋ねる。


「決まってんだろ。」


犬夜叉は即答した。




七宝は一人雷獣兄弟の元へ乗り込んでいた。

「待て、お前ら!」

七宝が雷獣兄弟に向け叫ぶ。


「何だ、あの時の子狐じゃねぇか。」

飛天がどうでもよさげに七宝を見る。


「ほれ見ろ。おめーの親父の毛皮…あったけぇぞ~。」

そう言いながら満天は七宝に体に巻いた狐の毛皮を見せつける。


「てめぇ…よくもおとうを…。」

七宝の目に涙があふれる。そして


「よくもーーーーーっ!!」

満天に向かって飛びかかる。しかし


――バキッ

満天に簡単に払いのけられてしまう。


「くっ…!」

悔しさに唇をかむ七宝。


「お前、四魂のカケラを持ってやがるな。」

そして飛天が七宝の持っている四魂のカケラの気配に気づく。


「さっさとそいつをよこしな。」

そう言いながら迫ってくる飛天。


「誰がお前らなんかに渡すかっ!」

飛天たちを睨みながら七宝は精一杯の抵抗を見せる。


「そうかい…じゃあとっとと死にな!」

飛天が七宝に向けて雷撃刃を振り下ろす。



「おとう……。」

七宝は目をつむることしかできなかった。


しかし、その瞬間

七宝は犬夜叉に抱きかかえられながら助け出されていた。



「まったく無茶する奴だな。」

そう言いながら犬夜叉は七宝を地面に下ろす。


「おまえ…。」

七宝が驚いたよう犬夜叉を見る。



「なんだてめぇ!?」

急に乱入してきた犬夜叉に飛天が叫ぶ。


「お前らが雷獣兄弟か…。記憶以上に胸糞悪い奴らだな。」

雷獣兄弟を見据えながら犬夜叉がそう吐き捨てる。



「七宝ちゃん、大丈夫?」

少し遅れながらかごめもやってくる。


「かごめ…。」

まさか二人が助けに来てくれるとは思っていなかった七宝は戸惑う。



「半妖の分際で俺たちに喧嘩売るとはいい度胸だ!」

飛天が凄まじい速度で犬夜叉に迫る。


「切り刻んでやるぜ!」


飛天は雷撃刃を犬夜叉に振り下ろす。

犬夜叉はそれを紙一重で躱した。


なおも飛天の攻撃が続く。


「どうした、威勢がいいのは口だけか!」

犬夜叉はひたすら避け続ける。


「犬夜叉っ!」

その様子を見ていたかごめが叫ぶ。


かごめの脳裏に逆髪の結羅との戦いが蘇る。


もうあんな目に犬夜叉を合わせない。


そのためにかごめは一カ月弓の練習に明け暮れていた。


かごめは弓を構える。

そして


「え?」

犬夜叉の表情に余裕があることに気付いた。



(見える!)

犬夜には飛天の動きを完璧にとらえていた。


(師匠に比べたら止まってるようなもんだ。)

一か月以上殺生丸の速さを目にしていた犬夜叉にとって飛天の動きは恐るるに足らないものだった。


(こいつ…ちょこまかと動きやがって…!)

飛天は一向に自分の攻撃が当たらないことに苛立つ。


ドクンッ

犬夜叉は鉄砕牙の鼓動に気付く。

そして犬夜叉は鞘から鉄砕牙を抜く。


その刀はまるで巨大な牙だった。


「はっ デカけりゃいいってもんじゃないぜ!」

飛天は渾身の力を込めた一撃を犬夜叉に振るう。

しかし


――ギィンッ

犬夜叉はそれを容易くはじき返した。


「何っ!?」

まさか自分の一撃がはじかれるとは思っていなかった飛天は驚愕する。


そして次の瞬間

――ザンッ

飛天の左腕は斬り飛ばされた。


「がぁぁぁぁぁっ!!」

激痛に飛天が叫び声を上げる。


「飛天あんちゃんっ!!」

慌てた満天もうろたえるしかない。



(すごい…。)


その様子を見ていたかごめは驚いていた。

確かに犬夜叉からは一カ月以上修行していたことは聞いていた。

しかしこれほど強くなっているとはかごめも考えていなかった。



呆然と二人の戦いを見ていた七宝は我に返り、

「どんなもんじゃ、恐れ入ったか!」

まるで自分がやったのように喜んでいた。


「飛天あんちゃんを…バカにするなぁぁぁ!!」

それを聞いていた満天が七宝に向けて口から雷撃を放つ。

強力な雷撃が七宝に迫る。


(間に合わねぇっ!)

なんとか助けようとする犬夜叉だった距離がありすぎて間に合わない。

(もうだめじゃっ!)

そう七宝が思った瞬間


「危ないっ七宝ちゃん!」

かごめが七宝を突き飛ばした。


雷撃が大きなが爆発を起こす。


「かごめっ!!」

その光景を見た犬夜叉は全身の血の気が失せる


「うっ…。」

かごめは無事だったが気絶してしまっているようだった。


犬夜叉が安心した瞬間、


「どこ見てやがる!」

飛天の雷撃刃が犬夜叉を切り裂いた。


「犬夜叉っ!」

それを見た七宝が叫ぶ。


「くっ…。」

胸から血を流しながら膝をつく犬夜叉。


「どうやらその女がよっぽど大事らしいな。」

飛天は邪悪な笑みを浮かべる。


「満天、その女を人質にしな。」

飛天が満天に指示する。

「分かったよ、あんちゃん。」

満天はかごめを掴み犬夜叉に見せつける。


「抵抗したらこの女の命はないと思いな!」

そう言いながら犬夜叉を斬りつける飛天。


「がっ…!」

犬夜叉の顔が苦痛にゆがむ。


「左腕の礼をたっぷりさせてもらうぜ!」

犬夜叉は無抵抗で斬りつけられるしかなかった。

(何とか隙を見つけねぇと…。)


「犬夜叉っ!」

目を覚ましたかごめが犬夜叉に向かって叫ぶ。

何とか抜け出そうとするが満天の怪力からは抜け出すことができない。


(どうして…。)

かごめの目に涙が滲む。

犬夜叉が頑張って強くなってくれたのに自分が足を引っ張ってしまっている。

その悔しさで胸が一杯だった。


(おらのせいじゃ…おらが二人を巻き込んだから…。)

傷つけられていく犬夜叉と捕えられたかごめを見ながら七宝が罪悪感にとらわれる。

(二人とも…知り合ったばかりのおらを助けてくれた…。)

七宝は拳に力を入れる。


(おらが…おらがなんとかせねば…!)

そして七宝は満天に向けて走り出す。


犬夜叉は飛天よりも強い。

かごめを助け出せればあとは犬夜叉が何とかしてくれる。

そう七宝は考えたからだ。


「かごめを離せーーーっ!!」

七宝が満天に襲いかかる。

しかし

「邪魔すんな。さっさと死ねー!」

そう言いながら満天が七宝に向けて雷撃を放とうとする。


「逃げて七宝ちゃんっ!!」

かごめが叫ぶ。


そして雷撃が放たれようとした瞬間


満天が巻いていた狐の毛皮が燃え始めた。


「ぎゃぁぁぁっ!!」

炎に包まれ悲鳴を上げる満天。

その間にかごめは満天から逃げだすことができた。


その狐火は七宝を守ろうとする父の心だった。



「満天っ!!」

飛天が弟の危機に犬夜叉から注意をそらす。その瞬間


「飛刃血爪!!」

犬夜叉が血の刃を満天に放つ。


――ドスッ

血の刃が満天の体を貫く。


「あ…あんちゃん…。」

満天はそのまま地面に倒れ絶命した。


「満天ーーー!!」

飛天が急いで満天に近づいていく。


その間に犬夜叉はかごめたちの元に辿り着いた。

「大丈夫か、かごめ、七宝。」

犬夜叉が二人の身を案じる。


「あたしは大丈夫…犬夜叉のほうがひどい怪我じゃない。」

かごめが言うとおり犬夜叉は満身創痍だった。


「すまん…おらのせいで…。」

そう言いながら七宝は目から涙を流す。それを


「よくやったな…七宝。」

犬夜叉は優しく頭を撫でた。


「犬夜叉…。」

七宝が犬夜叉を見上げる。


「後は任せろ。」

そう言い残し犬夜叉は歩き出した。



「ゆるさねぇ…ゆるさねぇぞお前ら!!」


満天の妖力と四魂のカケラを吸収した飛天が叫ぶ。

四魂のカケラの力で左腕も再生していた。

「一人残らず灰にしてやる!!」


飛天は妖力を高め全身から発熱を始める。


そして凄まじい妖力が雷撃刃に集中する。


「死ねぇぇぇぇっ!!!」

巨大な雷撃が犬夜叉に放たれた。



「待たせたな、鉄砕牙。」

そう言いながら犬夜叉は鉄砕牙を構える。


鉄砕牙の刀身には既に風が渦巻いていた。


犬夜叉は鉄砕牙を振り上げ



「風の傷っ!!!」

全力で振り下ろした。



凄まじい衝撃があたりを襲い、そして


風の傷によってすべてが消し去られていた。


後には四魂のカケラだけが残っていた。


「すごい…。」

かごめと七宝はあっけにとられていた。

いくら犬夜叉が強くなったといっても妖力が増した飛天相手に圧勝できるとは思っていなかったからだ。しかし

「どうだ、かごめ!もう錆びた刀だなんて言わせねぇぞ!」

そう言いながら子供のようにはしゃぐ犬夜叉を見て


(まだまだ子供ね…。)

かごめは溜息を吐いた。



「これからどうするの?七宝ちゃん。」

飛天を倒した後、村に戻ったかごめが七宝に尋ねる。


七宝は少し恥ずかしそうにした後


「おらも一緒に旅について行ってもいいか…?」

そう七宝は尋ねる。


「もちろん、いいよね犬夜叉。」

「あぁ。」

すぐにかごめと犬夜叉が快諾する。


それを聞いた七宝は満面の笑みを浮かべる。そして


「犬夜叉、半妖だと言ってバカにしてすまんかった。」

そう犬夜叉に謝罪した。


「いいさ、お前がいなけりゃ俺も死んでただろうしな。」

犬夜叉はそう答える。

それを聞いた七宝は


「やはりおらがいなければダメじゃな!」

そう威張り散らした。

あっけにとられる犬夜叉をよそに威張り続ける七宝。

犬夜叉はついに

――ゴンッ

七宝に頭にげんこつを食らわせた。


「わーん!かごめー!」

七宝がかごめに泣きつく。


「犬夜叉…。」

かごめが犬夜叉を睨む。


その光景に犬夜叉は強い既視感を感じる。


「ま…待て…。」

弁明しようとしたが


「おすわり!」

かごめの言霊が響く。


これが再会した後の初めてのおすわりだった。


そして新たに七宝が仲間に加わった。




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