ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が藤井裕久官房副長官に予算案・予算関連法案、政治とカネの問題、為替相場、社会保障・税制改革について聞いた。
WSJ:民主党の小沢一郎元代表に近い衆院議員16人がきょう、国会内会派「民主党・無所属クラブ」の離脱届を党に提出し、新会派結成届を衆院事務局に提出した。民主党から16人が造反すれば、衆院再可決に必要な3分の2の議席に届かず、2011年度予算関連法案の成立は困難になる。加えて、社民党の福島党首が赤字国債を発行するための公債特例法案に反対する考えを表明した。政府は国内外のマーケットに対し、いかにして予算関連法案の通過が可能であると説得するのか。
衆議院と参議院で政党における勢力関係が随分異なってきたことは間違いない。日本独特の言葉だが「ねじれ」と言っている。しかし、米国ではこの20年間で14年がねじれの状態だった。われわれは、ねじれという現象を乗り越える努力をしなければならないとまず考える。
WSJ:ねじれを乗り越える努力のなか、菅直人首相が昨年、たちあがれ日本と協議を行ったが決裂し、社民党とも米軍・普天間飛行場の問題で同意が得られずにいる。自民党も予算案に反対を表明している。予算案は衆議院で可決できても、関連法案は3分の2の議席がないと可決できない。政府はいかにして必要な議席数を確保するのか。
われわれの予算案と予算関連法案は正しいとの前提で行動しなければならない。そういうなかで、例えば関連法案は、政府というよりも、与党民主党がいろいろな形で他政党との間で協議を行うというのが当然だ。
WSJ:社民党が普天間飛行場の移設関連予算の凍結を望む一方、ゲーツ米国防長官の16日の話を聞くと、米国の普天間移設圧力は強まる印象を受ける。社民党を取り込む方法が狭まるなか、民主党はどのように問題を打破するか。
その前提として、まず普天間だが、主に米海兵隊の問題だと思うが、海兵隊の日本駐留は日米安全保障条約で当然認められていることだ。北東アジア・極東の安全に寄与し、ひいては日本の安全に役立つということであって、海兵隊の存在を民主党は否定することはできない。日本、極東の安全のために大事だと考える。
そういうなかでどのような協議をするか、とのことだが、今はまだ第一段階だ。これからこれをどのように展開していくかということだが、政治というものはいろいろな動きが出る。われわれは政府として、今話した原則が正しいという前提ではあるが、政党はいろいろなことをこれからやると思うし、そういうことを静かに見守っていかねばならない。まして、まだ数カ月あるわけだから、その間にいろいろな動きを見極めていかなければならないと考える。
WSJ:社民党と協議を進めているが、協力を得られないのではないか。
いろいろな立場があり、それは分からない。すくなくとも今から2、3カ月という時間があるわけで、その間の世論はもちろんのこと、各政党間の動きがいまのままかどうか、弾力的にみなければいけないと思う。
WSJ:予算関連法案で最も重要なのは赤字国債発行であるが、この法案が通らなかった場合のマーケットや国民生活に対する影響はどのようなものになるか。
われわれは、そういう事態の想定を語るべきではないと思っている。なぜならば、これから様々な人との協議をおそらく政党がやる段階で、政府の一員がそれを断定的に指摘するのは避けねばならないと考えるからだ。そういう事態が起きた時の国債市場の問題は当然、様々な人が理解していると思う。
WSJ:今朝の会派の動きをどのようにみるか、リーダー格の渡辺浩一郎氏は昔、藤井副官房長官の秘書だったと聞く。
政党の問題なので、自分がとやかく言う問題ではない。ただ、消費税云々ということを言っているのであれば、昨年、私が会長を務めた調査会で、10回勉強会を、5回総会を開き、その結果出た結論を12月に閣議決定している。政府与党一体の結論であり、それに反するような行動は実際に起こさないと私は信じている。
WSJ:民主党の支持率が下がり続けている。経済界からも民主党は政局の動きばかりとの批判の声が聞かれる。政治とカネの問題を、政策とのバランスをとる上で、どのように解決するべきか、また、政局に左右されてしまい政策に力が及ばないとの懸念はあるか。
政治とカネの問題が重要な要因だったと思う。民主党は発足当初、これまでの政党とは極めて違う大きな方針を出し、現にそれで動いていた。ところが、おととし、政治とカネの問題が出てきた。今までの内閣には政治とカネの問題はあったが、民主党はそういうことはないということで、多くの国民から支持を得た。まことに残念なことだったと思っている。
特定の個人の問題はともかくとして、政治とカネに関する法律改正を党が中心になって行うと認識している。幹事長が正式に言っているが、企業・団体献金をマニフェストにあるように3年間で全廃する。こうしたことで、この問題を乗り越えていかねばならないと思う。それと並行して、本来の政策課題に取り組んでいく。
行政刷新などやっているにもかかわらず、今のような話が出ると、やったことが消える。残念に思う。
WSJ:円高のレべルとして、今の1ドル=83.5円付近は適正な水準か。
これはいいにくい話だが、米ドルの問題が基本にある。1949年に360円を占領軍につけていただいたと言っていい。その後の動きは米ドルの低落の歴史だ。佐藤栄作内閣当時の71年、360円体制が終えんし、ドルの価値は85年のプラザ合意で半減した。2003年に小泉内閣で35兆円のドルを買ったが趨勢は変わらなかった。こういうなかで日本は大きな流れを素直に受け止め、経済政策を展開しなければならないと私は思う。
1円上がった、1円下がったといったことも大事だ。しかし、それを超えた趨勢に基づく経済政策を展開する必要がある。
WSJ:輸出国の日本の経済にこのレべルは好ましいか?
交易条件はこれによって良くなっていることは間違いない。
米国は世界最大の経済国だ。世界最大の政治大国、軍事大国でもある。しかし、そうしたなかで新しい市場を作っていかなければならない。それは何か。自由貿易協定(FTA)であり経済連携協定(EPA)であり、その延長としての環太平洋経済連携協定(TPP)だ。これが必要だと私は考えている。
ただし、最後の問題については、政府として正式には6月までに情報の交換をした上で、次の方向を決めることになっていることもあわせて申し上げておく。
FTAとEPAを積極的に推進することは政府として必要であると考えている。インドとの間でのEPA署名は非常に重要なことだ。さらに、インフラ輸出もこの一環だ。国際協力銀行(JBIC)の機能強化や貿易保険の強化によって新しい市場を展開していかなければならない。
WSJ:税制改革と社会保障についてはどうか。
60年代において、日本は相当すぐれた医療保険制度を持っていた。しかし、それが崩れた。高度成長が終わり、合計特殊出生率も低下した。会社でいえば、年功序列・終身雇用という助け合いもなくなった。そうなった時、社会保障というものを維持・充実しなければならないというのがわれわれの基本的な考えだ。そうなると、税制改革がそれに噛み合う必要がある。つまり、社会保障を維持・充実することと、税制改革は一体という考えで進んでいる。消費税が関連することは当然だ。
年金政策は、野党民主党の時代から決まっている。所得比例年金が基礎にある。そこに最低保障を入れようというのが、野党時代からの終始一貫した政策だ。
WSJ:6月に出す消費税改革の成案で、引き上げ率は確定するか。
現在、集中討議を行っており、3月末まで続ける予定だ。ここでは、新聞社などの見解を聞きたい。各政党がどこまで参加するかわらかないが、国民の意見を網羅したいと思う。われわれの案を提言するのは6月になる。その後、各党との協議や国民への説明が行われる。
WSJ:確定した引き上げ率が決まるのは?
来年3月になるだろう。
(聞き手は関口陶子記者。インタビューは17日に行われた)