渡辺淳一さんの初期の小説に「ダブル・ハート」という短編がある。1968年に札幌医科大の和田寿郎教授が手がけた、日本初の心臓移植手術に想を得た作品だ。やがて売れっ子になる渡辺さんも、当時はまだこの大学の講師だった。
▼今ではよく耳にするドナー(臓器提供者)という言葉が「ドナア」と記されている。移植を受ける患者を指すレシピエントは「ホスト」だ。時代を感じさせるのだが、物語はそのドナアの主治医が苦悩する姿を描いて感銘が深い。妻に直接「ご主人の心臓を……」と持ちかけ、摘出のメスを執らねばならないのだ。
▼両者をつなぐコーディネーターも存在せず、さまざまなルールも確立していないなかで行われた「和田移植」。間もなく患者が亡くなると「本当に脳死だったのか」といった疑惑が噴きだし、教授への称賛は激しい非難に変わる。事件の後遺症は甚だしく、以後30年の長きにわたり国内での脳死移植は封印された。
▼その元教授が88歳で没した。法改正を経て臓器移植が珍しくなくなった時代を、彼はどう眺めていたことか。小説「ダブル・ハート」の医師は、まだ動いている心臓を取り出す行為の重みに悩み抜く。移植医療がどんなに進歩を遂げても、生命への畏(おそ)れだけは失ってほしくない。そんな感慨を抱かせる訃報である。
渡辺淳一、和田寿郎、ドナア、札幌医科大、コーディネーター、ダブル、ハート、臓器提供者、ホスト、レシピエント
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