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2011年2月17日(木)付

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ダム建設中止―流域で受け止める治水へ

いったんはゴーサインを出し、すでに本体工事が始まっていた大阪府の槙尾川(まきおがわ)ダムの建設を止める。橋下徹知事がそう決断した。本体着工後のダム建設中止は極めて異例だ[記事全文]

2011地方選―なくそう「3ない議会」

朝日新聞の全国自治体議会アンケートで、私たちに身近な議員たちの目もあてられない実情が見えた。1797の議会から漏れなく得た回答に驚く。この4年間、知事や市町村長が提出し[記事全文]

ダム建設中止―流域で受け止める治水へ

 いったんはゴーサインを出し、すでに本体工事が始まっていた大阪府の槙尾川(まきおがわ)ダムの建設を止める。橋下徹知事がそう決断した。

 本体着工後のダム建設中止は極めて異例だ。本体工事が凍結されている群馬県の八ツ場(やんば)ダムと比べると、貯水量は70分の1以下と小さいが、中止がもつ意味は小さくない。

 知事就任後の2009年9月に着工したが、建設慎重論に耳を傾け、見直しを表明した。専門家を入れた委員会で議論を重ねてきた。

 河川改修の方が費用は少ないという試算が出た。環境への影響も小さい。

 危険な場所は河床を掘り、川幅を広げる。川岸ぎりぎりに立つ家は移転してもらい、流木をせき止めそうな橋は架け替える。そうすれば、ダムをつくらなくても安全を確保できる。これが知事の結論だ。

 日本の治水の考えは「水を河道に封じ込める」。これがダム建設を支えた。だが最近は、ダム防災の想定とは異なる局地的豪雨が各地をたびたび襲う。ほかの河川でも、ダムにばかり頼らず流域全体で雨を受け止める総合治水を検討すべき時期に来ている。

 河川改修に遊水池などを組みあわせる。ハザードマップの開示や避難ルートの作成というソフト対策を急ぐ。いずれも住民の協力が欠かせない。

 大阪府は今回、治水目標を見直した。これまで府管理の河川では「100年に1度の雨(時間雨量80ミリ)」でも水があふれないことをめざした。

 ところが全域で達成するには50年と1兆円余がかかる。財政の現実を考えると、実現はむずかしい。

 そこで河川ごとに目標を見直した。槙尾川では「30年に1度の雨(同65ミリ)」に対応することにした。

 「絵に描いた餅」となりかねない高い目標を掲げるより、現実的な水準を選択したという。

 人命を守ることを優先し、床上浸水は阻むが、場合によっては、床下浸水は我慢してもらうといった発想だ。

 地元には依然、ダムを求める声がある。今後、住民の協力を得て、安全な地域づくりを進めることができるかどうか。工事のために木を伐採した山の復元や受注業者への違約金といった課題もある。きちんと解決し、中止のモデルにしてほしい。

 昨秋から、国土交通省の方針で全国でダム事業の検証が進んでいる。

 対象となった計画段階のダムが必要かどうか、本気になって洗い直さなければならない。それには、形骸化した治水目標の見直しが肝心だ。

 情報公開を徹底し、公開の場で異なる立場の人が意見をぶつけ合う。そのうえで政治家が決断することだ。

 本体着工し、検証の対象外とされたダムでも止めることはできたのだ。

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2011地方選―なくそう「3ない議会」

 朝日新聞の全国自治体議会アンケートで、私たちに身近な議員たちの目もあてられない実情が見えた。1797の議会から漏れなく得た回答に驚く。

 この4年間、知事や市町村長が提出した平均414本の議案を、すべて無修正で可決した議会が5割を数えた。修正や否決が3本以下の、ほぼ丸のみ議会も加えると8割を超える。

 議員提案による政策条例を一本もつくらなかった議会は9割に達した。

 議案に対する個々の議員の賛否を公表するところは16%にすぎない。

 「修正しない」「提案しない」「公開しない」。まるで「ダメ議会・3冠王」のような「3ない議会」が全体の4割近くを占めた。各地で議員報酬や定数の削減要求を誘発している「議会の軽さ」を実証した格好だ。

 データから浮かんだのは、首長との良好な関係の維持には腐心するのに、住民とは向き合おうとしない議員たちの姿だ。首長と議員が別々に選ばれる二元代表制が名ばかりに見える。

 なぜ、こんな議会が当たり前のように存在するのか。

 ひとつには議員の怠慢と時代認識の欠如だ。2000年の地方分権一括法を経て、自治体の仕事の大半は議会が決定権を握るようになった。行政への口利き役をしていれば仕事をしたと言われた時代では、もはやない。

 もうひとつは、私たち有権者の無関心だ。報道の少なさもあろうが、住民はあまりにも議会に目を向けてこなかった。ほとんどの人は地元の首長や衆院議員の名前は言えても、自治体議会の議長を知らないのではないか。

 議員も、その仕事の中身もわからない。別にそれでも困らない。こうした議会無視の先には「議会不要論」もやって来るだろう。

 たしかに、現状の二元代表制には、「首長VS.議会」の対立を解きにくいなどの問題点もある。両者の適度な緊張関係をどうつくればいいのか。そもそも議員定数の根拠は何なのか。国政の迷走を見るにつけ、自治制度も根本からつくり直そうという掛け声が飛び交うのも無理からぬ面はある。

 だが、いくら制度を改正しても、住民が主権者として地域の政治に関心を持たなければ同じことではないか。

 この春の統一地方選を前に、まずやるべきことを考えてみる。たとえば、仙台市や川崎市などで市民団体が議会の質疑をチェックする活動が広がっている。共通するのは「議会を批判するなら、その内実や議員の考え方も知っておこう」という思いだ。

 だれでも、すぐできることがある。地元が「3ない議会」かどうかを確かめてみることだ。気になる議案への議員個人の賛否が公表されているなら見比べよう。それから投票先をじっくり考えてみてはいかがだろうか。

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