2011年1月13日 22時57分 更新:1月13日 23時27分
漫画「タイガーマスク」の主人公・伊達直人を名乗る子供への贈り物が全国に広がっているが、各地には昔から、福祉施設の子供たちを静かに支え続ける人たちがいる。支援者は今回の「社会現象」を歓迎する一方で「一過性に終わらせず、一緒に支えてもらえればうれしい」と話す。
12日に、匿名を希望する女性と夫婦から、それぞれ文房具と現金3万円が届いた札幌市豊平区の児童養護施設「羊ケ丘養護園」。近くでラーメン店「玄咲(げんさく)」を営む吉田征夫さん(73)は85年の開業以来、毎年こどもの日の前日に、施設の子供たちに無料でラーメンを振る舞っている。60~80人が招かれ、何杯食べるのも自由。普段は大勢の一般客でにぎわう昼の約1時間半を貸し切りにする。
吉田さんと養護園とのかかわりは、今から約40年前。ラーメン店を始める前に同じ場所で経営していた洗車場を千葉智正園長(66)が利用し、話をするうちに理念に共感した。修学旅行費の足しなどにしてもらおうと、店を手伝ってくれる子供たちにアルバイト料を払うようになった。
「みんながおなか一杯になって喜んでもらえるのがうれしくて、こちらが元気をもらっている」と吉田さん。当日は朝食を我慢してきたり、成人後に花束を持ってお礼に来た子もいるという。
「タイガーマスク」が現れる以前から、羊ケ丘養護園には実名・匿名を含めて個人や企業から年間総額300万~500万円の寄付金や贈り物がある。30年近く格安で散髪してあげている理容店や、歳末の寄付を20年以上続けている老夫婦ら、地域の人たちの支援は長期間に及ぶ。千葉園長は「温かい手を差し伸べてくれることで、子供が社会から消えた存在ではないと実感できる」と感謝する。
児童養護施設などへの寄付は、道も正確に集計できていない。全国児童養護施設協議会(東京都)は「支援していること自体を明らかにしたくない人もおり、全体像ははっきりしないが、どこも多くの善意に支えられている」と話す。
12日に現金を贈った夫婦が持参した封筒には「何か地域や子供たちにしてあげたいと常々思っていました。今回の伊達直人の件は、私の背中を押してくれました」と書かれていた。吉田さんは「私たちも大それた意識ではなく、子供の笑顔が見たい素朴な気持ちでやっている。ささやかな支援を、一緒に続けてほしい」と語った。【田中裕之】