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[25915]  †ネトゲの姫にはよくあること† 【ネトゲネタ SAO二次】
Name: 数門◆50eab45e ID:3f0dd04b
Date: 2011/02/16 12:55
一発ネタっぽいけど、実は真面目に長編だったんだよ!
な、なんだってー!

タイトルはこんなですが、どうぞよろしく。
SAOにおいて、あってしかるべきなんだけど、作中では描写がうすい「あるもの」についてのおはなしなんだぜ。

―――――SAOのシステムについて――――――――――――――――――――――――――――――――
SAOのシステムですが、基本的にはWeb版ではなく、書籍版依存です。
ただそのままだと不明確なシステムもありますので、その際は改変して話を構築しています。
その時は、話の最後に注釈をいれることで説明していきます。
「この物語のSAO」では、そーいうシステムだと言う事で、受け取ってもらえればと思います。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

感想は随時大歓迎しています。
自分自身、感想に関しては筆不精なので、マメに書いてくれる人は本当に凄い。マジ感謝です。
一応原作未読の方にも通じるように書いてるつもりなので、
未読の方で通じない部分があったら言ってくれると非常に嬉しいです。

ここには投稿日時や一言などを書いていこうかと思います。
文章最適化や誤字修正などで細かい改稿は頻繁にやっていますが、それは告知しません。
話そのものが変わるような大きい改稿は告知します。感想板にも履歴残します。
※6話終わり。嫉妬団惨状。普段はボケの漆黒とツッコミの主人公が、女やネカマが関わると逆になります。主人公もなんだかんだで一般人じゃないのでおかしい部分はあります。

今しばらくは定期的に投下出来ると思います。

2011/02/17-19  第七話投稿予定
2011/02/16   第六話投稿。
2011/02/14   第五話投稿。1話と2話を微修正。
2011/02/13   第四話投稿
2011/02/12   第三話投稿
2011/02/11   第二話投稿
2011/02/10   第一話を一部改稿。
2011/02/09   第一話投稿。

※なろうにも試験的に投下。本人です。最も、あっちはこちらより数日遅れでの更新になるとは思います。微修正頻繁に行うから、それが一区切りついた確信がないと面倒。



[25915] 第一話 「始まった二つのデスゲーム」
Name: 数門◆50eab45e ID:3f0dd04b
Date: 2011/02/14 08:46

君に、黒歴史はあるか……?

俺には、ある。

あの日……猫姫が、死んだ。
俺の『†愛天使猫姫†』たんが消失してしまった。
しかも、開幕即死だ。大虐殺……そう、虐殺に巻き込まれたんだ。



いや、正確に死んだとみなさない人もいるかも知れない。
むしろ、大概の人は生きていると言うだろう。確かに……生きてるといえば生きてる。

だけど、俺は、周りが、どういおうと、†愛天使猫姫†は死んだとしか思えなかった。

彼女の分まで生きる?よしてくれ、そういう言い方は。
彼女を立派なキャラにするって誓ったのに!なんでこんなことになってしまったんだ。




頼む、夢であってくれ。いや、きっと夢にちがいない。
眼を瞑れば、あのころの楽しい想い出が脳裏に様々とよみがえ……うわああああああ!

だ……駄目だ、既に俺の中では拭いがたい痛烈な記憶に……。

男なら誰が見ても一瞬でとりこになるであろうあの愛くるしい笑顔が、聞いてるだけで癒されるほんわかボイスが、
小動物のような細々とした動きが、今となっては俺を責める記憶となる。

でも現実は残酷だ。俺の脳裏に見えるのは、その子が永久に失われた瞬間。
そして、驚愕に染められた表情だけだ。

誰のせいだ。……茅場。そうだ、茅場が、茅場のせいだ!

誰がこんなことを予想する?誰が!


……それとも、やはり俺のせいなのか。

なんでこんなことになったんだ。



あの時は、まだ全てが順調だったのに。

であった頃に想いを馳せる。今でもありありと想い出せる。

そう、あれは……あのソフト、いや、この世界というべきか。


      「ソードアートオンライン」


あの、五感全てをもってゲーム世界にダイブできる夢のゲーム。

かの超期待作の公式サービスが開始された日のことだった。



そして、俺の黒歴史が始まった日の事でもある……。




――――――――――――――――――――――――――――――
     第一話 「始まった二つのデスゲーム」
――――――――――――――――――――――――――――――







ゲーム開始日、ゲーム内の天気は、清々しいまでに快晴だった。

皆、ログインして興奮さめやらぬテンションで、あるものは狩りに走り出し
あるものは、会話に興じ、ゲーム世界を早速満喫しようとしていた。

彼女も、そのうちの一人だ。



「ねえ、お兄さん。ちょっといいですかー?」


その声に反応して男――アイレスが振り向くと、そこには可愛らしい少女がこちらを見上げていた。


「ん、なんだよ!……っとと、何か用かな?」


その少女が非常に愛くるしい容姿をしていることに気づいて、慌てて言い直す。

ネコミミのような髪型。愛らしいクリクリとした瞳。小さくて丸い顔。
ぱっと見て、まるで子猫のようだと、男はそう思った。
羽織った白いフードコートがより愛くるしさをいやましている。

簡易ステータス欄にて名前を交換すると『†愛天使猫姫†』となっている。

……名前は人それぞれだ。それに、確かに似合ってるしね。アイレスはそう考え、話を続ける.


「えっとですね?このゲームのこと、色々教えてもらえたらなあって思いまして。お兄さん、ベータテストやった人でしょ?」

「そうだけど……よく分かったね」

「いやーこれでも私、ネットゲームはそこそこやってますし♪
 街の様子既に知ってるみたいに、うろうろせずに一直線にお店向かっていってたので、そうじゃないかなーっと」

「なるほど……愛天使猫姫さんは「猫姫ちゃんでいいよー」……えっと、猫姫ちゃんはじゃあテスターではないんだ」

「えっとですね、どうしてもやりたくて、お父さんにお願いして並んでもらったんですよ。
 でも、やっぱり最初は知ってる人に聞いた方がいいかなーって思いまして」

「そっかー。でも、変わった名前つけるんだね」

「えー良くないです?これ凄いんですねー。ダイブしてもリアルと同じ顔のまんまだったからびっくりしたんですよー。
 で、よく猫っぽいって言われるから、名前もそうしちゃったんですよー」

(うそ!これが素顔!マジで?超LVたけえ!)

「え?顔デザインしてないの!」

「?あんまりデザインの仕方がそもそも分からなかったので……。えへへ……」

「ダメダメですね……」とちょっと凹む彼女を尻目に、アイレスの脳裏に様々な計算が走る。
色々な情報+色々な欲望+カワイイ女の子=らぶぷらす。

結論がでた。

「んーと、ね、それでさ、私に色々教えてもらっても……いい?」

(こ、これは結構美味しいチャンスなんでは?いや、少なくとも仲良くして損はするまい)

「う、うん。いいよ。うん。教える。色々教える。色々。たくさん。うん。組もう。PT組もう。うん」

「え、えっと……お手柔らかにね?」

ネコミミちっくな愛くるしい少女は、ちょっと困ったように、でもとても魅力的な笑顔でそう返したのだった。




      ……この時は、よし!うまくいった!って単純に考えてたなあ。




「ここが武器屋で……。これがいいかな。あ、お、俺が出してあげるよ!」

「ありがとうございますぅ!おおこの武器は……ふむふむぅ……なるほどですね」

(うーん、悩んでる姿もかわいいなあ)



      ……

『†愛天使猫姫† より PT加入申請 を受けました。 許可しますか? 』

→OK
  CANCEL


「おおっ!初めてにしては全然うまいよ!いい槍さばきだよ!猫姫ちゃんすごいよ!」

「本当ですか? きっと、アイレスの教え方が上手いからですよ!あ、呼び捨て……はまずいですかね?」

「え?いいよ。うん。全然いいよ!うん」

「良かったです。もっと教えてくれます?」

「え?うん。うん。へへ……楽しいなあSAO!」

「そうですねぇ。すっごく面白いです!いきなり友達もできたですし!楽しいです!」

(……て、照れるなあ……)




     ……楽しかったなあほんとに。




「凄いなあ。うん。凄いよ。猫姫ちゃん。うん。戦うお姫様って感じ。スジいいよ」

「んーそうですかねえ。きっと、アイレスの教え方がいいからですよ」

「そ、そんなことないって……」

「その上強いし」

「そ、そうかな」

「そうですよ!しかも色々知ってるし……尊敬します!」

「あ、ありがとう……」

(これフラグたってね?来てる……?もしかして!俺の時代!)



     ……浮かれてた。そう、何もかもうまくいくとこの時には既に信じてたんだ。
        でも、絶望にいたる道。その一歩目はすぐに訪れた。


――――――

――――

――


『私の名は茅場明彦』

『諸君らは、二度とこのゲームからログアウトすることはできない』

『HPが0になった瞬間、諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』

『解放条件はただ一つ。ゲームをクリアすること』


急に最初の街に転移させられる全プレイヤー。

唐突に言い渡される告知。

そして、手鏡が渡される。現実と同じ顔が映るその手鏡をみて。

そこで、彼は、もしくは彼女は知ることになった。現実でない、現実を。

このゲームから、逃れられないことを。文字通り、ネットゲームの住人になったことを。



――
――――
――――――


「か、顔が戻ってる!こ、これは俺だ!猫姫ちゃんはどうなっ……あれ?
 どこ?あれ?猫姫ちゃーん!?あ……」


――――――
――――
――






猫姫が『居なくなった』ことに、気づいてからの、俺の行動は……はっきりいって、遅かった。

一刻も早く、移動しないといけない。

そうしないと、大変な事になる……そんな予感が、あった。
だけど、色んなことが同時に起こって、何も考えれなかったんだ。
予感だけは、凄く嫌な予感だけはあったけど、結局のところ、俺は何一つ動けなかった。

だから無慈悲にも、その予感は、すぐに現実のものとなった。












あの時に起こったもの、それはつまり。


映ってはならないものが映っている手鏡。

あの、あってはならないものを見るような、アイレスの眼。

「ゲェッ」という、およそ女の子に向けるには不適切な声。

その直後の、凄く可哀想なものを見る眼。

そして周りの「うわあ……」という声。

どん引きしてる顔。

何かおぞましいものをみてしまったという表情。

嫌悪感と侮蔑感まるだしの空気。

そして、数十人のそれらの感情すべてを含んだ視線。



それをうけたとき、俺の中の何かが壊れ、慟哭を上げた。






「アレ」が起こったときの、俺の感情は、一言で言い表せる……。

あの時、俺は慟哭とともに、震える叫び声とともにこう思った。

叫んで、全力で走りながらこう思った。

心から、本当に心の底から、こう思ったのだ。














   い っ そ 殺 し て く れ   ……と。















「う、うわああああああああああああああ!!!!
 あああああああああああああああああああああああああ!!」









死ぬ!死んでしまう!

視線で死んでしまう!

いや、いっそ殺してくれ!

頼むから!




もう、ね……。

もう、なんつうか、なんといいますか……。



いやーもう!マジでもう!うわああああああああああ!もう!ああ!うわあああああ!!

終わったああああ!!!!!!!!!!!!



ちくそう!何してくれてんだよ茅場のアホが!

本気で何考えてんだあいつは!

手鏡とか!30分後に元の姿に戻すとか!なんとか!もう!うあああ!



茅場ァ!!!!!  性別も元に戻すならさあ!



最初から 異 性 キャ ラ 選 択 禁 止 にしとけっつーの!!!!!!!!







 俺 み た い な ネ カ マ が 苦 労 す る だ ろ ー が ! !







ボケが!

なんのために異性キャラ選択機能があるし!嫌がらせか!嫌がらせだろ!

ネカマにトラウマでもあんのか!

どーすんだよこの名前!


 †愛天使猫姫† ってどうすんだよ!


俺バリバリの男で、オタで、見た目もイケメンでもなんでもないのに!

こんなの、こんな名前で人前でれねえよ!

ああ!もう出たんだった!うわああ!

「あの見た目で姫(笑)」とか絶対言われるし!というか聞こえた気がする!

あの場所からは叫びながらガンダッシュで逃げてきたけど、どう考えても手遅れだ!

うわああああああ!

死ねる!いっそ死ぬ!

ああー誰も覚えてませんように!ませんように!

無理だよな!覚えてるよな!俺だったら忘れられない!

うあああ!

これはネカマに向けた虐殺だ!大量虐殺だ!

生き地獄だ!




ああー現実から仮想現実に逃げてきたらこれだよ!


スッゴイ可愛いキャラできたと思ったのに!

立派なネカマになろうと……





立派に色々キャッキャされるキャラにするって誓ったのに!

何故何どーしておねーさん!

一体何でこんなことに!











誰のせいだ!

茅場か、茅場のせいなのか!?

それとも俺のせいなのか?








だが、ひとつだけ、はっきりしていることがある。







 も う 、 一 生  真 の ソ ロ プ レ イ ヤ ー だ ……。






戦闘中どころか、街の中でも一人、いや、そもそも街にいれれない……。

とにかく、誰にも出会わず、誰にも見つからないように生きないと……。

全くワクワクしないかわりに、ウジウジだけは盛りだくさん♪
違う意味でハラハラドキドキする大冒険の始まりだよ!

おお勇者(笑)よ!そんな名前とはマジ勇者!本気で情けない!そんな声が聞こえてきます!

お願いだから冒険の書を消してくれ!呪いの音楽大歓迎だ!


デスゲームですかあ?

生命のデスゲームに加えて社会的デスゲームですかあ?




ちっっくしょおおおおおおおおおおお!!

























……これだから文庫版は!





――――――――――――――――――――――――――――――
第一話 「始まった二つのデスゲーム」 終わり
第二話 「好奇心は"猫"を殺す」    に続く
――――――――――――――――――――――――――――――
※原作ではプレイヤー名がローマ字もしくはカタカナ名だけで、かな漢字はギルド名だけですが、
  当作ではギルド名と同様に、いまどきのMMOよろしく、かなや漢字も名前に使えるものとします。
※原作ではトレード時に相手の名前が出ない事になってますが、当作では出るとします。
  相手が不明なトレードとか流石に不便すぎると思うので。



[25915] 第二話 「好奇心は”猫”を殺す」
Name: 数門◆50eab45e ID:3f0dd04b
Date: 2011/02/12 07:17
猫姫は犠牲になったのだ、犠牲の犠牲にな……
茅場ェ……

と思ったのも今は昔。



……あれからもう大分たった。



あの最初に出会ったプレーヤー……名前なんだっけか。黒歴史だから名前ごと忘れちまった。
奴には隠していたが、俺自身もテスターだ。ま、今ではビーターっていうらしいけどな。

はあ、なんか知ったかしたり、無理にカッコつけようとするプレーヤーを眺めて
某掲示板の話のネタにしようと思ったのになあ。

俺はあの後、まず速攻で防具屋でマントやフードを購入した。

そして、

ひたすらに先を求めた。

ひたすらに強さを求めた。

ひたすらに敵と戦い続けた。

ただひたすらに……。



――――――――――――――――――――――――――――――
     第二話 「好奇心は”猫”を殺す」
――――――――――――――――――――――――――――――



何故そこまで戦うのか。



何でも、話を盗み聞いた限りでは、テストの時はなかった石碑みてーなのが街の中央にたつようになったらしい。

まあ、ここは夜中に確認にいったから間違いない。

そして、この石碑には……このゲームで、ひいては現実世界でも……死んだ奴の名前と、死因が出ていた。



それを見た時の俺の衝撃を察して欲しい。


うおおお、冗談じゃねーぞ!


名前と死因がでるとか、冗談じゃねーぞ!


こ、これで俺がもし死んだら「名前(笑)」だけならともかく、
「ああ、名前を気にして死んだのね(笑)」とか思われるじゃねーか!ふざけんな!


しかもあながち的外れとも言い切れないのが、余計に性質が悪い。


こんなの死んでも死に切れない。
もし死んで誰かがゲームクリアしたあと、親が友人がみたらどう思われるか。
あと、もしかしてだけどニュースで犠牲者一覧とかで報道されたりとか。

--犠牲者一覧……「†愛天使猫姫†」、本名は……。とか。

俺の葬式に、知り合いや親戚が集って、猫姫という名前でプレイして死んだとか……。
女装癖があったの?とか、変態だったの?とかもし噂されようもんなら……。

ぎゃあああああああ!

想像しただけで死ぬ!
あんぎゃああああす!
たとえ死んでてもゴジラに匹敵する叫び声をあげ、その場で放射能怪物として覚醒する自信がある!

あ、違うんですよ!ちょっと気になってた隣のクラスのY子ちゃん。
俺はそんな人間じゃない!信じて!

たった7文字打ち込んだだけでこんなにも破滅するなんて!
そんな目で故人をみないで!

死ねる。

死んだのにもう一回死ねる。いっそ殺せ。死んでるけど。


その時、俺は理解したのだ。


 俺 は 絶 対 に 死 ね な い こ と を ……


元から死にたくなかったが、今後何があろうとも死ねなくなった。絶対に回避するのだ。








そして、なんとしてもゲームクリアを……



 と い う わ け に も い か な い 。



テストをやったからわかっているが、このゲームのボスは一人で倒せるようなシロモノじゃない。

何十人が、何時間もかけて倒すものだ。

ネトゲーにありがちで、SAOのボスも非常に固く、強く、理不尽で、こっちの与えるダメは1000なのに
あっちのHPは10万や100万、そのくせボスの攻撃でワンチャンスで即死なんてざらだ。

つまり、クリアを目指すには、人の中に紛れ込むことが必須。

そして、PTとは信用だ。名前どころか顔も声も隠してと言うままにはいかないだろう。
どうやっても聞かれるだろう、名前は。

そして、続けてこう聞かれるはずだ。


「何故、その名前なのか……」


大人数のトッププレーヤーの前で。
名前の、理由を説明する。

それ、なんて羞恥プレイ?

いや、そんなことしたら俺は社会的に死ぬ。

いや、察してくれるかもしれないが、それはそれで気まずくて死ぬ。

顔バレしたガチネカマとか。

そんな奴が元気に活動してるネトゲなんて見たこと無いぞ。
単に女キャラ使ってる男ってだけならともかく。
姫プレイ(※)してる奴がとか。
                               ※男に貢がせるプレイ

もしくは、万一聞かれないかもしれない。

でも名前は流石に分かるからな。


見事にゲームクリア!

MVPは†愛天使猫姫†!

みんなが猫姫ちゃんを称える。


猫姫ちゃん、ありがとう!ありがとう!

うおー猫姫ちゃーん!


その先に仁王立ちするは、完全無欠なTHE・オタク。


リアルに戻っても質問攻めだ。

「ゲームをクリアした、†愛天使猫姫†というのは君ですか?」
「†愛天使猫姫†って名前でプレイしてたってマジ?」
「姫(笑)どんなお気持ちでw」
「是非表彰を……」
「インタビューを……」

その視線の先にあるのはやはり、紛う方無きTHE・オタク。


「フヒヒッ、サーセンwww」


いやないな。うん、やっぱりないよ。
何をどう考えても表彰攻めはないよ。死ぬよ。
いや、オレはフヒヒって笑ったこと無いけど。
っていうか、見たこともないけど。


そういうわけで、ゲームクリアには協力出来ない。









絶対に死ねない。かといってゲームクリアに協力も出来ない。

じゃあ、街にこもるか。

そういうわけにもいかない。

いつまでも隠れ切れるわけもない。同じ場所にはとどまれない。

大体、狭いコミュニティ。

そんな中でずっと人目につかず生きていくなんて不可能だ。
ただ生きるのですら、最低限の収入や食事で外にでる必要はあるのだ。

俺はベータテストのなかで、それをよく理解していた。



つまり、外にでるしかないのだ。
魔物の跋扈する外に。
しかし、外にでるためには、強さが必須だ。

戦わねばならない。



SAOには『隠蔽スキル』というものがある。

名の通り、これが高いと人の視線から隠れやすくなるのだ。

今の俺には必須だ。


しかし『索敵スキル』が高いものには看破されてしまう。

テスターやっていたからしってるが、索敵スキルは、対人というより
対モンスターで効率良くモンスターを探すためにも非常に便利なスキルだ。

高LV者は、戦闘スキルよりは流石に優先しないとはいえ、
そこそこには上げてくるだろう。



なんとしても、『隠蔽スキル』を上げるのだ。

『索敵スキル』もだ。人を先に見つけて逃げられれば、見つけられることも無い。

この2つを徹底して上げるのだ。


とはいえ、それを上げるためにはLVや経験値も必要だ。

つまり、強さもある程度持っていないと上げれない。

あと……そうだな「聞き耳」スキルも欲しい。
情報収集はもっぱら盗み聞きに頼ってるしな。索敵の代わりにもなるし。

そう、やるべきことは決まった。


誰にも見つからず、ひっそりと、そして、ただひたすらに狩り続けるのだ。

幸い俺にはテスターの知識がある。

SAOのフィールドは広大だ。

第一線級の狩場で独占を!とか目指さず、二線級の狩場でもいいならいくらでもある。
ベータテスターの利点、ここで生かさずどこでいかすというのか。

誰にも見つからないように戦うのはそう難しくないはず。
フィールド自体が不人気ってのもいくつか心あたりがある。
ゾンビフィールドとかな。匂いがきついんだよ。あと見た目。食欲なくすぜ。
虫もかな。巨大Gが体験版でいなかったのは制作者の僅かな良心か、それとも後々ボスとかで出すつもりなのか。

……ま、なんにせよ一番美味しいような狩場は譲らざるをえないが。

そこはまあプレイ時間や時間帯で補えばいいことだ。



そして、俺の戦闘漬けの日々が始まった。



ミスれば死ぬ。

だが、街にはどうせ戻れない。


バレたくない。そんなもん、死ぬのと同じだ。


誰よりも、誰よりも、強く。そして、誰にも見つからずに、過ごす。




だから、俺は戦った。


ひたすらにLVUPを求め

ひたすらに敵を求め

ひたすらに戦った。

ひたすらに孤独に。











――――――

――――

――






そして半年ぐらいが経過して、今ってわけだ。














……そこには、見違えるほどの強さをえた、猫姫の姿が!


どんぐらいだろうね。
人と比較しないし、情報交換も掲示板を見るぐらいだから良く解らん。
前線にきてる奴らより、勝負にならないほど劣るということはないと思うが……。
隠れて見てての推測だから、まあ大した根拠はないが。


街へは宿屋と道具屋にたまによる程度。

活動時間はもっぱら深夜。つーか一日中。

多少効率が悪くても、俺はずっとずっと戦った。
1時間たとうが3時間たとうが8時間たとうが16時間たとうが20時間たとうがおかまいなしだ。
リアル体力なんてどうせ関係ない。脳が大丈夫なら大丈夫だ。

モンスターとの戦いの連続の日々は、そこまで怖くなかった。

奴らと戦ってるときだけは、それに集中できた。

街にいて、誰かにであうんじゃないか、見つかるんじゃないかって思う方が、
よっぽど怖かった。
隠蔽スキルの意味がない、街のほうが、ずっと恐怖で精神を蝕むのだ。

なんかの拍子でシステムメッセージが流れて
「†愛天使猫姫†さんが○○しました」とか流れちゃった日には死ねるからな。
それが周り一帯に流れるシステムメッセージだったら最悪だ。




そんなわけで、今日もまた一人で戦っていた。
チラリとマップを見る。レーダーには魔物の姿こそあれ、誰も写っていない。

……うん。やっぱり、魔物と戦っているほうがなんか……楽でいいな。

何も隠さなくて良いし。





今戦っている狩場……森フィールドは、正直そこまで美味しくはない。
敵の湧きはそこそこだが、EXPの割に強い。そして、落とす金も少ない。レアもへぼ。
なにより、湧きはそこそこでも、見通しが悪くて敵を探しにくいうえ、
遭遇時に奇襲され率が高いのだ。

だが、それでいい。
おいしすぎる狩場は人が多いからだ。

さらに今の時間は深夜。
深夜の森マップは視界が悪いってLVではない。
索敵LVをかなり上げてないと、不意打ちを食らいまくるだろう。


「ま、だからこそ、索敵あげまくってる俺が独占できるわけだが……ッと」


突進してくる猪型の2体の敵。
それにあわせ、両手に構えていた、槍を突き出す。

既に1割程に体力を減らしていた猪型の敵を貫き、敵の体力を0にする。
破砕音とともに、敵のオブジェクトが、安めのドロップアイテムとともに
破裂するように消えてなくなる。

まずは一体。

さらにその後ろから突進してくる猪をかわし、その交錯する刹那、
側面から敵の心臓部を狙い、貫く。
先程同様に、破砕音とともに、敵オブジェクトが消滅する。

……ふう。

「そろそろ、一休みしとくかな」

通しで12時間ぐらいはやってるし。
猪に猿、熊に鹿、鳥に兎……ここの森は動物型モンスターの宝庫だ。
まあ、兎は逃げるだけの敵だけど。
普段は毛皮だが、極稀にそこそこ食べれる肉を落としてとても美味しい。

もう今日は大分稼いだ。
もう少しすると、昼も近くなる。
夜の森はその視界の悪さから、超絶不人気だが、昼は多少はいる。
敵の強さはほぼ同じで視界だけ悪いんだから、そりゃ皆昼に来るって話。
でも奇襲も、単に最初の一撃を被弾するだけ。
ポット代がクソ余分にかかるだけと思えば割り切れるし。
ま、それでも一級狩場ほどの効率はでないから、基本的に過疎狩場ですけどね。

愛槍ゲイボルグを持ち直すと、ひとりごちる。

黒曜石の槍。黒光りも美しい、見事な槍だ。
敵のレアドロップだが、殺傷力も高く、非常に気に入っている。
ちなみにゲイボルグというのは俺の勝手な命名だ。
……なんだよ、文句あんのか。
戦争中の兵士も銃に名前つけるだろ、映画でみたぞ。

そう、俺はメイン武器に槍を選択した。

……はっきりいって、不人気な装備だが。

ピーキーすぎるんだよな、色々と。
リーチは随一なんだけど、要求されるテクと、汎用性がなあ……。
特に懐にはいられた時の弱さと言ったらねえ?
思わず

マジすんませんした!
今まで遠くからチクチクしてちょーしこいてました!って言いたくなるぜ。
性能の割に要求ステも決して低くないし。スキルLV以上にプレイヤースキルもいるし。
対人としちゃ強いんだけどね。リーチ長いから。どんなゲームでも射程は強さ。
ただ、対人戦なら最長のリーチといえど、対モンスターだと
別に槍以上のリーチの奴とか珍しくもねーしな。そんでSAOの戦闘は99%が対モンスターだし。
対人武器なんてほとんど選択する奴いねー。

でもそのマニアックさがたまんないんだぜ。
上手く使えば火力も高いし~。
チクチクではめ殺したりできるし~。

砥石を取り出すと、愛槍を磨く。
鍛冶屋が使えないから、こういう細かい手入れを自分でしないとな……。
鍛冶スキルは低いから、砥石の消耗も激しい。この意味でも金が無駄にかかる……。
また、オーダーメイド装備を手に入れられないデメリットもある。
こういうとこもソロのきつさだ。
でもその分愛着もわくってもんだが。

「よし、と」

一通り磨き終えると、周囲を静かに観察し、敵……そして人がいないかの気配を探る。

まあこんな時間のこんな場所にいるはずもないが……。
念のためだ。
半年間通じ、もはや気配を探るのは習慣になっている。
いつもどおり、何も無いだろうと思いつつ行ったその行動は
違和感とともに破られることになった。


(……いる。北西の方向……少し遠いが……。人の音……。5,6人か?
 なにか、えらく騒いでいるようだが……。
 こっちに向かってきているな)


どうする?
避けて通っても構わないんだが……。
いや、自分の行動スタンスからすると、そうすべきだろう。


しかし、何の変化もなく毎日を過ごすことに飽きていたのかも知れない。
何しろ半年だ。長かった。

結局、俺は好奇心に抗えず、気配のある場所に突き進むことにした。



(なに、覗き見るだけだ。見るだけ……)











しかし、それをきっかけに、俺は驚愕の体験をしていくことになる。



あとにして思えば、これが全ての始まりだった。

俺という人間の変質の、全ての始まり。


俺は忘れていたかもしれない。


そう、「SAO」は「デス・ゲーム」であるということを……。


――――――――――――――――――――――――――――――
第二話 「好奇心は”猫”を殺す」 終わり
第三話 「吾友は病気である」   へ続く
――――――――――――――――――――――――――――――
※原作では石碑では強制ローマ字のようですが、当作では名前の通りの表記になるとします



[25915] 第三話 「吾友は病気である」
Name: 数門◆50eab45e ID:3f0dd04b
Date: 2011/02/14 15:29
そこに向かったとき、あちらからも近づいてきた。
人数は4人。

俺は木の影に潜み、暗褐色のマントを覆う。
深夜の森マップにおいて、自分の隠蔽スキルの高さもあり
すぐとなりを通ってもまず気づかれまい。

そして潜むこと数分。

そうとは知らず、4人のプレイヤーが会話しながら横を通り抜けていく。

こいつら……DQNだな。間違いない。

「いやあ、アレはやばかったな」
「俺らは別にヤバくねーだろ、あいつは知らねーけど」
「おいおい、ヤバかったんじゃなくて、ヤバくしたんだろーが」
「まーな!」

茶髪長髪のリーダーっぽい奴を筆頭に、4人は
ギャハハ!と下品な笑いをたてながら通りすぎていく。



……嫌な予感がする。

俺の嫌な予感は当たるんだよな……。

別に正義漢を気取るつもりはないが……。
何があったかを見るぐらいは構うまい。

俺は、即座に彼らが現れた方向にかけ出していった。




――――――――――――――――――――――――――――――
     第三話 「吾友は病気である」
――――――――――――――――――――――――――――――






間一髪。




その状況を単語で表すならそうなるだろう。

俺は見事に、その瞬間に間に合った。

そう、人が死ぬ瞬間に。


俺がたどりついたとき、その黒ずくめのやつは
5体ものモンスターに追われていて今にも背後から最後の一撃をくらわんとするところだった。

あれはヤバイ!

(――あのままだと死ぬ!)

俺は人にバレてはいけない、という自らの縛りを瞬時に忘れてその渦中に飛び込んだ。

「伏せろ!」

声をかける。
そいつが伏せるのと、その頭上を俺の槍が通過し、モンスターを粉砕するのは同時だった。
これで残り4体か。

「そんな瀕死で何やってる!回復はどうした!」
「モッテナイ!」
「……!」

(ありえんだろ!)

そう思いながらも、体は冷静に反応。
俺はアイテム欄から素早く操作を行うと、複数の回復POTを相手に投げ渡す。

「飲め!そんで退いてろ!」

「助カル!」

ん?
そこで違和感をやっと感じ、チラッとそいつを見る。
外国人?
いや、間違いない。この風貌はそうだ。一体どこの……

ヴォン!

ちょっと考えに沈んだ俺に、敵の攻撃が額をかすめる。考え事はあとだな。

ざっと敵をみる。ある程度は敵もHPが減ってるようだ。こいつも頑張ったということか。
しかし、多対一の鉄則は、均等に削っていくのではなく一人ずつ確実に仕留めていくことだ。
やり方を誤ったな。

しかし、逆にここまで減ってるなら、俺一人でもなんとかなるな。

逃走から、殲滅へと選択肢を切り替える。

立ち止まった俺に、突っ込む勢いもそのままにクマ型のモンスター2体が手を振りかぶって攻撃してくる。
火力が高くても、こういうリーチの短い奴らは、槍のカモだ。
彼らの切り裂きのはるか手前から、額に向けて槍を突き出す。

「トライズゲイル!」

喉・人中・額の3つ急所を攻撃する神速の三段突き。余りに速すぎて同時に見えるそれは、
さる有名な幕末志士が得意としたという。剣でだけど。

このゲームでは人型や哺乳類モンスターに特効だ。目の前のクマとか。
クリティカルヒット。まだレッドゾーンの体力ではなかったが、一撃で粉砕。

すぐ槍を引く。もう一体のクマも槍の射程内。だが、あえてそいつは無視する。

猿型のモンスターが頭上から襲いかかってきたからだ。敵の攻撃が俺の肩にヒットする。

「ぬ」

チッ、攻撃を被弾してしまった。すぐさま距離を取る。
この猿型は攻撃力も低く、単体の性能は余り高くないが、中々狡猾なAIをもっていて
奇襲や陽動をよく使ったり、群れできたりする。

いやまてよ、陽動……?確か、もう一体モンスターがいたはずだ。そいつは今?

嫌な予感に、すぐ後ろを振り返る。すると、案の定、背後のプレイヤーに、頭上から猿が襲いかかっていた。

まずい。

「おい、上だ!」

だが、心配は無用だったらしい。俺が叫ぶのと、頭上から振りかかる猿が切り裂かれる音がするのは、同時だった。

「タイマンなら、大丈夫ネ」

……そこそこの強さはあるということか。安心した。体力もレッドゾーンは抜けだしたようだ。

「じゃあ、まかせるぜ?」
「OK!」

さて、あとはじゃあ、猿とクマか。2体程度なら、普通の狩りとなんら変わらないな。

俺達は危なげ無く、残るモンスターも撃破した。


――――――
――――
――


「アリガトーネ!助かった-ヨ!あなた生命の断つ人ネ!」

「いや、いいよいいよ。危なかったな。あと、恩人ね。イントネーションもちょっとなんか違う気がするし」

「お礼、するネ!お財布ギャランドウだけど、それ以外ならなんでもいってネ!」

「いやいいって。そういうの目当てでもないし。
 あと、がらんどうね。そんな毛深そうな財布はいらない」

「本当?あなた、すっごくいー人ネ!お名前教えてもらえるかヨ?」

ビシィッ

俺の表情が凍りつく。
そーきたか。まあ、そーくるわな。
うん……。

「あ……ええと……だな。俺の名前は……だな」

「あ、ちなみに拙者の名前はこうヨ!」

人に振っといて、話飛ばすな。俺の名前聞けよ。いや、聞かなくていいけど。

奴はステータスウィンドウを開き、俺に自分の名前欄を見せる。

いいねえ、気軽に名前見せれる奴は。俺なんて……。って!

ううッ、こ、この名前は……ッ。

「で、名前教えてほしーヨ」

そっちも忘れてなかったのか……。

……どうする?絶対に見せたくは無かったが……。
もしかすると『こいつなら』平気かもしれん。

いやッ、男は度胸。こいつも、公開したんだ。俺も……。

ステータスウィンドウを開き、俺の名前を開示する。
嘘の名前を教えてもいいが……その後にシステムメッセージで
本名が流れたら嫌すぎる。素直にみせるとしよう。

「んーコレ、なんて読むの?あいてん……」

「ま、まーまー!名前なんてフルで呼ばなくていいじゃないか。
 あだ名で!そう、愛称で!あと、俺の名前は絶対に人にはいわないでくれ。
 っていうか、存在を言わないでくれ。いいな」

「別によいけどヨ。でもナンデ??雪女ナノ?」

「違えよ!よくそんな民族伝承しってるね!日本人でもきょうび知らないのに!
 女の名前で、俺がそれ言いふらされたら、凍っちゃう、って部分はあってるけどな!
 って何言わせんだ!単に超恥ずかしいからだよ!」

雪女の民族伝承とは、紆余曲折あって自分の事を言いふらしたらダメ、という女と一緒に住んだはいいけど
バラしちゃって結局凍らされたという話だ。

「……コホン。テンションあげすぎた。まあ、お前も同類だろうから、分かってくれ」

「セッシャの名前、別に恥ずかしくナイヨ」

「ねーよ!」

とっさに口にだしてしまった。ああッ、俺のクールキャラ(笑)が崩壊していく。

いや、その名前でそれはないだろ。

こいつのステータスウィンドウを再度注視する。



【漆黒闇聖闘士†炎の吹雪(FireSnow)】




色々LV高すぎだろ。流石の俺も引くわ。

漆黒と闇ってかぶってるんじゃないのとか。
闇と聖が同時に名前にあるのってどうなのとか。
それがいいんだろうとか言われそうだけど、ないから。
何、聖なる力をもちつつ闇にも見込まれたとかそういう両方欲しいみたいな設定なの?
あと、闘士ってのも地味にポイント(なんの?)高いよね。
あえて剣士や騎士じゃなくて、闘士。
こいつはカタナ使いなのに闘士。
これはポイント高いよ。

さらに「†」。
俺が言うのもなんだけど、厨ニ御用達。
名前被りでもないのに、記号が入ってるのは強い。
しかも記号の中で最強(多分)とされる【†】ですからね。
単体でどうこうではないが、一気に何かのポイントが倍になるクセモノだ。

次いでセカンドネームというか、称号というか。
ていうか、これどっちが名前でどっちが称号なんだよ。
つか名前がねえんだけど。
しかも炎の吹雪って。
そのとりあえず正反対をあわせ持つ俺カコイイみたいなのやめようよ。
大体、対比は2つにしとけよ。4つは多いよ。結局、光と闇と炎と氷どれなんだよ。
全部、とかいいそうだけど。
さらに【(FireSnow)】ですよ。これって読み方でしょ?
普通ここってカタカナが入るんじゃないの。さらに英語とかワケ分からん。
それに炎のファイアはともかく、吹雪ならブリザードじゃないのか。

大体長すぎだろ。一々これ全部読むのかよ。
ファイアスノウはどこまでかかってるんだよ。
そもそも素でここまでなるか?なったとしたら重症すぎる。
わざとじゃないんだろうか?

でも、俺の勘が告げる。こいつは素だと。
素でやってる。

それにさ。なによりもさ。

これでイケメンなら華になるけどさ。

どうみてもイケメンじゃないし。

んーあれだな。外人だからって美形とは限らんよね。
なんつーか、まあ普通?南米っぽい感じ。なんとなくだけど。

それに、なんかオタっぽい。見ただけで分かる。

そうだな。まずその指穴あきグローブはやめよう。そんなのSAOにあったんだな。
ついでに、全身真っ黒なのも!肌も黒めだからって服までそうしなくても!
えっ?どっかのMMO小説の主人公も黒い?あれはイケメンだからいいんだよ。

丸メガネも四角のほうがいいんじゃないかな。
っていうか、何故SAO内でメガネ。視力関係ないぞこのゲーム。知的クールキャラ?

そういうのはちょっと君には似合わないから!そういうのはイケメン限定な。全般的に。
メガネに注目した途端、クイッって中指であげるし。
ウゼエ。

いやいいんだけどね。外見に関しては。俺自身も、オタっぽいと思うし。
この世界では、みんなオタというかコスプレイヤーっぽいから余り浮かないけども。
俺も、実は目隠しのマスクとかあるし……。
あ、いや、カッコイイからとかじゃなくて、あくまで外見を隠すためだかんね!


まあ、あれだよ、普通だったら俺もそんなに外見に突っ込まないけどさ。名前と人種の相乗効果というか。
名前の破壊力がありすぎて、狙ってやってるようにしか(ある意味狙ってるだろうが)見えないんだよな。

なんか仕草もさ、なんか知的キャラ?っていうか。ダークキャラというか。
それを意識してる感じだが……どうにも見た目からして浮いている。
そこはかとなく感じる生来の陽気さや脳天気さが全てをダメにしているというか……。

どうやったら、一行の名前だけでここまで突っ込みどころを増やせるんだ?

つうか重症すぎだろ。思わずブラックジャックによろしくしちゃうぜ。


「先生……うちの息子が、病気なんです。中学二年を過ぎても治らなくて。どのお医者さんもさじを投げて……」
「ふむ……確かに手遅れですな。私以外では直せないでしょう」
「先生!じゃあ……ッ!」
「ただし、治療費に三千万。貴方にそれが払えますかな?」
「先生、よく考えたら私にこんな息子はいなかった気がしますの」
「その言葉が聞きたかった……」


ああっ俺の脳内医師が敗北を!
「その言葉が聞きたかった……」じゃねえよ!見捨てる気満々だ!
なんという強敵……。

まあ、あっちも俺の名前と風貌に関して同じことを思ってる可能性も低くない。
突っ込んでもいいが、わざわざバトルを誘発することもないだろう。

お互いに傷つけあい、勝利者のいない戦いになること請け合いだ。
俺は明らかに恥を自覚してるが、あっちはどうだか分からないという違いはあるが……。

いや、この名前で恥ずかしくないのはダメだろ。
突っ切りすぎて逆にカッコイイとか?いや、ないな。
やっぱり、ねーよ。というわけで俺はただしい。

……ここまで0.5秒ぐらいで考えた。

まあ、こいつの名前がこんなんだから、俺もさらけ出したというのはあるが……。



「まあ、突っ込み度合いはおいておいて……事情を聞いてもいいか?」

「ジョウジ?」

「あんた外国の人だろ?なんでやってるか理由聞いてもいいか?
 それとこっちのほうが重要なんだけど……なんであんな危険な状態になった?
 あと、ジジョウね。逆にすると一気にホモくさくなるからやめようね」

片言とはいえ、やたら日本語ペラペラだし。
一応、リアルのこと聞くのはどうかと思うけど、聞いてみよう。

それに、何故あんな死にそうな目にあったかははっきりしとく必要がある。

こいつはソロじゃない。9割型、あの4人と関わりがあるはずだ。

しかも会話の内容からすると……ある種意図的な。


そして、彼の口から語られた内容は、それを裏付けるものだった。


――――――
――――
――

なるほどな……。

まず、なんでプレイしてるかだけど、まあ要するにこいつは重度のゲームやアニオタだってことだな。
日本語も、アニメや漫画をみながら覚えたらしいし。
こいつの話し言葉がさっきからやたら突っ込みどころ満載なのはそのせいか。

この名前も、漫画とかでかっこいいと思ったもの全部くっつけたそうで、本人はとても満足してるらしい。
……ノーコメントで俺は行こう。

彼個人は、中国人とアメリカ人のハーフで、アメリカで育ったらしい。
さらに祖父が日本人で祖母が南米系らしいな。色々まざってんなー。
それで、まあ生活のうちに、漫画とかにドはまりしたと。
そして、日本好きが高じてってわけでもないが祖父を頼って中三からこっちにきたらしい。
一応勉強のためという名目で。それでSAOやってれば世話はないが……。
まあこうなるって分からないもんな。しかし、どうでもいいけど俺より年下なんだな。

そんで、肝心のさっきのピンチについてだが……結論からいうと、やはりというべきか、どうもハメられたようだ。

元PTのやつらとは、一応半年前……ログイン時からの付き合いらしい。
まあ普通にPTプレイしてたところに、事件が起きたと。

ただ、問題はその後だ。どうも話を聞く限りだと、
こいつが、世間知らずで人が良いのをいいことに元PTの奴らは、かなり良いように扱ってたようだな。
PTでの役割を聞いたが酷いもんだ。囮として放りだされるわ、壁役として立たされるわ。
そのくせ戦利品は取り上げられ、EXPもほとんど吸わせられず、PT収入も分担されない。
そんな感じで、やってきたらしいな。
ただ、そんなばっかだと、当然LV差が開く。

それでこいつは、LV差を埋めるために、深夜に一人で狩りに出かけてを
繰り返していたんだが最近バレたらしくて、ついてこられたと。
そしたら、LV上げに協力してやるという名目で、アイテムに頼ったら強くなれねえだろというお題目の元、
回復POTや転移クリスタルを取り上げられ、さらに経験値が欲しいだろうとのことで、
モンスターをたくさんひきつられてこれたという。

そして、俺との出会いにつながるというわけだ。

長い長い話だったし、片言で話す上にしょっちゅう話がそれるうえに聞き取りづらかったがようやく終わった。


まあ彼は自身ではそういう、酷い扱いをうけていたという自覚は余り無いようだが……。


しかし……それをさしひいても。


胸糞悪い話だな。


はっきりいって、他人事ながら気に入らん。日本人の恥だ。
死ねばいいのにとまではいわんが、HP0になってポリゴンがパリンッってなればいいのに。


お題目はどうあれ、これはイジメっ子による、イジメの極地。
れっきとしたMPK……PK(プレイヤーキラー)だ。
オレンジネームにならない分さらにたちが悪い。

やってるほうはイタズラ気分かもしれんが、クソが。

あいつらは見た目からしてDQNだったが、聞いたら超DQNだったな。

まあコイツのこの名前に自業自得的な部分があるとはいわんが……。
でも責められることではないだろう?
俺も責める気にもなれん。楽しみ方はひとそれぞれ。別に犯罪でもないし。
だが、奴らがやったのは紛れもなく犯罪だ。ここに法律はないがな。


「嫌な話だな。それは明らかにPKだぞ。復讐したいとか思わないのか」

「復讐ッテ?」

「決まってる。PKされそうになったんだ。PKやり返すってことだよ」

「イヤ……しないヨー。殺すのはよくないネ」

「しかし……殺されそうになったんだぞ?」

「そんなのワカンナイヨ。今のボクは生きてますヨ。
 それにやっぱり、殺すのとかはイヤネー。
 ルフィも不殺(ころさず)が大事だといってたヨ」

「殺しの意志があったのは明白だと思うけどな……。
 あと、言ってたのは剣心だからね?」

確かにゴムゴムのほうでも人死なないけども。
不殺が大事っていってるのとは違う気が……。

ま、殺しまではイヤか。当たり前かもしれんが、そこまで割り切れないか。

俺も、胸糞悪いからといって、じゃあコイツの代わりに俺が殺しにいってやろう、とかそういう気は全然おきないしな……。

冷たいかもしれんが、所詮は他人事。
死にそうになったからと言って、じゃあ俺が殺すというほど義憤するほど、血に飢えてないぜ。
君子危うきに近寄らず、が基本だしな。


「じゃあどうすんだ。まさかもどるのか。また同じことになるぞ」

「フム。ユーは戻るの反対ナノ?」

「ああ、まあね。聞く限りじゃ、そんなこと繰り返してたら、いつか死ぬぜ」

「ジャー、ドスレバ、イイノ?」

「……PT抜けて、ソロになったらどうだ?」

「ソロ?ソロは危険が危ないって聞イタヨ。デッド率高いッテ」

……。突っ込まないぞ。

「まあ、確かにな。危険といやあ危険だけど。でも、そのPTよりは安全だと思うわ。
 無理ってわけでもないしな。現に俺は、もう半年以上ソロずっとやってるし」

そういうと、奴は大仰に飛び跳ねて、こっちをなにやら輝いた眼で見始めた。

「ウワオ!ソレ凄イネ!一人で生き残るセンシ!カコイイネー!忍者プレイ?」

ちげーよ!

「忍者じゃねーよ!そんな職はない!あったら人気だっただろうけど!
 とりあえずいいたいのは、ソロでも大丈夫ってことだ!まあ、不安があるなら多少なら色々教えるよ。
 人には絶対俺のことをしゃべらないならな」

「オー、貴方親切ネー!デモ、もっといい案あるヨ!ジッチャンの名にぶっカケテ!」

「……なんか嫌な予感がしないでもないが、なんだよ。
 あと、「ぶっ」はいらないし、お前の爺ちゃんは知らない」

「ユーがセッシャとPT組んであげるネ。これ最強ネ。プリキュアなれるヨ」

「お前は本気で誘う気があるのか?」

やる気あってもやる気なくすぞ。
もっと下手にでろよ。
男同士でとか、どう考えてもハートキャッチプリキュアどころか、ハートリリースプリキュアだろ。


まあいい。そういう予感はしていた。どうするかな。

一緒にいくか、いかないか。
戻すという選択肢はないし。目覚めが悪そうだ。
じゃあ放置……も、少し無責任か。どうせ、少しなら教えるっていったしな。
まあ、合わなかったらその時に別れれば義理は果たしてるだろ。

「うーん……じゃあしばらく一緒にくるか?そっちの強さにもよるが」

余り離れすぎてたら、逆にお互いのためにならん。

「LVはいくつだ?あと装備とか教えてくれ」

聞いてみたら、意外にLVはあった。ずっと深夜も戦いどおしというのは嘘じゃないようだな。
装備は……まあ普通かな。いくら邪険にしてるといっても、壁役こなす以上そこそこはないと困るってか。
ま、俺のサブレアを与えればそこそこよくなるだろ。
NPCに売るのももったいないし、けど使わないしってのがいくつかあるからな。

総合としては、このLVなら、俺ほどのLVではないにせよ、
そこらの平均的なPTよりは強そうだし。足手まといになることもないだろう。

「問題なさそうだな。その強さならここらでもやってけるし」

「ジャア……!」

「おっと、一つ警告する。言っとくが、俺はそこまで人に気を使うタイプじゃない。
 もしあんたが負担になったら、その時点で解散させてもらうがいいか?」

「イーヨイーヨ!ソレマデよろしくーネ!」

軽いヤツだ。俺と対照的だな。彼が、手を伸ばしてくる。

「ああ。ただし、何度もいうが、俺の事は絶対誰にも言うなよ。特に名前。未来永劫な。
 ま、抜けたきゃいつでも抜けていいぜ」

俺はそれに、握手で答えた。

奴も、それに笑顔で答える。









「ヨロシクお願いスルネ!

      愛   天  使    猫  姫
 『 ら ぶ り ー え ん じぇ る にゃ あ こ 』たん!」

「やめて!」






バリバリバリバリ。








フルネームだけはマジ勘弁。

つうか隠された真の名(俺による裏設定)を、なんで呼べるんだよこの野郎!

おめー最初は、あいてんしって読みかけてたじゃねえか!

ぎゃーす!











……ま、こうして、俺はPTを、実に半年ぶりに組んだのだった。










あ、そうそう。
ちなみに、奴の名前は、【漆黒】と呼べばいいそうです。

……そっちが名前だったのか。

――――――――――――――――――――――――――――――
第三話 「吾友は病気である」     終わり
第四話 「職人の朝は遅い」      へ続く



[25915] 第四話 「職人の朝は遅い」
Name: 数門◆50eab45e ID:3f0dd04b
Date: 2011/02/14 15:28
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第四話 「職人の朝は遅い」
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あれから1ヶ月がたった。


猫姫の朝は遅い。


19時前後に猫姫は起きる。一般的には夜である。
周りを見渡して、ハイディングの敵がいないかをチェック。

猫姫は、狩場そのものに、簡易ベッドやテントを立て、野宿することも非常に多い。
勿論モンスターにも見つからない、それどころか人にも見つかりにくいハイディング機能つきの高級ベッドだ。
「宿屋のほうが人との遭遇率高かったりするからね」
質問に、猫姫はそう答える。
長年の経験で得た答えということだろうか。

「でも、漆黒がきてから、楽になったよ」

そう猫姫は続ける。
「前は一人で寝てても中々安心できなかったけど、
 今は交代で見張れば安心できるからね」
そういって、ベッドに掛かっている、対人間用の迷彩を取り除くと
入り口までいって、今まで狩りを続けていた漆黒と交代する。

狩場そのものに寝所をはることにより、驚異的な滞在時間を実現する。
勿論、ただどこでもやるわけではない。
場所のチョイスには職人の熟練の知略が光る。
「どこでもいいってわけじゃないんだよ。
 同じことを考える奴はいるからさ。
 その点、やっぱりこういう墓場マップとかは最高だね。特に夜は。
 ここで寝泊りする奴はまずいないよ。寝泊まりしなくてもいないけどね」

ただ、不満もある。
最近はいいレアアイテムがでないと、口をこぼした。
「うん……まあ、出すぎても困るんだけどね。眼をつけられちゃうし。
 その点では美味しくなくて当たり前だけど、もう少し欲しいなあ」

その後も狩り続け、途中で起きてきた漆黒と、今度は2人で数時間狩り続ける。
そして、アイテムなどが持ちきれないほど狩りつくすと、夜中のうちに街へと帰還する。
ベッドはそのまま狩場においてくる。販売を終えたら、すぐもどってくるためだ。
そしてNPC相手にドロップ販売を行い、またすぐダンジョンに戻り、狩りを続けるのだ。

誰にでもできることではない。と?
「そりゃあね。敵の湧く場所、動き、全て同じ日なんて一日とてないよ。
 特に、ここのゴースト系モンスターは非常に嫌われていてね。
 何も考えず戦ってる奴の天敵さ」
ま、そこをなんとかするのが腕だけどね、と続ける職人。

しかし、ここまできついと、後継者は育つのだろうか?
「うん……。真似する人はいないだろうな。
 街を回避する必要性がないしね。PT組んだほうが安全だし。
 正直言うと、自分も最初は好きではいったわけでもないからね。
 あ、でも漆黒のスジはいいかな。彼は屋外ひきこもりの適正があるよ。
 これは彼には秘密だけどね」

ニッコリ笑う職人。普段の漆黒の名前をみる生暖かい目線からは想像できない笑顔である。
そういいいながらも、彼は2体のモンスターを撃破。
素晴らしい集中力だ。

おっと、そんなことをはなしてるうちに、珍しくここに他プレイヤーがきたようだ。
それを悟った瞬間、職人は一直線に撤退し、すぐハイディング状態に。
万一フィールドの隅のベッドまで彼らがくるようなら、漆黒を起こして即逃げ。
こなければよし、というところか。今回のプレイヤーはどうだろうか。
「あれはダメだね。見ただけで分かるよ」
職人は語る。
「6人いるけど、ここは数で来たって無意味だ。バカが一人いるだけでパニックになる。
 ほら、ゴーストに対処できてない。あいつは攻撃の瞬間まで実体化しないからね。
 カウンター以外で倒せないんだけど……
 全然タイミングあってないね。避けと攻撃が同時にできないとダメなんだよ。
 しかも、他のハイディングモンスターに気づいてない。
 あーあ、地中からゾンビモグラがきてるのに……。
 あ、ほら見事にパニック起こしてるだろ。
 あれはすぐ撤退するな。何、死にはしないだろ。
 ここらの敵は移動力はそこまで高くないからね。
 逃げれば追いつけないさ」

彼の予見どおり、そのPTは30分も持たずに撤退した。
「もうね、夜で墓場、っていうだけで、そもそも冷静さを保てない奴が多いんだよね……。
 そこにああいう敵だろ?冷静さがないとダメなんだけど、嫌らしい配置だよ。
 彼らはもうこないんじゃないかな。
 ゴーストはEXP的にも美味しくもないし。アイテムドロップ率低いしね。
 そのうえカウンター専門だから、集中力いるし、かといって多人数でくるほど湧きは良くない。
 夜は視界もきかないし。奇襲モンスターおおいしね。パワーアップするしね。
 かといって昼は湧きが弱いんだけど。
 まあ他にもっといい狩場があるさ……ってことだ。
 それが、平均的な結論だよ」
だからこそ、俺たちにとって格好の場所なんだけどね――
職人の眼は、そう語ってるように聞こえた。



寝て、すぐ狩りを行ない、街に戻り、すぐ狩場へ、
そして狩場で寝て、またおきて狩りをして、また寝る。
アイテムがいっぱいになるその時まで。

これが、†愛天使猫姫†氏の代表的な一日である。

辛くはないのか?漆黒のその質問に、匠はこう答える。
「そりゃ辛いこともあるさ。
 でも、自分で選んだ道だからね。後悔はないよ」
そう答える匠の顔には、一種の晴れ晴れしさがあった。


彼は今日もまた、一仕事を終えて眠りにつく。
ネカマ職人の朝は遅い。
きたるべく次の戦いに備え、戦場の傍らで、一時の休息にまどろむのであった。
















――――――
――――
――




「……じゃねえよ!」

……ハッ!
俺はいま、何に叫んだのだろうか。
自分の寝言で自分が起きるとは……。

いや、今、何かとてつもなくふざけた夢をみたような……。


……まあ、こんな場所で何度も寝泊りしてれば、いい加減変な夢もみるか。

墓場で起床した俺は、あたりを見渡してそうごちる。
なんてたって墓場だもんな。
最初の頃は、如何に俺といえど戦うのすら躊躇したもんよ。

だが、背に腹は変えられない。
そこしかあいてなければ、そこでやるしかないし、
そこで泊まるしかないなら、そこで泊まるしかないのだ。

でも、今日みたいな夢をみるってことは、地味にストレスうけてたんかなー。
とも思わなくもない。詳しい内容は忘れてしまったが……。


漆黒の奴も、最初こそビビってたものの、1ヶ月も経つと流石に慣れたようにみえたけど
あいつも本当は内心ビビってたりすんのかねー。

あ、そうそう。
結局、自分を読んでもらうときは「猫」って読んでもらうようにしたよ。
漆黒は「猫サン」って読んでくるけどね。
正直猫も余り好きな呼び名でないけど、まあ仕方ないかな。
愛だの天使だの姫だのよりは。真名なんて論外だ。呼んだら殺す。
あれは俺の記憶の中だけに永久封印しておくべきものだ。
消去法だ。やむをえない。


PTサーチで漆黒の位置を確認し、敵を切り払いながら進む。

……いた。
丁度ゴーストと1vs1だな。

カタナをもって、居合い抜きの……いや、アバンストラッシュ的なポーズを取り、
ゴーストの攻撃をステップできわどく横に回避、そのまま
「アロー!」とかいいながら切り裂き敵を破砕する。

……いや、いいんだけどね?

でもシステムにアシストされた居合い抜きと違って、別に威力なんか上がらないし。
素直に居合い抜きでいいんじゃないかな?
それか、普通にカウンターで避けざまに斬り合ったほうが安定してると思うんだけど。

いや分かってますよ。
アバンストラッシュは男のロマンだし。
それぐらいでどうこういいません。
ただ、そのあと、剣を血糊を払うようにして、鞘に収める様子さえなければ。
血糊なんてねーだろ。ゴーストだぞ。
ゴーストじゃなくてもねーけど。データだから。
しかも抜くときはアバンストラッシュのポーズで、しまうときは居合のポーズかよ。

いや、分かってますよ。
こいつが重度の患者だってことは。
よく分かってた。
いいじゃないか、別に迷惑でもないし。
戦いの中に遊び心を取り入れるぐらいは。

うん。問題ない。

そう心の問題を結論づけると、声をかける。

「おーい、漆黒~~。もういいぜ。調子は?」

「ア、らぶりーえんじぇるにゃあ……」
「おいやめろ馬鹿、早くもこのPTは終了ですね」

俺に殺気をださせてくれる訓練か?

「ね……猫サン、おはよーだよ。ボチボチでんがナ」

片手でやれやれのポーズをしつつ、首をふりつつ、残った手の
ビシッと尖った中指だけで、メガネの中ほどを持ち上げながら、発言する漆黒。
……突っ込むのは心の中だけにしよう。

「そうか。レアはないか」

あと、俺がコイツを凄いと思うのは、こういう言い様や
ああいうところを見つけられても全く恥ずかしそうにしないことだ。
吹っ切ってるのか、それとも素でカッコいいと思ってるので
ずっと自分の世界に浸ってるのか……。
後者な気がするが……。

なんども言うが、イケメン痩身とかならともかく、
メガネのオタ顔だからなあ……。

外見差別はよくないが……。

俺にもこういう図々しさが必要なんだろうか。
でもこうなりたいかというと全然なりたくない。


「じゃ、こっからは普通に狩りするか」

「アイヨー旦那」

いつもの共同狩り作業が始まった


――――――
――――
――


……そして数時間後。

「猫サン」

「言うな」

「姫サン」

「そういう意味じゃない」

「……とにかくヨー」

「言うな」

「まだ何も言ってないヨー」

「想像はつく。だからいうな」

「狩りを手伝って欲しいヨー」

「そんな暇があるようにみえるか?」

「メチャ見えますネ……」

く、漆黒め。
所詮は外人か。
この真剣勝負が分からないのか。

「だって、モウ3時間ダヨ?
 どんだけそのゴーストがLOVEなんだヨー」

だからメガネを中指であげながらいうなし!

そう、共同狩りをはじめてすぐ、妙なゴーストが湧いてきたのだ。
俺は何故かピンときた。

こいつは一味違うと。

だって、こいつ、俺を見た途端実体化したからな。
いや、攻撃の瞬間だけだろいつも。
なんで最初からやってんだ。

そして、だが俺はそいつを攻撃しなかった。
そいつの攻撃を待つために、槍を構えた。
いつでも最大必殺を放てるように。
場合によっては、回避せず直で放つつもりだった。

「しかもセッシャが攻撃シヨーとしたら怒るしサ」

「当たり前だ。あれは俺の敵だ」

ゴーストに対しては、カウンターで。
はっきりいって、おそらくSAOで随一の数をKILLしてるであろう
ゴーストキラーとしての俺の矜持のようなものが発動したのだろう。

そのまま、一心不乱にその時を待ち続けた。

それが、3時間前である。

「ダカラサ……もう倒しちゃえばいいジャン」

「いや、こいつは放置すると危険が危ない。俺の勘が告げてる。
 大体、迎撃はしてるからいいだろ」

そう、別に戦闘に参加してないわけではない。
この俺とゴーストの間に割って入る阿呆はすぐ仕留めている。
だが、それでも目の前の奴からは、意識をそらさない。
そらした瞬間、何かが飛んでくるに違いない。

「単になんかバグってるだけじゃないのカヨー」

「そんなことはない」

「だって、そいつ、ビクンビクンとも動かないヨ。ラメェ」

「いや、そう見えるだけだ。無心の状態だ。
 あと、ピクリとも動かないだ。ラメェもいらん」

「エット、凄い怪しいんだけどヨー」

「……いいだろう、そこまでいうなら武装解除してやる」

「エエ!それはアブいヨー!モシ攻撃されたら!」

「いや、もう決めた。あいつはバグじゃない。
 動かないなら、動かさすまでだ」

武装解除してみる。
これで、こっちの防御力はかなりヤバイことに。
ここらへんのモンスターの火力なら装備0じゃ即昇天できる。
すると、初めて敵に反応があった。

ゆらり。

「!」

……しかし、そこで止まった。
ふむ……。今は微妙に反応があった。
あれか?まだ足りないか?
そう思い、今度は武器も外してみる。

すると。

「……!」

なんと、一歩踏み出してきた。
いや、宙に浮いてるから一歩分てとこだけど。
そして、右手を付き出してくる。
ただし、非常にゆっっくりと。

……俺はおそるおそる、しかし、知らず知らずのうちに
相手と全く同じ動きをしていた。
ゆっくり右拳を突き出す。
互いに拳がクロスしてぶつかろうとする。
相手の拳が開き、パーの形になる。
こっちの拳も開き、同じ形をつくりあげる。

そのままゆっくりと進み合い、手と手がクロスする。
ひんやりした感触。

その瞬間、相手の手に力がギュッと入った。
こちらの手も、同様に力が入る。

この構図、これはまさに……ッ!!!!



「……ゴーストって握手するんデスゾ?」

「俺も今知ったよ」























この日、俺はゴーストテイマーになった。


彼の名前はゴーくんに決定。


……あれ?なんかテイマーになるために
伝え聞いた条件と違う気がするけど……まあいいや。


――――――――――――――――――――――――――――――
第四話 「職人の朝は遅い」      終わり
第五話 「ちーとはじめました」    へ続く



[25915] 第五話 「ちーとはじめました」
Name: 数門◆50eab45e ID:3f0dd04b
Date: 2011/02/16 12:52
さて、よく分からないイベントにて、ゴーくんと相方になった俺だが。


おかしいな。確か前に、夜中に情報交換掲示板とかを盗み見た感じでは
テイマーの条件ってのは、その種族を一切KILLしないこととか合った気がするが……。

久々に入った宿屋の一室で、議論を俺達はかわしていた。


――――――――――――――――――――――――――――――
     第五話 「ちーとはじめました」
――――――――――――――――――――――――――――――



「エート……あれじゃないんですかヨー。
 ゴースト、普通ノモンスターと違ッテ、イキナリから死んでルシ。
 デッドのモーションも変だしヨ?」

「そういやそうだな。
 普通の奴は死ぬときパリーンって感じだが、ゴーストはなんつうか、上に消えてくからな」

「ソソ。ほら、アレダヨ、アレ。ヘヴン状態ダヨ」

「なるほど。死んでもさまようゴーストにとっては、消滅こそが救いか……
 あと、それ昇天っていうんだからね」 

「ソダヨ!キット種族的コーカン度みたいなのがあるとスルと、
 ぶっ殺死すればするホドに、上昇していくのがゴーストなんだヨ!
 それがたった一つの真実だヨ!バーロー!」

「その考え方は一理ありそうだな。あと、そのバーローの使い方は違うからね」

こいつが前のPTで殺されそうになった理由が若干分かりかけてきた気がせんでもない。
オタ以外に今のネタいったら、普通に殺意をもたれるんじゃないのか?


普通の獣は、死こそが終わりなので、殺すほどに恨み値みたいなのがたまり
仲間にできにくいが、ゴーストにとっては生は苦痛であり、消滅こそが解放だとしたら……。
そういう考え方もありか。

「でもそれだと、誰かやったら、簡単に真似できそうだけどな。テイマーだらけになるぞ」

「ウーン。キット数値がたくさんナンダヨー。
 姫……じゃなくテ、猫サン並に虐殺しないとダメだとするトー、ほとんどいないと思うヨー」

姫といいかけたとこで、ギロリと睨んだ俺に反応して言い直す漆黒。いい子だね。
最初から言わなければもっといい子だけど。

「虐殺って……そんなもんかな」

「ダッテ、どの程度ゴースト犠牲にしたんダッテバヨ?」

ゴーストは犠牲になったのだ……。俺の犠牲にな……。俺ェ……。
じゃねえよ。最近、スルーできるようになってる気がする。良いことなんだろうか……。

「……まあ色違いやLV違いとかを気にしなければ、数千……かな。そろそろ万ぐらいかも」

日によっては一日中狩ってたし、それがヶ月単位だったしな。

それに、他のプレイヤーは普通PTだし……。一人当たりの狩り数は分散されてさらに減るか。

「ダロウヨー。さらに、ゴースト、普段でも人気ナイヨー。
 10週目にして巻末にあるぐらいの位置ダヨー。そんなクソ漫画、好きなの猫さんぐらいヨ。
 間違いなく、猫サン並に、ゴーストバスターしてるヒトいないヨー」

その例えは言いすぎじゃないか……?打ち切り漫画にだって、信者はいるんだ!
○ケットに突き抜けろだって、ツギハ○漂流作家にだって、好きな人はいたはずだ!俺は違うけど。
あ、でも「嫌いな物より、好きな物で自分を語れよ!」って台詞だけは超好きよ。

「そういわれると、そういう気もしてきたな」

「まだあるヨ。例えば、最後の条件は多分だけド、全裸でのスキンシップネ」

「武装解除しての握手ね。その言い方は危険だと思うよ」

「デモ、そのぐらいゴーストをKILLしてたら、見ただけで3枚にオロシチャウヨー。
 PTの未熟者が切っちゃうカモしれないシ。
 とすると、なおさら他のトレーナーがポケモンゲット出来る可能性は低いと思ウネ」

他にも、墓場で寝るとか。一ヶ月過ごすとか、そういう条件もあるかもと付け加える漆黒。
墓場で寝るはあるかもしれんなー。やる奴いないってのもあるし。
あと、ポケモンいうなし。トレーナーでもないし。モンスターテイマーだから。

というか、俺の突っ込み全般的に聞けし。


「なるほど……。なんとなく説得力がある気がする。
 ゴーくん。そこらへんどうよ」

一通り話おえたあと、何も無い虚空へと視線を移動させる。

すると、そこにゆっくりと人型の幽霊が姿を表してきた。
……現れただけだったが。

言葉に反応はするみたいだけど、まだ肯定とか否定とかはしてくれない。
感情を表すのも少ない。というかあるのかな。あると思うけど。表情はないからわからん。

ゴーストというが、見た目は「お化け」といったほうが早いかもしれない。
ほら、白くておたまじゃくしに手がはえたような感じで、のっぺらぼうなあれ。一応目だけあるけど。
アレの透明でもやがかかってる感じだ。

いつもなんかフワフワしてるので正確な形は俺も知らない。
普段は地面に潜ってたり透明になったりで消えてることも多いし。

「何か言ってるカヨ?」

「さっぱりわからん」

「飼い主なのに、心の伝達ができてないヨー。
 それじゃあ、もしゴーくんが、アニメみたいって言っても何もできないヨー。
 GS美神のアニメを見たいって言ってきたらどうすんだヨ」

「飼い主じゃない。パートナーだ。
 あと、自殺願望でもあるんじゃないかなと思う」

「ゴーストがもっと人に近かったらネー。美少女とか。湿気もでたのにヨー」

「そんなんだったら狩場大人気で俺が行けるわけ無いだろ……。
 あと、潤いね。湿気だと一気に汗かきデブになるから」

「デモ、結局はラッキーしたよネ。サザエにフネだヨ」

「全くだ。あと、渡りに船な。その2人そろっても別に何も起こらないから」

こいつはいつ俺の突っ込みを汲みとってくれるんだろうか?
凄く不毛な気がしてくる。

それはさておき……。
ゴーくんの能力というのは非常に便利なものがある。

戦闘能力というのは余りないのだが……。火力もあまり高くないし。
攻撃の瞬間だけ実体化といっても、1,2発で落ちる敵はともかく
何十発もやりあうような敵、それも複数相手だと常時攻撃中と変わらない。
それはつまり、常時実体化と同じような意味で、はっきりいって紙装甲のゴースト属にさせられる仕事じゃない。
テイマーできる種族でも、直接戦闘補佐という意味では最も使えない種族かもしれん。

だが、サブの能力が超便利なのだ。特に俺にとって。

まず、自在に姿が消せる。姿を出しても、モノをすり抜けたり非実体化ができる。
そして、空を飛べる。勿論、ゴーくんだけがだけど。
ゴーストだからあたりまえだが、ここからが重要だ。

なんと、俺が眼をつむったときに、彼の視界を共有することが出来るのだ!

通称視界ジャック!

これはマジつえーっすよ。ゴーストの視界っていうのは、はっきりいって暗い。暗闇の世界だ。
無機物は殆ど見えない。感知できない。
だが、代わりに生きてる者は、人でも魔物でも見える。まあデータの中で生きてるってのも変だが。
オーラ的な何かが。暗闇の世界にともされたろうそくのように、強くオーラが見えるのだ。
これがゴーストから見えてる世界なのね。
生命の灯火に吸い寄せられるのもやむなしだな。

つまり、外にでて空高くゴーくんを飛ばして、視界ジャックするとかなり広い域の魔物や人の位置がまるわかりなのだ。
地面の中にいようが、ハイディングしてようがお構いなし。生きてる(?)奴に限りだけど。
物質透過とあわせれば、本人に気付かれないようにストークしたり、観察したりするなんて楽勝だ。
意外かもしれないが、街中でも使えるんだぜ。そう私生活を丸覗きとかも……。

丸覗きしたところで、真っ暗な中でなにやら人型の炎がうごめいてるようにしか見えないけどな!
座ってるか立ってるかぐらいしかよく分からんから、全く覗きには使えん。
顔も当然分からんから、人探しとかもちょっと難しい。
だから、いやらしい事には使えません。使えると妄想した人は腹筋20回するように。
決して、俺のがっかり感を皆にも味わって欲しいというわけではない。

でも、オーラの量や色で、強い弱いはわかるし、一度これが誰のオーラって覚えればなんとなくは覚えれる。
簡単にいえば、LV高い奴は量が多いし、瀕死の奴は光弱いし、背の高い低いとかぐらいは分かるし。色もある。
と、そんな感じ。


しかし、この尋常ならざる索敵能力はなんといっても狩りに膨大な変化をもたらした。

なんといっても、魔物の位置がわかるのはでかい。
例えば、単体のEXPは高くても、湧きがバラつきすぎて、
索敵で時間とるために結果として時間あたりの効率が悪い、なんて敵は格好の餌だ。
ノーコストのボスやレア敵サーチスキルといえば、ネトゲーマーにはどれだけヤバイかわかろうもんだ。

常時ゴーくんに探してもらえばいいのだから。人を避けるのも簡単だ。
自分でも探せるし、ゴーくんに任せきりでもいい。
寝るのも楽になった。ゴーくんは眠らないから、寝てる間の監視はお手の物だ。

戦闘に参加させることは滅多にないというか、無い。余りにも紙なので。ワンチャンスで十分に死にかねない。
これが唯一の欠点だな。


が、そんなことしなくても、戦闘はとてつもなく楽になった。
なんせ、奇襲がない。逆に、奇襲し放題。
投剣スキル&槍スキルという、優秀な長距離攻撃スキルを鍛えている俺にとっては
非常に先制のチャンスがふえた。無傷で殺すこともな。
俺はいろんな事情から、奇襲されることも多く、懐に飛び込まれてからの戦闘開始とか、
槍の実力を存分にだせてるとはいいがたかった。
だが今は違う。本来は先制奇襲をかける事こそ槍が一番輝く時なのだ。
その射程もあいまって、被弾までに複数回先制攻撃ができる。

常に魔物をサーチし続けれるのも強い。
レアポップモンスターだって問題ないぜ。

特に、廃人化するほど、索敵時間のロスを嫌がり、
敵が勝手に群がってくるような大量湧き狩場を重視する傾向にあるからな。
俺のスタイルは全く逆なんで、競争相手も非常に少ないってわけだ。

もっとも美味しすぎるレアとかは、狩場全体ごと大手ギルドが封殺してたりするけどな。

でもまあ、大手の人員を繰り出す程でもないけど……みたいな狩場はよくあるもんで、
ちょっと前まで攻略組の下の下ぐらいの強さだった俺は、このペースでいけば、そう遠くないうちに
攻略組と比較しても、なんら劣らないぐらいの強さになるのではないかと想像している。
そのぐらいの速さで今は成長しているのだ。

なんというチート。

ちなみに漆黒はLVUP作業はさほど興味ないらしく、サボってることも多いのでLVは俺が上だ。
南米気質というか……最低限やってりゃOK?みたいな感じ?
空いた時間はゴロゴロしてたり妄想の研究に余念がないようである。
日本人が働きすぎなのかな?でもあんまり離れすぎると置いてくぞ。

そうなれば、上にいくほど人は少なく、出会いも少ないからな。
俺の逃避行も楽になるはずだ。


――
――――
――――――



そんなこんなで狩りをする俺たち。

「よしっ!あそこにレアモンスターの気配!いくぞ!」

「リョーかいだよ。デモ、それどういう風にみえてるノ?」

「いや、単にトカゲ型で、大きい炎だからな。他に似た形いないし、
 このフロアの平均の敵よりも大きいからな。まあそんなことより輝き方が段違いだからな。
 多分レア敵だ。すげー目立つよ、すぐ分かる」

「便利ダネー」

「おうっ!……っと、待った。ダメだ。別の方向からそこにくるやついるわ」

あれは確か、えーと風林なんとかっていうギルドだったかな、多分。
リーダーがカタナ使いだってことは覚えてる。
人型の強いオーラが、それよりちょっと弱い人型を6人ぐらいつれている。
ちょっと弱いといっても、先頭の奴より弱いっていう意味で、
一般プレイヤーからすると超強い。間違いなくあのオーラ量は攻略組クラス。
この7人PTぐらいの規模でこのぐらいのLVっていうと風なんとかぐらいしか知らん。
ぐらいしかしらんといっても、そもそも俺の知ってるギルドなんて超少数だがな!

まあ、もっと大手が7人だけ派遣してるっていう線もあるけど。
その場合、近くにさらにもうひとかたまりあったりするし、多分1PTだろう。

「彼らの到着より先に倒すのは多分無理だな。
 彼らが倒して、リポップするのをまとう。このままいくと鉢合わせだ」

「分かったヨ。コーユーとき、ユーのソロスタイルは不便ダネ。
 本来なら、先に戦闘してれば優先権あるのにネ」

「そりゃ、しょうがないな。
 そういう普通にやってたら、そもそも見つける力すら無いから考えないことだな……。
 ま、抜けたかったらいつでも抜けていいぜ」

肩をすくめる。

「しないヨー。まだ恩返ししてないからネ。それに、ヌケニンは惨殺されちゃうヨ」

「しねーよ!お前、カタナ使いじゃなかったのかよ。いつ忍者になったんだ。
 それより、2時の方向に普通に敵の微妙な群れだ。
 今なら囲まれずに撃破できる。倒してこようぜ」

「学研承知のスケだネ!」

こうして大地を蹴る、フード男と、オタメガネ。
俺達はこうして、地味に超廃人並の効率を得るのだった。

最近は、レアモンスターをたくさん狩れてるおかげで、ドロップアイテムも良い。
回廊結晶(使い捨てのどこでも往復装置)とかステータス上昇アイテムも手にはいったり。

なんせゴーストはアイテムをほとんどドロップしないせいで、非常に金銭効率が悪かった。
倒しても武器耐久度は減らないから、多少メンテ代が安いのが安心だが……。

だが、その頃のお釣りとばかりに、最近はレアも手に入ってきている。

槍も2回ほど代替えした(命名:神槍グングニル)。

もし、この調子でレアが集まるなら、誰も知らない山奥の家を買ったりできるほどお金が貯まるかも知れない。

今までは正直、買ってはなくなるという、貯金?なにそれのループだったからなあ。
NPC売りしか資金調達なけりゃそうもなる。

そう俺は未来に希望をはせると、ひたすらに狩りを続けた。

それは、ただひたすらに引きこもるために。



俺はまだ落ち始めたばかりだからな……この長いひきこもり坂をよ!




――――――――――――――――――――――――――――――
最終話 「俺達の戦いはこれからだ!」  完

愛天使猫姫(らぶりーえんじぇるにゃあこ)たんの次回作にご期待ください!





















……って、終わんねえからね!

俺達の冒険は、本当に残念なことにまだまだ続く!

まだ語ってない話がたくさんあるんだ。

そう、あの『悪夢』のような話とかな……。
次は、それに触れようじゃないか……。

早く誰かクリアして終わらせてくれないかなほんと……。

――――――――――――――――――――――――――――――
第五話 「ちーとはじめました」 終わり
第六話 「○○充は爆発しろ」  へ続く



[25915] 第六話 「○○充は爆発しろ」
Name: 数門◆50eab45e ID:3f0dd04b
Date: 2011/02/16 13:43
「ついに、ラスボスか……」
「長かったな……」
「ああ、よろしく頼むぜ、キリト。彼女さんもな」
「ええ、よろしくね。……らぶりーえんじぇる……ププッ」
「お、おい。失礼だろ、いくらこいつの名前が、らぶりー……プ――ッ。
 せめてあいてんしのほうで読んで……プッ。だ、だめだ、一旦意識しちまうと……ブハッ」
「姫(笑)さんチーッス!天使のような顔、もっかい見せて下さいよwwwあーはいはい、ちょっといい顔みてみたいーww」
「あれ?今日は女装しないんすかwww?ネカマの癖にwwwwこの顔でwwwにゃあwwウケるwww」

「…………え、え、え」

「「「「え?」」」」

「エンダアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!
 イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」











――ガバッ






ハッ……。ゆ、夢か……。

夢……だよな……?

ベッドからとびおきたものの、落ち着いて、あたりを見回す。普通の戦闘フィールド……。
そして、漆黒の驚いた顔以外は何も見当たらない。

「だ……大丈夫ヨ?猫サン?」

「ああ……なんでもない。ちょっとした夢を……ええと……」

そう、確か、なんかラスボス直前までいって、感動の「ついにここまできたな」呼び合いで……

「う、うわああああああ!!!!」

あれはァ――あの夢はァ――ッ!!!

「お、落ち着くヨ!猫サン!猫サン!?オイ姫!」

「うおおおおおおおお!!!」

黒歴史が襲ってくるゥ――!!
眼をとじろ!耳をふさげ!思考を停止しろ!全てをリセットするんだ――ッ!

……。
…………。
………………。

……フゥ。波は行ったか?

「ハァハァ……。いや……もう大丈夫だ……。なあに、よくある発作だ。ソロの時もしょっちゅうだったし」

黒歴史……恐ろしい敵だ。どんなに封印したつもりでも、ふとした拍子にフラッシュバックとなってよみがえる。
半年はもうたつのに、まだこれか……。本当に恐ろしいぜ……。

「猫サンは恐れすぎだとおもうヨー。なんで普段はそれなりに冷静なのに名前絡むと発狂しちゃうノ?
 考えすぎて肥ツボにはまってないかヨ?」

俺はお前が考えなさすぎるんだと思うが……。

「く、でもここ最近……お前とPT組んだあたりからはなかったのになあ。
 久しぶりにきたぜ。やっぱ、あんなのみたせいだな……。
 あとドツボな。まあそれでもある意味間違ってないぐらい俺にとっては嫌なものだが……」

「あー……。あのあれかヨー」

そう、あれだ。数日前のことを、俺は思い出していた。あれは苦い記憶……。



――――――
――――
――





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     第六話 「○○充は爆発しろ」
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「おい見たまえよ漆黒」

いつものゴーくんを使っての、サーチ&ですとろーいの作業中のことである。

「度しがたいの?姫……」

ギロリ

「……猫サン」

「ゴーくんでサーチしてたら、やたら敵消滅が早いとこをみつけてな。見てみたら……。
 珍しいもの……いや、人をみつけたぜ。
 ほら、望遠鏡渡すから見てみな。
 あと、そこは、どうしたの?だからね」

「hm……」

度し難いのはお前の頭だ。
いつもどおりの漆黒をあしらって、正面をみやる。





そのレンズの先には、全身黒衣の少年。だが、それが珍しいものではない。
そんな厨ニ服装、となりの奴だってやっている。顔のLVは大きく差があるが。

「あ、見るときはレンズに光が反射しないように気をつけろ。あと、可能なかぎりこっそりだ。
 あいつ、なんか知らんがこのクソ離れた距離でも妙に勘がいい。1,2回こっち向いたからな」

あれはびっくりしたぜ。だが、俺の隠密スキルも相当なもんだし、
草むらを通じてるし、何より距離が相当ある。分からないはずだ。分かったら人間やめてる。

その黒衣の少年は、凄まじい勢いで敵を屠っていく。
とんでもない速度だ。いや、恐ろしいのは回避のほうか。とんでもないね。人間かあいつは。

「おーすげーカッチョイイよ!まるで女王のように舞ってるネ!」

「ああ、まるで舞うような戦いだ。だがその表現はやめろ。ムチで高笑いが聞こえてくるぜ。
 しかし、片手剣でよくやるぜ……」

片手剣は、基本的には初心者向きだ。オーソドックスな剣技が揃ってるし、なにより盾を持てる。
盾持ちじゃない、両手槍や両手斧なんてのは基本的に、武器で弾くか避けるか……
それか受けるかしなきゃいけないから、それなりの度胸とプレイヤースキルがいる。
そこを盾で安心して防げるんだから、安定感は高い。

だがその分火力はイマイチだがな……。
しかし、あのプレイヤーには関係ないようだ。本人のプレイヤースキルが尋常じゃない。
時に弾き、時に切り裂き、完全に剣を我がものとしている。

「……今までいくつか前線の奴らをみたが、そのなかでも一番殲滅力が高いな。
 片手剣で……信じられん……LV差か?」

……LV差であってほしいというのが偽りない感想だ。
誰だって、プレイヤースキルで劣るなんて考えたくないさ。
あいつと俺が戦ったらどうなるだろうか。対人では最長のリーチを誇る槍。
普通の武器には負けないが、だが盾持ちは別だ。弾かれたときの隙が絶大だからな。
……ってあれ?

「ん?そういやあいつはなんで盾をもたないんだ?
 あ、漆黒。か盾落ちダヨ!片手だけニ!とかいったらぶっ飛ばすから」

「……」

おいなんかいわないか。俺がボケ潰ししたならいいが、もし違ったなら
俺が凄く寒いギャグを思いついただけで終わってしまう!

「マー単に必要ナイからじゃないノ?」

結局スルーされた……。ひどくない?俺はいつも突っ込んでるのに……。
しかしなんつー傲慢な答えだ。いらないから使わない。
このデスゲームにおいて、これほど傲慢な答えもないな。
だが、その言葉が真実を言い当ててる気もした。あの動きをみればそうも思う。
……実行できないぜ普通は。やろうとしても。
喰らわなきゃいいってもんじゃねーだろ。リーチがある槍や、身の軽さがある細剣じゃないんだから。

そんなことを考えながら、観察を続ける。

「まーその線が一番強いか……。
 うは、見ろよあの速度。なんだあれ。
 凶悪すぎだろ火力……あいつ一人でボス倒せんじゃねーのかよ……。ってあれ?」

「ドした?」

「いや……急に殲滅速度が落ちた……なんだろな」

うーん、もうちょっとあの芸術的な動きを見ていたかったが。お……?

「お、なんか人と合流したっぽい。
 ん?でもあれ女かな?女だな。うーん、なんか仲よさげだな……。つーか、かわいいねえあの子」

「おーマジで美人サンだよ。劣化美人ダヨ」

「でも女のほうは余りLV高くないな。顔的な意味でなくて。
 プレイヤースキルも今一か……。あと月下美人だからな。その覚え方、いつか殺されるぞ」

む……。明らかに女がトリガーとなって、殲滅速度が落ちた。男の方は完全に手加減してるな。
高LVを隠してるのかな?あんまりそんなメリットも無いと思うけど。

「はあ、いいなあ。かわいい女の子とか。癒されるぜ。俺は名前の事情もあるし、女とは縁ができそうにないからなあ」

「そ、そんなことないヨー!」

おお、漆黒が珍しくねぎらってくれる。なんか、おだてな気もするけど、悪い気はしないな。

「猫サンは、名前に関係なく縁がないと思うヨ!」

「お前は本当にブレないな」

期待した俺がバカだったよ。

「しかし、あいつらくっつきすぎじゃない?磁石かヨー?」

「いいたとえだ。漆黒もたまには的確な事をいう」

「猫サンは女と同じ極なんだよネ」

「お前的確なら何でも許されると思うなよ?」

ネカマだからってのが一つと、女と縁がない(くっつけない)って意味が一つの、見事なダブルミーニングだなおい。
もしくはこのドMな縛りプレイ中のM極もかねたトリプルミーニングか?
つかマジいい加減にしとけよ。

「ま、待って!ほら、彼ら動くみたいヨ?」

俺の本気の殺気を読み取ったのか、漆黒が慌てて話題を変える。

「何……」

チッ。確かに。おのれ、上手くごまかしたな。
遠くだからよく分からないが……。こっちに来るな。

「こっちに来るみたいだ。これは……」

「オー。ソーデスカ。ジャアここはいつもどおり……」

「うむ」

「逃げる」

「うむ」

「と見せかけて、覗きデスネ?」

「フッ、君は実によくわかってるな」

「フッ、伊達に覗きゲーのメタルギアで訓練されてませんヨ。
 覗きならお任せアレ。これデモ、ベノム兵並の注意力と向こうでいわれてたぐらいデス」

それはむしろバカにされてんじゃないのか?
あいつらは、背後から絞め落として、気絶から復活したあとも「気のせいか……」で済ます奴らだぞ。
何が気のせいなんだよ。

「こっちに向かってるな……よし、先回りして隠れるぞ。あのひらけた中庭に来る気がする。
 装備も能力値より、隠蔽値重視で換装しとけよ」

「試してガッテンの助ダヨ!」

ツッコまないぞ。


――――――
――――
――



そして15分後。

予想通り、ひらけた場所で彼らは立ち止まる。


ここらへんは敵の湧きもない。休憩所というところだ。マップにはこういうところも幾箇所かあったりする。
外でも全てが全て敵エリアではないからな。

そして俺達は、その中庭の外側の茂みの中に、迷彩を施しまくって、むしろ地面に潜るぐらいの勢いで潜んでいた。



俺は余り世間には疎いからこいつらが有名かどうかまではよく知らん。
しかし、実力者であることは、ゴーくんのオーラを通じて分かる。まあ、さっきの動きでも十分分かるけどね。

しかし問題はそれより……。


(超いい雰囲気だヨ、猫サン)

(くっ……。なんだこの悔しさは……)

小声というかwisメッセージ※で漆黒と会話する。
                              ※1:1専用会話。当人以外には漏れない

なんか黒衣の奴が、女に声をかける。それをうけて、女の雰囲気がやわらぎ、二人揃って隣に座る。
しばらく会話が続いたと思ったら、男が寝転びゴロゴロしだす。
このくっつくよーなくっつかないよーな甘酸っぱい雰囲気!なんなんだよ!



くそう……。
リアルでも格好いい奴らが、VRの中でも格好いいとかなんだよ!
リアルでもモテそうな奴らが、VRの中でもモテそうとかどういうことだよ!
間違ってるだろ!
ああ、間違ってる!
誰がなんと言おうとそんなの間違ってる!
久々に茅場への怒りが有頂天だぜ!何故リアル準拠にしたし……ッ!

くそ、リア充は爆発しろ。いや、リアルじゃないか。VR充は爆発しろ。
たすけてかーさん!

『現実を見ろ。お前には仮想現実しかない』

という言葉がきこえてきて、仮想現実に逃げたら、そこでも格差があったよ!

『仮想現実を見ろ。お前にはなんにもない』

そんな言葉が聞こえてくるよ!
逃げ場すら壊されていく!


お前、超凄腕のゲーマーがイケメンかつ彼女もちとか……そういうのは、ダメなんだぞ?
だって、リアル捨ててゲームに打ち込んでる人が、立つ瀬なくて自殺しちゃうからな。
俺とか。
まあ俺はリアルに加えて、ゲーム内立場も捨てそうなんですけども。
捨てるものがもうない。

くそう……。

そんな俺の内心の嫉妬心をものともせず、彼らはなんか、耳を澄ませばフィールドを構築していく。
言ってる意味が分からない人は、ジブリの映画をひと通り見てくるんだ。

(ねえ猫サン)

(なんだよ)

(彼らはなんテ話してるノ?猫サンなら聞き耳スキル高いから聞こえるんじゃないノ?)

(聞こえるけど……後悔すんなよ?)

(しないヨー)

(女はな、男に向かって「キリト……」って言ってる)

(デ?)

(男はな、女に向かって「サチ……」って言ってる)

(デ?)

(あとは寄り添ってる)

(デ?)

(それだけだ……)

(……マジデス?)

(マジだ)

(……聞かなきゃ良かったデース)

(俺も答えなきゃ良かったと思っている)

なんて不毛なんだろう。面白くもなんとも無いどころか、この空気。

(なあ漆黒)

(なんだヨ?)

(帰っていい?)

(この姿勢で動けるわけねーヨ)

(だって、俺はこんなにもソロをつづけてきたのに、何故見せつけられなければいけないの?)

(文章的に全く繋がってないけど、言いたいことは分かるヨー)

(俺は真面目に生きてきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けないといけないんだ)

(どっか一部分が不真面目だったんじゃないカナ。具体的には名前トカ)

(そもそもさ、おかしくね?普通、主人公がさ、異世界で強くてなんたらでとかなったら
 開幕1話でヒロインと出会って3話以内に落とすのがお約束だろ。未だに影も形もないとかなんだよ)

(猫サンも第1話の半分ぐらいまではいたじゃないかヨ)

(おいメタなネタはやめろ。世界観がおかしくなるだろ。そして自分が嫁とかおかしいだろ)

確かにそのヒロインは1話で出たし、3話どころか1話で落ちたよ。出落ち的な意味でな。

(猫サンが先に出したくせに酷いヨー)

(こんな時代もあったなあとVR充になった猫姫は、後にかたるのであった)

(現実……ジャナカタ。VR逃避はやめようヨー)

(むしろ、普通に考えればお前が美少女であるべきじゃない?そうじゃない?ピンチを救う的に考えて)

(変更するとしたらむしろ猫サンだと思うヨー。名前的に考えテ)

グハッ反論できねえ……。

(ゴーくん使って驚かせよっかなー……)

(切り裂かれて、キャー彼氏カッコイーってフラグが見えるヨー)

……。ありえる……。そうなったら、いろんな意味でゴーくんも浮かばれない。

そんな漫才してるうちに、ああ、彼らがさらに近寄ってく……。

(……俺、もう寝てもいいかな)

(あいつらも寝るみたいだし、いいんじゃないかヨ)

片や、友達以上恋人未満と甘酸っぱい空間での隣り合ってのお昼寝。
片や、何故か男2人で迷彩服で土の中で土葬チック雑魚寝……。

……。

(なあ漆黒)

(なんだヨ)

(覗きは良くないな!)

(ソダネ!)




――
――――
――――――



あの後、彼らは意外と早くエリアを移動した。
良かった。日没まで眺めるような拷問でなくて。



しかし、本当に凄いソードスキル&プレイヤースキル&フラグスキルの持ち主だったな。
キリトと呼ばれてたっけか……頭文字からSPFとでもあだ名つけてやろうかな。

俺が思うに、リアルとゲーム内充実度は反比例すべきだと思うんだ。
茅場は間違ってたよ。
朝起きたら勇者で異世界でした。それはいい。中二の夢だ。
でも、朝起きたらブサメンで異世界でした。これはダメでしょ?
ロマンがないよね、うん。

やっぱり、仮想世界へはさ、新しい自分を求めてきてると思う。
リアルじゃダメダメな感じの僕も、ゲームの中では大変身!
進研ゼミの主人公ぐらいに大化けです!みたいなね?

頑張った自分へのご褒美、欲しいじゃない?

だからさ、今からでも遅くないからさ。

名前を戻させてくれ、お願いします……。





冒頭みたいな悪夢を回避するためにもさ。


そうすれば、あんな事にもならなかったんだ。

でも、あれに比べればこんなもの、悪夢でもなんでもなかった。

この世界はやっぱりぶっ壊れてる。
俺はそれをこの先、再度体験することになった。

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第六話 「○○充は爆発しろ」      終わり
第七話 「たまによくあるこんな一日」 へ続く


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