2010年12月17日 21時44分 更新:12月17日 22時59分
金星探査機「あかつき」の軌道投入失敗の原因について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は17日までに、燃料供給配管が詰まって燃料と酸化剤の混合比率が偏り、エンジン(セラミックスラスター)の噴射方向に異常が起きた可能性があることを突き止めた。失敗後、初めて開かれた文部科学省宇宙開発委員会の調査部会(河内山治朗部会長)で同日報告した。【山田大輔】
これまでの解析によると、あかつきは、金星周回軌道投入のためのエンジン逆噴射を開始して2分32秒後、機体が回転し始めた。回転を止めるために姿勢制御装置が働き、やがて機体は非常時に取る「退避姿勢」に入った。その結果、逆噴射が予定の2割で止まり、減速が不十分なために軌道投入は失敗した。
原因としてJAXAは、燃料を押し出す高圧ガス配管の逆流防止弁が詰まり、燃焼に必要な酸素を含んだ酸化剤が相対的に過剰供給され、高温燃焼が起きてエンジン噴射口が破損した可能性など5項目を推定した。
JAXAは年明けにも、地上での再現試験や飛行中のあかつきの試験噴射を実施し、原因を特定するとともに、6年後の再投入が可能かを検討する。
高圧ガスは、燃料と酸化剤を燃焼室に送り出す役割。あかつきからのデータを調べた結果、燃料タンクにガスを送り込む配管だけに圧力不足が確認された。このことからJAXAは逆流防止弁の不具合を疑っている。
逆流防止弁は98年に打ち上げた火星探査機「のぞみ」(03年に軌道投入失敗)にも導入された。燃料や酸化剤が逆流しないための対策だ。のぞみは逆流防止弁に加え、電気信号で開閉する「ラッチ弁(遮断弁)」を念のため導入。あかつきはさらに2個を並列配置して誤作動を防ぐ対策を取っていた。
破損した可能性があるエンジン噴射口は独自に開発したセラミック製で、世界で初めて導入された。従来の合金製より軽くて熱に強いが、破損しやすい。あかつき打ち上げ後の6月に13秒間、試験噴射をして機能を確認した後は使っていなかった。打ち上げ後の軌道が正確だったため「試験後、軌道を戻すのに時間がかかるため」(石井信明JAXA教授)という。
初搭載の噴射口の状態を、センサーやカメラなどで確認する手段を今回は採用していない。17日の調査部会では、未経験のエンジンを採用したことや、試験噴射が短すぎたとの指摘が委員から出された。
【あかつき】 5月21日、鹿児島県から打ち上げられた。縦横約1・4メートル、高さ約1メートルの箱形で重さ約500キロ。太陽電池パネルを広げ、約5億キロを飛行して金星に到達。金星の周りを回る楕円(だえん)軌道を1周約30時間で周回し、金星の気象を観測する計画だった。打ち上げ費用を含めた開発費は約250億円。今月7日、軌道投入に失敗した。JAXAはあかつきが再び金星に接近する6年後、再投入に挑戦する構え。