「財政の現実が厳しい選択を求めている」。オバマ米大統領は2012会計年度（11年10月～12年９月）の予算教書で、財政赤字を10年間で１兆１千億ドル（約92兆円）減らすと訴えた。大統領はこうも語る。「我々には経済競争に備え、決定的に重要な分野に投資する責任もある」

　リーマン危機から２年半。大規模な景気テコ入れで米経済は持ち直してきた。巨額の財政出動と税収減は、11年度で１兆6450億ドルと過去最大の財政赤字を生んだ。国内総生産（ＧＤＰ）比の赤字は10.9％にのぼる。12年度もなお１兆1010億ドルの財政赤字が見込まれる。

　財政が先々まで持つのか、という市場の疑問に答える。新興国とも競り合う分野にお金を投じて、経済の足腰も強くする。この２つの目標を追うのが米国の課題だ。

　オバマ予算教書は、どの歳出を削り、どの分野に資源を投じるかのメリハリを端的に示した点で、日本にも大いに参考になる。

　赤字縮小は３分の２を歳出の削減で、残り３分の１は増税で実現する。政策的な支出の伸びを５年間凍結し、例外扱いの国防費も装備の見直しなどで抑える。連邦公務員の給与は２年据え置く。その結果、7000億ドル程度の歳出削減を目指す。

　歳出を抑えると同時に、大統領は高速鉄道や電気自動車、生物医学の研究、教育分野への重点投資を明示した。約40％と日本と並んで高い法人税率の下げにも意欲を示した。

　政府の明確な戦略は、企業の投資意欲を引き出す際の突破口だ。財政赤字減らしに気をとられすぎて、経済を伸ばし強める姿勢がおろそかになれば、税収も増えず財政の改善につながらない。経済を強くする策に力点を置く姿勢はまっとうだ。

　10年累計で日本の毎年の一般会計予算に匹敵する92兆円の赤字削減が本当にできるのか、読めない面もある。将来の高齢化を考えれば、医療や社会保障費の抑制も課題となろうが、この点で具体策はない。税収見通しが楽観的との指摘もある。

　下院で過半数を握る野党の共和党は、増税はせず歳出削減だけで１兆ドル超の赤字を減らすべきだと主張し、意見の隔たりは大きい。上院と下院で議席の「ねじれ」が生じるなか、大統領の意向通りの予算に仕上がるかどうかは微妙だ。

　それでも経済と財政で中長期の戦略を欠く日本に比べ、オバマ予算の意図は鮮明だ。10年物の米国債利回りが3.6％台に上昇するなど、先進国の財政不安がくすぶる折だ。日本も良い点を率直に見習いたい。