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社説:米の軍事戦略 脅威へ新たな連携を

 米統合参謀本部が7年ぶりに改定した「国家軍事戦略」は、北東アジアにおける米軍の強固なプレゼンスを「今後数十年、維持する」と明記するなど、アジアの脅威に重点を置いた。北朝鮮は核兵器開発のほか金正日(キム・ジョンイル)総書記から金正恩(キム・ジョンウン)氏への権力継承期を迎え、二重の意味で危うい。これに対処するには日韓の防衛協力強化も必要だという認識を示したのは、しごく妥当なことである。

 こうした米国の見解は、財政難で防衛予算縮小を迫られている台所事情の反映でもあろう。しかし、核拡散防止条約(NPT)や6カ国協議の枠を飛び出して挑発行為を続ける北朝鮮に対し、日韓と米国の新たな取り組みが求められているのも確かだ。具体的に何ができるのか、日本も真剣に考えるべきだろう。

 「自衛隊の域外での運用能力向上に協力する」と明記した点も目を引く。昨年改定された防衛大綱は、国連平和維持活動(PKO)への参加の在り方を検討事項とした。PKOや海賊対策も含めて、日本は海外での人的貢献にもっと積極的であっていいと、米国が日本の背中をそっと押したようにも受け取れる。

 米国は昨年前半に「4年ごとの国防政策見直し」(QDR)と「国家安全保障戦略」を公表した。その後で尖閣諸島や北方領土をめぐる日本と中国、ロシアとの摩擦が生じ、北朝鮮による韓国領砲撃事件も起きた。「国家軍事戦略」は、QDRなどに基づく軍事的課題や方針を記しているが、日本の安全保障にかかわる重大な出来事の後で作成された米軍文書としても注目に値しよう。

 その序文でマレン統合参謀本部議長は「変わる戦略環境」や「不確かな未来」を強調した。北朝鮮や中国、ロシアの振る舞いも踏まえた見解だろうか。アジアは波乱含みである。同盟国の日本が、北朝鮮はもとより中露の脅威に直面していることを米国はしっかり認識してほしい。

 他方、米国がアジアを重視していることも明記された。米国が軍事的優越を保つためには強固な財政基盤が必要で、経済発展著しいアジアへの関与が欠かせない。だから中国の軍備拡張や南シナ海、東シナ海などでの「膨張政策」は憂慮するが、経済的には中国やインドとの関係を大事にする--。それが米オバマ政権の戦略であることを、きわめて端的に示した文書といえる。

 イランの核開発にも強い警戒感を示した。イランの核兵器保有によって、中東諸国が我も我もと核開発に動けば、同盟国イスラエルの安全が損なわれるというのだろう。しかし、イスラエルも核兵器を持つとされる。中東激動の折、米国は難しいかじ取りを迫られよう。

毎日新聞 2011年2月16日 2時30分

 

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