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社説:「抑止力は方便」 無責任極まる鳩山発言

 不実、無節操極まる発言にあきれてしまう。米軍普天間飛行場の移設先で、沖縄県外の公約を撤回、県内に回帰した理由に米海兵隊の抑止力を掲げたのは「方便だった」という鳩山由紀夫前首相の発言である。

 鳩山氏は首相当時の昨年5月、09年衆院選の公約だった「最低でも県外」を転換し、自公政権が米国と合意していた同県名護市辺野古への移設を柱とする新たな日米合意を結んだ。その時、最大の根拠にしたのが「抑止力」である。当時の鳩山首相は「学べば学ぶにつけて」在沖縄海兵隊によって抑止力が維持できるとの考えに至った、と語った。

 ところが、最近の琉球新報など沖縄の地元紙の共同インタビューでは、これを真っ向から否定した。いわく、「徳之島も(移設先として)だめで辺野古となった時、理屈付けをしなければならなかった」「海兵隊自身が(沖縄に)存在することが戦争の抑止になると、直接そういうわけではないと思う」「方便と言われれば方便だ」「相手は沖縄というより米国だった」……。

 辺野古への移設にこだわる米政府の姿勢を崩せず、それを沖縄や国民に説明もできないため、「抑止力」を持ち出して県内移設を合理化した、というのである。

 仲井真弘多県知事が発言に強い不快感を示し、稲嶺進名護市長が「辺野古回帰の論拠がなくなった」と主張するなど、沖縄の不信と怒りが増幅している。当然である。

 鳩山氏は、首相を辞めれば次期衆院選には出馬しないと公言しながら、辞任後にこれを撤回し、母親からの資金提供について国会に資料を提出するとの約束もほごにしている。今や、発言の信頼性は地に落ちている。また、鳩山氏は現在、小沢一郎民主党元代表と連携して菅政権を批判する立場である。

 しかし、普天間移設と抑止力の問題は、鳩山氏の政治的スタンスや個人的発言、資質の問題ということで見逃すわけにはいかない。

 普天間問題の方針を大転換したのは鳩山政権だったが、当時、副総理だった菅直人氏が率いる現政権は、この方針と日米合意をそのまま引き継いでいる。今、菅政権が辺野古移設を推進する最大の根拠が「抑止力の維持」なのである。それを当時の責任者が自ら覆した影響は大きい。

 まず、鳩山氏自身が発言の真意、当時の方針転換の経緯などについて明確にすべきである。国会に参考人招致する方法もあろう。同時に、菅政権は米海兵隊を引き続き駐留させる必要性、抑止力との関係について繰り返し説明する必要がある。

 沖縄と国民の信頼を取り戻す道はますます遠くなった。

毎日新聞 2011年2月16日 2時31分

 

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