「止め男」の連合が出て来ない - 党員資格停止の政局と政界再編
小沢一郎の党員資格停止問題について、ワイドショーは相変わらず無視し続けているが、今日(2/16)の朝日の紙面は大きな扱いで取り上げている（1面・2面）。その中で、この政局に対応しての小沢一郎の発言が拾われていて、興味深く読んだ。「予算関連法案は通らないだろうな。でも、菅は退陣しない」。これは、2/14に政治塾で講演した後、「一新会」の直系議員に語った言葉である。記者が議員から聞き取ったものだが、小沢系の場合は政治的思惑でのリークの要素がないので、ストレートに小沢一郎の胸中や意向が伝わる情報となる。小沢一郎は、予算関連法案は通らないと見通しを立てている。これは、社民党が税制改正法案と特例公債法案に反対すると予想しているという意味だ。小沢一郎は、小沢系の議員に対して、予算関連法案の成立に協力するよう指示を出していて、予算を党内政局の人質にする作戦を退けている。そのため、執行部は、予算では小沢系の妨害がないという想定と自信の下で、小沢一郎への処分に強気に出ている。つまり、3月末までは小沢一郎は貝の殻で、どんな仕打ちにも抵抗せず甘受と忍従の一手なのである。しかし、社民党との折衝では暗礁に乗り上げるに違いないと踏んでいる。すなわち、政局は4月以降に来るのだ。統一地方選で惨敗し、特例公債法案を野党に人質に取られて攻められたとき、菅退陣か総選挙かの政局になるのだ。
予算関連法案での小沢系議員の造反はない。本会議欠席で徒党が執行部に弓引くハプニングはない。そうではなく、社民党が反対で通過が頓挫する。そういう推移と状況を小沢一郎は直系議員に説明している。いわゆる問題の「予算関連法案」には何本かあって、�‘知禪�債法案、�∋劼匹蘯蠹�法案、��所得税法等改正案、�ご慇把衫�法等改正案などがある。�△砲弔い討蓮⊆厂嬰泙漏亮造忙神�に回る。��が法人税減税に関わるもので、福島瑞穂が強く反対の意思を示していて、��の年度内成立は困難と見られている。問題は�，如△海譴�赤字国債発行に関わり、成立させられないと、4月から税の純収入だけで歳出事務をカバーしなくてはならない事態に陥り、夏までの法案成立がない場合、予算執行の停止に直面すると言われている。まさしく人質で、どこかで野党の要求を受け入れて成立を図るしかない。福島瑞穂は、予算後の国会での労働者派遣法改正を取引として睨んでいるのかもしれない。いずれにしても、4月は地方選の結果が次々と出て、開票のたびに民主党惨敗の報が続く。支持率が15%を切る世論調査が追い討ちをかけ、菅政権の「死に体」が窮極に達するのは間違いない。党内からも菅退陣を求める声が出るし、野党は審議拒否と首相問責を含む攻勢に出て、解散へと詰める国会情勢になるだろう。マスコミの政治報道も、野党の解散戦術を叩かなくなる。
この国会で不審で不満なのは、自民党が借りてきたネコのように神妙で行儀がいいことだ。通常、2月後半の予算委ともなれば、閣僚の不祥事を握った野党が爆弾を投下し、立ち往生と審議中断の見せ場を作り、週刊誌がここぞ商機とばかり暴露記事で攻め立て、予算案通過と引き換えに閣僚のクビを差し出せと迫るものである。今年はそれがない。自民党が多数の参院に審議が移れば、何か「戦略兵器」が飛び出すのだろうか。これまでの2週間は、国会の自民党は与党同然で、与謝野馨と菅直人の「税と社会保障の一体改革」の答弁に粛々と頷き、消費税増税と社会保障削減のプロモーションのために一役買っていた。消費税増税パラノイアのマスコミは、この品行方正な自民党の側面支援ぶりに目を細め、報ステの一色清は、「去年の自民党とは見違えるようで、噛み合った議論をしてますねえ」と絶賛していた。本来、自民党は、先物取引会社からの迂回献金を始めとする与謝野馨の資金疑惑を衝き、クビを取りに行かないといけないのであり、参院で与謝野馨を問責にかけ、そのまま首相問責へと雪崩れ込み、世論の風を背に、解散に詰める戦略を描くのが当然なのである。押しまくって、それでも居座る菅直人に向かって、統一地方選で民意の審判を仰ごうじゃないかと吐き捨てればよいのだ。本気で政権を奪取したいのか、消費税増税で大連立したいのか、谷垣禎一と自民党の連中の頭の中は全くわからない。
小沢一郎の党員資格停止問題に戻って、一点指摘しておきたいことがある。いつもはこの政争劇で「止め男」で出て来る役者が、なぜか今度は引っ込んだまま寝ているという不具合だ。連合の古賀伸明である。昨年からの小沢政局の悶着の度に、菅直人と小沢一郎の間に割って入り、党内結束と融和をオーナーの立場で幹部たちに諭し求めてきた。これまでの「止め男」の実績から考えれば、常任幹事会で仙谷由人と平田健二が怒鳴り合いをする修羅場の前に、タイミングを見計らって官邸に馳せ参じるとか、総評会館に岡田克也を呼んで説得して宥めるとか、オーナーらしい剛腹な立ち回りで諍いを収め、両者の党内抗争の発展を抑えてきたものである。菅陣営の一部であるマスコミの視線からすれば、連合の調停は小沢一郎への憐憫が過剰と見えるものだった。印象として、昨年までの連合の態度は、孤立無援で四面楚歌の弱者となった小沢一郎を庇護する傾向があった点は否定できない。ところが、年始を境にして、消費税増税の容認に転じた連合は、菅政権を支える主柱としての立場を露わにし、政策軸で対立する小沢一郎と徐々に距離を置くようになった。連合の新自由主義への転向であり、小沢一郎の切り捨てを決断したのである。古賀伸明は、民主党から左派を一掃する覚悟を決め、連合の組織を嘗ての日経連の位置にしようと右旋回を始めたのだ。名目は労働団体だが、実質は経営団体。経済界の労務を取り仕切るヘッドクォーターである。
一昨日(1/14)、NHKがニュースで放送した世論調査の中で、興味深いデータが出ていた。「『ねじれ国会』をどう打開すべきだと思うか」の問いに対して、� 崕圧脹，硫鮖供α軈�挙で改めて民意を問うべきだ」が45％、�◆嵳薪泙般酖泙�政策ごとに連携すべきだ」が32％、��「与党と野党の一部が連立政権を組むべきだ」が8％、�ぁ嵳薪泙伴�民党が大連立政権を組むべきだ」が5％、という結果になっている。昨年も同じような設問があったと思うが、�△痢崟�策毎のパーシャル」を求める回答が他を圧して多かった。現在は、世論は解散を望んでいる。また、「衆議院の解散・総選挙の時期をどう考えるか」の質問には、� 嵳住三討�成立した後、今年の春ごろに行うべき」が25％、�◆崢名鏐餡颪�終わる今年の夏ごろに行うべき」が22％、��「今年の年末までには行うべき」が17％、�ぁ嶌突菁�の任期満了まで総選挙を行う必要はない」が24％、の回答が返されている。要するに、一刻も早く解散しろということで、昨年は「半年先」とか様子を見る声が多かった。ところが、政党支持率の方を見ると、民主党も（21.9％→20.2％）、自民党も（22.0％→21.7％）も、二党とも支持率を先月より下げていて、支持なし（40.7％→42.1％）が増えているのである。この世論動向は、明らかに名古屋と愛知の首長選の結果と符合するもので、現在の国民の政治意識の特徴がよく表出されている。民主党も自民党も支持していない。しかし、今すぐの選挙を求めている。これは、一言で言って、政界再編を求めているということである。
同じ実態は別の調査でも裏づけられ、Yahooの最近のデータでは、「あなたが望む次の政権の枠組みは?」の設問に対して、「政界再編による新たな枠組み」と答えた割合が45％という結果が出ている。昨年、星浩や岸井成格らマスコミは、参院選で菅直人が大敗してねじれ国会になった状況で、大連立で政権の安定を確保し、消費税増税を断行すべしと旗を降り、世論をその方向へ誘導しようと画策したが、彼らの謀略の思惑は半年で挫折した。Yahooの「政界再編」を求める世論の中身は、河村たかし・橋下徹の地域新党があり、そして小沢一郎待望論がある。ネットの調査は対象に偏りがあり、マスコミの調査よりも信頼性が欠ける点は否めないが、一つの傾向を示す指標であるのは間違いない。この「政界再編」を求める要求は、民主党政権に対するアンチが強く、一昨年に民主党に投票して裏切られた憤懣が数になっている。今後、この世論の傾向はますます強くなり、政治に関わる者たちの背中を押し、「政界再編」の像を具体化するよう迫り、解散圧力を永田町とマスコミに届かせるだろう。私は新年の時点では、自公が問責を連発しながら菅政権を予算案で追い詰め、予算関連法案の通過と引き換えに、3月末に菅直人退陣に持ち込むと政局を予想していた。前原誠司に首を挿げ替えないと民主党は地方選を戦えず、連合と党地方組織が菅直人に引導を渡すと考えていた。世論調査の支持率も、もっと急速に低落すると判断していた。現実には、マスコミの延命注射で菅直人は息を繋ぎ、そして、わずか1か月半で政界再編が政治のメインストリームになる構図が固まった。3月末ではなく4月末から5月にかけてが政局本番の情勢になった。この誤算は、言い訳になるが、自民党が全く倒閣の意思と能力を持っていなかった点が大きい。本来、政権党の支持率が下落すれば、シーソー・バランスの原理で野党の支持率が上昇するのが自然だが、自民党は菅政権と付き合って一緒に支持率を下げている。なぜか。それは、政策が同じだからだ。政策に対立軸がなく、国会で与党を批判する野党の役割を果たしていないからである。
