昨日の日経夕刊や本日の朝刊5面で報じられているように、日本政府(財務省)は欧州金融安定化基金(EFSF)が発行する債券をまとまって購入するようです。EFSFはもちろん欧州全体のための基金ではありますが、当面アイルランドがまずその基金を使うことになるため、報道では「アイルランド救済」となっています。 これによって日本政府は次の3つのポイントを同時に満たすことが出来たように思います。 ・ 欧州債務危機に手を差し伸べるという国際的なプレゼンスの獲得、とりわけ中国が欧州個別問題国へかなりどろどろした交渉チックな話の持っていきかたをしている(一部ではスペインに中国軍艦の寄航を要求したとか報じられました。真偽のほどは定かではありませんが)のに対し、日本が欧州での救済の枠組みにそのまま乗る形での援助をするということで彼我の「国家としての品格」の違いを印象付けたこと。 ・ ドルに偏っている外貨準備の分散を自然な形で実現していくきっかけとなりうること。 ・ 間接的な通貨介入となりうるにもかかわらず、欧州側から文句のつけようがないこと。 それにしても、この件でリーダーシップをとったと思われる現在の玉木財務官は故中川昭一氏が財務大臣当時2008年のG7で酩酊会見事件を起こした直前にレストランで同席していた(当時は国際局長)方ですね。あの時は、ちょうど世界の金融界が危機の瀬戸際でウクライナやラトビアが困窮を極めた時期。このタイミングでの1000億ドルのIMF向け緊急融資構想(「中川構想」とか言われるのだそうです)は世界から高く評価されましたが、この辺の舞台を作ったのもおそらく玉木さんでしょう。今回の案件の出し方もある意味インパクトがあり(ポルトガルの入札直前であり、いろいろ欧州周辺国の借り換えが今後続いてくるタイミングですから)、心憎い限りです。 今後EFSFなどで救済がらみの資金はどんどん必要になってくることは明らかですが、今日の日経新聞でのコメント「もっと買いたい」(財務省筋)というニュアンスからも、この後も積極的に買い取りに出ることが見込まれます。今回は発行額50億ユーロのうち20%程度ですが、実はこのEFSF債、機関投資家のあいだでは評判はいまいちだったと聞いています。というのも初めてのスキームなので「水準感」がよくわからないというもの。つまり、EFSF債は欧州各国政府の参加比率に応じた共同保証になるのですが、そこにおける必要クレジットスプレッドについてきちんとした目線が定まらなかったということです。たしかにトリプルAは取得するものの、今の状況ではドイツ国債のトリプルAとイタリアやスペインなども含んだ保証が信用のバックアップとなっているだけのトリプルAとは、同じトリプルAでもスプレッドに差があってしかるべきであり、その意味で日経の書いているようにそう単純に「運用商品として魅力がある」とは言い切れない。しかしながら、個人的意見を言わせて貰えば、日本の機関投資家としてもう少し気合の入った対応が出来ないものなのか?とも思いました。機関投資家というのはお金をある意味「社会的に」「有効に」使う使命も帯びているわけですからね。まあ最終的には自分のお金じゃないのでなかなか難しいのはそのとおり(説明責任という意味で)。その「ふがいなさ」を見た日本政府が「男気」を出したという感じですかね。結果として日本の外貨準備で買うという行為で、日本政府からもお墨付きがついた、ということになりますので、これも一種の信用補完といえなくはない、という意味でも欧州向けサポートになります。 昨日段階での分析では、既存のユーロ建て預金部分を使った範囲にとどまるため、為替市場へのインパクトはほとんどない、という感じでしたが、これからも積極的に買取を進めるとするならば、流動性が比較的落ちていた欧州国債市場と為替市場においてそれなりのマーケットインパクトを伴うものとなるかもしれません。もちろん、この程度で周辺国のスプレッドが劇的に縮むとはおもいませんが、為替も含めて少なくとも「口先介入」としての意味は大いにありそうです。 今朝のWSJの記事では、欧州はもともと4400億ユーロの救済基金の増額を(スペインも意識して)検討しているとのことであり、そうなれば、日本にますます期待がかかります。まあ外貨準備の範囲でいろいろやる分にはたぶん良いことのほうが多いように思いますね。 なお、まったくの余談ですが、EFSFとぐぐると真っ先に出てくるのはガンダムの地球 |
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タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
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欧州ソブリン危機に国民の税金使って首を突っ込む民主党政権
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ロンドンで怠惰な生活を送りながら日本を思... 2011/01/13 18:04 |
内 容 | ニックネーム/日時 |
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EFSF=国家版サブプライムRMBS・CDO? |
LaTour 2011/01/12 16:25 |
地球連邦軍 i/o 地球防衛軍 ですね |
はまmt 2011/01/12 17:38 |
はまmtさん、おっしゃる通り「地球連邦軍」です。すみません。ご指摘ありがとうございます。 |
厭債害債 2011/01/13 06:16 |
LaTourさんコメントありがとうございます。うーん、構造的にはちょっと違うように思います。周辺国家の負債は裏付けがないので余計悪い?のかもしれませんが、まあ下敷きとなる部分とか枠組みの部分に「ダイナミズム」がある点が多少異なるでしょうか。 |
厭債害債 2011/01/13 06:24 |
失礼しました、現況の最適解なのでしょう。 |
LaTour 2011/01/16 11:49 |
LaTourさん、どうもです。まさに儲からなくなった政府間の融通手形というのは言い得ているかもしれませんね。お互いに傷をなめあい痛みを先送り・・・ |
厭債害債 2011/01/21 00:11 |
いいですね、久方ぶりの男気という言葉を聴き、萌えて(いや燃えて)しまいます。ここはひとつこれに答えて郵貯さんも年金さんも、生保さんもわけのわからん外債や米国債よりも、このあたりを買い占める勢いで、発行も打診して男気買いをしてほしいものです。狙うは日米欧の国債発行高、三すくみ状態です。 |
karu 2011/01/24 23:15 |
karuさんどうもです。さりげなく複数の効果をねらったものかと思いますが、政治の世界ですからなかなか民間のロジックに素直に落としこめるかどうか、というところでしょう。 |
厭債害債 2011/01/31 03:42 |
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