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2011年2月16日(水)付

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鳩山氏の発言―「方便」とは驚きあきれる

「最低でも県外」という公約を果たさなかったばかりか、その理由として米海兵隊の抑止力を挙げたのは「方便」にすぎなかったとは。沖縄に対する背信をさらに重ねる行為以外の何もの[記事全文]

高速道値下げ―これでは「使い逃げ」だ

この「値下げ」を喜ぶわけにはいかない。国民生活へのしわ寄せが大きいうえに、長続きしないことも目に見えているからだ。菅政権が今春以降の高速道路の新料金について方針を固めた[記事全文]

鳩山氏の発言―「方便」とは驚きあきれる

 「最低でも県外」という公約を果たさなかったばかりか、その理由として米海兵隊の抑止力を挙げたのは「方便」にすぎなかったとは。

 沖縄に対する背信をさらに重ねる行為以外の何ものでもない。

 鳩山由紀夫前首相が沖縄タイムスなどに、米軍普天間飛行場の移設問題に対する政権当時の取り組みを語った。

 鳩山氏は昨年5月、自公政権が決めた名護市辺野古案に回帰した際、「学べば学ぶにつけ」沖縄に海兵隊が存在することで米軍全体の抑止力が維持できるという思いに至ったと説明した。

 しかし、インタビューでは「辺野古に戻らざるを得ない苦しい中で理屈づけをしなければならず、考えあぐねて『抑止力』という言葉を使った」と、後付けの理由であることを認めた。

 沖縄県民はすでに県内移設ノーの固い民意を示しているが、今回の鳩山発言で政府への不信を一層深めるだろう。辺野古移設を確認した日米合意の存立を揺るがしかねない事態である。

 菅直人首相は基地負担の軽減や経済振興策を通じ、沖縄との信頼関係を築き直したうえで、何とか地元の理解を得たい方針だが、その道のりはさらに険しくなった。

 鳩山発言への見解を問われた菅首相は「沖縄の海兵隊を含む在日米軍全体として、我が国の安全、地域の安定に大きな役割を担っている」と繰り返した。このような紋切り型の言葉が沖縄県民の心に届くはずがない。

 菅政権が引き続き日米合意の実現を目指すというなら、海兵隊の抑止力や沖縄駐留の必要性について根本から、丁寧に説明し直すことが不可欠だ。

 今回、改めて鳩山氏の稚拙な政権運営の実態が浮き彫りとなった。

 成算のないまま沖縄県民に期待を抱かせた。政治主導の看板とは裏腹に、外務・防衛両省の壁を突き崩せなかった。首相として関係閣僚を束ねるリーダーシップも発揮できなかった。対米交渉にも本気で当たらなかった――。

 鳩山氏は、政治家としての言葉の軽さをこれまで繰り返し露呈してきた。氏個人の資質に最大の問題があることは言うまでもない。しかし、そこに民主党政権の抱える構造的な欠陥が凝縮して表れている側面も否定できない。

 言いっ放し、やりっ放しではなく、錯綜(さくそう)する利害やもつれあう議論を解きほぐし、説得し、ものごとをまとめ、決めていく能力の不足である。

 菅首相は一連の政治プロセスを深刻に省み、二度と失態を繰り返さないよう教訓をくみ取らなければいけない。

 今年前半に予定される訪米時には同盟深化の共同声明も発表される。

 菅首相の強調する「日米基軸」を、沖縄に基地負担を強い続ける免罪符にしてはならない。今度こそ本気で沖縄の負担軽減に向き合うべきである。

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高速道値下げ―これでは「使い逃げ」だ

 この「値下げ」を喜ぶわけにはいかない。国民生活へのしわ寄せが大きいうえに、長続きしないことも目に見えているからだ。

 菅政権が今春以降の高速道路の新料金について方針を固めた。「平日上限2千円」や無料化区間の追加など、全体として値下げを進める。

 高速利用者には喜ばしい政策のように見えても、問題が多い。自動車を高速道路に誘導し利用を促せば、渋滞を引き起こして交通や物流を阻害し、温室効果ガスの発生を増やしかねない。地方の鉄道やフェリーなど公共交通網の営業にも深刻な打撃を与えることが懸念されている。

 何より問題なのは、持続可能性が極めて乏しいことだ。制度を維持・拡充するために、今後も巨額の予算を毎年つぎ込み続けられるのか。財政再建をめざす菅政権が進める政策とはとても思えない。撤回すべきである。

 「高速無料化」は民主党が野党時代からマニフェスト(政権公約)に掲げてきた目玉政策だ。簡単にはその旗を降ろせない、という事情も理解できないわけではない。

 だが、いよいよ公約そのものを見直すべきときに来ているのではないか。2009年総選挙の政権公約では、12年度に年1.3兆円の税金を投入して原則無料化する、という姿を描いていた。もはや、それが実現不可能であることははっきりしている。

 にもかかわらず、菅政権は新年度も無料化の「社会実験」を続ける。前年度を200億円上回る1200億円の予算額を計上し、無料化区間を広げるという。その意図がわからない。

 自公連立政権が導入した「休日上限1千円」は、この3月末で期限切れの予定だったが、それも続ける。加えての「平日上限2千円」である。

 なぜ、手品のような大盤振る舞いが可能になるのか。種明かしは簡単だ。自公政権時代の08年、深夜利用向けなどの割引のために10年間分の財源が用意された。その財源の残り約2兆円を流用し、2〜3年で使い切ってしまおうということなのだ。

 これでは、当面の人気取りを優先し、あとは責任を負わないやり口としか思えない。食い逃げならぬ、「予算の使い逃げ」ではないか。

 将来、追加財源を投入しなければ、料金は再び値上げされることになる。それでは利用者も、路線が通る地域の事業者も混乱することだろう。

 迷走を重ね、制度の持続可能性さえも自ら封じてしまったこのような施策は、まともな政策とは言えない。ただでさえ政府予算案の行方は不透明だというのに、これでは後ろ盾とすべき国民の支持は取り付けようがない。

 国民に説明がつく内容に修正しない限り、疑問も反対も消えない。

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