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天声人語

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2011年2月15日(火)付

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 作家の向田邦子さんは、良寛さまと聞くと「どうも胡散(うさん)くさい、二重人格のようなもの」を感じたそうだ。「子供と手まりをついて日がな一日遊んでいるように見えながら、結構生臭いこともなすっていたような気がする」と随筆にある▼理由がおかしい。小学生の向田さんは、親に隠れて「大人の本」をよく読んだらしい。用心のため、手元に置いていた児童書が「良寛さま」だったというのだ。無欲と漂泊の人もとんだ巻き添えである▼民主党の役員会が決めた小沢元代表への処分案は、無難に取り繕う点で「良寛さま」に近い。菅首相や岡田幹事長は、除籍か離党勧告という「大人の本」をこっそり読んでいたはずなのに、一番軽い党員資格の停止でお茶を濁すらしい▼無論、強く出れば親小沢の議員らが黙っていまい。首相には、党分裂や総選挙を覚悟で脱小沢を通す度胸はなく、処分せずに結束を演出する悪知恵もなし。リーダーの及び腰で、党のメリハリはなくなるばかりだ▼向田さんが百も承知で書いたように、良寛その人は大変な好人物だった。この禅僧の清貧や公平無私に、決断力を加えた政治家が久しく現れない。国民の代表を、縁故や世襲で選んできた日本の不幸である▼新しい寺に来てくれという藩主の求めを、良寛は一句で断る。〈焚(た)くほどは風がもて来る落ち葉かな〉。暖も取れるし、どうにか暮らしていますのでお構いなくと。往時の菅さんも、強者にこびないのが売り物ではなかったか。万事に信念を貫けば、勢いは世論の風が「もて来る」ものを。

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