情報隠しは許されぬ −金子勝教授−
日本農業新聞に金子勝教授のコラムがあったのでテキスト化してみた。
日本農業新聞2月7日
情報隠しは許されぬ
慶応義塾大学教授 金子勝 TPP問題の本質
菅直人首相がスイスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で講演し、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加の結論を6月までに出すとあらためて表明した。 政府はTPPを「平成の開国」とうたい、経済界は「自由貿易の波に乗り遅れるな」と世論を煽っている。 しかし、TPPは米国企業が日本市場に入れないことを不公正とする「公正な貿易」の強制であって自由貿易ではない。「失われた20年」といわれる失敗を繰り返してきた官僚や経済界が責任を回避するために、失敗を一挙に挽回しようと無理やりに推し進めている。 彼らはTPPによって日本経済がいかに立て直せるかシナリオを描けないがゆえに、TPPの本質を隠す。 米国基準で緩和
TPP問題の本質は、農業の輸入関税撤廃だけでなく、24の分野での規制緩和を求められ米国ルールに従う点にある。 TPP交渉は分科会が設置され、農業のほか金融や労働、サービス、公共調達、知的財産権など24分野が対象に挙っている。 分科会での具体的な検討状況は不明だが、米国にとっての「公正な貿易」を実現する為の交渉が展開されていることは容易に想像がつく。 日本がTPP交渉に参加すれば、世界基準でも何でもない「アメリカンスタンダード」の下で、ありとあらゆる規制緩和を押し付けられるのは必至だ。 菅首相はそんなTPPを急激に推し進め、この国を破綻させようとしている。日本を壊した「小泉構造改革」以上の構造改革派として、国民に示したマニフェスト(政権公約)をかなぐり捨てて、自民党の対米重視路線を焼き直すだけの菅首相の暴走を許すわけにはいかない。 経済界は、TPP参加により日本の対外輸出が伸びることで、農業の壊滅的な打撃を越える経済効果が得られるかというが、それも大きな間違いだ。 仮に自動車などのわずかな関税をゼロにしても、米国がドル安に誘導すれば関税撤廃のメリットはあっという間に相殺されてしまうだろう。また、オバマ政権は今度5年間で、輸出を倍増して雇用を200万人増やすと表明している。TPPはあくまで米国の輸出を倍増する計画の一環であり、日本の対米輸出が増えるものではないと考えるのが自然だ。 経済界ごり押し
世界経済の中心が東アジアへシフトする中、中国と韓国がTPP交渉に不参加であることを考えれば輸出増大が期待できないことは明白だ。 衰退しつつある米国の利益のためにつくったTPPに飛びつくようでは、この国に未来はない。それが分からない経済界はまさに愚かとしか言いようがない。 さらに、TPP参加で米やこんにゃくなどの重要品目の関税をゼロにすれば、食料という最後の生殺与奪の権を米国に委ねることになる。 日本はすでに米軍の駐留で軍事を掌握され、エネルギー資源もかなりの割合を米国に依存している。 食料まで米国に握られてしまえば、日本は米国経済と完全に一体化し、「植民地」になってしまうだろう。 国のかたちを根底から揺るがすほど重大な問題であるのにもかかわらず、大手メディアは農業対他産業という単純な利害対立の構図でしか報じず、肝心の24分野についてはまったくと言っていいほど伝えていない。 一刻も早くTPPの本質を国民に伝え、この国を徹底的に滅ぼす「暴論」に終止符をうたなければいけない。 平成の開国
TPPは世界全体を対象としたものではなく、対象はたったの9カ国。
(シンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリ、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシア)
日本はすでに11の国・地域とEPAを締結し、インド、ペルーとは署名に向けて準備中で、EUとは共同検討作業中である。
TPP参加国でいうと・・・
ベトナム 平成20年FTA締結
ブルネイ 平成19年FTA締結
マレーシア 平成17年FTA締結
シンガポール 平成14年FTA締結
ペルー 平成22年EPA交渉完了
オーストラリア 交渉中
まったく交渉していないのは米国とニュージーランドのみ。
別に鎖国しているわけではないのである。
ただ平成の開国と言うネーミングはある意味言いえて妙だと思っている。
オバマが一般教科書演説において「雇用」「輸出倍増」を協調している以上、
TPPは黒船襲来と受け取るべきだろう。
つまり不平等条約=TPPになりかねない。
明治の開国後、日本が関税自主権を取り戻すには、戦勝の機運に乗って是正するまで待たなければならなかった…
では、平成の開国は?
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