社説

文字サイズ変更

社説:長期金利上昇 市場の警鐘に耳傾けよ

 先進国の長期金利が上昇傾向を見せている。債券市場で国債を売却する動きが強まってきたと言い換えてもいい。投資家がより積極的にリスクをとり始めたわけで、景気回復の証しと歓迎することもできよう。

 日本経済は昨年10~12月期に5四半期ぶりのマイナス成長となったが、先行きについては、再び回復に向かうといった自信が戻ってきた。米国経済も、予想以上のペースで改善しており、それが日本経済の見通しにも明るさを加えている。

 しかし、長期金利上昇の背景はそれだけではなかろう。インフレや国家財政悪化に対する市場の不安も反映しているようだ。各国の当局は市場のシグナルに細心の注意を払い、先手の対応に努める必要がある。

 金融危機後、世界のマネーは安全資産とされる国債に集中した。その結果、国債価格は上昇(長期金利は低下)し、日本では10年物の利回りが昨年8月、1%を割り込んで、“国債バブル”の懸念も広がった。

 そのマネーの流れが変化を始めた。先進国の金融緩和により市場に放出された大量の資金が、国債を離れ、より高い利回りを求めて穀物や原油などの商品市場、さらに株式市場に流入している。エジプト情勢の沈静化により原油価格が反落するなど短期の相場変動はあっても、世界的な金余りと経済成長に伴う需要増といった構図に変化の兆しはない。

 問題は、先進国の中央銀行と政府がこの先どう動くかだ。

 経済が危機から脱したのに、政策が危機モードのままでは過熱する。インフレが本格化する前のタイムリーな軌道修正が極めて重要になる。特に空前の金余り状態を作った米連邦準備制度理事会の責任は重い。国内経済だけでなく、金融・商品市場や海外の物価、資産価格にも注意し、柔軟に政策を見直してほしい。

 金利上昇は財政健全化の遅れに対する市場の警鐘でもある。各国政府は財政再建に向け動き出してはいるが十分か。長期金利の上昇速度が上がれば、政府の借り入れコストが増え、健全化はますます難しくなる。

 日本の長期金利は歴史的にまだ低い。だが慢心は禁物だ。国内の機関投資家は大量に日本国債を保有している。米国の国債も買っている。米国債の値動きに連動する傾向がある日本国債だ。インフレ、国債価格の下落が顕著になった時、売りの連鎖が起きないという保証はない。

 先のことまで考えて手を打つのが責任ある中央銀行であり政治家だろう。金融危機後にとった金融、財政の景気刺激策が歴史的規模だっただけに、軌道修正が遅れた場合の代償も大きくなりそうだ。それを肝に銘じて行動してほしい。

毎日新聞 2011年2月15日 2時31分

 

PR情報

スポンサーサイト検索

社説 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド

毎日jp共同企画