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GDP逆転、あきらめの日本と複雑な中国

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 中国は昨年、日本を抜いて世界2位の経済大国に躍り出た。この歴史的な逆転を受け、アジアの2大国である両国にさまざまな感情が渦巻いている。低迷の長引く日本では内省的なあきらめムードが漂う一方、上昇中の中国は誇りに感じながらも新たな責任を背負わされかねないと警戒している。

 日本政府の14日朝の発表で、長らく見込まれてきた日中逆転が公式のものとなった。2010年10-12月の実質国内総生産(GDP、季節調整済み)成長率は前期比マイナス1.1%(年率換算)だった。日本の通年のGDPは約5兆4700億ドルと、中国が1月に発表した5兆8800億ドルを約7%下回った。

チャート 世界銀行、国際通貨基金

日中のGDP(単位:兆ドル)

 両国のGDPは米国に比べると依然かなり小さい。日中合わせても、米国の14兆6600億ドルに及ばない。ただ、今回のニュースは一つの時代に終止符を打つ。1967年に西ドイツを抜いて以来ほぼ2世代にわたり、日本は確固たる世界2位の座にあった。新たな順位は世界の成長エンジンとしての中国の台頭と日本の後退を象徴している。

 米国にとって、日本は経済面ではライバルだが、地政学的、軍事的な同盟国でもある。一方の中国は、あらゆる側面で対立する可能性がある。

 中国の台頭は、共産党統治を正当化する主要な要因になっている。しかし、中国政府は、多くの面で貧しさの残る自国が、経済大国というマントをまとうことによって望まぬ義務を課されるのではないかと懸念もしている。最近の人民網には「中国は日本を抜いて世界2位の経済大国に-ただし2位の強国ではない」と題する記事が載った。

 日本では、逆転の瞬間は長期低迷を示す新たな印ととらえられている。石原慎太郎都知事は最近、「GDPが膨張していって日本を抜くというのは当然だと思う。人口そのものが日本の10倍あるのだから」と語っている。石原氏といえば、バブル期の1989年に共著「『NO』と言える日本」を誇らしげに出版した人だ。それが今では、「日本そのものの色々な衰退の兆候が目立ち過ぎるということは残念だ」と暗い面持ちで語る。

 両国での複雑な反応は、中国が多くの面でなお日本に後れているとことや、相互依存が強まっているためライバルであると同じ程度にパートナーでもあることを反映している。

 中国の1人当たり国民所得はまだ日本の10分の1にすぎない。世界銀行の推計によると、中国では日本の全人口に近い1億人以上が1日2ドル未満で生活しているという。検索サービス大手、百度(バイドゥ)のロビン・リー(李彦宏)最高経営責任者(CEO)は、中国が「増大する力にふさわしい真に世界的影響力を持つ企業をいまだ生み出していないことは、まったく残念だ」と述べた。中国企業には、トヨタ自動車やソニーがまだないのだ。

 一方、日本の多くの企業幹部が言及しているように、中国向けの輸出や同国からの観光客流入がなければ日本の景気は今よりさらに悪かっただろう。中国は09年に米国を抜いて日本にとって最大の貿易相手国となった。ソフトバンクの孫正義社長は、「8年後くらいに中国のGDPが日本の倍になる」との考えを示した。その上で、この事態をプラスにとらえる日本企業が増えれば、景気見通しも明るくなるとしている。

 ただ、日本の第二次大戦中の残虐行為やこのところの中国の横暴な振る舞いなど、両国に緊張の種がくすぶっていることは明らかだ。最近ではたとえば、尖閣諸島沖の中国漁船と日本の海上保安庁の巡視艇衝突事件がある。

 台頭する中国と衰退する日本の対照的な見通しは、ニールセン社が1月に発表した世界消費者景況感調査でも浮き彫りになっている。世界(対象52カ国)の消費者景況感指数平均90に対し、中国は100と最も明るい部類に入るのに対し、日本は54でルーマニアと並び下から4位だ(米国は中間の81)。

イメージ AFP/Getty Images

宝石店で買い物をする中国の観光客(2月、香港)

 中国政府にとって、特に2位の経済大国であることは、新たな世界的影響力を意味する。同国は2兆8500億ドルの外貨準備でギリシャなどを安定させるため国債を購入する方針を大々的に打ち出している。中国政府当局者や国営メディアは、中国が保有する米国債の価値が米国の金融政策によって下がりかねないと非難している。

 中国政府は一方で、成長を理由に炭素排出削減や為替政策の分野で先進国から責任拡大を迫られるとの懸念も抱いている。

 昨年夏に四半期ベースで日本を抜いたとき、中国の国営メディアは、同国の世界での役割を大げさに言い立てる西側の「中国責任論」に反論する説を伝えた。同国の専門家は新華社通信に対し、こうした理論は「中国の発展を鈍化させ止まらせるための捏造(ねつぞう)だ」と訴えている。

 2位への上昇は、共産党の国内向けの態度を複雑なものにした。これまで中国は、1930年代の日本だけでなく諸外国に迫害されているような説明をしてきた。だが、党幹部は、経済大国という中国のイメージは、力強さと貧困を併せ持つ国の欠点に目を向けさせるリスクが伴うことを認識している。

 そのため、中国政府は経済面の成功を実現したことへの功績を誇ると同時にそれほど強調しないようにしている。国家統計局が先月2010年のGDPを発表したとき、馬建堂局長は予想される2位浮上について、「共産党のリーダーシップのもとでの中国国民の奮闘とたゆまぬ進歩の結果」だとしながらも、1人当たりベースでは依然として世界の貧困国に入ると付け加えた。

 公式見解の両面性は、国民の反応にも反映されている。元政府当局者は「喜んでいる人もいるかもしれないが、自分は違う」と語った。GDP2位は「豊かな国、貧しい民」という「この社会の実態を反映していない」という。

 日本は2位だった1980年代と90年代初め、中国が現在懸念しているのと同じプレッシャーに直面していた。追加的な責任を担うよう求める海外の要求だ。中国が公式にアジア最大の経済国となれば日本からスポットライトが移る。日本は、東アジアで最も古い自由民主主義国家であり、米国の防衛の傘における要石であることに変わりはない。だが、外交を金だけを出す「小切手外交」だという批判や、市場を開放せよと求める西側先進国からの圧力はかつてほどではない。米国に対して多額の貿易黒字があるにもかかわらず、だ。

 ただ、日本のエリートはこうした要求を懐かしんでいる。東京大学の伊藤隆敏教授(元副財務官)は、当時はフラストレーションを感じていたが、無視されるのはたたかれるより悪い、と語った。

 そうでない人にとって、GDP逆転は世界3位の時代における日本の役割とイメージの形成に向けた議論のきっかけだ。

 蓮舫行政刷新担当相は昨年、著書「一番じゃなきゃダメですか?」を出版。日本が成功を認められるには、すべての分野でリーダーである必要がないだけでなく、何かの分野でリーダーでなければいけないと考る必要もないとして国民を励ましている。

 実際、日本では成功の物差しが変わり、以前ほど量を重視しなくなっている。影響力は依然として海外で広範に及んでおり、拡大している面もある。しかし、摩擦を起こしやすい戦略的技術分野が減り、文化的な分野が拡大するなど、以前より目立たなくなった。

 ハイブリッドエンジンであれ3Dビデオゲームであれ、創造性と革新の中心という日本のイメージは20年前と対照的だ。当時は、ほかで開拓された技術やデザインをまね、優れた製造技術で本家のメーカーをしのぐというイメージだった。こうしたレッテルは現在、2位の中国に貼られることの方が多い。

 経済産業省は、アニメやマンガ、ビデオゲームなどの海外進出を促すクール・ジャパン室を新設した。池田元久副産業経済相は高付加価値製品の製造国としての日本に言及し、「量より質がもっと大事」だと強調した。

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日本版コラム〔2月15日更新〕