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四十九
1942年5月25日


満州の奉天にある中華民国陸軍基地に数発の銃弾を撃ち込まれた。
これを受けた中華民国陸軍は直ちに警戒態勢をとるが、その隙を突くかのように中華民国政府とアメリカ資本の共同で敷設している鉄道が何者かによって爆破された。
当初は共産ゲリラか匪族の仕業と考えられていたが、中華民国政府の正式発表でその考えは覆された。
「これは日本軍による謀略である。我が軍は防衛として必要な処置を取る。」
張学良はそう宣言して、日本の駐留軍がいる福建共和国を包囲するように軍を展開し始めた。

もちろん日本軍はそんなことをしていないのだから中華民国に「言いがかりだ!」と抗議する。
何故日本の謀略と確信したのか?と尋ねると。
中華民国政府の調べで現場に日本製の兵器が多数遺棄されていた。そして現場で多数の日本人を目撃したという証言があったから。
という何の証拠にもならない事を言ってきた。

何故なら日本製の兵器は大陸中に輸出したので入手は容易だ。
共産党や国民党、華南連邦、福建共和国、奉天軍も一部の部隊は未だに所持している。
それに、目撃情報も怪しい。
日本人も中国人も同じアジア系だから見た目では判断しにくい。
その目撃した日本人が確保され、確認が出来ていたらまだ言い分が通ったが誰も捕まってない。
これでは中華民国政府の日本人犯行論は信憑性に欠ける。
しかし中華民国政府はまるで鬼の首を取ったと言わんばかりに高圧的な態度をとる。
オマケにアメリカがバックについているから対応が一々面倒だ。
中華民国政府は日本に今回の襲撃について賠償を求めて来た。
その内容は日本の特務機関の行動制限、福建共和国の駐留軍の縮小、爆破された線路など被害の賠償金。
など、とても日本が呑める提案では無い。

この中華民国政府の強行な態度に困り果てた日本政府はあまり頼りにならないが国際連盟の場で中華民国を訴えた。
日本はこのまま中華民国の要求を受け入れれば、中華民国はつけ上がり列強の利権を脅かすかも知れないと主張した。
イギリスを同調させれば連盟主導での調査が行われ、日本の無実が晴らせる。そう思っていたが。
中国はこれは二カ国間の問題である。と第三国の介入を拒んだ。
また、中国の後ろ立てになっているアメリカはオブザーバーの立場として、日中間の問題として調査団の派遣に慎重な態度を見せた。
明らかに中華民国政府を守ろうとしているように見えるが実は違った。




アメリカサイド

「余計なことをしおって!!」
ロングは机を叩きながら叫んだ。
その机の上には何枚かの書類が乗っており、内容は今回の事件は全て張学良の自作自演だと証明する報告書だ。
「しかしこの事実が他国より早く分かって良かった。もし他国に知られ暴露でもされていたら大変な事になっていた。」
アメリカは大陸にどの国より深く進出していたため、中華民国軍から情報が集めやすかったのだ。
「如何いたしましょう?」
「証拠の隠滅を図れ、これ以上中国の無法さを知られたら世論がどう動くのか分からん。」
アメリカは日本を悪役に仕立てつつ、外交交渉で事を収めるしかなかった。
何故なら日本のプロパガンダによって中国の印象が悪すぎて、彼らのために戦おう!と言っても国民が賛成するとは思えないからだ。
「日本には徹底的に悪役になってもらおう。しかし争いは拡大させるな。張学良にも釘を刺しておけ。」
結局アメリカは中国を擁護する事に決めたのだ。
後にこの決断がアメリカを滅ぼしたのだと有名になった。




日本の訴えも虚しく、国際連盟は中国の行為を咎めなかった。
むしろドイツを盟主とする枢軸国は日本への憎しみからか中国の行為は正当な手段だと支持した。
中国に対し批判を明らかにしたのはソ連とトルコなど一部の国のみだった。

日本が孤立していることが明らかになると張学良はますます調子に乗った。
福建共和国と中華民国との国境を防衛している日本陸軍に対し包囲している奉天軍が挑発行為をやって来た。
しかし史実の関東軍とは違い、駐留軍はというか日本軍全体で精神鍛錬も行っているため気にもしなかった。
それにもしも挑発に乗って攻撃したら処刑すると命令されているため日本陸軍は決して挑発に乗らなかった。
むしろその挑発の低脳具合に笑いを堪えているぐらいだった。


駐留軍の感情とは反比例して日本国内での中国憎しの感情が高まっていた。
しかし政治家や大学教授などのコメンテーターは平静を保っていた。
北郷からの命令で、もし反中世論を扇動したら一切の予算や賄賂がカットされるからだ。
例えそれでも抵抗するなら家族と一緒に不幸な事故に遭うかも知れないと示唆されたから誰も動かない。
世論についてもテレビや新聞など情報操作で国民感情を和らげている。
煽るマスコミやコメンテーターがいなければ日本人の感情なんて長続きしないものだ。




北郷の統制によって世論が順調に落ち着いて来ている時、大陸でもある話し合いが起きていた。
中華民国首都北京では在中アメリカ大使と在中アメリカ軍司令官が揃い、張学良に合衆国はこれ以上の戦闘の拡大は望んでない事を伝えた。
「何故ですか?日本を大陸から叩き出すのに絶好のチャンスではないですか?」
張学良にとって中華の大地に東夷の蛮人である日本人がいることが耐え難いのだ。
だから彼は日本を策で追いやろうと思ったのだ。
アメリカも日本の事が内心気に食わないことを知っていたので中華民国の動きを追認すると予想していたため驚いたのだ。
「現時点で大規模な戦闘が起きれば在中アメリカ人達に多大な被害が出るでしょう。我々はそれを望んでいません。」
その言葉に張学良は皮肉を込めて言った。
「ほう、アメリカは機会さえあれば日本と戦争をするのですか?」
「我々常に平和を願っています。しかし日本側の対応によります。
それに閣下、今回のことのような開戦では面倒なことになりますよ?」
今回の一件についてのアメリカが知っている情報を記した書類を渡す。
これを見た張学良の顔色は青く染まる。

「こ、これは…。」
「閣下我々はアナタが中華民国のトップに相応しいと思っています……故に、あまり我々を失望させないでください。」
その言葉に張学良は渋々頷くしかなかった。
しかしこの時張学良は日米を争わせる決意を固めた。
張学良にとってはアメリカも日本も同じ東夷に過ぎない。
アメリカと手を組んでいるのも日本を潰すためだ。
張学良の計画ではアメリカと共に戦い、台湾と海南島を奪い返し、分割で占領した日本の工業力の何割かを手に入れると決まっていたのだ。
張学良の脳裏には日本の半分を占領し、日本人の半数を奴隷のようにこき使い力を蓄える中華民国の姿があった。
(今に見ておれアメリカ。中華を侮ったことを後悔させてやる。
)



こうして中華民国と日本との全面戦争は回避され、第二次満州事変は終わった。
しかし中華民国は日本に対する臨戦態勢をとったままで一触即発の状態になった。
更にアメリカは極東の安定のためと称しアジア艦隊の増強を発表した。
ハワイへの太平洋艦隊の移動やアジア艦隊の増強で日本に対する締め付けがより強化されることになった。


日米の対立が激化すると連合国側はアメリカにすり寄った。
停戦したと言えドイツは未だに緊張状態にある彼らが日米を天秤に乗せるのは当たり前だった。
そして、連合国はより多数の支援が見込めるアメリカについたのだ。
チャーチルが生きていたのならここまでアメリカにすり寄ることにはならなかっただろう。
しかし彼が死んだことでイギリスは連合国内でリーダーシップを取れなくなり、かつて植民地だったアメリカの顔色をうかがう程イギリスは卑屈になっていた。

更にソ連も対ドイツ戦に勝利するためにアメリカ寄りになっていく。
それ程までにドイツ軍の攻撃は苛烈を極めた。
ソ連軍は戦前に陣地を構築して地の利を獲得していたが押し返せないでいる。
もしもこの状況でアメリカがドイツと手を結んだら中立を守っているフィンランドが枢軸に加わる可能性が出てくる。
もしフィンランドが敵になれば北欧から敵が雪崩れ込むことになる。
それだけはスターリンも避けたいのでアメリカを配慮するしかない。




北郷サイド

日本国内ではアメリカが中華民国を擁護するのが明らかになったため反中機運に続き反米機運も高まった。
更に、支援した筈なのにいつの間にかアメリカ寄りになったイギリスのせいで反英機運も高まった。
流石にここまで国民の不満が高まれば情報統制では沈めることは難しい。

最もあんまりする気は無いがな。


順調に日本包囲網が構築されて来た。
アメリカが最後通牒を出すのはもうちょいだな。
多分もう直ぐアメリカが自国の輸送船でも雷撃するのかな?
フィリピンかそこらで、それを日本の犯行と断定するんだろ?
単純だよなぁ。
まあいいや、カナリアの核設置も終わったし。
軍も編成して待機している。
準備は整っていた。
後は回天作戦の責任を持つ生け贄を据えよう。
史実通り東條英機になってもらおう。
アイツは天皇に忠実だから天皇が頼めば内閣総理大臣になるだろう。
そうなれば戦時中の出来事は全て東條の責任だ。
何せこの世界では内閣総理大臣が統帥権を持つからな。
軍人なんだ、作戦を話しても分かってくれるさ。
分かってくれなきゃ分からせるけど。
天皇からのお願いならやるだろうがな。
未だに天皇は現人神たからな。




日本で東條内閣が発足すると日米戦争が現実味を帯び、東シナ海での日米の緊張も高まった。
日本はアメリカの戦力把握のために各地の基地に衛星を静止させて監視を続けた。
一方アメリカも台湾や海南島などの日本軍の戦力把握のために偵察機や諜報員を繰り出した。


そんな状況下でフィリピン沖でアメリカの輸送船が原因不明の爆発を起こして沈没した。
しかもこの船は中華民国向けの軍需物資を積んでいたのだ。
それを知るとアメリカのメディアはこぞって日本の謀略だと書き立てた。
日本が直接手を下しただの日本が支援しているフィリピンの独立派がやったのだの無責任な記事を書きまくった。
日本政府は無実を訴えるが先の一件のせいで反日感情が高まっていたアメリカ国民には受け入れられなかった。
更にアメリカ政府はこの機に日本に優位に立つためにある要求を出した。
その内容は

台湾、南洋諸島、海南島の軍施設の査察。
日本軍の通信、暗号情報の開示。
現政権の退陣。
賠償金27兆1500億ドルの支払い。

など常識を逸した要求内容だった。
史実と違い侵略戦争を仕掛けていないし、国際ルールも守っているためハルノートよりはマシだがそれでも酷い内容だった。

アメリカ側はこれはあくまで交渉のたたき台にすると言ったが、この要求を呑ませるなめに日米通商条約を破棄した。
更に在米日本資産凍結も示唆している。
このアメリカの態度に内閣総理大臣の東條英機は天皇陛下にアメリカと戦争になることを告げた。
陛下は平和を望み、「何とかならないか?」
と東條に聞いたが東條は頭を下げるだけだ。
その態度に陛下も諦め、開戦を許可した。


対米戦争を決めた日本軍は戦争準備に向けて大わらわだ。
陸海空軍が対米、対中戦争に備え各地の部隊や艦隊を集結させていつでも戦える備えをする。
そしてカナリア諸島や大西洋沿岸にいる兵士達も引き上げさせる。
回天作戦のために最低限の人員以外は本土に撤退させた。




北郷サイド

ようやくハルノート?を出したか。
史実よりはマシな内容だが明らかにこっちを挑発しているな。
オマケに今まで毟り取って来た金を全て支払えと来たか。
まぁその報いを受けてもらおう。
既にカナリア諸島の準備は完了した。
もしも噴火が起きなかったら強引に噴火を起こさせる。
火口に核ミサイルをぶち込んで無理矢理噴火させる。

それでもしなきゃ予定変更だ。
核実験を行ってアメリカに無条件降伏を迫る。
もちろんアメリカは降伏何てするはず無いからB-52でハワイを戦術核で攻撃だ。
太平洋艦隊を壊滅させて再び降伏を迫る。
それでもしなきゃ今度はICBMで五大湖の工場群に戦略核で攻撃して全滅させる。
流石にこれは降伏するだろう。

それでもしなきゃ東海岸を戦略核で攻撃だがな。
そうすればアメリカの基盤が破壊されるから終わる。


後は世界を恐怖で縛るしかない。
これが一番日本の被害が少ないプランだがな。
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