埼玉県熊谷市で08年に起きた9人死傷事故で、事故車に同乗して飲酒運転を黙認したとして危険運転致死傷ほう助罪に問われた同乗者2人の裁判員裁判で、さいたま地裁(田村真裁判長)は14日、いずれも懲役2年(求刑・各懲役8年)の実刑を言い渡した。判決は「安易で無責任な了解と黙認により、平穏な生活をしていた被害者を死傷させた」と非難した。同ほう助罪の裁判員裁判は全国初とみられ、飲酒運転事故を巡る同乗者の責任を重視した判決となった。【平川昌範】
判決を受けたのは、ともに同市の飲食店手伝い、大島巧(48)と無職、関口淳一(46)の両被告。当時同じ会社の後輩だった玉川清受刑者(35)=危険運転致死傷罪で懲役16年確定=が事故を起こした際、車に同乗していた。2人とも無罪を主張し▽玉川受刑者の運転を了解・黙認したか▽正常な運転が困難だと認識していたか--などが争点となった。
判決は、玉川受刑者からドライブに誘われた2人が「そうしようか」などと応じたとして「仕事上指導する立場の2人が了解を与え黙認したことで、玉川受刑者は走行の意思をより強めた」と指摘。事故前に5時間も一緒に飲酒しており「正常な運転が困難だと2人は認識していた」と述べ「運転をやめさせる義務があったのは明らか」と結論付けた。
判決は量刑の理由で「被害結果が極めて重大。被害者への思いを一切語らず、反省は見受けられない」と指弾しつつ「ほう助にとどまり悪質性は高くない。検察側の求刑は重い」とも述べた。
弁護側は「そうした発言はしていない」などと争ったが、判決は「捜査段階では認めており、公判で供述を変えたのは信用できない」と退けた。
事故は08年2月17日夜に発生。玉川受刑者はビール1杯と焼酎7杯を飲んで乗用車を運転。時速100~120キロで走行中にカーブを曲がりきれずに対向車2台と衝突した。同県行田市の夫婦(いずれも当時56歳)が死亡、玉川受刑者と両被告を含む7人が重軽傷を負った。
判決によると両被告はこの事故の際、同乗して玉川受刑者の犯行を手助けした。
両被告は道交法違反(飲酒運転同乗)容疑で書類送検されたが、遺族は危険運転致死傷容疑で告訴。
さいたま地検は09年8月、被害の重大性などから危険運転致死傷ほう助罪で在宅起訴した。
「悪質運転による事故の罰則が軽い」との世論を受け、01年の改正刑法で新設された。「故意の信号無視」「飲酒などで正常な運転が困難な状態」などで事故を起こし人を死傷させた場合、死亡時は最高20年、負傷時は15年の懲役刑が科される。有罪立証のハードルが高いとされ、そのほう助罪に問われた今回のケースは極めて珍しい。
毎日新聞 2011年2月14日 11時11分(最終更新 2月14日 13時05分)