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2011年2月15日(火)付

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子ども手当―サービスと一体で語る時

国会審議で、子ども手当が野党から集中砲火を浴びている。本来は広く祝福されるべき子育て支援策をめぐって対立が先鋭化する現状は悲しい。このままでは、与野党の建設的な議論の妨げになってしまう。[記事全文]

景気の行方―攻めの機運をそぐなかれ

景気回復が失速する「二番底」の懸念は、杞憂(きゆう)だったようである。きのう発表された昨年10〜12月期の国内総生産(GDP)統計の1次速報は、家電のエコポイントなど政[記事全文]

子ども手当―サービスと一体で語る時

 国会審議で、子ども手当が野党から集中砲火を浴びている。本来は広く祝福されるべき子育て支援策をめぐって対立が先鋭化する現状は悲しい。このままでは、与野党の建設的な議論の妨げになってしまう。

 マニフェスト(政権公約)に掲げた月額2万6千円の支給ができていないのは約束違反だ。全額国費を想定していたのに、地方負担が続くのはおかしい――。こうした批判は、もとをたどれば財源問題に行き着く。

 手当が構想された当初は、所得税の配偶者控除や扶養控除を廃止して捻出する財源を子どもの数で割った月額1万6千円を想定していた。それが1万円かさ上げされ、マニフェストに記載されたことが混乱に輪をかけた。

 菅直人首相が「目指して努力したい」という月2万6千円の支給には年間5.5兆円近くの巨費が必要だが、それを賄える財政状況でないことは、はっきりしている。

 菅政権は、満額支給をあきらめると明言してもらいたい。それに対する批判を恐れてはならない。むしろ、財源の裏打ちもないまま支給増にこだわり、野党との協議ができないどころか、早急に手当が必要な子育て支援策も実現できずに国民の支持も失うことこそ、恐れるべきである。

 堂々巡りの不毛な防戦から今こそ脱却し、議論を前に進める必要がある。

 保育サービスなどを充実させる施策と一体となった子育て支援の将来像を、国会できちんと示す時期が来ているのではないか。

 政府部内で議論が進んでいる「子ども・子育て新システム」がそれにあたる。現金給付と、子育て支援のサービス給付を一体的に運営し、財源を確保する包括的な仕組みだ。昨年6月に大枠(要綱)が決定された。

 フルタイム勤務かどうかにかかわらず、保育の必要性に応じてサービスの利用を保障する。認可保育所に入所するのに必要とされてきた「保育に欠ける」という要件は撤廃する。

 株式会社やNPOなどの参入を認め、認可保育所に限らない、多様なサービスが提供できるようにする。

 要介護度に応じて様々な種類のサービスを組みあわせる介護保険制度と似た仕組みの導入である。

 財源は、サービスの利用者負担に加え、国、自治体、事業主が拠出しあう。この最も難しい部分を固めるため、詰めの議論が続いている。

 子ども手当にこめられた「子どもの育ちを社会全体で応援する」という理念は大切だ。それは、現物給付を含めた包括的な仕組みを重視する中で、実現していけばよいだろう。

 現金と現物のバランスを与野党で議論する枠組みをつくり、大胆な妥協を考えることが必要な局面だ。

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景気の行方―攻めの機運をそぐなかれ

 景気回復が失速する「二番底」の懸念は、杞憂(きゆう)だったようである。

 きのう発表された昨年10〜12月期の国内総生産(GDP)統計の1次速報は、家電のエコポイントなど政策効果が縮小したため、大方の予想通り前期比マイナスだった。だが鉱工業生産など指標の動きをよく見れば、回復軌道にあることは明らかだ。

 復調を支えているのは、まず何より新興国の成長だ。発展する市場向けの新製品開発や投資拡大など民間企業の攻めの姿勢が、外需を着実に取り込み、結果を出し始めている。

 米国の景気後退懸念が和らいだことも大きい。「QE2」と呼ばれている連邦準備制度理事会(FRB)による金融の量的緩和と、オバマ政権が共和党との大胆な妥協でブッシュ減税の継続に踏み切ったことが、消費意欲を刺激した。ニューヨーク市場では株価が上昇気流に乗っている。

 その結果、円高ドル安の流れが止まり、為替相場が安定した。世界的な株式市場の再評価の動きのなかで、東京市場も株価が息を吹き返した。

 2008年秋のリーマン・ショックの直後、日本企業はそれまでの欧米先進国依存を前提にした世界戦略が崩壊して茫然(ぼうぜん)自失の体だった。一昨年から昨年にかけては、新興国を含めた全世界に視野を広げた新しい戦略作りと、経営資源の再配分に向けた立て直しの時期だったといえるだろう。そして今年は、日本企業が腹をくくって全世界に打って出る。そんな自信回復と行動の年になりつつある。

 新日鉄と住友金属工業との合併交渉入り、NECによる中国レノボとのパソコン事業合弁など、大がかりな再編の動きがその象徴だ。オリンパスが社長に英国人を登用するなど、経営のグローバル化も本格化している。攻めの動きはさらに広がるだろう。

 とはいえ、内外の不安材料は尽きない。世界にだぶつくマネーが食料や資源の相場を押し上げ、新興国を中心にインフレ懸念が募る。欧州では財政危機がユーロを揺さぶり続けている。世界経済に緊張感が高まれば、円高がさらに進む恐れもある。

 国内をみれば、国債格下げという世界市場からの「警告」とは裏腹に、財政再建に向けた政治の動きがおぼつかない。新年度予算の行方だけでなく、政争本位の国会自体が国民の間に不安をかきたてている。

 日本の経済界の空気は前向きだ。攻めの動きを加速させるには、政治にも前向きな機運が生まれることが何よりだ。民間の足を引っ張らないという見識と努力を示してほしい。

 昨年のGDPで中国が日本を抜いたことも確認された。これも日本が過去にとらわれず、前に進むべきだという警鐘として受け止めたい。

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