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 <知を楽しむ人のためのオピニオン誌・「正論」>





「無防備都市」を喧伝する 朝日・毎日と国立市長の愚(4)


ジャーナリスト 時沢和男


非武装のなれの果て

 国を守るためには「優れた矛(ほこ)」と「強固な盾」を持たねばならない。どちらか一方が欠けても国防は成り立たない。逆に言えば、国を滅ぼすためには「矛」「盾」のいずれか(できれば両方だが)を空洞化させればよい。もちろん、共産主義社会を実現するために「矛」「盾」に反対しましょうといっても、誰も賛成しない。

 そこで、共産主義者であることを隠し、平和な市民のふりをして「武器があるから戦争が起こる」とか「非武装ならば攻撃されない」などというデマゴギーを吹聴するわけだ。しかし、本当に非武装だと平和が実現されるのであろうか。実例を見てみよう。

 今年の二月のことであるが、西インド諸島のひとつハイチ共和国で反政府武装集団が蜂起し、アリスティド大統領が中央アフリカに逃亡するという事件が起こった。実は、このハイチ共和国(人口七百五十三万人)は「非武装の国」であった。国軍を解散し当時五千三百人の国家警察隊が治安にあたっていたが、同国第二の都市カップハイシャンを武力で制圧した武装勢力はたったの約二百人。このうち警察署を襲撃したのは約十人だけで、警官らは抵抗せずに逃げたという。その結果、約千九百人のアメリカ海兵隊が治安維持のためにハイチへ派遣されることになった。この争乱の中で略奪・殺人が横行し住民が多大の被害を受けたことは言うまでもない。

 日本の「平和勢力」は「軍隊を捨てた国」ハイチの出来事について全く言及していない。国を守る軍隊がなければ、たった数百人の反乱軍によって国家が制圧され、外国の介入を受けてしまうのである。もちろん、「平和勢力」の真の目的が軍隊を解体することにより「数千人の部隊で日本国家を乗っ取る」ことにあるとすれば、それはそれで「もっともな話」ではある。

「無防備地域宣言」を実現するために、「MDS」が開催する全国各地の集会で講演しているのは、大阪経済法科大学教授の澤野義一である。澤野が所属する大学は北朝鮮との密接な関係も指摘されており、テレビなどで北寄りの発言を繰り返している吉田康彦も彼の同僚だ。吉田は平成十四年九月十七日に小泉純一郎首相が平壌を訪問して金正日が日本人拉致を認める前に、北朝鮮サイドから「拉致を認め、生きている人を返したら、日本はどう反応するかについての間接的な打診があった」と“自白”している人物である(本誌二〇〇三年九月号「北朝鮮は小泉訪朝前に拉致を認めていた」)。日本労働党の御用文化人となった竹岡勝美(元防衛庁官房長!)の『戦なきは武人の本懐』という本を出版したのも、この大学の出版部である。澤野が集会で好んで使うフレーズは(「備えあれば憂いなし」ではなく)「備えなければうれしいな」であるという。語るに落ちた、とはこのことだ。

 民主党の国会議員も、この運動に秋波を送っている。平成十四年五月二十日の衆議院「武力攻撃事態への対処に関する特別委員会」で、同党の首藤信彦委員は「この二十一世紀の市民社会では、恐らく現実には多くの自治体が無防備宣言をする、あるいは無防備宣言のネットワークで新しい平和を構築しようとする動きが出てくると思うんですが、そうした状況というのは、日本の現在の自治体あるいは日本の地方行政においてどのように考えているのかということを総務大臣にお聞きしたいと思います」と質問した。首藤議員は、その後もこの「無防備都市」を国会で取り上げている。

 また、「週刊MDS」七月三十日号によると、七月十九日に開催された「無防備地域宣言をめざす大阪市民の会」の集会に国立市長の上原公子が出席し講演したという。上原市長は有事法制に反対し首相に「質問書」を出したことで有名な人物だ。この「質問書」は労働者社会主義同盟機関紙「人民新報」平成十四年九月十五日号にも全文掲載されている。

 上原市長は、今年の五月二十一日に明治公園で開かれた「有事法制反対集会」で次のように発言した。

「国民保護法は国民保護協議会の設置を地方自治体に義務付けている。自主防災組織が狙われている。国民保護協議会には自衛隊も入ってくる。自衛隊がきれいなパンフレットを持ってきたが、それは自治体に退職自衛官採用を求めるものだった。警察の民衆化・民衆の警察化が進んでいるが、自衛隊の民衆化・民衆の自衛隊化が始まろうとしている」(「グローカル」五月三十一日号)

 ちなみに、「グローカル」は「政治グループ・蒼生」の機関紙で、「蒼生」とは旧・共労党(共産主義労働者党)のことだ。構造改革派として出発した共労党は、いいだもも書記長の指導のもとトロツキズムを支持し、昭和四十四年には中核派やブントと「全国全共闘連合」を結成した極左暴力集団である。その後三分裂し、生き残ったメンバーが「蒼生」を名乗っている。機関紙は平成九年に「統一」から「グローカル」に改題した。民学同の左派が昭和四十四年に共労党に流れていき内ゲバを起こしたことは先述した。

 有事法制に反対している国立市長・上原公子は、国立市において新左翼セクトが主導する「無防備地域宣言」運動を推進するのであろうか。明らかに「無防備」運動を後援しているとしか思えない朝日・毎日・神戸新聞の動きとともに、最大限の警戒をせねばならない。(文中敬称略)

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 「正論」平成16年10月号 論文



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