2011年2月15日0時46分
〈今自殺を考えているあなたへ。本当に死んで問題は解決するのでしょうか〉
自殺者3万人時代の日本。朝日新聞「声」欄に1月8日、こんな投書が載った。
送り主は横浜市港北区の主婦、鈴木紀子さん(54)だった。昨年11月に、夫(55)を自殺で失った。
〈残された者に二重、三重の苦しみを残すことを分かって下さい〉
いつも笑顔を絶やさない夫だった。社員10人ほどのデータ入力会社の営業担当。大手メーカーを回って仕事をもらうのが日課だった。
30年前に結婚し、集合住宅で夫婦2人暮らし。子どもには恵まれなかったが、「原因がわかれば互いを責めてしまう」と病院には行かなかった。「2人一緒ならそれでいい」。写真好きの夫の影響で、カメラを手に各地を訪ねるのが夫婦の楽しみだった。
そんな生活が昨年11月、一変した。夫の職場と自宅に税務署の立ち入り調査が入ったのがきっかけだった。夫は取引先から裏金作りの協力を求められていた。「やめたい」との願いも聞き届けられず、続けていたのだという。その日から夫の笑顔が消えた。
11月22日の夜、夫は家に帰らなかった。朝一緒にごみを出した時、なぜか顔を見てくれないような気がした。「行ってくる」と、いつものように家を出たまま、携帯電話もつながらなくなった。翌日、夫は自宅から200キロ離れた栃木県内で、自ら命を絶っているのが見つかった。
「のりこへ 愛してるよ」
夫が生前使っていたiPadに、鈴木さんへの遺書が残されていた。「君の事、最後まで守れなくてゴメン」「今朝、家を出る時、ちゃんと君の顔を見ておけば良かった」。律義な夫は母親や会社の同僚にまで、それぞれ遺書を書いていた。