「三橋貴明のTPP亡国論――暴走する「尊農開国」」

三橋貴明のTPP亡国論――暴走する「尊農開国」

2011年2月14日(月)

報じられない米国の「輸出倍増計画」

「雇用!雇用!」と叫ぶオバマ大統領にとって日本は格好の標的

4/4ページ

印刷ページ

 何しろ、アメリカの個人消費は日本の全GDPの2倍に達する「世界最大の需要」である。この世界最大の需要が、負債を増やさず、支出を絞り込んでいったわけであるから、アメリカ(及び世界各国)の雇用環境が急激に悪化して当たり前だ。バブル崩壊後の金融危機も、アメリカの失業率上昇に拍車をかけた。

 結果、2007年時点では5%を下回っていたアメリカの失業率は、2009年10月に10%を上回ってしまった。政権への風当たりも、一気に強まった。当たり前の話として、オバマ政権はすべての知恵を雇用環境改善に注ぎ込まざるを得なくなってしまったわけだ。

日本もアメリカの国益中心主義を見習うべき

 現在のアメリカは、雇用創出のために各国と貿易協定を結び、国内で減税を延長し、公共投資の拡大を検討すると同時に、量的緩和第2弾、いわゆるQE2を実施している。QE2は食糧価格や資源価格を高騰させ、世界各国は多大な迷惑を被っている。だが、自国の雇用改善以外に興味がないアメリカにとって、他国の事情など知ったことではないだろう。

 自国の国益のために、時には「グローバリズム」を叫び、時には保護主義に邁進するのが、アメリカという国家である。

 ちなみに、筆者は別にこの種のアメリカのエゴイズムについて、批判しているわけでも何でもない。アメリカ政府は単に、自国の国民のために、やるべきことを全て実施しようとしているだけの話である。むしろ、日本もアメリカの国益中心主義を見習うべきであるとさえ考えている。

 いずれにしても、アメリカは単純に「自国の雇用改善」のために、TPPに日本を引き込もうとしているに過ぎないのだ。前回掲載した図1-1の通り、日本が含まれないTPPなど、アメリカにとっては何の意味もない。

 現実の世界は、あるいは現実の外交は、国益と国益がぶつかり合う、武器を用いない戦争である。まさしく各国の国益のぶつかり合いこそが、本来的な意味における「外交」なのだ。

 少なくとも「我が国は閉鎖的です。平成の開国を致します」などと、自虐的に国際会議の場で演説することは、決して「国際標準としての外交」などではないということを、民主党政権は知るべきだろう。




Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)


Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント21 件(コメントを読む)
トラックバック

著者プロフィール

三橋 貴明(みつはし・たかあき)

作家、経済評論家、中小企業診断士
1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。外資系IT企業ノーテルをはじめNEC、日本IBMなどを経て2008年に中小企業診断士として独立、三橋貴明診断士事務所を設立した。現在は、経済評論家、作家としても活躍中。2007年、インターネット上の公表データから韓国経済の実態を分析し、内容をまとめた『本当はヤバい!韓国経済』(彩図社)がベストセラーとなり、経済評論家として論壇デビューを果たした。その後も意欲的に新著を発表。そのほとんどがベストセラーになっている。また、インターネットでカリスマ的な人気を誇り、当人のブログ「新世紀のビッグブラザーへ」の1日のアクセスユーザー数は4万5000人を超え、推定ユーザ数は12万人に達している。2010年参議院選挙の全国比例区に自由民主党公認で立候補したが落選した。『デフレ時代の富国論(ビジネス社)』『中国がなくても、日本経済はまったく心配ない!(ワック)』『今、世界経済で何が起こっているのか?(彩図社)』など、著書多数。


このコラムについて

三橋貴明のTPP亡国論――暴走する「尊農開国」

 「平成の開国!」などと、イメージ優先で進むTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)。マスコミではTPPがあたかも「日本の国民経済全体のために素晴らしいこと」といった報道がなされ、「農業だけが問題」と議論が矮小化されている。しかし、TPPは単なる農業の輸入問題ではない。日本社会のあり方や「国の形」を変える可能性を持ち、かつ日本のデフレを深刻化させる恐るべし政策なのだ。そもそもTPPにせよ、自由貿易にせよ、その本質はインフレ対策である。TPP、緊縮財政など、デフレ期にインフレ対策ばかりを推進する民主党政権により、日本経済は更なるデフレ不況の谷底へと、叩き落とされるのか?

⇒ 記事一覧

ページトップへ日経ビジネスオンライントップページへ

記事を探す

  • 全文検索
  • コラム名で探す
  • 記事タイトルで探す

記事ランキング

日経ビジネスからのご案内