ところで、なぜ現在のアメリカは、ここまで自国の雇用改善にこだわるのであろうか。無論、同国が1930年代の大恐慌期に、失業率25%(都市部では50%超!)という凄まじい恐慌状況を経験したためである。加えて、現在のアメリカは、リソースのほとんどを雇用対策に注力させなければ、失業率の改善が困難という事情もある。
2007年まで続いた世界的な好況は、ご存知の通りアメリカの不動産バブルに端を発していた。より具体的に書くと、不動産バブルのおかげで、アメリカが前代未聞のペースで経常収支の赤字(同国の場合は、ほとんどが貿易赤字)を拡大してくれたからこそ、実現したのである。
図2-1は、1980年以降のアメリカの経常収支の推移である。確かに、アメリカでは80年代から双子の赤字(経常収支赤字と財政赤字)が問題視されてはいた。それにしても、98年以降のアメリカの経常収支赤字の拡大ペースは、率直に言って「異様」である。不動産バブルの崩壊が始まった2006年まで、同国の経常収支赤字は、まるで指数関数のように伸びていったのだ。
ちなみに、2002年のアメリカの経常収支赤字は、「世界全体の経常収支赤字」の8割を占めていた。一国の経常収支赤字が、世界全体の8割に達していたわけである。
アメリカの経常収支赤字が拡大するということは、反対側に必ず「経常収支黒字」の国が存在する。中国などのアジア諸国や欧州の黒字組(ドイツやオランダ)はもちろん、当時は日本もアメリカの経常収支赤字拡大の恩恵を受け、経済成長を遂げることができた。
2002年以降の、いわゆる世界同時好況は、まさしくアメリカの経常収支赤字拡大により達成されたのである。そして、繰り返しになるが、アメリカがここまで経常収支を拡大できた理由は、同国で不動産バブルが発生していたためだ。
アメリカ不動産バブルの主役は家計だった
日本の不動産バブルの主役は「企業」であったが、アメリカの場合は「家計」である。家計が不動産バブルに沸き、国家経済のフロー(GDPのこと)上で、民間住宅や個人消費が拡大し、世界各国からアメリカへの輸出が拡大することで、世界経済は「同時好況」を楽しむことができたわけである。
何しろ、アメリカの個人消費は、同国のGDPの7割超を占める。文句なしで「世界経済における最大の需要項目」である。不動産バブルにより、アメリカで「世界最大の需要」が活性化し、世界各国は史上まれに見る好景気を楽しむことができたわけだ。
しかし、それもアメリカの不動産バブル崩壊で終わった。
図2-2の通り、アメリカの家計は2007年まで、年に100兆円のペースで負債を拡大していった。このアメリカの家計の借金が、不動産バブルに回り、ホームエクイティローンなどで個人消費を牽引し、世界は同時好況に酔いしれることができたわけだ。
2007年(厳密には2006年後半)に不動産バブルの崩壊が始まると、アメリカの家計は負債残高を全く増やすことができなくなってしまった。グラフではよく分からないかも知れないが、アメリカの家計の負債総額は、現時点においてもわずかながら減少を続けている。すなわち、アメリカの家計は負債を増やすどころか、むしろ「借金を返済する」という、バブル崩壊後の日本企業と全く同じ行動をとっているわけだ。