「三橋貴明のTPP亡国論――暴走する「尊農開国」」

三橋貴明のTPP亡国論――暴走する「尊農開国」

2011年2月14日(月)

報じられない米国の「輸出倍増計画」

「雇用!雇用!」と叫ぶオバマ大統領にとって日本は格好の標的

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 先月(2011年1月)の26日に、アメリカのオバマ大統領は、経済、教育、財政、貿易、インフラ再構築、さらには外交、対テロ戦争、安全保障と、多岐にわたる一般教書演説を行った。

 全文を読んだ上で(※全文の日本語訳を報道した国内メディアはない)、筆者が最初に受けた印象は、「内向きになったアメリカ」であった。何しろ、安全保障やテロ戦争に関する部分を除くと、オバマ大統領はほとんどアメリカ人の雇用改善のことしか語っていない。

「衰退した建設業界に数千もの仕事を与える」

 オバマ大統領の一般教書演説の全文について、日本語訳を報じた報道機関はないが、英語版全文は、ウォールストリートジャーナル日本語版で読むことができる。読者も是非、ご自身の目で確認してみて欲しい。(ウォール・ストリート・ジャーナル日本版『オバマ米大統領の2011年一般教書演説原稿(英文)』

 筆者が最も「典型的」と感じた箇所は、以下の部分だ。

英文:
Over the last two years, we have begun rebuilding for the 21st century, a project that has meant thousands of good jobs for the hard-hit construction industry. Tonight, I'm proposing that we redouble these efforts.
We will put more Americans to work repairing crumbling roads and bridges. We will make sure this is fully paid for, attract private investment, and pick projects based on what's best for the economy, not politicians.

日本語訳:
 過去2年間、我々は21世紀の再建作業を開始した。本事業は、衰退した建設産業に数千もの仕事を与えることを意味する。今夜、私はこうした努力をさらに倍増することを提案する。
 壊れかけた道路や橋を修復する仕事に、さらに多くのアメリカ人を充てるようにする。そのための給与が支払われるのを確実化し、民間投資を誘致し、政治家のためではなく、経済にとって最適な事業を選択するようにしたい。

 筆者は前回の連載『暴論?あえて問う! 国債増発こそ日本を救う』の第5回『30年前より少ない日本の公共投資 「荒廃する日本」にしていいのか。未来への投資、始めるのは今』において、寿命を迎えつつある橋梁やトンネルのメンテナンスなど、日本国内で大々的な公共事業が必要だと書いた。ところが、日本でいまだに公共事業悪玉論が幅を利かせている中において、アメリカの方が先に始めようとしているわけである。

 橋梁や道路など、インフラがメンテナンス時期を迎えつつあるのは、別に日本に限った話ではない。まさしく、先進国共通の課題である。さらに、アメリカでは国内の雇用改善が必須命題になっているのだから、オバマ大統領が一般教書演説において、わざわざ「衰退した建設業界に数千もの仕事を与える」と明言したことにも、大いに意義があるわけである。

 ちなみに、上記の「衰退した建設業界に数千もの仕事を与える」というオバマ大統領の演説内容について、国内でそのまま報じた日本のメディアは皆無だ。理由は筆者には分からない。





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著者プロフィール

三橋 貴明(みつはし・たかあき)

作家、経済評論家、中小企業診断士
1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。外資系IT企業ノーテルをはじめNEC、日本IBMなどを経て2008年に中小企業診断士として独立、三橋貴明診断士事務所を設立した。現在は、経済評論家、作家としても活躍中。2007年、インターネット上の公表データから韓国経済の実態を分析し、内容をまとめた『本当はヤバい!韓国経済』(彩図社)がベストセラーとなり、経済評論家として論壇デビューを果たした。その後も意欲的に新著を発表。そのほとんどがベストセラーになっている。また、インターネットでカリスマ的な人気を誇り、当人のブログ「新世紀のビッグブラザーへ」の1日のアクセスユーザー数は4万5000人を超え、推定ユーザ数は12万人に達している。2010年参議院選挙の全国比例区に自由民主党公認で立候補したが落選した。『デフレ時代の富国論(ビジネス社)』『中国がなくても、日本経済はまったく心配ない!(ワック)』『今、世界経済で何が起こっているのか?(彩図社)』など、著書多数。


このコラムについて

三橋貴明のTPP亡国論――暴走する「尊農開国」

 「平成の開国!」などと、イメージ優先で進むTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)。マスコミではTPPがあたかも「日本の国民経済全体のために素晴らしいこと」といった報道がなされ、「農業だけが問題」と議論が矮小化されている。しかし、TPPは単なる農業の輸入問題ではない。日本社会のあり方や「国の形」を変える可能性を持ち、かつ日本のデフレを深刻化させる恐るべし政策なのだ。そもそもTPPにせよ、自由貿易にせよ、その本質はインフレ対策である。TPP、緊縮財政など、デフレ期にインフレ対策ばかりを推進する民主党政権により、日本経済は更なるデフレ不況の谷底へと、叩き落とされるのか?

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