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野口 健さん
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植村直己さんの最後の日記
- 野口
僕もエベレストで2回「失敗」しましたけどね。2回目なんかは山頂まで行って、あと300メートルのところで天気がパッと急変したんです。そこで、行く、行かないってなりながらも、下りてくるわけです。
僕とパートナーを組んでた奴が行っちゃいましてね。彼は僕より100メートル登って、突風でやられてゴーグルが飛んじゃいまして、紫外線で目を潰されました。結局は遭難して、彼は手の指を10本中7本なくしちゃいました、凍傷で切断して。足の指も落としたんです。命だけは助かりましたけど……。
- 佐々木
もう登れない。
- 野口
登れないですよ。僕は引き返したから、全部あるわけじゃないですか。でも、帰ってきたらね、一般的な扱いはもう「失敗」ですよ。
- 佐々木
まあ、端から見てると、「あと300メートル」って言われれば、なんか「もう少しじゃない。登ってきてよ」っていうふうに思っちゃうんでしょうね。
- 野口
8,000メートル級になると、100メートル登るのに1,2時間くらいかかるんですよ。
- 佐々木
そんなに、大変なんですね。
- 野口
あのときは「失敗」って言われて、そこで初めて、植村直己さんが最期にああいう日記を書いて亡くなった意味がよくわかりました。彼はずっと「冒険とは生きて帰ること」って言いながら、冒険をしてきた人間ですよね。ずっと日記を書いてるんですけども、それを直己さんの奥さんに一度見せてもらったんです。「もう死ぬかもしれない。凍傷にやられた」、「もう死ぬかもしれない」っていう言葉がいっぱい出てくるんです。最後の最後に「何がなんでもマッキンリーに登るぞ」で日記が終わって……。
この「何がなんでも」っていう言葉は素人が使う言葉なんですけども、いわゆるそういう世界で長く生きている人は、基本的に「何がなんでも」っていう言葉はないんです。「何がなんでも」っていうのは、言葉を変えれば、「いかなる状況下においても決行せよ」っていうことじゃないですか。自然を相手に、植村さんなら、そんなことするべきではないってよくわかってるはずですよね。だから、その彼がどうしてなのか、と。
- 佐々木
わからないですね。
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