きょうの社説 2011年2月13日

◎工芸食器貸し出し 商品開発の貴重なヒントに
 輪島塗、加賀友禅、九谷焼、山中漆器の業界4団体は石川県内の旅館やホテルと連携し 、新商品開発に向けたニーズ調査に乗り出した。16店舗に無料で貸し出した食器セットを、実際に使ってもらって、来店客の意見を商品づくりに生かす試みである。

 伝統工芸品の需要が低迷するなかで、各産地は「売れる商品」の開発に力を入れている が、今回の取り組みは、いわば伝統工芸の「チーム石川」が一体となって商品力を高め、新たな客層に売り込む一つの試金石となろう。

 食器セットは輪島塗の重箱、加賀友禅の敷物、九谷焼の茶わん、山中漆器の汁わんなど で、卓上で石川の伝統工芸の技と美に触れることができる。客が手にすることで、石川の工芸ファンを増やすきっかけにもなるだろう。デザインや使いやすさなどに関する貴重なヒントをうまく商品開発に取り入れて、各産品はもちろん、セットとしての価値が、使い手側により一層伝わることを期待したい。

 今回は店舗側も食器セットを使った限定メニューや宿泊プランを打ち出している。県が 石川の食文化を海外に発信しているように、食材だけでなく器もそろった石川の食の魅力は、誘客のセールスポイントとなる。

 輪島市では市内の飲食店や旅館を対象にした輪島塗の購入支援制度に対して、予想を上 回る申請があった。できれば地元の伝統工芸品で客をもてなしたいという思いを裏付けるものであろう。さまざまな分野のニーズを把握して、工芸品の潜在的な需要を掘り起こしていく取り組みが求められている。

 山中漆器や九谷焼の職人とチェスセットを制作した世界的デザイナーのアレクサンダー ・ゲルマン氏は、漆や九谷焼が世界最高の工芸であるとし、「山中漆器や九谷焼の技術はあらゆる分野に応用ができると思う」と石川の伝統工芸の幅広い可能性を指摘している。最近では山中漆器と九谷焼による野だてセットなども開発された。デザイン、色彩、装飾性などに優れ、他の産地にはない石川の伝統工芸の総合力をさらに発揮してほしい。

◎国保納付率が低下 先行きの不透明さが重い
 市町村が運営する国民健康保険の保険料(税)納付率が2009年度、全国平均で88 %と過去最低を更新した。富山県の納付率は93%を超えて全国2番目に高く、石川県は90%強と全国平均を上回っているが、無職の加入者増など構造的な問題の拡大で、市町村国保の先行きは不透明であり、保険料の滞納がさらに増える恐れがある。

 政府は後期高齢者医療制度に代わる新制度で、国保の運営を都道府県に移管することを めざしている。全国知事会などは抵抗しているが、国保運営の広域化は避けて通れない課題であり、社会保障と税の一体改革論議に合わせて、国保の在り方に関する国と地方の協議も速やかに行う必要がある。

 国民皆保険制度の「最後の砦(とりで)」ともいわれる市町村国保の加入者は当初、自 営業者と農林水産業者が多く、両者の占める割合は1965(昭和40)年で計68%に達し、無職者は6%強に過ぎなかった。しかし、産業構造の変化や高齢化の進展で、その割合は大きく変化し、後期高齢者を分離する前の2007年では、農林水産業と自営業が計18%に低下したのに対し、無職者が55%と半分以上を占めるようになった。

 無職加入者の増加は、年金受給者に加えて倒産、リストラによる失業者、若年無業者ら の加入が増えているためで、高齢者と低所得者の割合がもともと高い要因とあいまって、保険料の納付率は低下の一途をたどり、国保財政も大幅な赤字続きという状況である。

 国保の運営には、国と都道府県からも公費が投入されている。石川、富山県とも今年度 、国保運営の広域化・財政安定化の支援方針を策定し、保険事務の共通化や保険料の収納対策などで市町村のバックアップを強めてもいる。

 それでも、高齢化による無職加入者の増加が見込まれるなか、現行の制度設計のままで は、国保運営は厳しさを増すばかりである。たとえ、国保の運営主体を市町村から都道府県に移してもなお残る構造的な問題への対処方法を含めて、制度の本格的な改革論議を進めるときである。