きょうのコラム「時鐘」 2011年2月13日

 国際獣疫事務局(OIE)が日本を口蹄疫(こうていえき)発生のない「清浄国」と認定してからわずか1週間後、降ってわいた能登の「口蹄疫疑惑」だった

さいわい、感染の事実なしとなった。人騒がせな、とは言うまい。家畜伝染病の影響力と怖さを思えば、大きく構えて小さくまとめる対応は必要だったろう。地方の暮らしが世界と直結していることを痛感させられる問題でもあった

隣国の韓国では、日本の10倍以上の殺処分を出すほど口蹄疫が拡大している。北朝鮮でも隠しきれなくなっている。朝鮮半島では特に象徴的だが、家畜伝染病は大砲の弾と同様に軍事境界線を飛びこえて来る。鳥インフルは、渡り鳥によっても拡大する

21世紀の「鎖国体制」は理解に苦しむものの、防疫のためには国境の壁を高くして、拡大や侵入を防ぐ必要がある。インターネットによって「国境などもはや無力」と言われるようになったとはいえ、その一方で、口蹄疫は国境線の強化を後押しする

家畜伝染病は、矛盾を抱えた存在なのであり、国境なき時代とボーダーレス社会に突きつけられた試練のようにも見えて来る。