15時間目
需要・供給曲線
1.需要曲線と供給曲線
今回と次回は不得意分野にする人も多い数学的な単元について取り扱います。今回は、需要・供給曲線です。まず、需要と供給という言葉について押さえておきましょう。需要というのは買い手(需要者)がその商品を欲しいと思う気持ちのことです。それに対して、供給というのは売り手(供給者)がその商品を売りたいと思う気持ちのことです。そんな彼らの気持ちをまとめるとこうなります。
|
商品が安い |
商品が高い |
需要(買い手の気持ち) |
買いたい! |
買いたくない |
供給(売り手の気持ち) |
売りたくない |
売りたい! |
買い手がこのような気持ちでいるということは、商品が安ければ、その商品を買う量(需要量)が増え、その商品が高ければ、その商品を買う量(需要量)は減るということになります。そんな買い手の心理をグラフに表すとこんな感じになります。
そして、売り手がこのような気持ちでいるということは、商品が高ければ、その商品を売りたい量(供給量)が増え、その商品が安ければ、その商品を売りたい量(供給量)は減るということになります。つまり、「自分が一生懸命作った商品が1個100万円で売れる」と思ったら、さらに頑張ってたくさん作る気になるけど、「自分が一生懸命作った商品が1個10円でしか売れない」と思ったら、あまりたくさん作る気は無くなってしまいます。そんな売り手の心理をグラフに表すとこんな感じになります。
そして、この2つのグラフを同時に書くとこんな感じになります。
というわけで、買い手の心理を表したグラフを需要曲線、売り手の心理を表したグラフを供給曲線といいます。しかし、時々まじめな生徒が混乱するのが次のようなグラフです。
このグラフを見て、まじめな生徒は「需要曲線、供給曲線なのに曲線じゃねえじゃん。曲がってないじゃん。」と言います。しかし、名前は「需要曲線、供給曲線」ですが、入試ではこのような直線で描かれることも多いのです。というのがそもそも、需要曲線、供給曲線は、人間の心理を強引にグラフに表そうとしたものです。人間の心理は「おれはお前のことが87.21%好きだ!」とか、「昨日と比べて10.25ポイント疲れた。」とかいう風に、数字やグラフで正確に表せるようなものではありません。なのに、経済の仕組みをイメージでわかりやすくするために、需要と供給をグラフに表そうとする試みが需要・供給曲線なのです。まっすぐか曲がっているかは重要な問題ではありません。要は経済の仕組みをイメージできることが大切なのです。頭をやわらかくして考えることも受験には必要です。
では、この需要・供給曲線を使って、価格が決定されていく仕組みをイメージしていきましょう。というわけで、需要曲線・供給曲線が一つの表に書き込まれたものを使います。さらに、曲がったやつより、まっすぐのほうが作図もしやすいので、ここではまっすぐなほうを使わせてください。
まず、このグラフで、供給者がこのパソコンを30万円で売ろうとしたときのことを考えて見ましょう。
パソコンの価格が30万円のとき、供給者としては30万円という高額で売れると思えば、売りたいという気持ちも高まり、大量に300台も生産します。なのに需要者からすると、30万円という価格はちょっと高く感じるので、実際に買おうと思う人は100人程度となります。その結果、このパソコンは供給者は300台生産するのに、需要者は実際には100台しか買わない。つまり300-100=200台の売れ残りが発生してしまいます。売れ残りのことを供給超過(供給しすぎ)といいます。こうなると供給者はパニックです。
というわけで、さっきは価格が高すぎたので反省して、安めの価格の10万円で売ろうとすればどうなるでしょうか。さっきの30万円と比べても価格が10万円になってしまえば、1台当たりの利益も少なくなってしまうので、供給者としてはあまり頑張ってたくさん作ろうという意欲もわいてきません。その結果、生産量も100台程度となってしまいます。しかし今度は逆に、需要者のほうからすれば、さっきまで30万円だったパソコンが10万円という破格の安売りとなってしまったわけですから、買おうと思う人、買うことのできる人も増えていきます。その結果300人もの人がこのパソコンを買おうとします。そうすると今度は、供給者は100台しか生産しないのに、300台分買いたい人がいるという状況となり、300-100=200の品不足が発生してしまいます。品不足のことを需要超過(需要が多すぎ)といいます。こうなると需要者の不満がたまります。
そこで今度は、高すぎもせず、安すぎもしない20万円で販売したときのことを考えましょう。このとき、供給者は200台を生産したのに対して、需要者も200台欲しがりました。その結果、200-200=0というわけで、売れ残りも品不足もゼロ! 供給者は全部売ることができて、需要者も全員が買うことができました。このときの価格を均衡価格(市場価格)といい、売れ残りも品不足も無いことを資源の最適配分といいます。企業は販売価格がこの均衡価格になるように、データを集めながら、需要・供給曲線をイメージし、価格を決定しなければならないのです。グラフで示すのは簡単ですが、現実はそんなには簡単なことではありません。
では、ここまでのことを整理するために例題を作ってみました。メモ用紙を用意して、問題を解いてみてください。問題文のすぐ下に答えがあるので、問題を解いた後、答え合わせをしてください。間違いがあれば、もう一度上に戻って復習しなおすか、掲示板を使って質問してください。
●確認問題
次のグラフを見て、空欄( ① )~( ⑩ )に当てはまる記号を下からそれぞれ選んで答えよ。
※同じ記号を2回以上使用してもかまわない。
記号: A B C OV OW OX OY OZ VZ WY
2.需要曲線と供給曲線の移動
ここまでは基礎で、これから応用に入ります。今説明した需要・供給曲線は、世の中に事件が起こることにより、いろいろな方向に平行移動する特徴を持っています。どんな事件のときにどちらの方向に動くのかというのが、入試によく出てきて、数学的な考え方の苦手な生徒を混乱させます。この形式の問題で大事なのは需要者(買い手)、供給者(売り手)の気持ちになって考えることです。相手の気持ちになって考えるというのは人生でも大切なことです。
●供給曲線の平行移動
では、売り手(供給者)の心理である供給曲線の平行移動からです。例えば技術革新がおこり、最新の生産機械を使うことにより、パソコンをもっと安く、もっと多く生産できることができるようになったとします。そうすると次のような変化がおきます。
供給者の心理 |
価格 |
より安く生産できる |
供給量 |
より多く生産できる |
このような供給者側に発生した「より安く」「より多く」生産できるようになったという変化により、この商品の供給曲線も以下のように変化します。
今度は、電気代、石油代の値上がりにより、生産用機械を動かすための燃料費も値上がりしたときのことを考えて見ましょう。燃料費が値上がりすると、商品1個当たりの生産費も高くつくため、商品の値段が高くなります。さらに、電気代、石油代を節約せざるを得なくなると、生産量も少なくなります。それらをまとめると次のようになります。
供給者の心理 |
価格 |
より高く生産しないといけない |
供給量 |
より少なく生産しないといけない |
このような供給者側に発生した「より高く」「より少なく」生産しないといけない変化により、この商品の供給曲線も以下のように変化します。
というわけで、事件により供給曲線がどの方向に移動するかを判断するときには、次の2点を考えてください。
①価格 より安く生産⇒下 より高く生産⇒上
②供給量 より多く生産⇒右 より少なく生産⇒左
左下に0があるということは、価格は上に行けば行くほど上昇、下に行けばいくほど下落(0に近づく)ということがわかります。さらに数量は右に行けばいくほど増加、左に行けばいくほど減少(0に近づく)ということがわかります。左下が0(ゼロ)であるということを思い出すいうことは、受験で緊張していてもけっこう自分を冷静に戻してくれます。0から近づくのか、遠のくのかという視点で考えてみてもいいと思います。というわけで、事件により①価格と②供給量(数量)がどう変化するのかを考えて、どちらの方向に平行移動するのかを考えてください。
●需要曲線の平行移動
今度は買い手(需要者)の心理である需要曲線の平行移動です。考え方は供給曲線の場合とほぼ同じです。例えば、買い手の収入 (所得)が増え、大金持ちが増えて、たくさん買い物をするようになり、少々高い商品でも気軽に買えるようにもなったとします。そうすると次のような変化がおきます。
需要者の心理 |
価格 |
少々高くても買うようになる |
供給量 |
多く買うようになる |
このような需要者側に発生した「高くても」「多く」買うようになった変化により、この商品の需要曲線も以下のように変化します。
今度は、不景気により買い手の収入(所得)が減り、みんなが貧乏になり、買い物が減り、安い商品でないと買えなくなった場合です。そうすると次のような変化がおきます。
需要者の心理 |
価格 |
安くないと買わなくなる |
供給量 |
少なく買うようになる |
このような需要者側に発生した「安くないと」「少なく」買うようになった変化により、この商品の需要曲線も以下のように変化します。
というわけで、事件により需要曲線がどの方向に移動するかを判断するときにも、次の2点を考えてください。
①価格 少々高くても買う⇒上 安くないと買わない⇒下
②供給量 多く買う⇒右 少なく買う⇒左
このように、需要曲線のときも事件により①価格と②供給量(数量)がどう変化するのかを考えて、どちらの方向に平行移動するのかを考えてください。考え方は供給曲線と同じです。
●問題演習
では、ここからは演習です。次の表を見て、下の事件において、需要・供給曲線がそれぞれどの方向に移動するかを考えてみてください。
①部品工場を人件費の安い台湾に移転したあとに製造された、ゲームボーイの供給曲線。
②マクドナルドのハンバーガーが大幅値下げしたあとの、ロッテリアのハンバーガーの需要曲線。
③「発掘あるある大辞典」で、グレープフルーツが体にいいと放送されたあとの、グレープフルーツの需要曲線。
④政府が税金を上げたため、家計で使える所得が少なくなってしまったときの需要曲線。
⑤有明のりが不作で、値上がりしたあとの、ローソンのおにぎりの供給曲線。
⑥政府から農業育成のための補助金が各農家へ配られた年の農産物の供給曲線。
⑦DVDソフトが大幅値下げしたあとの、DVDプレーヤーの需要曲線。
⑧イラク戦争により石油代が値上がりし、生産費が高くついたときの供給曲線。
●解説
①人件費が安くなったということは、それだけその商品の値段も安くすることができるということです。そうなるとゲームボーイの価格は安くなります(下)。さらに人件費が安くなると大量生産もしやすくなります。その結果、生産する数量も増えます(右)。というわけでこの場合、供給曲線は右下へ移動します。
②マクドナルドのハンバーガーが安いということは、需要者(買い手)はマクドナルドのハンバーガーを買いたいと思うようになるので、ライバルのロッテリアを買いたいという数量は少なくなります(左)。しかも、需要者の心理としてはマクドナルドのハンバーガーが安く買えるのだから、高い値段のままのロッテリアには魅力が薄く、ロッテリアのハンバーガーが安くならないと買う気持ちは薄れます。だから需要者に買ってもらえるロッテリアのハンバーガーの価格は安くなります(下)。というわけで需要曲線は左下へ移動します。
③マスコミなどに取り上げられて大ブームとなると、当然グレープフルーツの売れる量は増えます(右)、しかもブームになると少々高くても需要者は買うようになるので需要者に買ってもらえる価格も上昇します(上)。というわけで需要曲線は右上に移動です。
④税金をたくさん取られて、財布のお金が少なくなると、当然買い物できる量(需要量)も減ってしまいます(左)。さらに貧しくなると、高価なものには手が届かず、安い商品でないと買うことができないので、買うことができる価格も安くなります(下)。というわけで需要曲線は左下に移動です。
⑤おにぎりの原材料である有明のリが値上がりしてしまうと、有明のリが値上がりしただけ、おにぎりの値段も高くしなければなりません(上)。さらに有明のリが高くて、ローソンとしても有明のりを手に入れにくくなると、けっきょくおにぎりの生産量も減少してしまいます(左)。というわけで供給曲線が左上に移動です。
⑥農産物の供給者である農家のおじさんたちが国からタダで補助金というお金をもらいました。その結果、農家の人たちは野菜作りの資金が調達できて、いままでよりたくさんの野菜を生産することができます(右)。さらに、資金の面でも余裕ができたので、少々値下げしても大丈夫になります(下)。というわけで、供給曲線が右下に移動です。
⑦DVDソフトが値下げされると、いままでDVDプレーヤーを買おうかどうか迷っていた人も「ソフトが安いんならいいか」と考え多くの人たちがDVDプレーヤーを買うようになり、需要量が増加します(右)。ソフトを安く買えるのであれば、少々プレーヤーが高くても買ってもいいかなと言う気持ちにもなり、需要者から買ってもらえる価格も高くなります(上)。というわけで、需要曲線が右上に移動です。
⑧石油代の値上がりにより生産費が高くつくと、その値上がり分の価格は商品の価格に上乗せされ、商品の価格も値上がりします(上)。さらに石油が手に入りにくくなると、生産費を節約するようになり、生産量も減少します (左)。というわけで、供給曲線が左上に移動です。
需要供給曲線の移動の問題のコツは、その事件の様子を頭の中でイメージできるかどうかです。「自分がその商品を買う立場だったらどう考えるだろうか?」「自分がその商品を生産する社長だったらどんな状況に追い込まれるだろうか?」と、自分が需要者、供給者になった気持ちになって考えることが大事です。こういったことが苦手な人もいますが、ただそういったいろんな立場に立って物事を考えることができる人が、結局人生でも成功する人なのだと思います。そういった人材が今、大学でも社会でも求められているのです。
3.需要・供給曲線の応用問題
需要・供給曲線については、大学受験で多くの応用問題が出されてきました。とくに私大の「経済学科」「経営学科」で出される問題は、さすが専門の教授が作る問題なだけあって、かなり頭を使う問題や、面白いなあと思う問題も出てきます。今日はそんな中でも、過去問を解いた受験生によく質問されるセンター試験の1994年追試の問題をみんなに解いてもらいたいと思います。問題を解く前に一つだけアドバイスです。「頭を柔らかくして、冷静に、置かれた状況をイメージしてください」では、問題を解いてみてください。
●いやらしい例題
需要供給曲線は、市場における価格の動きを理解するうえで便利で有効であるが、よく考えると、需要曲線は常に右下がりなのか、供給曲線は常に右上がりなのかなどの疑問も生じるであろう。実は、対象となる商品やサービスの取引状況によっては、下の図のように、右上がりの需要曲線や右下がりの供給曲線となるケースも考えられる。図を使った説明を理解する場合、作図に当たって前提とされる事柄に留意することも大切である。
問:下線部の状況に当てはまらないものを、次のア~エのうちから一つ選べ。
ア.価格が上がると、もっと上がると予想し買いだめに動こうとする場合。
イ.価格が下がると、安物を持っていると見られたくないので買うのをやめようとする場合。
ウ.価格が上がると、より大きな利潤が期待できるので、供給を拡大しようとする場合。
エ.時間あたり賃金(労働の価格)が上がり所得が増えると、働く時間を減らそうとする場合。
●解説
どうでしょう、みなさん。どこの学校でも需要曲線は右下がり、供給曲線は右上がりと教えます。そこで、こんな今まで勉強してきたことがひっくり返されるような問題が出てくると、多くの受験生が「そんなの習ってないよ!」と考えてパニックになります。しかし、ここでぜひ冷静になって考えてください。ここで「覚えている人」と「理解している人」の違いが試されています。パニックになりそうになったら、深呼吸をして、「右下がりが需要曲線で、右上がりが供給曲線」であることではなく、「何を表そうとしたのが需要・供給曲線だったか」を思い出してみてください。ただ、本番にそういう気持ちになるためには、それまでに、理解できるまで練習しておく必要があるし、自分は理解できるまで勉強したという自信を持つことも大切です。
では、本題に戻ります。通常の需要・供給曲線は、
①需要曲線=値段が上がると需要量(買う量)が減り、値段が下がると需要量(買う量)が増える=右下がり
②供給曲線=値段が上がると供給量(売る量)が増え、値段が下がると供給量(売る量)が減る=右上がり
の曲線です。そして、このセオリーとは逆の
③需要曲線=値段が上がると需要量(買う量)が増え、値段が下がると需要量(買う量)が減る=右上がり
④供給曲線=値段が上がると供給量(売る量)が減り、値段が下がると供給量(売る量)が増える=右下がり
といった、ひねくれたパターンの需要・供給曲線もありえるのではないかと問いかける問題です。そして、問題を要約すると、③④に当たるものが3つあるので、③④に当たらないもの、つまり①②に当たるものを1つ見つけて答えなさいという問題です。では、ア~エの文章がそれぞれ①~④のどれに当たるかを見ていきましょう。
ア.価格が上がる+需要量が増える⇒③
イ.価格が下がる+需要量が減る⇒③
ウ.価格が上がる+供給量が増える⇒②
エ.価格が上がる+供給量が減る⇒④
というわけで正解はウです。アイエは③と④、つまり通常習ってきた需要供給曲線と逆のパターンを表したものです。それに対して、ウは、値段が高くなればたくさん売ろうとする通常の供給者の心理を表した供給曲線の文章です。この問題を解くときは、まず「需要・供給曲線とはどういうものなのか?」がわかっておく必要があるし、前にも説明した「需要者、供給者の立場に立って考える」ことも必要です。需要者、供給者の立場に立って考えることができれば、頭の中で、それぞれの文章の状況がイメージすることができます。最近のセンター試験の問題はそんな「応用力」や「発想力」が求められるようになりました。
これからも、飛垣内さえ予想できないような応用問題が試験に出ることがあるかもしれません。あるいは私大入試には既に「よくこんな問題考えたな」というような、感心させられる問題を見たことがあります。ただそれらの問題の多くが「あまり見たことない形式の問題だけど、ちょっと頭を使えばできる」問題です。
それらの問題を全て、この授業で扱うことができたらいいのですが、残念ながらパターンが多すぎて全部紹介することができません。ただ、需要供給曲線の問題になれるためには、似たような問題を繰り返し解くことが必要だと思います。そこで、今まで需要供給曲線が出てきたセンター試験の過去問題を全て紹介しておくので、各自で解いてみてください。特に、需要供給曲線を苦手にしている人は必須です。間違えた問題は答え合わせをした1週間後に、もう一度チャレンジしてみることをお勧めします。
2003年度本試験第5問24 2003年度追試験第5問24 2002年度追試験第5問24
2001年度本試験第6問29 1998年度追試験第2問13 1997年度本試験第2問9
1994年度追試験第7問36,37,39