2010年12月16日 21時28分 更新:12月16日 23時1分
年収の3分の1を超える融資が受けられなくなる「総量規制」が盛り込まれた改正貸金業法の完全施行から18日で半年。多重債務者の減少につながったとの評価がある一方、新たに借金ができなくなった人をターゲットにしたヤミ金などの脱法ビジネスが横行し、被害が見えにくくなっている。規制強化で消費者金融が手足を縛られる中、返済能力はあるのに借りられない人の受け皿を求める声があるが、担い手はなかなか育たない。【大久保渉、中井正裕】
「新規参入のヤミ金業者が急増している。同業だからよく分かる」。携帯電話を窓口に違法な高利貸しを行う東京都豊島区の30代後半の男性は、6月の総量規制導入後、ヤミ金業者が暗躍している実態を明かした。
男性は、約10年前に摘発されたヤミ金グループの融資先を引き継ぎ“営業”を始めた。暴力的な言動で取り立てを行う従来のヤミ金とは一線を画し、返済が滞った客には、返済方法だけでなく家庭や仕事の悩みなどの相談にも応じて、違法な高金利を被害と思わせないよう「洗脳する」(男性)。「ソフトヤミ金」と呼ばれる手口だ。
携帯電話で申し込みを受け、「一度面談し、約束を守りそうな人だけに貸す」。とりわけ、規制強化で借入に夫の同意が必要になった専業主婦は「逃げたり踏み倒すことのない上客」だ。
貸付金利は「原則トゴ(10日で5割)」と利息制限法の上限(年20%)をはるかに超えるが、主婦間の口コミなどで利用が広がり、融資依頼は引きも切らない。全国の客に数千万円を貸し付け、月に数百万円の利息収入を荒稼ぎしているという。
日本貸金業協会によると、6月以降、ヤミ金に関する相談件数は200件前後と従来より低い水準で推移。しかし、ヤミ金問題に詳しいジャーナリストの窪田順生氏は「被害が表面化しないだけで、ソフトヤミ金市場は着実に拡大している」と指摘する。全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会の本多良男事務局長は「貸手が(違法な)ヤミ金なら、警察に届ければ返済の必要はない」と話す。
クレジットカードを使った現金化商法も増加の一途だ。借り手にカードで買い物をさせ、商品は業者が買い取って購入額の8割程度の現金を振り込む。いずれは決済するから、実質金利は年数百%に及ぶこともある。
国民生活センターによると、今年度(10月20日時点)の相談件数は、前年同期比約3倍の243件に急増。貸金業法の対象外のため、インターネット上では「優良店比較サイト」が登場し、駅前での看板も目につく。カード会社は現金化目的の利用を禁じており、利用を停止される恐れもあるが、「総量規制で金を借りられなくなった主婦らが、金を工面する最後の手段で利用している」(都内の司法書士)という。
消費者金融業界が貸し出しを縮小する中、総量規制の対象外の銀行は個人向け無担保カードローン事業を強化し、顧客の取り込みを図っている。三井住友銀行は6月、貸出金利を6~12%から5~14.5%に広げ、融資の対象を増やした。住信SBIネット銀行も11月に下限金利を5.5%から3.5%と業界最低水準に引き下げた。
ただ、国内銀行の個人向け貸出残高は9月末に3兆2747億円で、6月末から330億円の微増にとどまる。この間、消費者金融の貸出残高は1兆1095億円減少。銀行はこの3%しかカバーしておらず、個人向け融資の新たな担い手とは言えない状況だ。
こうした中、欧米で拡大している「ソーシャル・レンディング」と呼ばれる金融ビジネスが日本でも登場。ネット上でお金を借りたい人と貸したい人を引き合わせる手法で、借り手は必要額や金利を掲載して融資を依頼。貸手はメールで相手の信用を判断し、自己責任で貸し付ける。審査や回収に人件費をかけない分、消費者金融より金利は低い。焦げ付くリスクはあるが、超低金利の中、魅力的な投資先と見る貸手が増えている。
国内の草分け「maneo(マネオ)」によると、08年10月のサービス開始以来、約3億4000万円の融資が成立。妹尾賢俊社長は「事業主からの問い合わせも増えている」と話す。SBIホールディングスも早ければ来年3月に参入する。
東京情報大学の堂下浩准教授は「規制強化で返済能力がある人にも貸せない副作用が出ている。円滑に貸せるよう規制を緩和し、多重債務者にはカウンセリングの充実などで対応すべきだ」と話す。