2010年12月16日 20時58分 更新:12月17日 0時24分
政府は16日、臨時閣議を開き、11年度税制改正大綱を決定した。民主党政権になって2回目の税制改革は、法人税実効税率の5%引き下げをはじめ、企業関連で5800億円の減税になったのに対し、所得税の控除見直しなどで個人増税は6200億円に上り、差し引き約400億円の増税(国税の平年ベース)となった。9800億円(国・地方合計)の増税だった10年度に続き、2年連続の増税。デフレ脱却を目指し、企業優遇による経済成長を優先させる政権の姿勢を前面に出した形だ。
大綱は政府税制調査会(会長・野田佳彦財務相)がまとめ、同日、菅直人首相に答申した。「雇用と格差是正」を税制改正の「核心」とし、法人税減税などで雇用拡大を促すとともに、高所得者を中心とした増税で格差を是正する方向性を示した。
菅首相は「お金に余裕のある皆さんにはご負担いただくが、結果として正社員の拡大につながり、総合的に格差が是正される」と、理解を求めた。企業関連では、法人税の実効税率を現行の40.69%から5%引き下げる。国と地方合わせた減税額は1兆5000億円で、国のみでは1兆3500億円。大企業より軽減されている中小企業の法人税率も18%から15%に引き下げ700億円を減税する。
一方、法人減税の代替財源として、企業関連の税制優遇措置の縮小などによる6500億円の増税も盛り込んだ。二酸化炭素(CO2)排出量の削減促進を目的に、2400億円の増税となる地球温暖化対策税(環境税)を来年10月から段階的に導入。企業関連の実質減税額は合計で約5800億円になる。
一方、個人向けではサラリーマンの経費として一定額を収入から差し引く給与所得控除に、年収上限を設けて控除額を頭打ちにしたほか、23~69歳の扶養世帯を対象とした成年扶養控除も縮小。相続税も2900億円を増税し、家計にとっては約6200億円の実質増税となる。
増減税を合計すると税収全体ではほぼ中立だが、企業と個人を分けて見ると、法人向け減税による減収分を個人増税で穴埋めした形になった。控除見直しなどによる約2000億円の増税分は、子ども手当の上積みに充てる財源に回す方針だ。【久田宏】
11年度税制改正大綱は、「企業減税・個人増税」を明確に打ち出した。家計への直接支援を前面に出して企業を冷遇する傾向が強かった10年度税制改正から全面的に姿勢を転換させた背景には、企業の活力で、デフレが続く日本経済の低迷状況を何とか打破したいという菅直人首相の強い危機感がある。だが一方で、民主党が掲げてきた「生活者重視」路線はかすんだ。
菅首相が目指すのは、新成長戦略推進による経済の底上げだ。主要国で最も高い水準の法人税の引き下げは、直接的効果より、激しい国際競争の中で日本企業の競争力を高め、国内に投資を呼び込むという政府の姿勢を示す「象徴的意味合い」(経済官庁幹部)が強い。
企業優遇を打ち出す一方で、当初公約していた11年度からの子ども手当の全額支給(月2万6000円)は見送られ、3歳未満のみ月2万円への上積みとなり、「控除から手当へ」の流れは失速。今回の増税分の一部は、子ども手当の上積みに充てられるが、相続税の増税分などは事実上、法人税減税の穴埋め財源に充てられるなど、全体としては個人増税で企業減税を支える構図になった。
企業優遇が優先されても、正規雇用拡大や賃金上昇につながるのなら、国民は納得するだろう。だが成果が上がらず、個人の負担が増しただけの税制改正になれば、民主党は「生活者重視」の旗を降ろしたと言われても仕方がない。菅政権が、デフレ脱却と景気回復につなげられるかが問われる。【久田宏】